25話、勇者、5階層のボスに挑む
勇者シャイン一行は休憩を一時間程取り体力を回復させた。そして、いよいよ五階層のボスに挑むためボス部屋の扉を開けた。
扉の向こうは薄暗く外からでは部屋の端まで見渡せられない。一歩入ったら最後、扉が自然と閉まりボスを倒すまで出られない。
勿論、何らかの手段で転移は使えない転移禁止エリアに指定されている。
「いないな」
「いや、殺気は感じる。絶対に何処かにいるはずだ」
「早く帰って風呂を浴びたいわ」
「……………」
「はっ!上だ」
クロウが上を見上げる。ボス部屋の天井からぶら下がるように何mあるのだろうか?大きいコウモリが逆さまにぶら下がっていた。
その瞳は、薄暗くてもランプのように明るく浮いており、薄気味悪い。
『ギャロォォォォォ』
「あれはキングコウモリ、大コウモリよりも数倍大きく、その巨体に似合わず素早いです」
これでも勇者パーティー、ボスを見付けるや咄嗟に武器を構え相手の出方を伺う。
『ギャオォォォォォォ』
「き、来ます」
天井から足を離し落下するように勇者シャイン達に向かって急降下してきた。
キングコウモリの本来の速度と落下速度が相まって雷鳴の如く、とんでもない速度へ達していた。
「ここはオレに任せろ」
「ギル!」
「うぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ【巨斧破壊斬】」
本来ギルは、攻撃特化職業である斧戦士の上位職:狂戦士で俊敏ではない。
それをキングコウモリの速度に合わせて【巨斧破壊斬】を喰らわす積もりだ。
「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇ」
『ギャオォォォォォォ』
ドコォォォォォォォン
ギリギリでキングコウモリの側面にギルの斧が当たった。爆弾が爆発したような音と共にキングコウモリは吹き飛び、ボス部屋の壁へとぶつかり壁が崩れた。
「ハァハァ、やってやったぜ」
キングコウモリにダメージを与えたが代償も払った。ギルの斧が技能に耐え切れず、粉々に砕け散った。
ここに【鑑定】持ちがいれば分かったのだろうが、ギルが【巨斧破壊斬】を放つ前から耐久値が風前の灯だった事に。
耐久値がゼロとなり、ここまで粉々になってしまっては直せる者など本来ならいない。
だけど、一人だけいる。それは黄昏と判明したカイトである。だが、それを勇者シャイン一行が知るのは、まだ先の事である。
「ギルは下がってろ」
「オレ様は、まだやれるぜ。武器が失くなったからが本番だぜ」
狂戦士の技能の中に装備してた武器が失くなったら攻撃が上昇するっていうものがある。ただし、諸刃の剣で攻撃に他のステータスを注ぐという効果だ。
つまり、常時死と隣り合わせになってしまう事と同義。攻撃が一発でも当たってしまえば、あの世行きだろう。
「何を言ってるのよ。あんた五層で死ぬ気?」
「そうだぞ。ギル、こんな所で死ぬ積もりなのか!」
「ふん、もうポーションは尽きた。ルーフィンの回復も残り数回程度だろう。ここで無理をしなきゃ生き残れる道はねぇんだ」
ギルの揺るぎのない覚悟に何も言えなくなる。これは止めても無駄だ。
「分かった。だが、死ぬな。俺達はお前の援護を全力で行う」
「済まねぇ」
「たく、しょうがないわね」
「これも神の思し召しです。勇者が友の願いを聞く。なんて素晴らしいのでしょう」
「………………来るぞ」
壁の瓦礫から這い上がって来たキングコウモリは怒り心頭で上空へと飛び上がると不快な声を発した。
『キュロロロロロロ(【超超音波】)』
「これはいけません。神よ、我らを護りたまえ【神々の守護壁】」
ルーフィンが両手を握り合わせ祈るように片膝を付くと全員を覆うようにドーム状の障壁が展開された。
周囲に土埃が舞う中、障壁に護られてる勇者達は無傷だ。
「攻撃が止んだ。シャルロット、魔法で攻撃」
「はーい、行きますよぉ。貫け【エックス・レイ】。これで私の魔力は尽きたから後よろしくね」
シャルロットの指先から光輝く光線が発射され、キングコウモリの羽根を片方撃ち抜いた。
片方の羽根に穴が開いたキングコウモリは浮力を維持出来なくなったのか?徐々に高度が下がって来る。
「ギル、決めるぞ」
「ふん、誰に言ってるんだ」
勇者シャインとギルは構えタイミングを合わせる。
「聖剣よ、我に従え【天滅の剣】」
「ぶち抜け【狂人の怒拳】」
「「いけぇぇぇぇぇぇぇ」」
ピキッ
キングコウモリの腹に大穴が開いたのと同時に何か嫌な音が微かに響いた。




