23話、ミスリルと和紙
「これはまさか?!」
「シャルルさんには、やはり分かってしまいますか」
冒険者なら誰だって一度は手にしたい有名な鉱石で出来てる片手剣。
「ミスリルなのか?久し振りに目にしたぜ」
魔力伝導がすこぶる良い鉱石で、これで作る武器は使用者と共に育つと言われている。
それにより冒険者にとって憧れの武器だ。だけど、偽物も多く存在する。
「あのぉ《ミスリルのインゴット純度100%》もありますが」
「な、なにぃぃぃぃぃ!」
ミスリルには変な性質を持っている。武器に加工すると、どれも半透明になるにも関わらず、インゴットの場合は、純度が高い程に白く濁り、その逆で低ければ半透明になる性質がある。
これを知らなければ、純度の低いミスリルをつかまさられる。最悪ミスリルではなくガラスだったとオチもたまに聞く。
「ほぉー、確かに純度100%のミスリルだ。オレが生きてる内に見れるとは土精族冥利に尽きる」
土精族だから一目見て本物だと見抜けるが、【鑑定】を持っていなければ他の人間や種族が見ても偽物だと一蹴して笑ってしまう。
其ほどにミスリルは全部が半透明な鉱石だと間違った常識が一人歩きしている。
「良かったら、これで武器を作ってみませんか?」
「なっ?!良いのか?」
「えぇ良いですよ。売れてから払ってくれれば……………先行投資というものです」
鉄製の武器は安い代わりに需要があり量産も出来る。そして、そこそこ売れる。
だけど、ミスリルは滅多に市場に出ず価値があるが、ミスリル自体が希少で量産が出来ない。売れれば一攫千金だ。
「それに胡散臭い錬金術師が売っても売れないと思うしな。まだ武器や鉱石に信用がある土精族なら売れるコネなんかたくさんあるだろ?」
餅は餅屋・蛇の道は蛇・馬は馬方という風に専門に扱う者に任せた方が上手くいく。
「違いねぇ。任せろ。それと杖に気を取られていたが、この黄金に輝く武器は何だ?」
「それは青銅ですよ」
「青銅?」
青銅は、銅を主体とした錫との合金だ。一般的には青緑色をしているが、錫の割合を増やしていくと青緑色→黄金色→白銀色となっていく。
ただし、錫の割合を増やすと脆くなる性質のため黄金色が限界とされる。その代わり鉄よりも錆び難いとされる。
「鉄よりも脆いですが錆び難いです。銅と錫の合金となります」
「合金?」
えっ?合金を知らない?合金という概念がないのか。そもそもそういう発想がないのか。
仕方なく、シャルルに合金について説明した。
「ふむ、なるほどな。面白い、色々試してみよう」
「一応、これが青銅の割合になります」
「これは羊皮紙では…………ないな」
あれ?また何かやってしまったのか?
シャルルに手渡した物を見ると、それは青銅を作る際の銅と錫の割合を書いた紙が握られている。
「あっ…………(しまったぁぁぁぁぁ)」
この世界では、まだ紙といえば羊皮紙を差し植物由来の紙は、まだ登場していない。
「これは一体何だ?!この手触り、羊皮紙ではないな」
「あぁ、それは和紙と言います」
職人気質の土精族だ。細かいところに目がいく。
「これもカイトが作ったのか?」
「はい、そうです」
羊皮紙でも紙は貴重だ。何の躊躇いもなく使う者なんていない。
「和紙とは何だ?」
「はい、植物から作った紙の一種であります」
「なに?植物からだと!」
シャルルの頭の中では、計算が行われていた。動物由来の羊皮紙よりも植物由来の和紙の方がコスト的に安く済むのではないかと。
だが、作製方法が検討もつかない。植物からどうやって目の前にある和紙へと変貌を遂げるのか?
《和紙・頑》
楮という植物の繊維にて作られた紙。頑丈で羊皮紙よりも使い易く作り易い。
両面両方と書け、インクの染み具合は然程変わらない。使い終わった和紙を原料として再利用可能である。
染料を加えれば、多彩多様な色彩の和紙が作製可能である。
「うーん、やはりオレの【鑑定】では作製方法までは出ないか」
「作り方をレクチャーしましょうか?錬金術師よりは精度・速度は落ちますが、誰でも作れます」
「何?本当か!」
職業以外の技能を修得する際、その職業又は技能修得済の人から教えて貰う方法がある。
ただし、この方法だと根気強さが必要で修得には時間が掛かる。
「この紙は革命が起こるぞ」
シャルルが燃えている。




