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ちびっこ狂騒曲 作詞:リリス、作曲:ルシファー、歌・ベルゼビュート

~前奏~


 あたしの部屋は子供たちも勝手知ったる他人の家。

「せっかくだから明日の着替えはサンプルから選んでいいよー。どれがいい?」

 文字通り山。

 デザイナー特権でありまくりますのよ、オホホ。

 話聞いて手伝いに来たお義母さんも大喜び。

「まあっ。あらあら、ぬいぐるみもあるのね。ヒナちゃん、ばぁばと遊ぶ?」

「うんっ。あっ、あたらしいのふえてる! かわいー」

「子犬とか子猫、ちびシリーズ作ってみたんだ。まだ試作段階だけど、製作チームに超人気」

「かわいいねぇ」←*ヒナちゃんが

 イポスくん、省略部分。

 勉強好きなラボラスくんはルシファーが本棚のとこ連れてった。

「ラボラス君は僕の蔵書でも読みますか? 色々ありますよ。大人向けですが、君なら読めるんじゃないでしょうか」

 ヒナちゃんはまだ絵本がやっとだけど、ラボラスくんの頭はすでに日本でいうと中学生~高校生レベル。おそるべしリリーちゃんの息子でルキ兄さまの甥。

「私も何冊か持ってきてみたよ」

 お義父さんも本抱えて戻ってきた。

「ルシファーおじうえとおじいさま、本たくさんもってるんですね」

「仕事柄ですかねぇ。様々な知識を持っている必要があるので。ジャンル問わず読みますね」

「王配ってたいへんなんですね」

 いや、スパイのほうだね。

「ええ、まぁ。……君はリリーさんの才能を受け継いでいて、なかなか見どころがあります。英才教育の協力惜しみませんよ」

「そうだねぇ。いずれ手伝ってもらおうかな」

 わーお。もう目ぇつけとるー。

 そういやリリーちゃんも青田買いしてたんだった。

 まーね、才能ばっちりで親の身元も確か、重宝してる部下の子供じゃロックオンするわな。

「? 補佐官ってことですか」

「ちょっと違うかもしれません。もう少し大きくなったら教えますよ。そうそう、その時はイポス君も一緒に誘いますからそのつもりで」

 そっちも目ぇつけてたんかい。

 え、大丈夫?

「ぼくも? えー、でもぼくはヒナちゃんまもるナイトになるんだよ」

 ルシファーは声を潜めて、

「ヒナギクさんが欲しいのでしょう? 彼女の能力を隠して守るためには金やコネ、そのほか必要なものがあるんですよ。リリーさんに対するネビロス様でも分かるでしょう? 武力だけでは駄目です。僕の部下になれば、もちろん働くのと引き換えですが、全て手に入りますよ」

「……なるほど」

 ちょ、おーい。大変なことそそのかしとる。

 黒いな。でもそんなとこが好き。

「ちょっと二人とも」

 ルシファーとお義父さんを隅へ手招き。

「双子両方とも勧誘すんの?」

「ええ。ラボラス君のほうは言うまでもありません。イポス君のほうは、手のうちに置いておいてコントロールしたほうが安全という意味でですね」

「野放しにしておくより、適度に何か仕事を与えておくほうがいいですよ」

「ああ~……」

 よく分かった。

「ヒナちゃんも? 予知能力あるから」

「いえ、ヒナギクさんはスミレさん同様協力者程度にとどめておくつもりです」

「レティ兄さまが怒りそうだもんね」

「それもありますが、正式に組織の一員となると、頻繁に予知してもらうことになるかもしれません。ヒナギクさんの体力と魔力量では無理です」

 スミレちゃんが『協力者』な理由もここらへんにある。両親は頑健な体で魔力量もそこそこなんで平気だけど、スミレちゃんは違う。

「そっか、ヒナちゃんもちょっと体力低めだから。うん、大事なかわいい姪っ子の健康の方が大切!」

「リリス様がそうおっしゃると思いましたしね」

「そりゃそーよ。ヒナちゃんだけじゃなく、双子もお世話よく手伝ってるもん。わが子同然よっ」

 そっち見ると、ヒナちゃんはお義母さんとぬいぐるみで遊んでて、イポスくんはニコニコしてそれ眺めてて、ラボラスくんは大人しく本読んでる。

 あたしら兄妹弟の小さい頃が不幸だったぶんも、この子たちは幸せにするだから。

 めいっぱい愛情注いでね。

 三人まとめてぎゅーっと抱きしめた。

「リリスおばちゃま?」

「おばちゃんはかわいい甥っ子姪っ子たちのために、世界が平和であるようがんばるよ! ―――さあ、そのためには服作りだっ! 新しいアイデアわいてきたあああああ!」

 なんか下りてきたよ!

