36話、黒龍がカレーを食べる
「悪い。そうとは露知らず」
「いえ、カイトさんが悪い訳では」
ルーシィの顔色が優れない。やはり無理をしてるようだ。精神的苦痛は中々消えるものではない。
「ふむ、お詫びと言ってはなんだが、森精族のお嬢さんに、これをあげよう」
クロウが懐から取り出したのは、一個の腕輪。それをルーシィに手渡した。
「これは?」
「錬成神の腕輪だ。錬成神の加護が付与されておる。そなたの役に立つだろう」
「!!」
《錬成神の腕輪》
錬成神の加護が付与されてる腕輪。これを装着すると錬金術師の技能が大幅にアップされる。
もしかしたら新たなレシピを閃くかも?
「あ、ありがとうございます。大切に使わせて貰います」
「いや、お礼は良い。我々が犯したい罪が少しでも償えたらと思い渡したのだ。カイト殿とココを訪れるなら、また会う機会もあろう」
精神的苦痛が、多少和らいだようで、腕輪を貰う前よりは話せている。
「あっ、そうだ。クロウも食べて行くか?」
「よろしいのか?!カイト殿の料理は実に美味しいですからな。ぜひ、ご相伴に預りましょう」
「ギルマスとルーシィさんもどうぞ」
厳格な表情のクロウだが、カイトの料理には目がなく口角が上がり自然と笑顔となる。
「クロウは、何時もの超激辛で良いか?」
「えぇ、やはりカレーは超激辛に限ります」
何となく洒落で作った超激辛カレーであったが、何故かクロウは気に入り平気で汗も掻かずに完食する。
因みに作った本人であるカイトは食べれない。あんなの食べたら死ぬ。
「ギルマスとルーシィは、取り敢えず中辛で」
「キッヒヒヒヒ、知らない料理のようだしねぇ。カイトに任せるよ」
「ワタシもカイトさんに任せます」
「了解」
中辛までなら初めてでも食べれるだろう。俺も中辛にする。炊きたてのご飯にカレーを上から掛け回し、最後に福神漬けを添える。
「御主人様、お持ち致します」
「おぉ、ありがとな」
サクラと一緒にカレーライスを配膳する。キッチンから香辛料の芳ばしい香りがテーブルまで漂って来てたようで運びに行く前には、既に三人の顔が蕩けていた。
「カイト殿、早う早う食わせてくれ」
「な、何ですか?!この香りは!今まで嗅いだ事ありません」
「ふむ、これは香辛料の香りだねぇ。でも、何種類使ったのか?ワシでも全く見当つかん。どれだけ豪華な食事だい」
豪華だと言われてもココの畑で育てた香辛料を使ってるから、ほぼ材料費はタダ同然だ。
「香辛料は、この空間に畑がありまして。育てております」
「キッヒヒヒヒ、そんな事が可能なのかね?」
「お忘れですか?ココは俺の固有武装の中だと」
固有武装にも強弱があり、俺の固有武は生産性に限り最強と言わざる得ない。
カイト本人も理解出来てないが、どんな動植物にも適応出来るように、この空間は出来ている。
素材なら何でも手に入るのがカイトの固有武装【素材の次元鞄】の怖さだ。これ程、錬金術師に合った固有武装はそうそうない。
「ふぅ、食った食った。カズト殿、ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
今の外見は人間だから勘違いしてしまう。クロウは、龍種だ。
軽くカレーライスの超激辛を20杯程を完食した。作った甲斐はあるものの、良くあの劇物を食べれるものだと呆れを通り過ぎて尊敬を覚える。
「ご馳走してくれたお詫びに、これを授けよう」
ボトンとテーブルに重そうな袋を置いた。中身を確認すると、ミスリルの原石と神鉄の原石が鱈腹入っていた。
「毎度毎度ありがとな」
「なに、これらは我ら龍種には必要ないのでな。必要にする者が使った方が良かろう」
お互い握手を交わしてクロウは、龍へと変化し遥か彼方に飛び立った。
「「………………」」
「どうした二人共」
ルーシィとギルマスはゲッソリとテーブルに突っ伏している。吐き出さないだけマシか?
二人は、クロウと何故か張り合うようにカレーライスをお代わりを続けた。
その結果、ルーシィは6杯、ギルマスは4杯に到達した時点でスプーンを持つ手は止まり、クロウが食べ終わるまで突っ伏してる状態が続いている訳だ。
「うぅ、吐きそう」
「トイレなら向こうだ」
カイトが指を差した方向にトイレの場所を表す日本ではお馴染みの男女の容姿を模したピクトグラムが掲示されてある。
ルーシィは駆け出し、バンッと勢い良く扉を閉め苦しそうな声が聞こえる。
「…………うぅ、何か腹の痛みを和らげる薬剤はないなかね」
「それなら…………こちら《腹痛薬》です。どんな腹痛もたちまち良くなりますよ」
ギルマスには《腹痛薬》を手渡し、それを何の躊躇いもなく飲んだ。
 




