《4》本当の目的
とりあえずリルはリュウキを弄るのはこれくらいにして話を戻すことにした。
「それにしても、祭器追跡隊にまさか<黒紫の虚無神>と戦った人が二人もいるなんてすごい偶然」
「……偶然なわけあるか」
やや間をおいてリュウキが言った。
「へ?」
「ついでに教えておいてやる。俺たちが追っているのは<黒紫の虚無神>を封印した神具のひとつ、<聖域の書>だ」
三年前、復活した<黒紫の虚無神>は激闘の末、<封印の聖女>と神具の力によって再び封印された。
その時用いられた神具は<薄紅の知識神>という神から授けられたもので、<聖域の書><人界の書><魔境の書>の三つで構成され、総じて<三界の書>と呼ばれている。
保管場所はもちろん公にされていないが、そのうちの一つが聖域にあったのだ。
「神だの神具だの話が突飛しすぎてるんだけど……」
リュウキの話を聞いてリルは唖然としていた。
「そもそも神って別の世界に旅立ったんじゃなかったの?」
「伝承の上では、な。俺も神たちの事情までは知らん。ともかくこの世界に残っていた神がいたようだな」
「その神様が私たちに協力してくださったんです」
「そ、そうだったんだ」
ラナイの言葉に頷きながらもリルは半信半疑といった感じだ。
「神については余談だ。とりあえず<黒紫の虚無神>を封印した神具の方が重要だ。あと……」
そこまで言って、リュウキはある人物に視線を移す。
「お前、<薄紅の知識神>を知ってるな?」
「……え!?」
「……え?」
リルとラナイは驚いて振り返った。オウルも興味ありげに見る。
当の本人は特に動じる様子もなくリュウキを見返した。
「……なぜそう思う?」
「ソーラス遺跡で隠されていた魔植物を見えるようにしただろ。あの遺跡、あとで調べてみたが<薄紅の知識神>の造った遺跡だ。<虚無大戦>の時に現れた聖者というのもお前じゃないのか?」
「<薄紅の知識神>を知っているのは認める。聖者というのは私じゃない。<薄紅の知識神>だろう」
キサラは淡々とした口調で言った。
「私は頼まれたことをやっている」
「え、じゃあレトイを復活させたことも?」
「ああ」
リルの問いにキサラは静かに頷く。レトイは瞳をしばたたかせた。
「あの神から何か聞いてるのか?」
リュウキは神妙な様子でたずねる。
「封印は永久的なものではない。いずれ解かれると」
「……なんだと?」
キサラの口から告げられた不穏な言葉にリュウキは眉を寄せた。
「その対処のために私は動いている」
「解かれるってどういうこと? 誰かが解いちゃうってこと?」
「そこまでは聞いていない」
リルが訝しげに問いかけるとキサラは首を振ってそう答えた。謎の予言じみた言葉にリルたちは押し黙る。
「ふむ……確かに<聖域の書>は事実、こうして盗まれているわけだし、危険にはなっているのかもしれないね」
オウルは腕を組んで考えた。
「しかもそのせいか、封印が弱まってきて人語を話す<虚獣>が出てきたりしてる」
「レトイは? なんで復活させたのかな?」
首を傾げながらリルがたずねるが、キサラは何も言わない。聞いていないのか、言えないのか……
「<黒紫の虚無神>と対立してたから、でしょうか……」
「そうねぇ……そういえば、レトイは何で<黒紫の虚無神>と対立したの? やっぱり世界を守るため?」
ラナイの考えにリルは頷き、それから思いついたようにレトイを見た。
<黒紫の虚無神>は世界を破壊しようとしたと聞く。やはりそれを阻止するためだろうか。
『……そんな大層なことではない。もっと個人的な理由だ』
レトイはふっと笑ったかと思うと不意に目を細めた。
対立してる割には、その眼に宿るのは怒りや憎しみではない。
むしろレトイの目は穏やかで、哀愁すら見えた。
『悪いがこれ以上は言うつもりはない。お前たちには借りがあるから協力すると約束しよう』
「んーそっか。まあそれぞれ事情があるわよね。とりあえずよろしくということで」
そう言ってリルは軽く微笑んだ。ラナイやオウルもよろしくと声をかける。
リュウキはレトイを見ただけで何も言わない。特に反対はしないようだ。
昨晩オウルに邪魔されながらもなんとかソーラス遺跡や聖者について調べ終えたリュウキです。(笑