 机にかじりついてデザイン画描きまくる。

「うおおおおおお、子供服作りまくるぞ――!」

「……なんかおかしくない?」

 ラボラスくんが冷静にツッコんだ。その肩をルシファーがぽんとたたいて言った。

「やはり君はぜひ将来うちに就職を」


   ★


~一番・ちびっこ宰相は悟りを開いた、もといあきらめた~


 ……輝夜が楽しそうに歌を歌っている。

 しかも上手い。さすがは元・姫。

「……ごきげんだな」

 対する俺はあれこれ着替えさせられまくってぐったりである。

 途中からもう無我の境地でやった。なんだか大いなる悟りを開けた気がする。

 ……ちなみに現在輝夜の膝の上で前向き抱っこされているのだが、これもさんざん抵抗して負けた結果である。

 人生はあきらめが肝心だな、と虚空を眺めてたそがれる。

「だってルキかわいいんだもの」

「…………」

 かわいいって言われて嫌がるアガの気持ちがよく分かった。

 すごい複雑。

「なあ……満足したならそろそろ下ろしてくれ」

「ええー? もっと。いいでしょ。ね?」

 逆にホールドがきつくなった。

 うぐ。やわらかっ……サラサラの髪がっ。

 とっさに眼鏡を押さえようとした手はスカッと空を切った。

 あ、そうだった。この体だとサイズが合わなくてかけてないんだった。

 服は自動で合うようセットしたリリスだが、眼鏡までは考えつかなかったのか、それともわざとか。

 代わりに引き出しの中のペンが一本、無残な状態になった。

「ルキの子供の頃ってこんな感じだったのね。写真とかなかったからうれしーい」

「ああ……母や祖父にとって、俺は『期待外れ』だったからな」

 公式には認知されてないが、王も自分の子と認識している第一子なんて厄介すぎる。

「こんなかわいい子をどうして放置したのかしら。前の王様もお母さまたちも愚かねぇ。私ならそりゃもう溺愛するのにっ」

 ……俺似の息子が生まれたら大変そうだな。

「生物学上の父親は、自分の地位を奪われまいと必死だったんだろ。俺にとって親なんて系図上血がつながってるだけで、愛情が欲しいなんて思ったこともない。怒ることでもないさ」

「そういうふうに考えちゃだめ。そこは怒らなきゃ!」

「と言われてもな……」

「ほんっと許せない。お母さまたちはもう亡くなってるから無理としても、お父さまのほうは説教したいわ」

「やめとけ。あいつには何言っても無駄だし、近づけたくない。会ったって百害あって一利なしだ」

 ここは断固として止めた。

 あんなやつに関わらせたくもない。

「……そう? ねえ、子供の頃ってどんな生活だったの?」

「別に、一般に知られてる通りだ。そうだな……弟妹に比べて恵まれてはいたと思う。食わせてはもらえてたし、教育も受けさせてもらえた。殺されずに済んでるんだから、もしかしたらいつか認知してもらえるんじゃないかって欲のためだけどな。当時は唯一の王の子だったし、担ぎ出す駒になるかもしれないってわけだ」

 俺は肩をすくめた。

「ただ残念ながら肝心の俺にその気はなく、『無欲で無害な腰抜け息子』だったのさ」

「それでよかったのよ。おかげで前の王様もだまされて、ルキは生き延びることができたんだもの。そして私はあなたに会えたんだから」

 輝夜は穏やかに微笑んだ。

「無害なふりして、裏でたくさんの人を助けてたでしょう?」

「……結果論だ。俺は事実、自分の命を優先した腰抜けだよ」

「あなたに助けてもらった人たちは誰もそんなこと思ってないわよ」

 俺はいぶかしげに輝夜を見上げた。

「なんで言い切れる」

「母国にはルキが助けた亡命者がたくさん来てたのよ。何しろお隣で、安全な国でしょう? 彼らの中には有能で城で働いている人もけっこういて、話をしたことがあるのよ」

「……そうか」

 少しだけ心が軽くなった。

 俺がしたことは無駄じゃなかった。

「子供の頃なぁ……。総じてかわいげのないやつだったと思うぞ。やたら冷めてて無表情、口数も少ない。ああ、ルガと似てるな」

 そういや俺、リリスら弟妹と会うまで笑うって動作したことあったか?

「クールなルキもかっこよかったでしょうね~」

 ペンがまた一本粉砕された気がする。

 輝夜が思いついたように、

「あ。てことはこうやって膝抱っこするのもハグも私が初めて?」

 余計なことは思いつかなくていいんだが!

「……そうだな。世話は全部使用人任せだったし、彼らもなるべく俺とは接しないようにしてたから。誰だって命が惜しいだろ」

「つまり私だけがしたことあるのよねっ。ふふ、うれしい。好きな人のかわいいところ独り占めなんて」

 さらにぎゅっと抱きしめられた。

「……っ」

 6本一気にチリと化した。

「……な、なら悪くないかもな。輝夜が喜ぶなら」

 論理がなんかおかしいが、全力で見なかったことにしよう。

「うんっ。ねえ、それならせっかくだから当時できなかったこといっぱいしましょ! お母さん替わりするわ! まず何する? お昼寝で添い寝?」

「は?!」

 引き出しの中身が丸ごと吹っ飛んだ。

「えっ? 今のなに?!」

「なんでもない、なんでも」

 いきなり何を言い出すんだこの天然姫様は!

