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幼き日々の

話は幼少期に戻る。


私は小さな頃からお転婆娘だった。

貴族の令嬢あるまじき姿を極めていたとも言える。

公爵家のくせに貴族としては緩すぎる

両親の影響もあったのだろう。


木登り、乗馬、体術に剣、

終いには狩りにまで興味津々。

思い立ったが吉日とすぐに行動に移し、

それらを片っ端から始めた。


頭脳派とは程遠い脳筋派だったのだ。


5歳の時、両親に強請って強請って許可をもらい、初めて侍女と2人だけで町に遊びに出た。

町娘になった気分で堅苦しい挨拶もなく

それはそれは楽しい思い出となった。


その帰り道に路地裏に落ちていた

ボロボロの男の子。

年は一緒だというが、痩せ細って

自身より下に見える姿が弟がいたら、と

彷彿させて。

止める侍女を置いて、

気がついたら担いで帰って来ていた。


屋敷に戻った後は大変だった。

身元が分からない小汚い痩せた男の子を

私が拉致してきたから。

皆の顔が鳩みたいになっていたことは

今でも忘れられない。


「か、肩の、肩の人はどうしたのだ」


と同様しながら聞く父様に一言


「落ちてた」と。


父様には叱られ一生分のお願いとやらを使い、

母様には泣きながらもう少し令嬢らしい、

女の子らしい習い事を、

きっと振る舞いも少しは変わるはずよ

と訴えられ、渋い顔をしながらも

彼を私の従者として置いてくれるならと承諾した。


今考えたらなにも確認しないで

強引に拾ってきたが、

ほいほい人が落ちてるわけないだろ。

と自分でも思う。

でも脳筋だったから。ほら、仕方ない。


勿論、遅れて屋敷に戻ってきた侍女にも叱られた。

辛い。


一生分のお願いと

渋々習い始めた刺繍と作法のレッスンを

引き換えにして手元に置いた少年は

それは大層可愛がった。猫可愛がりだった。

やっと肉がついてきた頬も、艶が出てきた髪も、

大事に大事に自らの手で育てあげた。


それは従者というよりかはペットかなんかの様に。


綺麗にしていけばいくほど目立つ顔の良さ。

夕焼け色の切れ長の目に整った鼻筋。

唇はまだカサつきが見られるが、

このまま磨いていけば

うちの子は将来有望に違いない。

本人は自身の中性的な顔付きが

あまり好きではないようで、私と共に鍛錬に励み

男らしさを磨いていくつもりのようだ。


私は男らしさを磨いたらいけないのだが。


それでも覚えたての完璧ではない

丁寧な言葉使いで一生懸命に


「お嬢様、おれ、幸せです」


と喜びを噛み締めた様な微笑みで

言われてしまえば、

この笑顔を守るために無双出来るように

ならなければいけないのでは

と謎の考えが浮かび、

母様の願いとは裏腹に鍛錬に励み、

元気な脳筋への道のりをせっせと進んでいった。


少年、ノアをお持ち帰りしてから1年。

私は6歳になっていた。


この頃にはノアを溺愛している私は

見て見ぬふりをされるようになった。

なんだか皆の視線が残念な物を

見ている様な気がしてならない。


裏で父様と母様が執事長のセバスと


「リリスは見目が良いのに中身がなあ」


「お嬢様は美しいから大丈夫ですよ、

なんとかなります、たぶん」


「将来が心配だわ、お嫁に行けるのかしら」


「好いてる相手と幸せになってくれればいいとは

思っているが、あれじゃあ間違いなく

捕まるのはノアだが、捕まえられる方が

不憫に見えるのは気のせいだろうか」


「肉食獣が獲物を捕まえると同じ様に

自然の摂理だと思いましょう、旦那様」


なんて会話をしていたことは知らないはずだ。


娘をなんだと思っているんだ。失礼な。

と言うかセバスが1番失礼だな。


そんな事を言っていたが一生懸命なノアの

可愛らしさは屋敷中の皆を癒し、使用人達は勿論、

母様と父様も何だかんだでノアに甘い。


人の事は言えないと思うが人間は皆、

自分の行動を棚に上げて人の行動ばかり

気にしてしまう生き物である。仕方ない。


誕生日の分からなかった彼の誕生日を

拾ってきた日に指定し、屋敷内での小さなパーティを計画して祝った際には、大きなケーキや

様々な食事、皆からの祝いの言葉やプレゼントに

涙ぐみながら嬉しそうにお礼を言う彼を見て

使用人達と母様や父様が

中々酷い顔をしていた事は忘れられない。


かく言う私もかなり酷かった様だけど。


ノアには言わないが計画を練ったのは勿論の事、

料理やお菓子の練習に励み、

当日に振る舞われた食事や誕生日ケーキは

全て私の手作りだった。

練習で作った物を必死に胃袋に詰め込み、

5キロも太った姿に我が家のシェフのジアは

狂気の沙汰だと言っていた。

幸せそうに頬張っている姿を見て、

