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三界の書 ―銀と緋の邂逅編―  作者: 阿季
第5話 廃墟の街の秘密
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《5》対峙

 皆が上空に離れたことを確認して、リュウキは<死を(いざな)うもの>に視線を移す。そして徐に自身の首元に手をやった。

 軽く開いた襟の隙間からは、簡素な装飾のされた銀色のトルクが見える。

 二重となっているそれを握りしめ、リュウキは目の前の死神を睨み据えた。


「……<限定解印(エンシス)>」


 小さく呟くと首の周りと両手首に深緑色の紋様が現れた。同時に全身を昏く冷たい力が満たしていく。


「……っ」


 久しく感じていなかった感覚にリュウキは身を震わせた。思わずトルクごと服を強く握り込んで俯く。だが、解放した力は間をおかず体に馴染んでいった。

 それを忌々しく思いながら、リュウキは左目が焦げ茶から紫紺の色に変化した双眸を持ち上げる。


(<死を誘うもの>を消すには<力>を直接ぶつけるのが手っ取り早いが……)


 消滅させるだけの<力>が必要になる。この力はその量が多いほど強力になるが、その分()()が起こるまでの時間が早くなる。()()はなるべく避けなくてはいけない。


(……禁術が虚無の者によるものなら”示す”だけで何とかなる筈だ)


 大人の三倍以上はある黒き死神がどんどん迫ってくる。それを見据えながらリュウキは息を吸った。その間に距離が縮まっていく。

 そして両者が触れるか触れないかの瞬間。たった一言、リュウキは言葉を発する。


「止まれ」


 大きな声ではなかったが、僅かに異質な力が込められていた。





 上空のリルたちは地上に一人残ったリュウキの後ろ姿を見下ろしていた。彼はこちらに背を向けて立っているので紋様や瞳の色が変わっていることには気づかない。

 何か構えるわけでも術の準備をする様子でもないリュウキにリルはだんだん心配になって来ていた。


(大丈夫なのかな……)


 そんな彼女たちの視界で、リュウキと<死を誘うもの>、二つの距離がみるみる狭まっていき――……そして。

 死神がリュウキを呆気なく飲み込んだ。


「っ!! リュ……」


 目の前の光景に思わずリルが彼の名前を叫ぼうとした、刹那。

 その場にいた全員の背筋が凍りついた。一瞬だが絶大で底知れない力を感じる。

 ……あの死神のものだろうか。こんなに接近してきたのでその気を感じた……?


『…………おい、今の……まさか』


 何かわかるのか、愕然と呟きながらラシエンが己の背に乗るオウルを振り返る。対して彼は視線だけを動かして相方を顧みた。


「…………」

『……まじか』


 言葉はなかったが、その無言だけでラシエンには伝わったらしい。リルとヴァレルは地上に視線を向けたまま茫然としている。

 キサラだけは表情一つ変えず、黙ってリュウキの背中を見ていた。

 そんな彼女たちの視線の先では、更に予想だにしていなかったことが起きていた。

 あれほど勢いよく突き進んでいた<死を誘うもの>が、ぴたりと止まっている。よく見れば死神の纏う闇色の長衣の先――黒い霧の中に赤毛の少年の姿があった。




 リュウキの視界では死神の黒衣が二、三歩ほどの距離を開けて揺らめいていた。

 <死を誘うもの>の纏う黒い(もや)にはすっかり取り囲まれていたが、なぜかリュウキの近くにはほとんど漂っていなかった。

 まるで(もや)自体が触れるのを避けるかのように。

 目の前で停止したように動かなくなった<死を誘うもの>をリュウキは見上げた。


(……うまくいったか)


 念のため声に少し<力>を乗せてみることにしたのだ。

 しかし、久しぶりだったので少し制御が甘かったかもしれない。力の波動をやや広げ過ぎた気がした。

 上空のリル達に感づかれるのは避けたい。次は気をつけなくては。


 ひとまずこの場に<死を誘うもの>を留めることができたので少し胸を撫で下ろすが、このままにはしておけない。


「消えろ」


 今度は声に<力>を最初より多く込めて発する。

 行動に干渉するくらいならともかく、術自体を消滅させるとなるとそれなりにこの力を示さないといけないだろう。

 こちらが確実に”上位”だと、相手に認識させる。


「…………」


 しかし、<死を誘うもの>が消滅していく気配はない。


「……消えろ」


 もう一度、リュウキは<力>を多めに込めて言葉を紡ぐ。すると闇の中に浮かぶ二つの赤光が動き、顔を上げているリュウキの視線と交わった。


 普通ならば目が合っただけで恐怖心を抱き最悪発狂してもおかしくないのだが、リュウキは至って冷静だった。いや、むしろ冷静すぎるほどだった。


 <死を誘うもの>に対して恐怖を感じるのは死を恐れる心を持つからである。リルやヴァレルが死神を見た時に強い恐怖心を抱いたのはそのためだ。

 対して、リュウキは驚きや危機感を感じはしたが、恐怖心を抱いてはいなかった。

 ()()から、リュウキは自分の命に執着などしていなかったから。

 その心にあるのは深い後悔と絶望と――憎悪。

 焦げ茶と紫紺の瞳の奥に昏い光を揺らめかせながら、リュウキは相手を見つめ返していた。

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