 落ち着け俺。深呼吸。感情を消すのは得意だろ。

「……えー、どうしてそんな発想が出てきた」

「小さい頃はお母様がよく添い寝してくれてたもの。普通じゃないの? あとはお膝にのっけてもらってご本とか。お父様には高い高いと……」

「ちょ、マジでやめてくれえええええ!」

 全部やろうとした無自覚天然姫に全力で抵抗した。

 ―――翌朝。

 ゲッソリ&思考放棄で前向き抱っこされ、手足をだらんと伸ばした俺にナキアがおずおずと声かけてきた。

「兄貴、だいじょーぶ?」

「……そう見えるか?」

「うんにゃ。何があったかは聞かねー。想像つくわ」

「お前は平気そうだな……」

「オレは小さい時ローレルと半分一緒に暮らしてたようなもんだったからさ、慣れてるっつーか。向こうもオレのちっこい頃知ってるんで、今さら興奮しねーの」

「ああ、母性爆発はしないのか……」

「しちゃうのも仕方ないでしょ。かわいいんだもの~」

 ハートばらまきながらほおずりしてくる輝夜。

 もうこれくらいじゃ動じない。あきらめた。

「ま、あとちょいガンバ。つか兄貴、そんなんなのに仕事すんの?」

「当たり前だ。これくらいで休むか」

「アガは休むってひきこもってるよ」

「……アガは休ませてやろう」

 プライドの高いあいつにはかわいそうだ。

「兄貴も休んじゃえばいーじゃん。マジメだねぇ」

 ナキアは苦笑して肩をすくめた。

 案の定、部下たちには相当驚かれた。

「え……と、ルキフグス様……?」

「宰相様ですよね?」

「ああ、俺だ。この姿は気にするな。リリスが気まぐれで幼児化の魔法かけただけだ。昼頃には戻る」

「あ~、リリス様の仕業ですか」

 ものすごく気の毒そうに納得された。

 リリスならさもありなん、という認識。

「さて。しかし、この身長だと椅子が低すぎるな」

 高さ調節を、と思ったら輝夜が目をキラキラさせて、

「じゃあ私がお膝乗っけるわ!」

「それは勘弁してくれ」

 いくらなんでも仕事場だ!

「え~」

「仕事するんだぞ。さすがにお互い気まずいだろうが」

「……分かったわ」

 むう、と頬を膨らませる。

 ぐっ。

 反射的に眼鏡押さえる。ヒビ復元。

 ふー、やばかった。

 ん? 昨日サイズが合わないとか言ってなかったかって? 輝夜が仕事行くときはかけてというんで、魔法でサイズ合わせたんだよ。

 クソ親父の時代、大事な物や没収されるには惜しいものを小型化して亡命者に持たせてやるとかしてたんでな。けっこう得意なんだよ。

「よいしょ」

 この事態を予想して昨日のうちにレティに頼んでおいた子供用高さ調整台を乗せる。

 レティだけじゃなく俺も、見ただけでものの大きさや長さが正確に分かる特技を持ってるんだ。それに現在の体の大きさを加味して計算すれば、必要な寸法がはじき出せる。

 すぐに用意してのけた弟のDIYスキルもすごい。

「さ、始めるか」

 普段と変わらぬスピードで片づけていく。

 肉体が小さいだけで、能力は同じだからな。

 輝夜は不満そうに唇をとがらせた。

「むー……。もうちょっと体が小さくてオタオタしたところ助けるってしたかったのに。適応力高いのも考えものね」

「なんだそれは」

「手が届かないとか、ファイルが重くてプルプルとかよ。ちっちゃくてもがんばってる姿で悶えたかった」

「そんなの魔法で補助すればいいだけだろう」

 書類を浮かせてたぐりよせ、重いファイルは開いた状態で空中停止。

「適応能力か、まぁそれなりにあるだろうな。でなきゃとっくに殺されてた。まさに死ぬ気で身に着けたわけだ」

「生まれ持ったものもあるでしょ。私のダンナさまは何でもできて素敵よね」

「っ」

 眼鏡押さえてごまかす。

 危ない、ファイルが落ちかけた。

「……お褒めにあずかり光栄です」

「なんで時々敬語に戻るの?」

 察してくれ。

 周囲は察してスルーしてくれた。ありがとうよ。

 仕事に没頭して現実逃避でどうにか午前は乗り切った。

 昼。

「はい、あーん♪」

 満面の笑みの輝夜がフォークにさしたタコさんウインナーを持ち上げる。

「…………」

 断わっておくがここは従業員用食堂である。つまり衆人環視。

 しかし人に見られているのが普通な『姫』は平気。

 なお、俺の目の前にあるのは輝夜が勝手に注文したお子様ランチ……。そんなのメニューにないだろが……。なんで作ってくるんだよナキアは!

「まず言いたい。ナキア、お前今日仕事休みなくせに作ってくるな」

「いやぁ、姫に頼まれちゃーさあ。オレだって同じの食うんだからいーじゃん」

 怒られるの避けるために自分も同じの用意しやがって。

「その体でよく普通に料理できるな」

「そりゃー小さい頃から下働きしてたもん。それにローレルに他の男が作ったモン食わせたくねーし」

「お前もたいがいだな」

 そんなんでよく亡命時代平気だったな。家事スタッフ派遣してたんだろ?

 ああそうか、女性なのか。

「なあローレル、そっちのハンバーグ一口ちょーだい」

「どうぞー。ね、ナキ君のもちょっとちょうだい。交換ね」

 お互い食べさせあいっこしてる。

 照れとかゼロ、自然すぎ。

「ん、おいしーい。やっぱ私、ナキ君のごはんないと生きてけないわ」

「うんうん」

 腹黒いぞ。

 うらやましそうに見てた輝夜が俺をつついた。

「ねえ、ねえってば。食べてよ」

「……あのな。自分で食える」

「分かってるけどやりたいの!」

 ぷう、とむくれる。

 これで俺はすでに何度も負けている。だが今回ばかりは抵抗するぞ。なにしろ公衆の面前だからな。

 周りが見て見ぬふりしつつチョロチョロうかがってるのは気づいてるんだよっ。

「輝夜。ここがどこか分かってるだろ。人が大勢いる」

「? そうね。それがどうしたの?」

 ちょっとは人目を気にしような?!

「宰相が小さくなってるだけでも衝撃なのに、さらに子供みたく食べさせられてたら威厳もへったくれもないだろ。そんなのが宰相で大丈夫かと思われる。そりゃ選挙後辞めるつもりだが、それまではまだやらなきゃならないことがあるんだ。皆の協力を得られなくなる」

「むしろ好感度上がってると思うわよ?」

「だな。マジメでガッチガチ堅物な兄貴が奥さんには弱くてラブラブなんて人間味あるってー」

「ナキアは余計なこと言うな」

 魔法でフォークをもう一本手元にたぐりよせ、さっさと食べる。

「……もー。真面目なんだから」

 あと少しの辛抱だ。そろそろ幼児化が解けるはず。

 その時は突然やってきた。

 執務室に戻り、午後の仕事を始めようとした時だ。

 ポー―ン!

