37話、聖剣の修復
「キッヒヒヒヒ、危なかったところだったわい。にしても、この薬は良く効くねぇ」
「ハァハァ、もう出ません」
まだ顔色は優れないが、話したり動ける元気はあるようだ。一応、ルーシィにも《腹痛薬》を手渡しとく。
食べたし、片付けはサクラに任せて聖剣の修復に入りますか。
「ココが俺の工房となります」
カイトの工房は、ログハウスの地下にある。階段を降りると、そこには素材や機材がズラーリと並べてある。その様相は壮観であり、宮廷魔導師の研究室と言われても遜色しない。
本来一人前となり独立した錬金術師は、自分の工房を持つ事になる。
だが、それは夢のまた夢の話だ。何故なら、それ程の技能を持った錬金術師は今現在カイト以外だと存在しないからだ。
「これはスゴいです。見た事のない道具や素材ばかり」
「キッヒヒヒヒ、ワシでもここまでの工房を持った事はないねぇ。どうだい?ルーシィ独立してみないかい?」
「む、無理ですよぉ。直ぐに潰れるのがオチです」
凄腕の技能を身に付ける以前に錬金術師の風当たりが強過ぎるか。
「さてと、聖剣を修復しますか」
「見ていても大丈夫ですか?」
「えぇ大丈夫ですよ」
作業台に折れた聖剣を置く。本当、見事に折れている。いや、むしろこんなにキレイな折れ方をしてくれて助かる。
粉々に砕けていたら流石に修復は不可能であった。そこまでいったら一から作り直した方が良い。
「素材として神鉄のインゴットと安定剤・金を用意する」
《安定剤・金》
違う素材通しを調合しても失敗する確率が高い。そこで安定剤を一緒に入れると、相性の悪さが中和され調合の成功率は100%に近付く。そんな薬だ。
その安定剤の中でも高級品と言われてる逸品。一年に一本流通すれば良い方、出ない年もある。
「は、初めて見ました」
安定剤は錬金術師なら誰だって作れる基本的な薬剤だが、《安定剤・金》となるとそうはいかない。
説明通りに調合難易度が高く、カイトでも週に一本が限度。それ程に時間が掛かる。
「キッヒヒヒヒ、これも黄昏が成せる業だねぇ」
そんなにスゴい事なのだろうか?時間を掛ければ、錬金術師なら誰だって出来るも思うのだが?
ルーシィならクロウがくれた《錬成神の腕輪》により錬金術の技能が上位の職業に迫る程に上昇してるはずだ。およそ1ヶ月あれば、作れるのではないか?
「ここに《安定剤・金》を一滴ずつ垂らします」
神鉄のインゴット、折れた聖剣の剣先側と柄側の刃身にそれぞれ一滴垂らす。
これで素材が安定する。同じ神鉄同士でも安定剤がないと、難易度が雲泥の差で失敗する可能性がある。
「では、行きます。【修復】」
神鉄のインゴットと折れた聖剣が輝き出した。インゴットが聖剣に吸い寄せれるように解け出し融合し始めた。
ただし、それは少量ずつで時間が掛かりそうに見える。カイトの計算で1日半は掛かる計算だ。
「さてと、後は自動的に修復されます」
「普通は、この場から離れられないと思うのですけど」
ITのプログラムや電化製品等の自動化された機械と同じだ。
どういう風に修復すれば良いのか?あの短い時間で【修復】に盛り付けをした。
こういう事が出来ないと、土人形なんて土の塊になってしまうし、サクラだって作製出来なかった。
「まだ時間掛かるだろうし、この中を案内致しますよ?」
「キッヒヒヒヒ、そりゃぁ楽しみだねぇ」
「良いんですか?こういうの秘密にしてるんじゃ」
「別にココの事を話せないのですから、お気になさらず」
先ずは畑だ。野菜や果物から香辛料まで色とりどりな食物がなっている。特段、手を加えてる訳ではない。
素材となる物なら何でも手に入る。作物だって何でも育つ。
ただ、その種や苗木を手に入れなければならない。無から有を作り出せないように何もないところには何も育たない。
そこで錬金術だ。素材と素材を掛け合わせて新たな素材を作るのも錬金術の醍醐味だ。
種や苗木を錬金術で作る。それを育て最終的に採取する。まだ試してない種や苗木が、まだまだある。可能性は無限大だ。




