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三界の書 ―銀と緋の邂逅編―  作者: 阿季
第3話 ソーラス遺跡・後編
14/52

《3》魔核と取り巻き その1

 ※21/05/25 魔核との戦闘を多少加筆しました。タイトルは変わってませんが《5》の方にも加筆した部分があります。

 リュウキはリルをラナイの近くに降ろすと、広間の様子を見に離れていく。

 それを確認するとリルは開口一番に慌てて言った。


「あっと、ラナイごめんね?」

「はい? どうして謝るんです?」


 リルの怪我を治癒しようと杖を(かざ)したラナイは首を傾げる。


「え、いや、えっと、なんとなく?」


 理由は言いにくくてリルは誤魔化した。訳が分からないラナイだったが、とりあえず治癒を始める。


「リュウキが怪我人を運ぶとたまに謝られるのですが、どうしてなんでしょうか」

「…………」


 聖女様は俗世間には疎いらしい。


「リュウキはさっきみたいに人を運ぶの?」

「あれだと怪我してる人をそんなに動かさずにすみますから」

「そ、そうね」

「なぜか子供や自分より小さい女性にしかしませんけど」

(そりゃそうだ……)


 心の中で呟くリルである。

 リュウキの方は知ってるのか気になったが、知っていればあの性格上しないような気がした。

 とはいえ、子供や女性にしかやらないということはやはり知っているのか。

 もしくは他の誰かがそういうことをしているのを見ていたとか?

 話してみようかとも思ったが、ラナイの手前気が引けた。今までもそんな感じで誰も話さなかったのだろう……

 ラナイが怪我を治癒してくれている間、リルはそんなことを悶々と考えていたのであった。


 一方、女魔族は崩れた壁の端からリルたちのいた広間をじっと見ていた。


「……厄介なことになっているようだな」


 何かわかるのか、女は僅かに目を細める。


「私の聖結界で広域浄化してみますか? 魔核を見つけるのは大変そうですし」


 リルを治癒しながらラナイが提案する。リュウキは少し考えて言った。


「……そうだな。それが早いか……」

「ではリルさんの治癒が終わったら中に」


 聖結界は自分を中心に展開するので対象地域の真ん中あたりに移動する必要がある。

 不意に女魔族が広間に入っていくのに気付き、ラナイは声をかけた。


「あら、キサラさん?」

「「……キサラ?」」


 初めて聞く名にリルとリュウキが反応する。


「魔族さんの名前だそうだよ。二人とはぐれている間に聞いてたね」


 ラナイと一緒にいたオウルがそう言う。リルはそうなんだと相槌を打つが、リュウキは少し険しい顔をした。

 相手の名前を聞いたということはこっちも名乗ったということだ。


(……正体のわからない魔族に名前を知られるのはあまりよくないかもしれないが……)


 とはいえ、後の祭りである。


「あ、蔓が……!」

「まあ……!」


 リルとラナイが驚きの声を上げたので、リュウキは何事かと広間の方を見る。


「……!」


 やや薄暗い広間の景色が変わり始めていた。霧が晴れるように壁や床に這った蔓が姿を現していく。


「キサラさんが!」


 女魔族――キサラが柱に囲まれた台座のようなところで蔓に拘束されていた。 隠れた蔓を何とかしている間に捕まったようだ。


「私より、魔核を」


 ラナイが心配そうにキサラを見る一方、当の本人は慌てる様子もなくそう言った。


「あれか」


 素早く視線を巡らせてリュウキが蔓に囲まれた塊を見つける。蔓の隙間から結晶のようなものが見えていた。

 見当をつけるとリュウキは背中の剣を引き抜き駆け出した。

 蔓が阻もうと襲い掛かってくるが見えていればなんてことはない。リュウキは剣で斬り払ったり躱したりしながら走り抜けていく。

 しかし、(にわ)かに魔核の周りで五つの光が瞬いたかと思うと、そこから暗赤色の光が一直線に伸びてこちらに迫ってきた。


「!」


 横に飛んで回避しリュウキはそのまま走り続けようとするが、それらの光線は追いかけるように彼の方へと軸線をずらしてくる。予想外の動きだ。


「――!?」


 このままでは被弾してしまう。魔力の光線は前方に向かって展開するようだ。リュウキは姿勢を低くすると片足に力を込め、後方へと大きく飛び退った。

 五本の光線も方向を変えてきたが、剣で受け止めつつ後ろに飛んだ勢いに乗せ衝撃を流していく。


「くっ……」


 光線はリュウキが魔核から離れると徐々に細くなって空中に溶けていった。

 リュウキは受け身を取っていたのですぐに体勢を立て直すが、壁際――最初の地点まで戻されてしまった。

 明るいとは言えない広間に改めて目を凝らす。よく見れば魔核の周囲には蔓に半ば隠れるように小さな結晶が五つ散らばっていた。


「ふむう、小魔核持ち(取り巻き)か。随分と豪華なお出迎えだね」


 顎に手を当てながらオウルがそう言う。リュウキは広間を少し見ていたが再び走り出した。

 先程は魔核へ真正面から向かったが、今度は斜め横へと逸れる。向かうのは一番端の小魔核だ。

 リュウキが近づいていくとまた小魔核がそれぞれ光を帯び始める。


(魔核までの距離、各小魔核の位置、あの光線の速度なら……)


 間髪入れずに暗赤色の細長い光が放たれてきた。

 五本もある魔力の光線は厄介だが、それは正面から魔核に向かった時。

 周囲の小魔核へ向かえば、一番遠い小魔核からの光線は距離が離れる分こちらに到達するまでに時間差が生じる。

 二、三本の光線までなら何とか対応できるだろう。

 リュウキは飛び交う蔓を切り裂き光線を躱しながら、四本目が到達する直前に小魔核を間合いに捉える。


(流石にギリギリか……!)


 新たな暗赤色の光が迫るのを感じながらリュウキは剣を振り下ろした。しかし。


「……!?」


 目の前にあった小魔核は周囲の蔓に沈み込むようにして消えてしまう。一瞬驚くが止まっている暇などない。

 リュウキは迫っていた蔓を斬りつけながらすぐさまその場から大きく退避した。

 直後、四本目の光線が彼の立っていた場所を横切っていく。


(くそ、近づくと消えるのか)


 どう対処するか考えるが、すぐには思いつかない。蔓と光線の攻撃にも晒されている。

 このままだとこちらの体力が危ないので、リュウキは一旦下がることにした。

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