「戻った!」

 つい快哉を叫んだ。

 服も合わせたサイズに大きくなってる。よかった、破けたらどうしようかと地味に心配してた。

「やれやれ。これで一安心……輝夜?」

 あ、れ?

 まじまじと輝夜を見る。というか見下ろす。

「あらー」

 今度は輝夜が小さくなっていた。

 本人はいたってのんき。

 おおらかというか何というか。

 ……さてはリリス、解けると同時に入れ替わりで妻の側が幼児化するように設定したな?!

 一種の呪いなんじゃないか。無駄にできる妹を恨む。

 小さくなった輝夜にざわめく執務室のメンバー。

「え……姫? 今度は姫が小さく……?」

「これはこれは、かわいらしい……」

 見るな!

 すばやく上着脱いで輝夜の頭からかぶせた。

「きゃっ、なに?」

「とりあえずそうしてろ」

 有無を言わせず抱え上げる。

「こらぁリリス、どういうことだ――!」

 妹を叱りに、そして輝夜を隠すため全力で飛び出した。


   ★


~二番・ちびっこマルチ人間はなじみすぎ~


「ナキ君、あれどこだっけ?」

「付箋? ここだろ。ほい」

 オレとローレルは実に普段通りだった。

「オレらフツーにやってるなぁ。違和感ナシ」

「昔に戻っただけだものね」

 とりまローレルが着せ替え満足してくれてなにより。

 あれから数時間付き合いましたよ。よくがんばったって自分で自分をほめていいと思う。

 小さい頃もっといろんなカッコ見たかったって言ってたもんな。

 本読んでるローレルに声かける。

「それより、もう夜遅いぞ。寝ろ」

「もうちょっとー。あと一章だけ」

「ダメ。寝不足は体に悪い」

 母親みたく強制的にベッドに横たわらせた。

「ほら、マッサージしてやるから」

「ありがと。うー、疲れ目によく効くわ」

 ローレルがどうやれば寝るかはよく知ってる。つい没頭して徹夜しようとする父子を止めるのはオレの役目だったんで。

 さっきハーブティー飲ませたし。これで快眠のマッサージしてりゃ、そのうち寝る。

 集中しまくってぶっ通しでやってたんだ、スイッチが切れば反動ですぐさ。

 計算通り、ウトウトし始めた。

 昔と違うのは、もぞもぞとオレの手を握ってきたことだ。

「どした?」

「……んーん。もうナキ君帰っちゃわないもんね。起きたらいないの、ちょっと寂しかったんだ」

「そりゃあ帰るよ。オレの家じゃねーし、女の子の部屋で一緒にはマズイだろ」

 いくら子供っつってもさ。

「どうせ毎日来てたんだし、いっそウチで暮らせばよかったのに」

「そういうわけにもいかねーよ。見ず知らずのガキを住み込みで雇ってくれた店主に恩を返さねーと。それに反国王派有力者のセンセーんとこに王の子がいちゃヤバかったろ」

 センセーが反国王派の中で力があると知ったのはだいぶ経ってからだった。もし最初に知ってたら関わらなかっただろう。

 こっちはなんとも思ってなくとも、利用されたり敵視されるのはまっぴらだ。自分の見は自分で守らにゃ。

 何かを察したローレルは俺を見上げた。

「もしかしてお父さんが反国王派って知った時、離れようと思ったことあるの?」

「……あるよ」

 正直に答えた。

「オレの出生がバレたら二人に危険が及ぶと思ったんだ。事実そうだったろ。でもオレは危険があると知りながら、傍にいたくて黙ってた。センセーの仲間にバレても、オレを利用しようとするほうだったらよかったわけだし? ……まぁ悪いほうの予想が当たったわけだけど」

「……っ」

 ローレルは飛び起きてオレを抱きしめてきた。

「もうあんなことしちゃやだよ」

 体が震えてる。

 大丈夫、と背中を優しくたたいた。

「しないよ。今のオレなら死なずに切り抜けるだけの手段も力もある。死んで爪痕残すより、一緒に生きて幸せ積み重ねておくほうがいい」

 一度手放したからこそ分かる、ぬくもりの貴重さ。

 昔も今も、オレに『幸せ』を教えてくれたのは君だったんだよ。

「……よかった」

 ローレルは柔らかく微笑んだ。

「うん、私もナキ君とずっと一緒にいたい。離れるのはもう嫌」

「大丈夫。何があってもオレはローレルの傍にいるよ」

 そのためならなんでもするさ。

 翌日もオレたちはまったくもっていつも通りだった。すげぇ疲れてる兄貴と対照的。

 これくらいの体のサイズの時から働いてるんで、できる仕事はやろうと出勤。

 まぁほんとは普通に包丁握れんだけど。周りが心配するだろーなと、片づけとか洗い物だけやってた。

 そしたら昼過ぎ、元に戻った。

「お。おーおー、よかった。これで魔法や踏み台使わなくてもシンクに手が届くぜ。楽だ」

「きゃあああっ?!」

 ローレル?!

