第8話 エルフの里を覆う影
会議が中断したので京矢達は昼食を広場に出て昼食を取っていた。
「久しぶりに故郷の料理を食べられてうれしいわ」
「久しぶりって何年ぶりなんだ?」
「そうねえ12年ぶりになるかしら」
「12年かそれは長いな」
「あの頃は本当にアルケイン様にお世話になったわ。だから今回の事で恩返しし
たいと思っているの」
「ふん、お世話になったのは、おじい様だけでは無いだろう?」
遅れてスレインもやって来た。ちょっと落ち込んでるみたいだ。
「そう言えば、カレイン様やターニャ様にも良くして貰ったわね」
「それだけじゃないわ。肝心な人を忘れていない?カタリナ」
カタリナは少し考えた。思い出したように両手を叩いた。
「忘れていたわ、そうそうエレインさん。あの人には本当に色々な事を教えて
貰ったわ」
「お前わざと言ってないか?私が一番世話したじゃないか」
「あなたにはお世話になった事無いわよ」
カタリナは真面目な顔をして答えた。
「よく森で生きていく術とか教えてやったろ?」
「どうやら2人は古くからの知り合いだったようだな」
2人のやり取りが面白くて京矢はにやにやしながら眺めていた。
「狩りはカレイン様、料理はターニャ様で化粧やお菓子作りはエレインさんに教
わったのよ。あんたは付いて来て邪魔してただけじゃない」
「まじか」
「そ、そんな事無いわ」
「この娘はねキョーヤ、昔からこうなの。自分の都合が悪い事はすぐ忘れて、都
合の良い事だけ覚えてるんだから」
「わ、私はあなた方親子が困っているだろうから手伝っていたのよ」
スレインは顔を真っ赤にしながら訂正した。
「分かった分かった。スレインは優しい娘だったんだな。カタリナもさ、もう許
してやれよ昔の事なんだろ」
「許すも何も無いわ。いつもスレインが私に突っかかって来て・・・」
「友達になろうと想っていたの。カタリナが可哀そうだったから・・・」
京矢が間に入って優しくしてくれたからなのか、スレインはもじもじしながら
小声で話し始めた。
「実は私の叔母もヒューマンの子を産んだのよ。すぐ死んじゃったけどね」
カタリナが生まれる前、スレインの叔母がヒューマンとの間に子を身籠った
が早産で死んでしまった。しかも母親までが自殺してしまった。それからハー
フエルフは不吉だと考える者が増えていった。
「スレインのおばさんが?」
「早産だったの。その上叔母もすぐ後を追って自殺したわ」
「この森でそんな事が有ったの?」
「あなたが生まれるちょっと前の事だったもの。私は訳が分からなかったけど
、おじい様は決してハーフエルフが悪い訳じゃないって言ってたのを忘れなか
ったわ」
「それでお前はカタリナと友達になってやろうと思ったのか」
スレインは黙って頷いた。
「それならそうと言ってくれれば良かったのに」
「そんな恥ずかしい事言えるわけないでしょ」
「お前、さんざん俺には恥ずかしい事言ってるじゃねえかよ」
「そ、それは・・・」
三人は顔を見合わせて笑った。
◇ ◇
昼食も終わりくつろいでいると会議再開の知らせが来た。
エルフ達は再び集会場に集合した。
「それでは会議を再開しようか。エンブリオの件についてじゃな」
「父上、ここからはエンブリオについて論じるのでは無く、敵側に協力者がいる
事を想定して今後の事を議論した方が良いと思うのですが」
「ふむ。それも一理あるな。これに意見はあるか?」
「俺も同意見だ。犯人捜しは事が終わってからでも良い。今は敵の戦力をもう一
度見直して対応策を講じるべきだと思う」
「流石、勇者様仰る事がいちいち的を得てますな」
「だから勇者言うなってーの」
アルケインは敵の戦力と対策について皆に意見を求めた。
「一つ聞きたいんだけど、リザードマンのこれまでの戦術ってどんな感じだった
の?」
「リザードマンは知能が低い種族なのでこれまでは少数でやって来て食料を奪う
位で、戦術なんてものは有りません。今回のように組織化されて戦闘なんてあり
えなかったんです」
「という事は闇夜に乗じて襲撃なんてした事は無かったんだな」
「そうなんです。だから見張りも4人のみだったし誰もが夜襲するとは思ってい
なかったんです」
「じゃあ戦術が変わったんだな。他族がリザードマンを率いたか、リザードマン
の中に知性の高い種が現れて既存の種を統率しているとか」
「そ、そんな事が・・・」
「有るんだよ俺のいた世界じゃ。『進化論』ていうのがあってだな、生物は常に
進化していて新たな種が誕生すると古い種は淘汰され、新しい種が次代の主役に
変わって行くっていう」
カレインは恐怖した。リザードマンが新たな知識を得、自分達を淘汰していく
その様を想像して。
「進化か・・・リザードマンはこれからどの様な攻撃を仕掛けてくるのか」
「あともう一つ聞きたい事があるんだが、リザードマンとエルフが争うとして誰
か得をしたりするのか?」
エルフ達はそんなこと考えた事が無かった。リザードマンはこれまで食料が無
くなるとよく食料を強奪してきた。今回もその類の行動だと思っていたので大勢
で討伐を行えば収まると思っていたがあの結果だ。カレインはリザードマンとの
争いの背後にある意味を今一度考え直してみた。
「我々は大陸の中央部で王国の防衛を担って参りました。リザードマンと我々が
争うとなると大陸の中央部の安定が無くなるのでこの辺りを使っている旅商人が
困る事になりますな。という事は中央の交易ルートが使えなくなり東西の交易ル
ートに人が集中します。そうなれば最終的に得をするのは西の連邦になりますか
な」
「ではその連邦とやらが糸を引いてる可能性が出て来たな。じゃあ東の交易路は
誰も得しないの?」
「元々東の交易路は山道が多く険しい為あまり使われていないのです。それに東
の共和国は我々に友好的な国でヒューマン主導の多民族国家の為、我々に不利益
をもたらすとは考えられません」
「ここ数日リザードマンの目撃が増えていたのは関係ないのか?連邦は奴隷を容
認していて多くの奴隷が売り買いされているんだ」
「そうかリザードマンはエルフを奴隷にする為、攫っているんだ。連邦はリザー
ドマンを組織化させてエルフを襲わせ奴隷を安く仕入れる。おまけに交易路が西
に集まるから一石二鳥だ」
「奴隷・・・それで合点がいきました・それではすぐにでも近隣の里に警戒させ
なくては。それに国家がらみとなると外交的に問題が」
「外交問題は王国に相談すればいい。まずは近隣の村にも情報を共有せい」
「かしこまりました父上。近隣は今いる各里の者に頼むつもりですが、王国は誰
に行かせましょうか?」
「スレインにでも行かせればいいじゃろ」
「わ、私がですか!?」
スレインは降ってわいた事態に驚いた。
「今回の件でも良く働いておりましたし、そろそろ大使の任をさせても良いでし
ょう。それにスレインには勇者殿も付いているから安心ですし。そうだ、カタリ
ナも宜しく頼むぞ」
「いやいや俺絶対行かないよ。だって面倒臭いじゃないか」
「かしこまりました。お任せください。キョーヤ我が儘言わないの」
「キョーヤ絶対連れて行くからな」
「そんなー」