14話、挿入
カイトは、スカルクさんに着いていく。金属加工を行う作業場は地下にあり、階段を降りていく。
地下にある分、熱が籠りがちになり地下に行くだけでも汗が次から次へと溢れてくる。
「ここが儂らの作業場じゃよ」
「す、スゴいですね」
鍛治ギルドと負けない程の設備だ。ただし、錬金術師は鍛治師よりもこれらの設備を完璧に活用出来ない。
どんなに頑張っても鍛治師よりも上手く扱えない。それが職業の悲しいところだ。せめて上位職にもなれば、話は別だがそうそうなれないものではない。
「外見だけじゃよ。儂ら錬金術師は、鍛治師には勝てないからのぉ」
「そんなことは……………少し炉を見ても良いですか?」
「あぁ良いとも。火傷には注意したな」
近くに寄れば、良い炉という事が分かる。冒険者になるまでの5年間で使って来た故郷にある炉よりも格段に良い。
だけど、これは……………。
「【鑑定】…………やはり、中の火炎石が弱まってる。これでは通常の6割から3割程度しか出力が出ていない」
折角、良い炉なのに勿体無い。
「上位錬金術師のギルマスとルーシィちゃんなら火炎石を補充出来るのじゃが、なにせ火炎石は希少で中々入手出来ぬのが現状だのぉ。だから、今は騙し騙しでやってる訳だ」
火炎石は、炎属性を【付与】されてる魔石だ。魔石は、魔物の体内にある石で、心臓みたいなものだ。
上位の魔物でないと属性付与の魔石は持っていない。だから、火炎石のように属性付与されてる魔石は希少になる。
冒険者が魔物を狩り魔石を回収する事により各地に出回る仕組みである。
それともう1つ魔石が採取出来るところがある。それは他の鉱石と同じく発掘する事だ。
魔力が溜まりやすい魔力溜まりという場所に魔石が形成されやすい。だが、見つかる可能性は限りなく低い。
「本来の出力が出せれば、鍛治師ギルドにギャフンと言わせるのによぉ」
いや、それは無理だ。鍛治師の中途半端な技能しか行使出来ないのでは、ギャフンとは言わせるのは夢のまた夢だ。
いくら炉を本調子に戻しても使う側が中途半端にしか使えないのであれば、宝の持ち腐れだ。
「俺で良ければ、炉に火炎石を補充しますが?」
「でもよ、その肝心の火炎石がないのではしょうがないべよ」
「ここに火炎石があります」
「「「「えぇぇぇぇぇぇ?!」」」」
【収納魔法】から取り出しカイトの手元には、赤々と真っ赤に色付いてる石が握られている。熱くないが火傷しそうな程に濃い赤だ。
何も属性が付与されてない魔石よりも数十倍希少で、カイトが持つ一個の火炎石だけで、普通に半年は暮らせていける。
「これを【挿入】と」
火炎石から火属性の魔力が炉に移っていく。全部移り終るとカイトが手に持つ魔石は透明と変化していた。
「これでよし」
火炎石を補充する前と比べると明らかに炉が生き生きと、まるで生き物のように活発になっている。
「おおぉぉぉぉぉ?!ウソのようだ」
「これならやれるかもしねぇ」
「これで銅や鉄のインゴットを純度80%はいけるぞ」
「いや、90%以上だぁぁぁぁぁ」
鍛治を担当してる先輩達が涙を流しながら叫んでいる。それに呼応するかのように火炎石を補充した炉が、赤々と熱を発している。
「一体何事ですか?上まで声が聞こえて来てますよ」
「ルーシィちゃん、新人がやりやがったんだよ」
「炉に火炎石を補充してくれたんだ」
「これで純度が高いやつを作れる」
「新人様々だぜ」
ばんざーいばんざーいと先輩達が年不相応にも両腕を大きく振り挙げてる。
カイトも釣られてばんざーいと両手を挙げる。やはり喜ばし事は、みんなで分かち合わないと。
「えっ?カイトさんが一体何を?」
いまいち状況が飲み込めないルーシィ。カイトを地下へ連れて来たスカルクが、ルーシィの腕を引っ張り炉の近くまで連れて来る。
「ルーシィちゃん【鑑定】で確認した方が早いよ」
「【鑑定】?」
スカルクに言う通りに炉に向かって【鑑定】を実行した。そしたら予想通りに驚く顔が見られた。
「えっ?!何で火炎石の魔力が回復してる?!」
「だから、ここにいる新人がやったんだぜ」
炉と照れるように頭を擦るカイトを向後に見詰める。そもそも火炎石の魔力を補充する技能があっても肝心の火炎石がないのでは補充が出来るはずがないので、ルーシィは困惑してる。
「俺が火炎石を持っていたので、使いました」
「はぁぁぁぁぁぁ?!カイトさん、火炎石がどんだけ価値があるものなのか理解してるのですか?!」
俺、何で怒られてるんだろう?また何かやっちゃった?
 