 とっさに手近にある中で最も切れ味のいい包丁つかんで飛び出した。

 オレはその場にあるもので戦うのが得意なんで。ルシファーに兄弟一暗殺者向きだって言われたことあったな。

 したら、食堂の椅子から落ちかけてたちっこいローレルがいた。

 すばやく包丁は後ろ手に隠し、片手でローレルを支えて椅子に戻す。

「だいじょぶか?」

「う、うん。ありがとナキ君」

 つか、一瞬で妹の企み理解したわ。

 今度はオレらのボーナスタイムってことな。

「ナキ君、体が急に縮んじゃった」

「あー、悪い。たぶんこれリリスの仕業だ。解ける時、入れ替わりで妻側がかかるようにしてたんだと思う」

「ああ! そういうこと。なぁんだ、びっくりした」

 しっかし、よかった。リリスがしっかり服もジャストサイズになるよう魔法かけててくれて。

 もし男どもがローレルの肌見てたら、物理的に目潰すとこだった。調理場は使えるモンが多くてさぁ。

「そういえば包丁持ってなかった?」

 ぎく、見られてたか。

「ああ、うっかり仕込み中でさ。ごめんごめん、片づけてくる」

 さささっとなー。

「よーし、とりまリリスんとこ行こうぜ。どうせ兄弟みんな泡食って飛んできてるだろ」

「フォロー役ご苦労様」

「ま、それがオレの役目なんで」

 昔みたく手をつなごうとして、思い直した。抱え上げる。

「わっ。ナキ君?」

「ちょっとやってみたくて」

「そ? なんか変な感じね。いつも見上げてるナキ君見下ろすなんて」

 警戒心ゼロで、スミレちゃんみたく照れたりせず抱っこされてる。

 すっかり安心しきってんなぁ。こういう素直なとこかわいいよ。

「落ちないようしっかりつかまってな」

「うん」

 これまた素直に首の周りに腕回してくる。

 オレが落とすわけないじゃん。ふふふ。

 レティがスミレちゃんずっと抱っこ移動してる気持ちがよく分かった。オレも時々やろ。

 ひそかな計画を決め、まずはグッジョブな妹んとこ向かった。


   ★


~三番・ちびっこ大臣は中身もおこちゃま~


「アガリアレプト様。いつまでもすみっこにいらっしゃらないで、こっちに来ません?」

「…………」

 俺は自室の隅で隠れるように縮こまっていた。

 膝を抱えて背を向ける。

「……嫌だ」

「ですから誰しも子供時代はありましたでしょ。恥ではありませんよ」

 ソファーに座ったアイリスが何度も繰り返してることをまた言う。

「……非力で無能な子供は駄目なんだ。役立たずだ」

「そう言われたんですの?」

「強くて有能な大人でなければいけないんだ。でないと―――」

 切り捨てられる。あの商人に捨てられた人間の悲惨な末路をいくつも見てきた。

 言われたことができないと、きつい仕置きが待ってる。

 生き延びるためには。

「……そういうことですのね」

 アイリスは合点がいったというように、立ち上がると俺の傍にしゃがんだ。そっと手を背にあてる。

「辛かったですね。大丈夫ですわ、もう終わったんです。二度とそんな目に遭うことはありませんわよ」

「…………」

 手のひらが背に触れているだけだが、不思議と安心する。

 でもそれを認めるのはしゃくだ。

「……アイリスだって子ども扱いするじゃないか」

 プイとそっぽを向く。

「あら、アガリアレプト様が子供っぽいのはいつものことですわ」

「うるさい」

 誰がだっ。

 アイリスは困ったように考えこんだ。

「そうですわねぇ……。分かりました。どうしても見られたくないのでしたら」

 おもむろにピアスを外した。

「?! おいっ、何やってる!」

 アイリスがつけてるピアスは目が見えるよう補助する機械だ。外したら見えなくなる。

 慌てて腕をつかんだ。

 アイリスは落ち着いてその手をつかみ、手のひらにピアスを置く。

「魔法が解けるまで部屋の外には出ないおつもりでしょう? 見る者がいるとすれば私だけ。ですからこうしました。外せば絶対見えませんもの」

 な……。

「どうぞ、アガリアレプト様が持っていてください」

「駄目だ!」

 すぐに付け直した。

 くそ、子供の体は小さくてやりにくい。

「そんなことするんじゃない!」

 一度目が見えるようになるという奇跡を手に入れた者がそれを失うことがどれほど辛いか。まったく知らなかった時より悲しみは深いはずだ。

 そんな思いをさせたいわけじゃない。

「でも」

「うるさい、黙ってつけてろ。……ふん、体が小さくなろうが俺の才能は変わらん。それまで戻るわけじゃない」

 肉体的問題でやりづらいことはルキ兄貴みたいに魔法でカバーすればいいんだ。

 アイリスはにこやかに微笑んだ。

「さすがアガリアレプト様。ではどうしますの? けれどやはりその姿を人に見られたくはないのでしょう?」

「…………。……仕事は子供だとナメられる」

 実際これくらいの頃はよくナメられてた。

「目つきの悪さと尊大さは同じですし、平気だと思いますけど」

 おい。誰が目つき悪いって?

「欠勤届は明日まですでに受理されてますし、無理することありませんわ。それにルキフグス様より休ませろとメール来てますの」

「え、ルキ兄貴が?」

「見ます? ええと……ちょっと待ってくださいな。スマホはまだ慣れてなくて」

 アイリスが通信機器を使い始めたのは目が見えるようになってからだ。それまではどうしても無理だった。ボタン一つで通話と終話ができ、それだけの機能のものがあればよかったんだが、コストと需要の問題でなかった。

 俺はアイリスが自力でできるまで待った。

「ありましたわ、これです」

 俺が出勤してるからそのうち仕事に行くと言い出すかもしれないが、無理してるだけなんで強引にでも休ませておいてくれ……ってルキ兄貴、よく分かってるな。

「というわけで今日はお休みです」

 アイリスはパンと手を打った。

「さて、どうします?」

「そう言われてもな……」

 休日もやることは仕事関係ばかりだと指摘されてるのにどうしろと?

