第3話 プロシアン族のピッポ
「キョーヤさんて言ったかしら?あなた見慣れない恰好してるけど、何処の人
なの?」
「俺?俺は霧が出た時にこの森に来たんだと思う」
スレインは興味津々に京矢を見回す。
「へぇ・・・霧が出た時にねえ。で、どうやって来たの?」
「霧が現れる前は、自分のアパートのドアの前にいた筈なんだ。ドアを開けた
らこの森に来ていたんだ」
「アパート?何それ?見た事も無い服装と言動・・・という事はあなたこの世
界の人間じゃ無いのかしら」
「以前聞いた事あったけど転生者?なのかもしれないわ」
「俺はさっきここに来たばかりなんだぜ」
「という事は転移者?」
スレインは京矢に近づきまた体を触わろうとした。途端にカタリナが合間に
割って入って止めた。そして強い口調で諫める。
「やめなさいよ!さっき嫌だって言ってたじゃない」
「ふん!まあ良いわキョーヤ、あなたにはちょっと興味が出て来たわ」
スレインは悪びれもせず歩き出した。
「エルフっていうのは、皆あんな感じなのか?」
「エルフって言っても様々だけど、でも普通守護者っていうのは聖職者だから
真面目な筈なんだけど、彼女は違うみたい」
(あんなに綺麗な人に近寄られたら嬉しいけど、俺にはあの秘密が・・・)
京矢は複雑な気持ちだった。
しばらく歩いていると、遠くから声が聞えてきた。京矢はいち早くそれに気
付き二人に注意を促す。
「何か聞こえないか?向こうからだ」
「え?何も聞こえないわよ」
「何か助けを呼んでるみたいだ。あっちだ行ってみよう」
京矢は声のする方向に走り出した。(あの茂みの中からか!?)
茂みに分け入ると女の子が倒れており、足には罠が嵌まっていた。
「大丈夫か?何だ君は!?けもみみ?人のようだけど尻尾があるじゃないか」
「獣人のようね。ラクーンかしら?」
遅れてカタリナが近寄って来た。京矢は罠を慎重に外し獣人に声をかけた。
(こんな人間は見た事が無い。耳が動物に有るそれと同じ物が付いているそ
れに尻尾、これ本物か?)
「足はケガ無い?」
「プロシアンよ」
「え?何て?」
「私はプロシアン(アライグマ族)よ。ラクーン(狸族)と違って尻尾が違う
のほらこれ」
そう言いながら彼女は縞の付いた尻尾を見せた。
「そ、そうなのか。ところでケガはどうなんだ?」
「ちょっと罠が喰い込んで、血が出たけど大丈夫よ。助けてくれて有難う。私
はピポリオニスよ。皆からは『ピッポ』と呼ばれているわ」
「そっか。俺は京矢、彼女はカタリナ。よろしくな」
京矢が右手を差し出したその時、ピッポがおもむろに京矢の背中に乗り出し
た。
「な、何するんだ。」
ピッポは背中に乗り、嬉しそうな顔をする。
「キョーヤの背中、乗り心地良いね。それに見晴らしも良いわ」
「何言ってんだよ!こら、早く降りろ」
「ごめんごめん。乗り心地良さそうな背中見るとつい・・・」
そう言って背中から降りようとした時、ピッポが京矢の野球帽を掴み取った。
「ああああ。何すんだよ!帽子返せ!」
「こんな帽子見たこと無いわ。変なの」
京矢は後ろを向き、頭を必死に隠しながらしゃがみ込んだ。
「どうしたの?キョーヤ。帽子位で相手はまだ子供よ」
カタリナとピッポが不思議そうに見ている。
「俺は若禿げで髪が人より少ないんだ。これが理由でコンプレックスが有って、
今までひた隠しにして来たのにそれを・・・」
「どれ見せてみなさいよ」
そう言いつつカタリナは近寄って京矢の頭を覗き込んだ。
「この位多種族がいるこの世界では話題にもならないわ。それに自信を持って、
そんな頭でも十分あなたは魅力的よ」
カタリナはケロッとして京矢に笑顔を投げかけた。
「ハゲって何?プロシアンからすれば、ヒューマンはヒューマン。皆同じよ」
そもそも獣人にはハゲの概念が無いのだ。
「この頭を見て可笑しいと思わないのか?」
京矢は向き直り二人を見た。二人とも不思議そうにこちらを見返してる。自分
のいた世界では若くしてハゲていると失笑の元だった。しかし、ここでは些細な
事らしい。(俺は自信を持って良いのかな)
その時、辺りを探索していたスレインが戻って来た。
「これ見てよ!こんなに罠が仕掛けて有ったわ。リザードマンめ、かなり大胆
にやり始めたわね。ってキョーヤその頭・・・」
スレインは京矢の頭を見つめた。そして頭の周囲見回してうっとりして京矢の
両手を掴んだ。
「キョーヤ、あなたには何か他のヒューマンとは違う何かを感じていたけど。そ
ういう事だったのね」
「すげえいやらしい顔になってるんだが、お前も可笑しいと思わないのか」
「可笑しくなんか無いわよ。それよりもエルフの古くからの言い伝えでは、『ハ
ゲた者には従え』とまで言われているのよ」
スレインは眼をキラキラさせて話した。
「私はそんな話聞いた事無かったけれどそうなの?」
「あなたはここに居た期間が短いから知らないかもしれないけど、おじい様が言
うにはエルフの古くからの伝承でハゲた者は勇者であるという文献が多くあって
勇者が現れた時にはエルフは率先して仕えたらしいの」
「勇者か、この世界は何となくハゲには優しい世界なのかもしれないな」
「それよりこれ見てよ。この辺りを調べたんだけどかなりの罠が仕掛けてあった
わ。どうやらリザードマンは本格的にエルフ狩りをしているみたいだわ」
「こんなに罠が有ったの?これじゃ周辺のエルフにも被害が出なきゃ良いけど」
カタリナは罠を見ながら同調した。スレインは続ける。
「罠の事を報告しに戻らなければならないし、その子のケガの事も有るから村に
一緒に来て欲しいんだけど。あ、キョーヤは是非、長老に会って行ってね」
「私も行って良いの?」
カタリナは申し訳なさそうに訊いた。スレインは大きくため息を吐いて
「しょうがないでしょ。あなたも来なさい」
「なんかおかしな事になって来たな。まあエルフの村に行けるなら楽しみだけ
ど。そら、ピッポ。俺の背中に乗れよ」
「え、いいの?嫌なんじゃないの?」
「もう良いよ。バレちゃったしな。それにお前、そのままじゃ歩け無いだろ」
「有難う、キョーヤ」
新たにプロシアンのピッポを仲間に加え一行は、エルフの村に歩き出した。
「やっぱりキョーヤの背中は良いわ、最高よ!」
「うるせー、黙って乗ってろ!」