29話、オークションに薬品を売る
「お誘い下さり光栄でございます。ですが、俺は錬金術師でございます。たまには職業の垣根を越えて協力し合うのは構いませんが、ここには俺の居場所はございません」
ここで了承してしまえば、一時的に富と名声は上がるかもしれない。だが、それは目先の事だけだ。
たまに手伝う程度なら良いかもしれないが、薬師ギルドで錬金術師が働いていると他のギルドに知られるとイチャモンを付けられるかもしれない。
下手な争いには巻き込まれたくはない。それに今の錬金術師ギルドを気に入っている。
「そう、カイトくんの決意は固そうね。だけど、諦めた積もりはないから」
「なんか怖いです」
フリュールの瞳が、まるで猛獣が獲物を狙うような瞳をしている。
「あっ、忘れてました。他にも商品を持って来てました」
「えっ?」
【収納魔法】からカイトは、形の違う小瓶を数種類取り出しテーブルに置いた。
「えーと、左から《石化解除薬+》、《麻痺解除薬》《変身薬+》、《水中歩行薬+》、でございます」
「これは希少な素材が必要な《石化解除薬》と《麻痺解除薬》?!」
この二つは、【調合】の成功率は8割と高いが特殊な素材が必要で、金貨数枚は掛かる。
石化を治す《石化解除薬》に必要な素材は一つだけ。根が人の形をしているマンドレイクという植物だ。
抜く際に悲鳴を上げ、その悲鳴を聞くと忽ち気絶してしまう。最悪、命を落とす危険がある。対策としては耳栓をすると良いだろう。
それでも聞いてしまう人は諦めろ。
もう一つ麻痺を治す《麻痺解除薬》に必要な素材は、とある魔物から取れる。
その魔物とは、デンキハリネズミという全身針が生えており、その針から電気を発生させて攻撃する中型犬程の大きさのネズミだ。
電気が発生する針は飛ばす事も出来、金属性の武器だと感電してしまう。これが厄介で中々近付けてくれない。
対策としては絶縁体であるゴム手袋とゴム長靴を装着すれば良いだけなのだが、ゴムという素材の認知度が低いため感電する者が続出している。カイトは、もちろん知ってる。
使う素材は、針と帯電袋という臓器の2つだ。デンキハリネズミが死んだ後でも電気が発生するため感電に注意が必要である。
「それにこれは素材も希少に加え調合が難しいとされる《変身薬》に《水中歩行薬》?!」
後の2つは、素材が希少の上、【調合】の難易度が前の2つと比べると段違いで普通に作製すると半月掛かり、【調合】成功率が3割と低い。
飲むと変身するという《変身薬》は、変身したい者や動物の体の一部を入れて飲むと変身出来る。
必要な素材は全部で3つ。その内、2つは同じ魔物から採取出来る。
その魔物とは、メタモルモットという変身能力を持つ魔物だ。だから、誰も本当の姿を見た事はないとされる。
なので、戦闘能力より隠密能力が高いため見つけ難く捕縛難易度Aランクとされる。このメタモルモットから取れる体毛と血液が素材となる。
残り一つが、フォーラルという花となる。だが、この花も変身能力を備わっており、周囲の風景と溶け込んで見つけ難いため採取ランクAと認定されている。
この3つを半月丹念に煮詰め、冷やす事を繰り返して出来る。その間の温度管理も徹底的管理しなくてはならないため、一人では作製は先ず不可能とされる。
水中で呼吸が出来るようにする《水中歩行薬》も作製には半月程掛かり一人では作製不可能とされる。
必要な素材は、どれも水中内にあるため採取難易度が跳ね上がってる。水中を呼吸するための薬の素材が水中にあるのは難儀だ。
その素材というのは、セイレーンという下半身は魚、上半身は人間の女性という魔物の鱗と浮き袋に声帯の3つとエラワカメという海藻が必要となる。
どっちもAランク指定されており中々数が集まらない。セイレーンは綺麗な歌声をしてるが、聞いたら最後幻覚を見て溺れさせてしまうという。
エラワカメは潜水さえ出来れば採取出来そうだが、その近くに半魚人という上半身が魚、下半身が人間という魔物の巣がある事が多く水中での戦闘が余儀無くされる。
手に入れた後も根気よく半月の【調合】が待っている。決められた順序に作業をしなければ失敗する繊細な作業だ。だけど、どれも普通に【調合】した場合だ。
カイトは、ただの錬金術師ではなく黄昏、その技能で【調合】の成功率は大幅に上昇し100%となる。それに加え、どの【調合】や【錬成】等でも遅くて1日しか掛からない。