「では、少しお散歩につきあっていただけません?」

「別にいいが、どこへだ」

 連れられて行ったのは城下町だった。

 顔の売れているアイリスは魔法で髪と瞳の色を変え、さらに伊達メガネをかけて変装している。

「これなら母子が散歩してるようにしか見えませんわ」

「俺は子供じゃないっ」

「はいはい」

「なんで城下町になんか来たかったんだ」

「簡単です。アガリアレプト様とのんびりデートしてみたかったんですわ」

 グホァッとのどの奥から変な音出た。

「……は……?」

「だって普段は視察になってしまいますでしょ。ご自分の商会関係の抜き打ち訪問とか、市場調査ばかり。つまりませんわ。それにアガリアレプト様じゃいくら変装しても威圧感がほとばしって無駄ですしね。バレずにデートなんてできっこありませんわ」

「威圧感なんか出してない」

「無自覚に出まくってますわよ。不機嫌オーラも」

 ほんっとにズバズバ言うよな。

 アイリスらしく、特に目的地を決めていたわけではないらしい。ぶらぶら歩き、気になった店があると寄ってみて、また歩き出す。

 そうやっていると公園があった。子供たちが遊んでいる。

 クソ親父の時代、公園なんてものはなかった。今はルキ兄貴が都市計画を立て、憩いの場も作られてる。

 子供が声あげて自由に遊べる時代になったんだな……。

 なんだが感慨深い。

「ちょっと休憩しましょうか」

 ベンチで休んでいると、ボールが転がってきた。

 追いかけてきた子供が俺を見て、

「あれっ? きみ、見ない顔だね。どこの子?」

「ひっこしてきたの? いっしょに遊ぼうよ!」

 ふん、誰が遊ぶか。

「あらいいですわねぇ。遊んでらしたら?」

「おい!」

 思いっきりにらみ上げる。

「冗談じゃないぞ!」

「どうしてですの? あ、もしかして球技が下手とか……」

「ふざけるな、できるに決まってるだろうが! おいそこの、何やるんだ」

「サッカーだよ~」

「あ? 人数足りなさすぎだろうが。五人しかいないだろ」

 2チームに分けたら2対3で人数も不公平だろうが。

「そんなのいいじゃん。楽しければさー」

「そうしう、いっくよー」

 実にいい加減だった。ルールも適当、ゴールだってどこだよ。これじゃ単なるボール遊びだろうが。

 ていうかくそっ、動きづらい。そもそも俺はこれくらいの年頃から格闘技とか力で相手を制圧する方法は習わされたが、スポーツなんぞ一切やったことがないのに今気づいた。

 習わされなかった理由は単純。金もうけに必要ないからだ。

「あきちゃった。他のやろうよ」

「はあ?」

「おにごっこは?」

「いいねいいね!」

「ちょ、待てこら、人の話を聞け!」

 おにごっこだのなんだの、完全に子供の遊びに付き合わされた。

 昼頃、おそらく母親だろうと思われる者たちが呼びに来て、ようやく終了。

「じゃーねー! またあそぼ!」

「ふん、誰が」

 あーくそ、息があがる。

 これだから子供の体は不便だ。

 アイリスがハンカチで俺の額をふいた。

「お疲れさま。楽しかったですか?」

「ふざけたことを聞くな」

「子供らしい遊びをしたのも、他の子供と遊んだのも初めてでしょう? よかったですわね」

 苦々しげに吐き捨てる。

「何がいいもんか。俺は……」

 俺は……。……俺も、普通の子供でいたかった。

 母が死に、手ごまとしての教育をされるようになってすぐの頃はそう思ってたのを思い出した。

 普通の子供みたいに遊んでもよくて、平凡でも優しい家族がいて、温かい家に帰れる。そんな『普通』が。

 手に入らないと分かっていたから、心の奥に閉じ込めてフタをした感情―――。

「アガリアレプト様、帰りましょう」

 アイリスは微笑んで俺の手を握った。

 幼い日の願いは叶わなかった。でも今の俺にはアイリスがいる。

 一緒に帰る人も、帰る家も。

「……ああ、そうだな」

 まぁ、悪くないかもな。

 戻ってテイクアウトしたもので昼を済ませる。俺の商会の傘下であり、味は確かだ。

 さて午後はどうしようと考えているところで幼児化の魔法が解けた。

「! やっと戻れた」

 胸をなでおろす。

 やれやれ。

「これで一安心―――……じゃない!」

 アイリスを見てギョッとする。

「小さくなってるぞ?!」

「あら~」

 本人はのんびりしたものだ。

 いや、のんきすぎだろ。のんびり手鏡見てる場合か。

 まぁそのなんだ……かわいくないこともないが。

「少しは驚けよ」

「驚いてますわよ。私って小さい頃はこんなだったんですねぇ」

 え? ああそうか、アイリスが見えるようになったのはごく最近。それまでは自分の顔も見たことがなかったのか。

 娘が生まれたらこんな容姿か? レティんとこみたく、髪とかどこか一部は俺に似るかもしれないが。

 ……絶対嫁にやらん。

「ってそんなこと考えてる場合じゃない! リリスのとこ行くぞ!」

 ひょいと小脇に抱える。

「アガリアレプト様、この抱え方はどうかと思いますわ。荷物じゃありませんのよ」

 お姫様抱っことかいうのでもしろと? 俺ができるわけないだろうが!