私もケーキになって齧られたい

と言う思考が思い浮かんだ時、確かに狂気に近い

と自分でも納得したものである。


プレゼントに贈った指輪は深い意味はない。

決して。

そう自分に言い聞かせていたのに、

すっかり丁寧な言葉使いを使いこなす彼が


「もっと鍛錬も勉学も勤しんでお嬢様を

守れるくらい強くなってずっとお側にいますね。

俺、お嬢様に拾われて良かったです。幸せです」


なんて1年前に言われた言葉に付け加えて

舞い上がる様な言葉をくれるものだから。


「そう。期待してるわ」


なんて素っ気ない返事をしながらも

一生をかけて私が守るから大丈夫よ、

安心して頂戴。

今なら無双も夢じゃないわ。

と心の中は荒ぶり、鼻血が垂れそうだった。


そんな順風満帆な可愛い可愛い

私の従者育成をしている中、

7歳の時に決まった

この国の第1王子アーサー殿下との婚約。

何故。

両親は望まぬ結婚をさせるような人達では

ないはず。と探ってみたところどうやら

私に一目惚れをしたとのこと。

権力ってやつか。くそぅ。

王子だもんね、断れないよね。


恨みつらみを並べながら迎えた顔合わせの日、

王子は顔が良いと言われているらしいが、

塵にしか見えなかった。

1ミリも興味が湧かなかった。

そもそも私の脳内にノアの事以外が

入る隙間なんてありはしなかったのだ。


「こうえいに思えよ!

僕が君をあいしてあげるんだからな!」


なんて阿呆な事を抜かす王子の声は

耳から耳へと流れていき、


ノアは今日は何をしているのかしら。

庭の薔薇を匂いが好きだととても

気に入っていたわね。

あの匂いを閉じ込める様なものは

開発できないかしら。


考えるのは自身の従者の事。


「おい!さっきからきいてるのか!

美しい薔薇が咲いているから庭園に出るぞ

と言っているんだ!」


あの時は殿下の一言が行けなかったのだ。そうだ。


「え?薔薇?薔薇…薔薇…」


「な、なんだ?」


「殿下、申し訳ありません。

私たった今、重病にかかりましたので

本日はこれにて失礼致します。」


「え?病気?え?大丈夫か?」


混乱している王子を放って

何か言われる前にそそくさと逃走。


我慢の限界だったのだ。

殿下が薔薇だなんて言うから。

ノアを思い浮かべてしまう。帰らなければ。

と帰路につく。


それにしても、

あんな大嘘…よくもまあ、信じますわね。

頭が弱いのかしら?


この国の行く末に一概の不安を感じたが、

まあどうにでもなるだろう、最悪滅びても良いや

と考える事をやめ、目的の人物を屋敷の隅々まで探す。


「お嬢様?

おかえりなさいませ。

随分とお早いお戻りだったんですね。

大丈夫でしたか?」


お目当ての顔を見て息をつく。


「いつも通りよ。問題ないわ」


いつも通り貴方の事を考えていたわ。


「そうでしたか。良かった。

少しお疲れの様ですが、お茶を

お入れしましょうか?」


「ええ、そうして。

それとセバスに言って休憩をもらってきて頂戴。

貴方も一緒にお茶しましょう」


貴方が気に入った薔薇の香りがする茶葉を

取り寄せたから。


「ふふ、かしこまりました。

いつもの書斎でよろしかったですか?」


「ええ、待ってるわ」

笑顔が尊いわ。

そう、これが見たいが為に全力で帰ってきたのよ。


ノアと別れて書斎へ行く途中、

母様に会い、嬉しそうに言われた言葉を

思い浮かべながら考える。


「あらあら、随分と早かったのね。

どうだったかしら?そうそう、明日から王妃教育が

始まるのよ。淑女を目指してたっぷり礼法やお勉強

しましょうねぇ。」


絶望だった。

おのれ、王子。

やっと習い事から解放されたのに、

また淑女に縛られるなんて…

母様の望み通りある程度の女性らしさは

身につけたはずだ。

それなのに、また椅子と尻が仲良くなる様な

時間を過ごさなきゃいけないなんて。

そんな事をしたら、ノアとの時間が減ってしまう。


嗚呼、どうやって婚約を破棄させようかしら。

阿呆の分際で私と可愛い従者の大切な時間を取るだなんて許せないわ。


時間をかけてじわじわ報復してやる。


私が取り寄せた茶葉を使って

嬉しそうに入れるノアの顔を見ながら

決意を固くした。


この頃からである。

空いた隙間の時間を見つけては教会に通い、

懸命に神に祈りを捧げ始めたのは。


望むことはただ一つ。

ノアが笑っている姿を一生拝み続けること。


祈るのはただ一つ。

ノアとの時間を奪う輩は誰であろうと何であろうと成敗できる力をお授けください。


例えばこの国の第一王子とか。

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