24話、勇者、カイトの思い出にふける
━━━━勇者シャインside━━━━
『ヤミノタンサクシャ』に潜ってから何れくらい時間が経ったのだろうか?周囲が光が一切ない空間にいると時間や方向感覚が徐々に失われていく。
その中で、やっと第五層のボス部屋前までたどり着いた。ダンジョンは、五層事にボス部屋がありボスに勝たないと次の階層に行けない。
それでボスの戦闘前で体力を回復するために休憩をしている。扉を開き部屋へ入りらない限り戦闘にはならない。
「ハァハァ、もっとマシなポーションは無いのかよ」
「他にどんなポーションがあると?」
「味が果物とかよ」
「そうだ、もっと美味しいはずだ」
「そんなポーションがあったらお目見えしたい位です」
クロウは慣れた様子で不味いポーションを飲み干す。それでも連続で飲みやしない。
「それじゃぁ、カイトが持ってた美味しいポーションは何だって言うのよ」
「カイトってクビになったメンバーですか?」
「そうよ」
カイトから毎度手渡されるポーションは、程好い甘味と酸味があって美味しかった。
だけど、ダンジョン中に飲んだポーションは、ゲロ不味だった。吐きそうなのを我慢して飲み込んだ。これで士気が上がったら、そいつはSに違いない。
「もしかして錬金術師とかですか?」
「そうよ、最低辺職の錬金術師よ」
「多少ポーションの作製がやれると思って拾ったが役に立たなかったな」
ポーション代や武器の手入れだけでも費用が嵩みバカに出来ない。
だけど、錬金術師なら安い薬草でポーションが作る事が出来てポーション分の代金がうく。これにより多少豪華な暮らしが出来ると高を括っていた。
「そう言うな。あいつも元メンバーだ。少なくとも荷物持ち位には役に立ったさ」
「ぐっわはははは、リーダーもリーダーでヒドイぜ」
「ヒドイなものか。こちらは給金を払ってやってるんだ。その分の働きをするのは当たり前の事さ」
「ぷっ、その通りですわ」
ボス部屋の前で笑い声が響き渡る。魔物を誘き寄せる程の甲高い声だが、一匹たりとも魔物は来ない。
それはボス部屋前は安全地帯として働いているに過ぎない。この情報は、ダンジョンを潜る者にとっては常識といえる情報だ。
「カイトって誰ですか?」
「誰でもねぇよ」
神官であるルーフィンは信仰する神以外はどうでも良く、その神により選ばれた勇者であるシャインに同行しサポートするのが務めである。
そのため、勇者シャインのパーティーメンバー以外の容姿・名前は覚えない。抜けたメンバーに関しても直ぐに忘れてしまう。
例外があるとすれば、何らかのギルドでSランクに達した者か各国の王族に多大な功績を残した者に限る。
「これも神の思し召しですが、このポーションは不味いです」
だがしかし、カイトが作製したポーションの味は覚えてるようで顔に出さないが我慢してる様子が見て取れる。
「この干し肉を食べると、あのシチューの味を思い出すぜ」
ギルの言葉にクロウ以外のメンバーの手が止まった。ギルの言うシチューとはカイトが作った料理の一つだ。
野菜類はカイトが用意し、肝心の肉は冒険者に必須の保存食である干し肉を使ったシチュー。
野菜から出る旨味と干し肉から出る程好い塩味がシチューの美味しさを際立たせていた。
「今、思えば同じ鍋を使ってた気がする」
「すると、何か?あの鍋は、何らかの魔道具という事かい?」
「そんな魔道具聞いたはありません」
半分は正解。
シチューが美味しかったのはカイトの技能である【調理】のおかげと料理の知識があったからだ。
勇者シャインのパーティーにいた頃、使用していた鍋は魔道具だが、料理を美味しくするような機能はない。ただ単に加熱と保温をするだけの鍋だ。
折角の温かい料理が冷めては美味しさが半減してしまう。そこでカイトが何となく作製した鍋だ。
「あの鍋も置いてけば良かったのによ。失敗したぜ」
「勇者のために置いて行かないなんて何て使えない」
「この干し肉も神の思し召しです。不味くても感謝しながら食べましょう」
神に祈りを捧げながら干し肉を食べるルーフィンだが、カイトの作ったシチューの味が忘れられず感謝と言いながらも干し肉をジスル。
「干し肉もそうだが、この黒パンも堅くて食いずれぇ」
「スープに浸して食えば良いだろ」
干し肉と同様、冒険者の食事と言えば堅い黒パンと味の薄い塩のスープである。
黒パンは堅くて潰れず持ち運びには便利だが、いざ食べる時にイライラする。
そのままでは堅いので、スープに浸して柔らかくしてから食べるのが常識となっている。
「カイトが持ってたサンドイッチが懐かしいぜ」
シチューの他にもカイトはパンの間に具材を挟んだサンドイッチを人数分【収納魔法】に入れて持ち込んでいた。
パンは柔らかく具材も新鮮そのもので黒パンとは比べるのがバカらしくなる程に美味しかった。




