34話、ルーシィにサプライズ
カイトは、【素材の次元鞄】を発動させ、ギルマスとルーシィを招待した。
ギルマスは、二回目という事もあり慣れた様子で、その一方で大人しく入ってくれたもののルーシィは、ポカーンと口を開けたまま固まっている。
「何でギルマスは冷静なんですか?!」
「キッヒヒヒヒ、一回訪れてるからねぇ」
「なっ!ず、ズルいですよ」
それは仕方ない。職業を再度見て貰った時に【素材の次元鞄】の存在がバレてしまったのだから。
その時には、ルーシィはいなかった。というより、ギルマスが仕事を押し付けて部屋から追い出した感もある。
「それより、鞄の中に建物丸々入ってるなんて。どれだけの容量なんですか?」
「キッヒヒヒヒ、わからないのかねぇ。ルーもまだまだ修行が足りないねぇ」
「えっ?まさか、これカイトさんの固有武装ですか?」
今さら気付いた。そもそも【収納魔法】には生物は入らない。そんな常識を忘れてしまう程にルーシィは内心驚愕している。
「キッヒヒヒヒ、驚くのまだ早いのぉ」
ギルマスがルーシィをログハウスの外へ案内した。こういうところは子供ぽい気がする。まぁ気持ちは理解出来る。
「えっ?空があります?それに草原や遠くに山が広がってるように見えますが?」
「キッヒヒヒヒ、幻覚じゃないよ」
「これが俺の固有武装【素材の次元鞄】の中です」
原理はカイトにも分からない。【鑑定】で調べようにも先日提示した内容以上のものは出て来ない。
「えっ?カイトさんは固有武装をお持ちなんですか?」
「はい、持ってます」
あれ?言ってなかったけ。そういえば、ギルマスにしか話してなかったかも?
「キッヒヒヒヒ、黄昏が固有武装を持ってない方がおかしいじゃろうて」
「それはそうですけど、ワタクシは聞いてないですよ」
「キッヒヒヒヒ、あの場にいない方が悪いさね」
「ギルマスぅぅぅぅぅぅ」
まぁあの後、俺の固有武装の情報を話せなくなったのだから仕方ない。
「御主人様お帰りなさいませ。お客様ですか?」
「おぉサクラ、ただいま」
「今、お茶をお持ち致します」
「あぁ頼む」
サクラがお茶を持って来るために再度ログハウスに引っ込んだ。気が聞いて素直で良い子だ。
「さっきの子は?人間ではない?」
「えぇ、人造人間です。俺が作りました」
やはりルーシィも錬金術師だ。一目でサクラを人間ではないと見抜いた。
だが、その正体までは分からないというか、頭では分かっているのだろうが、言いたくない。
カイトの答えを聞いても理解したくない。だって、錬金術師の到達点の一つが目の前にあるなんて、とてもじゃないが信じられなかった。
「キッヒヒヒヒ、気持ちが分かるがのぉ。認めるのも先に進む第一歩じゃよ」
「ギルマス」
ルーシィを慰めるように背中を軽く叩くギルマス。そんなギルマスだが、内心では仲間が増えて喜んでいた。何気に話せないのは予想以上に辛いものがある。
「お茶をお持ち致しました」
「あぁ、ありがとう。さてと、紹介しようか。この子は人造人間のサクラだ」
「御主人様が、いつもお世話になっております」
「本当に人間のようね」
ルーシィがサクラに触ってみた。人間のように柔らかくてスベスベな肌に体温を感じる事が出来る。
無属性の魔石から造り出す土人形とは大違い。動きも滑らかで、土人形なら間接の境目がハッキリと目視出来るが、サクラは間接の境目はなく、人間と大差はない。
「折角用意して貰ったんだ。お茶にしましょうか?」
「キッヒヒヒヒ、サクラのお茶は美味しいからのぉ」
カイトとギルマスは、椅子に座り慣れた手つきでお茶を飲む。そんな様子に釣られルーシィもお茶を飲む。それが罠だとは知らずに。
「美味しい」
「飲みましたね」
「キッヒヒヒヒ、飲んだな」
「!!」
ゴホゴホとお茶を吐き出そうとするが、もう時は遅し。もう既に飲み込んだ後だ。
「一体お茶に何を」
「《無音剤》です。俺の【素材の次元鞄】での事を話せなくなります。まぁお互いに知ってるなら、その限りではありませんが」
無味無臭で薬剤の知識があっても飲むまで気付かない。いや、教えないとずっと知らないままかもしれない。
「念のためです。ギルマスも先日に飲んでます」
「キッヒヒヒヒ、錬金術師足る者どんな手段をもってしても独自のレシピは守るものさね」
「それは分かりますけど、カイトさんヒドイです」
グサッとルーシィのヒドイという言葉の矢がカイトの心に突き刺さる。言われると思ってたが、予想以上に精神的にダメージがくるものだ。
 




