掃きだめ
読んでください。
自分を一人称で語れるほど自分は立派でないし自分のことを知らない。自分を誰かと仮定して第三者として見ている方が楽である。
こんなサイトから手軽に文章を投稿できるなんて、便利な時代になったものだ。しかし人間の自己顕示をうまく利用したサイトだ。稚拙でつたない文章(文章と呼ぶことすらも恐れ多いが)を、これは売れるだろう、ウケるだろうと塵にも似た何かが毎日投稿されていると思うとそれは自慰行為であり、このサイトもアダルトサイトと本質的に何ら変わらないのではないかとこのアダルトサイトに綴る今。私は絶望しているのだ。いや、私の周囲の人間が絶望しているのだ。絶望している他者が己と密接であればあるほどその苦しみは己に付与される。そういうわけで私は今、絶望しているのだ。毎日のように続く嘆きの根本は金なのだ。「お金はおっかねー」。これほど核心をついた洒落がどこにあるだろうか。学ぶことに罪悪感を付与する我が国よ、銭無き者にペンを握らせない我が国よ。そんなそんなことを言ったところで効果も硬貨もないだなんて言えるのは不幸中の幸いであろうか。
私は大学生である。秀才の集まる大学ではないが決してボンクラではないというレベルの大学で宗教と哲学を学んでいる。そして私立大学であり、これがまた金銭面の悩みの種なのである。学びのために借金をする、とても愉快なジョークだと数年前までは思っていた。世の中には大学に行けない人間もいる、私と同じ年で正社員で働いている人間だっている。耳にタコ、かからなければいけないのは耳鼻科か皮膚科化と悩んだくらいには親から聞かされている話だ。衣食住には困りはしないし、こうして悠長に文章を書いていられるのだから私は貧しくはないであろう。しかし俗にいうお嬢様学校出身で一度も働いたことがない同級生を見たときには奨学金冊子で顔面を引っ張だいてやろうかと思った。結局のところ幸せ不幸せは相対的なものではないし、前文は己のルサンチマンが垣間見えたようで赤面をしている惨めさに腹が立った。
「哲学を学んで何になるのだ」。浪人生である従兄に説教されたのを今でも覚えている。「だいたい将来お前は何になるんだ?哲学書を濫読するのもいいが未来のことも考えないといけないんだぞ。お前は何になれるんだ?」お前は何にもなれないから浪人生になったというのに。私と従兄は同い年で二日違いで生まれ幼稚園から中学校は同じ場所だったし、家も近いためほとんど一緒に育っており双子と言っても過言ではなかった。それゆえにそこに比較が生まれることも必然だった。幼少期の最大のステータスである運動神経をはじめとし、私は惨敗を繰り返した。私は当時体力テストと呼ばれるものでA評価をもらっており決して運動音痴ではないのだが、格が違いすぎた。そして何より、彼にはカリスマ性があった。カリスマ性であるから言葉では言い表せないが、端的にいえば現人神のようなものであろうか。人を魅了する力があるのだ。彼には不思議な能力があり、それは四葉のクローバーを瞬時に見つけるというものであった。私は四葉のクローバーを欲しいとは微塵も思わないが、説明不可能な彼の不思議な力にもどこか劣等を感じた。己は所詮凡人であり、現人神である彼には敵わないのだと。周囲の人間からも露骨な比較という名の誹謗中傷を浴びてきた。大人から子供まで私の彼との血のつながりに疑問を呈し時にそれを揶揄った。別々の高校に進学し、ここからは己のペースで進んでいこうと思った矢先、彼がミスターコンで優勝したことで私はさらに卑屈になった。生まれた瞬間に勝敗が決定する優良遺伝子品評会などから一切の価値を見出すことはできないが、悔しさは素直なほど私の心を蝕んだ。しかしこの優劣は受験期になるとあっさりとひっくり返った。私は受験したすべての大学で合格を勝ち取り、入学の選択肢の多さに困惑するという贅沢な悩みを抱えた一方で、彼は一つも合格を掴むことができなかった。この小説を執筆している現在彼は浪人中であり、この一年間は優劣が逆転せずに気分よく過ごせているのであるが寒くなるにつれそれがまたひっくり返るかもしれないのだと怯えて暮らしている。もしも彼が成功してしまったら?私より優秀な大学に合格してしまったら?一度勝利しようと結局いつまでも彼という存在は私の心に付き纏うのである。
これは小説ではなく掃きだめであり、誰に向けられたものでもない。私の中に不安や絶望がある限り書き続けるだろう。すなわち私が息絶えるまで「I does not love me.」がストップすることはないだろう。生きたままこの掃きだめを終了させてみたいものだが不安を取り除こうとするとそれが無理なような気がしてきてそれがまた不安の実態となる。しかしこうして文章を綴っていると不思議と活力が湧いてくるのである。誰に向けられたわけでなくとも、誰かが読んでくれるのならそれほどの喜びはないのだから。
読みましたか?