38話、カバンの中の牧場
「ここは牧場となります」
簡易的な柵で囲ってはあるが、みんな大人しい。ただ、カイトが来ると、みんなすり寄って来る。
撫でても逃げないし、むしろもっと撫でてと頭を差し出して来る。
「これはモゥモゥですか?」
「えぇモゥモゥです」
牛型の魔物で、白と黒の斑点模様が特徴的な魔物だ。
モゥモゥから絞り取れる乳は絶品で王族・貴族御用達の飲み物として知られている。
「キッヒヒヒヒ、ずいぶんと大人しいねぇ」
ギルマスも驚いてる。そりゃぁそうだ。本来のモゥモゥは、気性が荒く誰でも襲い掛かってくる。
大抵が討伐してから乳の回収となるのが一般的だ。乳の他に皮は衣服や防具に、肉はそんなに人気はないが食べれる。
「あれはブラックモゥモゥですか?」
外見はモゥモゥだが、全体が真っ黒なのが特徴だ。こちらは乳は出さないが、肉が絶品でステーキにしたら最高だろう。
その他にも内臓も食べられ、ホルモン焼きなんか絶品だ。レバサシも良いし、ユッケにしても美味しい。想像するだけでヨダレが垂れて来る。
『モォォォォォ』
「キッヒヒヒヒ、こちらも随分と大人しいねぇ。ブラックモゥモゥの方が気性が荒くて、Bランク指定の魔物のはずだよ」
「金貨が千枚、金貨が二千枚、金貨が三千枚……………」
ルーシィの瞳が金貨となっており、ブラックモゥモゥを指差しながら数えている。
モゥモゥの乳と同様、ブラックモゥモゥの肉も高値で貴族や王族に取り引きされる。先ず庶民の口に入る事はない程に高級品とされる。
「ルーシィさんは大丈夫ですか?」
「キッヒヒヒヒ、ほっといても大丈夫だよ。ルーシィは、金に目がないだけだからねぇ」
ギルマスの話によると、ルーシィが暮らしてた森精族の森は貧しく成長に連れ金に対してがめつくなったそうだ。
『コケーコッコォォォォ』
「この鳴き声は、コッコかい?」
「えぇ、良い卵を産みますので重宝してます」
鶏型の魔物であるコッコは、ほぼ毎日のように卵を産み落とし、一般民の口にも入るありふれた食材の一つである。
コッコの品種によっては高級品として貴族・王族にも献上され、値段はピンからキリまである。
「これはウッコケイ種かい?」
「良くお分かりで」
コッコの品種の一つであるウッコケイ種。気が荒いが、その卵は濃厚で、貴族・王族に献上される事も屡々ある卵の一つだ。
黄身は色が濃く優雅に立ち箸でも掴める程に固さがある。味は、余計な味付けをしなくても素材のままの味だけで頬が蕩ける。
『ブゥブゥ』
「あれはピンクボアですか?」
正気に戻ったルーシィが見つけたのは、豚型の魔物であるピンクボア。ちょうど赤ちゃんが母乳を飲んでいる。
可愛いが、ほんの数週間で脂肪をつけ丸々と肥り食えるまで成長する。
それに複数子供を産むため、大量に肉を生産出来、一般民にも多く食されてる。
「可愛いです」
「触ってみるか?」
魔物と言っても大人しい部類に入る。それに【素材の次元鞄】の効果なのか?気性が荒い魔物でも大人しく育成が出来る。
「ほらよ、落とすなよ」
『ブヒブヒ』
ピンクボアの赤ちゃんは暴れる事なく、カイトの腕に収まっている。赤ちゃんだと、魔物でも可愛いものだ。
「ねぇカイト、この子貰って良いかしら?」
「それはダメだ」
「即答?!」
どんな優秀な物や者でも必ず弱点やリスクがあるものだ。ノーリスクはあり得ない。
カイトの固有武装である【素材の次元鞄】の場合、この中で育ててる魔物を外に出すと狂暴化するというリスクがある。
今、ルーシィが腕に抱いてるピンクボアの赤ちゃんも然別、外に出したら狂暴化して手が付けられなくなる。
「キッヒヒヒヒ、残念だったねぇ。それにしても、こんなに家畜を育てて世話を出来るのかね?」
もしサクラが面倒を見てても一人だけでは無理がある。そうギルマスは言いたいのだろう。
「えぇ大丈夫です」
パチン
指を鳴らすと、何処からともかく数体の土人形が現れた。カイトの腰当たりまでしか身長はなく、きちんと連携され整列している。
「錬金術師なら土人形でしょ?」
魔石を核にして土から作り出す擬似的な魔物が土人形となる。
錬金術師が得意とされる技能の一つだ。これが出来なくては一人前の錬金術師と言えないだろう。




