1話、勇者パーティー追放
この世界には、神から決められた絶対不変な常識がある。
その一つが職業、5歳になると教会にて《女神の宝珠》という魔道具で職業の適正を見る。
これで、ほぼ未来が決まると言っても過言ではない。戦闘に特化した職業なら騎士や冒険者になり名声を狙うのが大半だ。
戦闘特化ではなくてもその仕事に特化した職業の適正なら早くもその職業の仕事の見習いとして職場に行くか、跡取りとして親の仕事を継ぐかの二択が多い。
そして、その職業は例外を除き一生変えられない。例外とは、下位職業が上位職業に進化するのみとされている。その上に最上位職業があるらしいが、これになるのは一握りだ。
そこで最上位職業と最底辺職業に何の職業があるのか気になるだろう。
最上位職業には幾つかあるから、ここでは割愛しておく。もう一つの最底辺職業職種は一種類しかない。それは錬金術師だ。
薬師や鍛治士を合わせたような職業とされ、一見薬師や鍛治士よりも上だと思われるかもしれないが、それは間違いだ。
実際は、どちらの能力も中途半端で出来る品物も格下になると言われている。
そんな職業に俺はなってしまった。でも、夢は諦め切れず冒険者に登録出来る10歳まで錬金術師を鍛え上げた。
それで晴れて10歳になった俺は、冒険者ギルドに登録し冒険者となった。
ランクは一番上がSで一番下がEとなっている。もちろんランクEからスタートとなる。
非戦闘職で最底辺な職業の俺と一緒にパーティーを組んでくれる物好きは現れないと覚悟していたが、そんな事はなく直ぐに現れてくれた。
俺を拾ってくれたパーティーは、なんと最近話題筆頭中の勇者がいるパーティーであった。
勇者も職業の一つであり、それになった者は魔王を討伐する運命を背負う事になる。その代わりに、とてつもない恩恵を与えられる。
その一つがステータスで、他の職業と比べると明らかに伸び代がある。
最底辺な俺には一生掛けても敵わない。そんな勇者がいるパーティーに入れて貰えた。
勇者の他には聖女、賢者、武神がいる。どれも最上位職で、下位職の到達点と言われている。だが、なれるのはほんの一握りだ。
パーティーは、全員で5名までで俺を入れると満員となる。そんな貴重なパーティー枠に俺がいて良いものかと聞いて見た事がある。
「うん?何を言ってるんだい?僕らが前線で戦えるのは君のサポートがあるからだ。回復薬の作成や武器の手入れなんて僕らには出来ないからね」
「そうだそうだ、傷付いても直ぐに回復出来るから儂らは闘えるってもんよ」
「そうね、戦闘中に武器が壊れると思うとゾッとするもの」
「これも神の面し召しです」
と、言われて早三年が経った。俺以外は全員ランクAとなっており、俺はというとランクEのままだ。
戦闘職と非戦闘職ではギルドの貢献度の比率が違うため、戦闘職の方がランクは上がり易い。
それでも三年で上がらないのは、最底辺な職業である錬金術師のも一因してる。他の非戦闘職なら三年やっていれば、ランクAとはいわずともランクCにはなっている期間だ。
万年ランクEな俺に、とうとう戦力外通告が言い渡される時が来た。つまり、勇者パーティーからクビという訳だ。
「カイト、君はパーティーから抜けて貰う。どうしてか分かるよね?」
「いいえ、分かりません。勇者シャイン様」
本当は理解出来てるが、敢えて分からないと伝える。万年Eランクの俺は、わざと頭が悪いとアピールする。俺も最初の頃は勇者のパーティーにいる事が誇りに思っていた。
だが、段々と荷物持ちやポーション作り、武器の手入れを含め誰でも出来るような雑用を押し付けられるようになってきた。
だから、もう勇者パーティーには未練はない。ないはずだが、心の奥底では悲しく、何処かポッカリと穴が開いたような感覚に陥る。
「そんな事も分からねぇのか。そこまで頭が悪いとは思わなかったぜ」
「くっふふふふ、ギル笑わせないで下さい」
「本当の事を言ったまでだぜ。シャルロット」
「二人とも落ち込んでるカイトに悪いじゃないか」
無言の俺が落ち込んでると解釈したらしい。勇者シャインは、とんだお花畑をしてるらしい。
俺を追放したと思ってるだろうが、その逆だ。俺がお前達を見放したのだ。
「ルーフィン、せめての慰めだ。カイトに金貨袋を渡してやれ」
「はい、これが金貨袋です」
ジャリンと俺の目の前に袋が置かれる。この中身は、金貨が十枚程入ってる。
贅沢をしなければ、およそ半年程は生活出来る大金てなる。これをポンと出せるのは流石勇者と言うべきか。
「……………分かったよ。今まで世話になった」
勇者パーティーが拠点としている宿屋から俺は即行で荷物を纏め出た。この時間帯なら安宿位見つかるだろう。
これで俺、カイト・ハイデンバーグは勇者パーティー:金の竜から脱退となった。
「こうなったら、この錬金術で成り上がってやる」
カイトの声が誰もいない夜道に響いていた。