32話、勇者、再び前に現れる
「カイトって錬金術師の?」
「おや、知ってるのかい」
知ってるも何も元パーティーメンバーの名前だ。カイトが聖剣を直せる唯一の人物だって、そんなの信じられる訳がない。
いや、信じたくない。追い出した側なのに、今さらどんな顔をして会えば良いんだ。
「本当にカイトしかいないのか?」
「あぁそうだね。正確には錬金術師の最上位職業である黄昏だがね」
最上位職業?黄昏?何だよ、それ?!聞いてねぇぞ!いや、うっすらと頭の何処かで変だと思っていた。
錬金術師は、道具無しだとまともに技能スキルを発揮出来ないと聞いていたからだ。
だが、カイトは道具無しで、その場でポーションを作製したり俺達の武器を整備していた。
普通なら有り得ない事だが、やっていた。勇者シャイン達の中で、カイトが普通であった。だから、気付けなかった。カイトが規格外だと言う事に。
「何でそれを言わなかったんだ」
「どうやら気付いたのは最近みたいだね」
クソっ、俺らが先に気付いていたりすれば追い出したりしなかったのに。そうすれば一生、俺らの奴隷として働かせてやるのに。
「それでカイトは、今どこにいるか分かるか?」
「錬金術師なら錬金術師ギルドにいるのは当たり前じゃないか」
さも当たり前の事のようにフリュールが言い放った。よっぽどの事がない限り《女神の宝珠》で言い渡された職業に関するギルドに属するのが基本だ。
「錬金術師ギルドにいるのだな?」
「その通りだ。何回言ったら分かるんだい?」
勇者の自分にバカにされたようなムカつく言動だが、今はそれどころではない。
早くカイトのところへ行かなくてはと、どうにかして聖剣を直して貰わなくてはならない。
「くっ、失礼する」
踵を返し鍛冶師ギルドの扉をバンッと開け放ち、お礼を言わず去って行った。
「あれで勇者なのかねぇ。今回の勇者はハズレぽいねぇ」
勇者シャインが去ったのを確認すると、フリュールは愚痴を溢した。
その一方で錬金術師ギルドを探して一時間程、ようやくそれらしき建物を見つけた勇者シャインは、イライラしながらも扉を開けた。
「失礼する」
「キッヒヒヒヒ、お客かね」
「ここにカイトという錬金術師がいると聞いて来たのだが、カイトはいるか?」
「キッヒヒヒヒ、カイトは確かにウチに在籍してるがね。今は仕事で━━━━」
「ただいま、戻りました」
勇者シャインにとってはタイミングが良く、カイトにとっては悪かった。勇者シャインの対応してたギルマスも苦笑いをするしかない。
「その声はカイトか?!」
「うん?勇者シャイン様?!」
もうパーティーを抜けた身としては様付けしなくても良いのだが、ずっと様付けで呼んでいたため中々変えられない。
「カイト探したぞ」
「勇者シャイン様が、この俺を?」
嬉しいような悲しいような複雑な気分だ。いや、面倒事を押し付けられそうで今すぐ逃げ出したい気持ちだと言った方が適格か。
「実は聖剣が折れたのだ」
「聖剣が折れた?折れた!折れたのですか!」
数百年間折れる処か刃こぼれも起きてないとされる聖剣が折れたと言われても直ぐには信じられない。
「これだ」
「これは見事に折れてますね。【鑑定】」
《折れた聖剣》
耐久度がゼロになっても使用した結果、折れてしまった聖剣の成れの果て。
もはや修復不可能とされるが、〝黄昏〟のみ修復出来るとされている。
聖剣からすると、勇者ざまぁとしか言い様がない。
「俺なら直せそうです」
「そうか、それを聞けて一安心だ」
「ただ、金貨30枚程掛かりますが」
勇者パーティーを抜けたからには無償でやるにはいかない。まだ、勇者パーティーにいた頃は無償と言っても良い程に低賃金でやっていた。
「なにお金を取るのか?!俺は勇者だぞ。元メンバーとして無償でやるべきだろう」
「何を言ってるのですか?俺は、パーティーを抜けたのですよ?それなのにタカるのですか?」
「なに?いつお前にタカったと言うのだ」
この人は本当に分かってない。俺がいたから万全の体制で、いつもダンジョンに挑めていたというのに。
「ポーションや武器・防具の整備と修理とか全部俺がやっていたのですよ。それも無償で。それなタカりじゃなくて何だと言うのですか?」
「なっ!報償金を山分けしただろうが」
「あれが山分け?ウソを言わないで下さい。他のメンバーの1/10程度じゃなかったですか」
ダンジョンから帰ってから再度潜るまでのインターバルをギリギリやり過ごせる程しか貰ってなかった。
ただ、カイトには固有武装である【素材の次元鞄】により手に入れた素材を密かに売っていた。だから、そこまで困ってなかったりする。
 




