4話、黄昏
ギルマスが落ち着いた様子で、俺と向かい合う形で見詰めてくる。
ルーシィならドキドキと心臓が五月蝿く鳴り響くだろうが、ギルマスに見詰められても嬉しくない。
ただ年老いた身体から信じられない程に威圧感がヒシヒシと伝わって来る。
「キッヒヒヒヒ、長生きはするもんじゃな。この目で黄昏を見る事になるとは」
ゴクン
「黄昏とは一体?」
自然に手の平に汗を掻いてしまう。少しの黙りが、とてつもない時間の長さに感じてしまいしょうがない。
「黄昏とは、簡単に言えば錬金術師の最上位職じゃよ。キッヒヒヒヒ」
「……………錬金術師の最上位職」
「その様子じゃと少しばかり自覚はしてるようじゃな」
うん、心当たり有りまくりだ。本来の錬金術師がダンジョンに潜りながら錬金術を行使出来る訳がない。
本来の錬金術師は、ここのギルドのような施設で錬金術を行うものだ。
道具を態々ダンジョンに持っていくなんて自殺に行くものだ。
「それで合格ですか?」
「キッヒヒヒヒ、カイトを不合格にしちまえば、儂ら全員が不合格となっちまうよ」
それじゃぁ、合格なのか?!これで、まだ勇者シャインから貰った金貨が余ってるとはいえ、仕事が見つかった。
冒険者を続けていても二束三文にしかならない。
「ハァハァ、遅くなりました」
「もう終わったよ」
息を切らしてルーシィが入って来る。意識が戻って俺らがいない事に気付き急いで追って来たのだろう。
衣服が汗でへばり付き目のやり場に困るが、敢えて指摘しない。そうした方が役得だからである。
「ハァハァ、それで結果の方は?」
「見ての通りさね。見事に合格の合格、ギルド中にいる誰よりも優秀じゃね」
ギルマスがシーラに俺のステータス結果を目の前に見せ付けた。それを見たシーラは、またもや気絶し掛けるが、どうにか持ち直した。
「こ、ここここれ本当ですか?!」
「キッヒヒヒヒ、本当だ。そもそも【女神の宝珠】の結果を偽装する事は出来ないさね。出来てもやったら死刑じゃな」
それは知らなかった。でも、今まで偽装したと聞いた事はない。【女神の宝珠】の結果は絶対だと誰もが疑わないし、やろうとも思わない。
「ギルマス、黄昏が発現したのは何時振りでしたか?」
「キッヒヒヒヒ、かれこれ千年は出ておらんじゃろう」
そりゃぁ、ギルマスも驚く訳だ。
「キッヒヒヒヒ、ルーシィよ。カイトのギルドカードなんじゃが、ランクCからで作製頼んだぞ」
「あっはい……………えっ……………ええぇぇぇぇぇ?!」
ルーシィの甲高い声がギルド内に響き渡る。その気持ち俺にも分かる。いきなり登録でランクCは破格だ。
何処のギルドでもランクCになるには遅くて8年、早くて3年が必要だとされている。
「早ようお行き」
「し、しししし失礼致しました」
ギルマスの威圧に負けシーラがビクビクしながら去って行く。悪い事はしてないのに、何か悪い事をしたようで少し罪悪感が募る。
「キッヒヒヒヒ、これでお前さんも錬金術師ギルドの一員だ。明日から身を粉にして働きな」
「あっはい」
つい返事をしてしまった。一見ただの老婆にしか見えないギルマスだが、本能的に逆らってはいけない迫力がある。
「ちょっと待ちな」
もう用事がないと思い去ろうとしたれ止められた。まだ何かあるんだろうか?
「キッヒヒヒヒ、固有武装について教えな」
ギクッ!
触れられなかったから敢えて言わなかった。固有武装とは、その人個人が持つとされる特有の武器・防具・アイテムだったりする。
つまりは一点物で、同じ物が存在する事はない。これが神から決められた絶対不変な常識の二つ目だ。
ただし、持ってない者もいて、どういう理屈で固有武装の所持が決められているのかは長年の謎とされている。
「なーに食いやしないよ。錬金術師という生き物は知的好奇心満載な生き物だからね」
「その通りですが、俺も全部を把握してる訳ではないですけど、それで良いのなら」
俺の持つ固有武装:素材の異世界鞄は、自分でも言うのもなんだが余りにも巨大で把握しきれてない。
宙に右腕を突っ込むような素振りをすると、カイトの右腕が肘から先が消えた。
「えーと、これですね」
取り出す素振りを見せると消えていた腕が現れた。その手元には何処にでもあるような手提げ鞄が握られている。
「収納魔法は使えるようだね」
「えぇ錬金術師には必須でしょ?」
素材や道具がないと始まらない錬金術師には必須な魔法だ。これだけでも有力な職業だとカイトは思うのだけど、現実はそうそう甘くない。
「キッヒヒヒヒ、儂も持ってるが錬金術師でも収納魔法を持ってるのは少数派じゃよ」
えっ?そ、そうなのか!いやぁー、勇者シャイン達は何気もなく接するものだから知らなかった。