「うるさい、後にしろ。こら、リリス――!」

 小言を言ったらいいのかグッジョブと言ったらいいのか分からないが、とにかく走った。


   ★


~四番・ちびっこ元長官は心配性~


「大丈夫かな。ヒナ、恐がって泣いてないかなぁ」

「レティ様、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」

 自室の中をひたすらウロウロしまくってるオレに、スミレが声かけてくる。

「だって心配なんだよ! 初めて半日とか長時間離れてるんだし、ヒナはオレらがいないと泣くじゃんか。そりゃリリスがついてりゃ絶対安全なのは分かってっけど」

 親としちゃ心配なんだよ。

 座って縫物してたスミレは装具を片付けた。

「大丈夫ですよ。仲良しのイポスくんラボラスくんもいますもん」

「それはな。うん、早めに双子特訓しよ。ヒナを任せても安心なくらい鍛えねーと」

 トレーニングメニュー真剣に考える。

「レティ様」

「うん?」

 考え事してて反応が遅れた。気づいたときにはひょいと持ち上げられて膝に乗っけられてた。

「……っっっ?!」

 ななななな!

 心の中は「な」のオンパレード。

 驚きすぎて声が出ねぇ。

「えと、いつもレティ様にしていただいてばかりなので、お返しをと思いまして。その、どうですか?」

 幸せすぎて死にそうです!

「あ、ありがとう……」

 さすがに本音は飲み込んで礼を言う。

「よかったです。……なんか不思議な感じですね。いつもと逆で」

「そ、そうだな」

 はあぁ。

 あったけぇやわらけー。

「ヒナが抱っこされてっと安心してんの納得だぜ」

 オレ自身は母親にも父親にも抱っこしてもらったことなんかねー。だからこそ我が子はめいっぱいかわいがると決めたんだ。

 そうすりゃ少し救われる気がする。

 スミレは察したようにオレを抱きしめる腕に力をこめた。

「……あ、そんで解けるまでどーする? オレのほうは急ぎの仕事はねえ」

 兄弟の何人かは今頃デート行ってんだろうが、スミレは対人恐怖症。オレがついてりゃ行けるところも増えてきたものの、まだまだだ。小さい子供がいることもあって、ほとんど家にいる。

「あ……えっと、いつもみたいに家にいたいです……」

「そだな。無理する必要はねえ。のんびり過ごそうぜ」

 ヒナが生まれる前みたく、二人で過ごした。

 娘が初めてのお泊りした翌日。

「パパ、ママ!」

 思ったより元気な娘が駆け寄ってきた。

「ヒナ、おはよ! 元気そうだな」

 抱きしめてたかいたかいする。

 子供の体でもオレは体力・筋力あるんで。

「きゃーい」

「どうだった? よくおねんねできたか?」

「ヒナちゃんいい子だったよー。寂しそうにしてた時もあったけど、双子いたし。夜はあたしが添い寝したら安心してたよ」

 お土産の子供服をどっさり持ったリリスが言う。それはありがたくもらっとこう。

「リリスは何度も寝かしつけしたことあって慣れてるもんな」

「そ。今日も魔法解けるまでは預かるよ。結局昨日は部屋で遊んで終わりになっちゃったから、職場見学させてあげられなかったんだよね。あたしのアトリエは見せてあげられたけど」

「ヒナ、どうする?」

「きらきらかわいーのみたいー」

「そっか。じゃあ行っといで。リリス悪いな、頼む。ルシファーにイポスにラボラス、オレの娘をしっかり守れよ」

 ほんとはオレもついてってやりたいけど、我慢。可愛い子には旅をさせよだ。

 ぐっとこらえて、わざと仕事に打ち込んだ。おかげでめっちゃはかどった。

 スミレは静かに編み物してた。

 ―――元に戻ったのはひと段落した昼過ぎ。

 ポーンて音がして急にだった。

「お。よっしゃ、戻……ってスミレ?!」

 二度見。

 反対にスミレのほうがちっこくなってんじゃねーか!

