35話、黒龍
「言って下されば、大人しく飲みましたのに。知らせずに飲ませるなんてヒドイです」
えっ?そこ!
飲まされた事に怒ってるのではなく、事前に知らされなかった事に怒ってる。
「キッヒヒヒヒ、この子も根っからの錬金術師という事でさね」
錬金術師という人種は何処かズレてるのか?まぁかく言う俺も人の事は言えない。
「これでカイトさんの秘密を知れたという事でお相子としときます」
ドキッとカイトの心臓が五月蝿く跳ね上がる。急にルーシィが手を握るものだから驚いた。けして邪な事は考えていない。ただ驚いただけだ。
「ご主人様、言い忘れていた事があります。この後、数分後にクロウ様がお目見えになられます」
「クロウが!」
クロウとは、カイトの仲間であり親友の名前だ。ただ、あっちは主従関係を結びたいらしく、カイトの事を主と心の奥底から思っている。
「キッヒヒヒヒ、クロウとは誰だ?」
「俺の友達だ」
「カイトさんの友達」
バサバサ
「ほら、来たぞ」
上空から何やら羽ばたく音が近付いて来てる。その姿にギルマスとルーシィは思わず席を立ち尽くし驚愕の顔を隠せないでいる。
何故なら、この世界で最強種と名高い龍種。その中で最も強いとされる八種の龍種を八星龍皇という。その内の一匹が羽ばたきながら降りて来た。
「ぶ、黒龍!」
「キッヒヒヒヒ、驚く積もりはなかったのだがねぇ。驚いてしまったよ」
『カイト殿、お久し振りで御座います』
「クロウも元気で何よりだ」
カイトにクロウと呼ばれた黒龍は、片膝を付き王の謁見みたく挨拶をする。
「クロウ、その姿では二人がビックリしてしまう」
『おぉそうでしたな。これは失礼』
淡い光が黒龍を包むと直ぐに変化があった。黒龍の体が縮み始め人間サイズの大きさとなる。
「お初にお目見え致します。お嬢様方、我は黒龍のクロウと申します。以後お見知り置きを」
高位の龍種になると人間へ変化出来ると言われている。ただし、それはお伽噺の中の話として伝わっているだけで実際に目にした者は皆無だ。
だけど、クロウと名乗る黒龍は人間へと変化出来る。
執事風なタキシードぽい服を着こなしてる老紳士だ。イケメンダンディーで、これが黒龍だと誰が信じられようか。
「キッヒヒヒヒ、本当に【人化】出来ようとは」
「ギルマス!悠長な事を言わないで下さい。黒龍ですよ。襲われたら一瞬ですよ」
もしも、龍種に出会ったら逃げろというのが常識だ。
「紹介します。彼は黒龍のクロウ。俺の友達だ」
「カイト殿、友達とは畏れ多い事を申すな。我は、そなたの眷属なのですぞ」
「それはそうだが、俺は友達の方が嬉しいな」
「……………このクロウ、カイト殿の言葉に感動致しました」
イケメンダンディーな人間に変化してるが黒龍が涙を流してる様子は、なんてシュールな光景だとギルマスは思い、その一方でルーシィは信じられないと困惑している。
「お騒がせしてしまい、失礼致しました。我は見ての通り黒龍である。名前は、カイト殿が付けて頂いたクロウとお呼びくださいませ」
「キッヒヒヒヒ、こちらこそ宜しく頼むよ。ワシは、シャルロッテ・バレンタイン。錬金術師ギルドのギルドマスターをやっておる」
ブホッ!ギルマスの名前初めて知った。容姿から似合わない名前であるからして吹き出しそうになった。
ヤバい、今ギルマスを見たら笑いが込み上げて来る。ここは我慢しなきゃならない。
「シャルロッテ殿、カイト殿のお客人なら大歓迎じゃ」
「ほれ、ルーシィも自己紹介せんか」
ギルマスに背中を押され、クロウの前に来るルーシィ。今だに緊張してるのかカチカチに固まってる。
「る、ルーシィでしゅ。よろしゅくお願いしましゅ」
噛んでるルーシィも可愛く見えてる俺は変だろうか?
「そなたは森精族か?」
「はひっ!そうでしゅ」
「森精族なら仕方なかろう。我の身内が森精族の森を燃やしたのだからな」
それは本当なのか!知らなかったとはいえ、会わせたのは不味かったか?
クロウ自身がやってないとはいえ、同じ龍種がやったのだ。何処か心の内で恐怖や憎しみがあってもおかしくない。




