安堵or不安
「機転がきくのね。」
検崎春香がバックミラーごしにいった。
「ラッキーが重なっただけだよ」
村田は後部座席で身体を低くしたまま答た。
「ところで、USBは?」
村田はポケットから取り出し、アームレストに置いた。
「今、何処へ向かってる?」
「とりあえず渋谷方面にむかってるわ」
「何でもいいからドライブスルー見つけたら入ってくれ、そこで降りる」
「なるほどね、さすがJD」
「俺はJDじゃない!村田だよ」
ハイハイとばかりに検崎春香は笑っていた。
「右手にドライブスルー見つけたわ」
そう言うと車を向けた。
夕方の幹線道路は混んでいた。
「奴らの車は?」
「通り過ぎたわ。」
車はゆっくりドライブスルーの建物の中に入った。
「じゃぁ、これで!」
「中身の確認が出来たら連絡します。」
「お好きに、今晩は都内にいますから。」
赤いBMWは何も注文しないまま走り出した。
村田は店内に向かい、朝から何も食べていない胃袋を満たすためにハンバーガーを注文した。
ジェフドーソンなる外国人に会ってからまだ、12時間ほどだが、驚くほど激動な一日だったと思い返していた。
三宮のロッカーで見つけた物は東京駅に着いた時に同じ様にロッカーに預けた。
これで終わり、そう思っていた。
何とかホテルの予約が取れた。場所は新橋。
小さなビジネスホテルだった。
村田は部屋に入るとそのままベットに大の字に倒れ込んだ。
朝からの色々は肉体と精神の両方を疲れさせた。
すぐに意識を失い眠りに入った。
村田は夢を見ていた。
今日の出来事を復習するかの如く、ジェフドーソン、USB、検崎春香、ストライプのハンサム、柔道体型など次々に現れた。
何故だか行動的だったし、かなりうまく立ち回れた。
夢の中に死んだ父親がでてきた。
5年前、海外出張中に飛行機事故で死んでいた。
「圭吾、お前ならやれるよ。俺の息子だからな」
村田は夢は携帯の呼出し音で終わった。
「もしもし」
「もしもしJD、いや村田さん?」
検崎春香だった。何だか焦っている。
「奴らが事務所にやってきてUSBを奪っていったの」
「それで?」
「それでって!あなた、あれがないと困るのよ!」
村田は冷静だった。届けてしまえば自分の役目は終わりだと思っているのと理由はもう一つあった。
「私は届けて確認されれば仕事は終わりです。」
「そ、それはそうだけど…」
検崎春香は言葉に詰まっていた。
「今事務所ですか?」
「そうだけど」
「1時間後に伺います」
「どういう事?」
「USB要るんでしょ」
「有るの?」
困惑する検崎春香を無視して電話をきった。
ジャケットを羽織り、村田はホテルの部屋を飛び出した。