33話、聖剣の修理を受注する
「どうします?止めて置きますか?言っときますが、俺以外には直せません。もし、他の人が直せても俺より高く請求されますよ。なにせ聖剣なのですから」
勇者シャインには選択肢が存在しない。聖剣をこのままに他の武器を使う選択肢も普通ならあるだろう。
しかし、勇者という職業は他の戦闘職と比べ群を抜いてステータスが高い代わりに聖剣しか使えないという特徴を合わせ持つ。
「くっ、足下を見やがって」
「これでも安い位です」
本当に安い。俺でなかったら、おそらく国が買えるレベルまで跳ね上がってる事だ。それ程に作製・修理は難しく、素材も希少だ。
「…………分かった。これで十分だろ」
金貨が入ってる袋を手渡され枚数を確認した。うん、確かにある。
「確かに受け取った。3日後に出来てるから」
「出来てなかったら、ぶっ殺すからな」
最後まで口が悪い勇者シャインに対して苦笑いをしてしまう。殺すって言っても聖剣を持たない勇者シャインなんかより登録仕立ての冒険者の方が強いような気がする。
「カイトさん大丈夫でしたか?怒鳴り声が聞こえてましたけど」
「キッヒヒヒヒ、あの勇者を追い払っていたよ。それにしても、これが聖剣なのかい?」
ギルマスが折れた聖剣を見詰める。見事に折れたものだ。ここまで壊れると普通なら一から作り直した方が速い。
だが、一から聖剣を作製すると年単位で時間が掛かる大仕事となる。だから、逆に修理した方が速い。
「何処か静かに話せるところはないか?」
「キッヒヒヒヒ、《女神の宝珠・改》がある部屋で良いんじゃないかね」
「そうですね。あそこなら誰も来ません」
その部屋に折れた聖剣を運び入れる。ギルマスとルーシィ以外は、炉がある地下にいるため勇者シャインの怒声は聞こえてないらしい。
「それで本当に直せるのですか?」
「あぁ一から作るよりも簡単だ」
「キッヒヒヒヒ、長年錬金術師をやってるが聖剣を直すところは初めてじゃよ」
「ワタクシもです」
「まぁ直すコツはありますけど」
素材さえ揃えば期間内に余裕で間に合う。だが、問題はその素材で入手難易度がSランク以上だとされてる鉱石だ。
ゴソゴソ
「素材は……………ここに取り出しのは神鉄です」
聖剣の材料は、神が作りし鉱物だとされる神鉄だとされている。
されているというのは、神鉄という鉱石は最早伝説級とか神話級とかに該当される物語の中にのみ出てくるとされる素材の一つなのだ。
存在していると唱える者の方が少数派となっている。
「えっ?本物なの?」
「クッカカカカ、これは本物じゃよ。この年で見る事になるとは」
《神鉄》
神が作ったとされる鉱石で、これで作った武器は必ず歴史に名が残す程に語り継がれている。
そしてもう1つ、この鉱石には意思が宿るとされ《意思を持つ武器》に高確率でなると言われている。
「キッヒヒヒヒ、使ってみたいねぇ」
「ダメですよ。聖剣の修理に使うのですから」
「カイトさん、ワタクシも欲しいです」
ルーシィが体をくねらせて、ピタッとくっついて来た。柔らかい肢体にドキドキと心臓の音が煩く耳に届く。
「キッヒヒヒヒ、ワシも体をくっつけば良いかねぇ」
「い、いいえ、大丈夫です」
ギルマスがルーシィと同じ事をやると、何処かのホラーと化してしまう。
「これが神鉄です」
更に【収納魔法】から神鉄を二個取り出し、ギルマスとルーシィに手渡した。
【素材の次元鞄】を持つカイトにとっては楽々とはいかないものの、ほぼ定期的入手可能な素材の一つに過ぎない。
「冗談だったんだけど、本当にくれるの?」
「えぇあげます」
「キッヒヒヒヒ、言ってみるものだねぇ」
「ただし、内緒ですよ」
唇に人差し指を垂直にくっ付け、ギルマスとルーシィはコクンと頷いた。
「それにしても、どうやって手に入れたのですか?」
やはり、そこは気になってしまうか。錬金術師足る者、知的好奇心には逆らえない。ギルマスは気付いてるようだが、カイトの秘密を口には出来ないため話せないでいる。
「行きますか?」
「キッヒヒヒヒ、良いのかい?」
「ルーシィさんなら大丈夫かと思いますので」
二人の話に着いて行けてないルーシィの頭上には???が浮いている。
 




