女子会再び
時は、セリアの結婚式が決まった直前に巻き戻る。
「女子会ですわ!」
「……おー」
「久しぶりよねぇ」
右を見れば。パジャマに着替えて、テンションが高めな王族が三人。
ベアトリーゼはジュース。
リリーアとララは地酒を飲んで干物を食べている。
相変わらず女子会に選ぶ品としては少し変化球なチョイスだが。集まって駄弁るのが目的なので、アイテムは重要ではない。
今回はララも素顔での参加なので、いつもと違う光景になっていたのだが。
「うふふ……えへっ、ドレス、何色にしよっかなー」
「うふふ……ふふっ、いいのよ。私は権力が恋人だから」
左を見れば。来年の結婚式を想像して表情をゆるゆるにしているセリアと、初恋が木っ端微塵に散って、暗黒面に堕ちているルーシェ。
非常に対照的な顔をした二人が並んでいる。
そして中央を見れば今回のゲストが居たのだが。彼女はルーシェの様子を見て戸惑っていた。
「え、ええと。何故私はここに居るのでしょうか?」
「まあまあ、細かいことは置いといて。はい、飲み物」
「あ……いただきます」
ベアトリーゼが座る正面には、困惑した顔でコップに飲み物を注いでもらっているマリスが居た。
彼女は公国に移民してきて、まずはライナーとの再会を喜んだのだが。後ろにいたご隠居と両親は、ベアトリーゼの方を構っていた。
うちの子になりなよ。と言うくらいには気に入っていたのだから、久方ぶりの再会に沸いていたらしい。
『ライナーと結婚したなら、ベアトちゃんは間接的にうちの子だ!』
『そうじゃそうじゃ!』
などと言っている姿を見て、流石のライナーも苦笑いを浮かべていたが。王国と戦争をやっていて、結婚式に呼ぶこともできなかったのだ。
まあそれくらいはいいかと、放置していたのがマズかった。
彼らと話しているうちにベアトリーゼは悪だくみを思いつき。マリスを誘って女子会の開催を決めたのであった。
ルーシェは宰相になる準備のために王都に居たし。
セリアも結婚式の準備を進めるために、ライナーの屋敷の中に居た。
ということで女子会が開催されることになり、本日はゲストにマリスが加わった。
「ふふっ、時代は富と権力なのよ……」
「おいおい、時代はラブアンドピースだぜ? ハッピーに行こうぜ、なあルーシェ」
恋愛が実って幸せ絶頂のセリアと。縁談の件数が多い割りに結婚が最後になり、今のところ特定の相手もいないルーシェ。
この二人が居る空間だけ、時空が歪んでいるのかと思うほど酷い空気だった。
「あ、あはは……」
そうでなくても全員貴族で、王族まで混じっている。
ライナーが彼女たちから臨時雇いされていた頃は、何度か家でご飯を食べて行ったくらいの間柄だが。蒼い薔薇の現状に、マリスは戸惑うことしかできない。
「はいはい、その辺で。今日はマリスだっているんだからね!」
「……ん」
「そう言えばベアト、何故マリスさんをお呼びしましたの?」
マリスとしても気になっていた質問が飛んできたのだが。当のベアトリーゼは不敵に笑いながら目を閉じて、人差し指を天に向けていた。
「ライナーの昔話、聞きたくない? ……恥ずかしい話とか」
「……アリ」
「いいですわね」
ライナーは結婚をしてからちょくちょくやらかしていたので、その度に罰を考えてきたのだが。ペースが速すぎて、制裁の方法が思いつかなくなってきた頃だった。
どんな罰でも涼しい顔で乗り切って、また次の罰を受けに来る有様に、ベアトリーゼたちの方が頭を抱えてしまった。
しかし。昔の恥ずかしい話。
それを目の前で語ればどうだ。
流石のライナーにも効くはずだとベアトリーゼは力説する。
「あの、それは流石に――」
「まあまあ、もっと飲みなよ。敬語もいらないからさ!」
「え、あ、いただきます」
緊張で味が分からない。そんな状況に陥ることは、人生で何度かあると思うのだが。マリスにとっては今日がその日だった。
実は今日、マリスに提供された飲み物はオレンジジュースの蒸留酒割りだった。そこそこの度数がありながら、飲みやすくてぐいぐいイケる酒だ。
元々酒っぽさがなく、しかも緊張していたマリスは喉が渇いて。ベアトリーゼの思惑を超えるペースで、パカパカと飲み干してしまう。
思ったよりも早く酔ったなと思いつつ、策士は再び攻勢を仕掛けた。
「ね、いいでしょ?」
「で、でもぉ、ライラーって国王なんでしょー? 暴露なんてしたら、ねぇ?」
「……問題無い。女王は、私」
ライナーは国王として君臨しているが、正しくは王配。女王の夫というポジションにいる。当の女王がゴーサインを出したのだから、何をためらうのか。
そう言いながら、ベアトリーゼはお代わりを追加していった。
「そうだね、アタシも興味あるな」
「ふふ、人の不幸って蜜の味よね。恥ずかしい話を聞かれるのって不幸よね……」
「ルーシェはいい加減、帰っていらっしゃいな」
外野が囃し立て、ベアトリーゼが説得すること数分。最後に注がれたカクテルを一気に飲み干して、マリスは決意した。
「いょーし、じゃあ、やっちゃいますか!」
「そうこなくっちゃ!」
よし、これでライナーの弱みをゲットだ。
そう思い、心の中でガッツポーズを決めたベアトリーゼに対し。マリスは一瞬だけ真顔に戻って言う。
「ただ、ライナーの奥さんだから話すけどさ。ちょっと重い話もあるから……」
「……大丈夫。私の過去も、重い」
ララの話を引き合いに出されてはなぁ。
と、蒼い薔薇のメンバーは少し引いた。
しかしある意味、過去を乗り越えつつあるのだろう。
そう考えれば悪い話でもないのか? と、評価に困る発言ではあった。
何のことか分からないマリスだが。それならばと、彼の過去を話し始める。
そして時は現在に戻り。
セリアの結婚式を終えた翌日。二次会の余興で盛大にやらかしたライナーの前で、過去の恥ずかしい話が赤裸々に語られた。
これを披露されたライナーはと言えば。
何度か使ったら基本的に封印しようと決めた、精霊神の力を全解放して。
早速過去を変えに行った。
マリスたちが移住してくる日はあらかじめ食事会の用意をしておき。
悪だくみの発想が出てくる前にライナー同席で食事をして、和やかな歓談をして、穏便に別れたのだ。
――つまり女子会の存在を、無かったことにした。
「……危ないところだった」
『精霊神になって、やることがそれかよ』
時空の変化に対応できる大精霊は、こんなことで歴史改変を起こす男に呆れていたのだが。
とにかくこうして、ライナーの秘密は守られた。
ライナーが時空を超えられるようになったので、どこにでも後日譚が挿入できて助かります。