 つーか、ヒナそっくりだわほんと。

「あ、あの、レティ様」

「……あー、リリスの仕業だな。入れ替わるよう設定してたんだろ。たぶん兄貴たちも同じことになってる。ちょい待て」

 ノースリーブのフード付きアウターを探してきて着せた。

「ん、これなら丈の長いアウターに見えるな。不安だったらフードかぶっとけ」

 いつもと同じく抱き上げて、

「なんか懐かしいな、この姿。最初会った頃みたいだ」

「あ……そうですね」

 スミレは安心してオレにもたれかかってきた。

「あの頃から大好きです、レティ様」

「オレもだよ」

 当時スミレは瀕死の状態で、治療も長い月日かかった。寝たきりが多くて、とてもじゃないけど力の強いオレが抱き上げたら死なせちまうんじゃないかと本気で思ってたよ。

「まさか将来結婚して子供も生まれるなんてな。幸せだよ。ありがとな、スミレ」

「私も……幸せです」

 ほんとに幸せだよ。

「―――さて、それはそれとしてリリスに言うことがあるな」


   ★


~ちびっこドクターは小さくなったことに気づいてもらえない~


「……明日の勤務どうするか」

 僕は困っていた。

「? どうかしました?」

「……この姿での診察は信頼度ゼロだろう」

 患者を不安にさせるわけにはいかない。

 ジャスミンはちょっと考えて、

「それじゃあ明日はうちの研究所に往診にすればいいんじゃない? ルガ様の予約診療は弟が喜んで代わりますよ」

 ああ、レラジェ君なら任せられる。

「……だがそっちでも同じでは」

「それはないかな? 魔物は人間の年齢分かりませんもん」

 そんなものか? まぁ一般人が魔物を見ても年齢の見当がつかないのと同じか。

 通勤用の鳥型魔物に運んでもらった。何も言ってこなかった。

 研究所の魔物たちもまったく気づいていない。

「! 先生! 今日おいででしたっけ? おはようございます!」

「急いで輿持ってこい、早くしろ!」

 いつものやりとりだ。

「……やめてくれ」

「ほら。言った通り、みんな気づいてないでしょ」

「? 何を気づいてないって? 嬢ちゃん」

「ルガ様がリリス様のいたずらで一時的に子供の姿になっちゃってるの」

 魔物たちはまじまじと僕を見た。

「……え?」

「―――あっ! 人間ってこのサイズ=子供なのか!」

「知らなかった!」

「いやぁすいません先生、人間の年齢ってよく分かんなくて」

 いつも僕の実年齢はいくつだと思われてるんだろう。

「って、ハッ! 子供の姿ってことは歩くの大変じゃ?」

「そうだ! やっぱ輿持ってこい!」

「ラジャー!」

「……いらないと言っただろう」

 ダッシュで取りに行こうとする魔物たちを止めた。 

「で、ですが先生」

 ため息ついた。

「……頼むから平常通りにしてくれ」

「分かりました、先生がおっしゃるなら」

「ふふ、みんなルガ様が好きですねえ」

「…………」

 この肉体くらいの年、実際は全然違う環境で暮らしていた。実母や異父兄姉、養父に虐待されていた日々。ただひたすら息を殺しているしかなかった。

 僕は誰にも好かれぬ不要な存在だと本気で思いこんでいた。

 彼女ははじかれたように、

「あ、もちろん私もルガ様大好きですよ!」

「…………」

 おやおや。

 ほんの少しだけ眉を上げた。

 二人きりの時はよく言ってくれるが、人前では恥ずかしくて言わないんじゃなかったか。

「―――ってはわわわわ!」

 うっかりしていたことに気付き、慌てる彼女。

 転びそうになった彼女をとっさに魔法で宙に浮かせた。

「……危ない」

 さすがにこの姿じゃ受け止められない。

「あ、ありがとうございます。あのその、違くて、いえ嘘じゃないですけどとにかくそのっ」

「……分かってる。僕も君が好きだよ」

 わずかに口角が上がった。

「~~っ」

 ボンッと彼女はゆでダコ状態になった。

 生暖かい感じでそ知らぬふりしてくれてる魔物たち。

「ルガ様、小さい頃からそうかっこいいこと言って笑顔ふりまいてたらモテモテでしたよ絶対……っ」

「……? 意味が分からないんだが」

「ルガ様は小さくてもかっこいいってことです!」

 ?

 僕の容姿は特段褒められたものではないと思うが。

「……謎だが、ありがとう?」

 兄弟たちなら『かっこいい』に当てはまるが、僕は違うだろう。

「……それよりまた敬語が多い」

「あっ! すみません。……が、がんばる」

 まぁ、健気にがんばる姿もかわいいから別に。

 幼児化の魔法が解けたのは、ナキア兄さん作の弁当を食べ終わり、一息ついている時だった。

「ええええええっ?!」

 反対に小さくなってしまったジャスミンは案の定パニクった。

 僕はと吹っ飛んだコップを中身をこぼさずキャッチして戻し、椅子を押さえて天井まで飛び上がりかけた彼女を激突前に捕獲、座らせた。さらになぜか飛来した鉄球を打ち返してバナナの皮を拾って、バケツをつかみ、降ってくる水を回収した。

「すすすすみません」

「……たいしたことじゃない」

 慣れてる。

「……どうやらリリスは交代で妻側が幼児化するよう設定していたようだ」

「あ、リリス様が。なるほど。びっくりした~」

 最近はベタなドジ吸引も収まり気味だったが、やはりパニックを起こすと悪化するな。

 魔物たちのほうはきょとんとして、

「? 嬢ちゃん、いつもとどこが違うんだい?」

「特に変わったようには見えないけどねぇ」

 確かに元々小柄で童顔な彼女は大差なかった。

「……リリスのところへ行ってこよう」

 彼女を抱き上げる。

「ひゃあっ」

 彼女は真っ赤になって固まった。

 もう何度も危機回避のため抱き上げたことはあるのに、いまだに慣れないらしい。

「……いつまでも初々しいのもいいな」

「恥ずかしいです、下ろしてくださいぃ……」

「……また敬語だから罰ということで」

「ルガ様ぁ」

 必死に顔を隠そうとする彼女を連れて、いつ解けるのか妹にききに行った。


   ★


~六番・ちびっこ弟は通常運転~


「リリー、だーいすき♡」

「ぎゃあああああ寄るなー! デジャブすぎる!」

 ハートばらまいて抱きついたら悲鳴あげられた。

「ひどいなぁ。デジャブって、これくらいの頃からずーっと好きって言ってるから? でもなんで悲鳴あげるの」

「理由は分かるでしょうが!」

 頭はたかれた。

「だって、そうやって周りにリリーは僕のだってこと分からせないと。リリーは誰にも渡さない」

 リリーがよくする「危ないこいつ、離婚しようかな」って顔した。

 ふふ、本気じゃないくせに。

「しつこく迫ればあきらめてくれるかなって期待も」

「逆効果って知ってる?」

「今はもう夫婦だもんね~。夫が妻に甘えてるだけじゃん」

「あんたの場合は狂気っつったほうが正しいのよ!」

 あー、そうかも。

 リリーが深くため息ついた。

「はあ……。子供たち連れて帰ってこようかしら。二人きりとかきっつい」

「ちょっと前までそうだったじゃん。すぐ子供できちゃったからさぁ、ちょっと物足りないと思ってたんだよね。久しぶりに二人っきりの新婚生活満喫しよ」

「あんた子供の姿だけどいいの? ああ、中身と一致してるからいいのか」

 別に姿かたちなんかどうでもよくない? 僕は僕だよ。

「子供生まれたのが嫌なんじゃないよ。うれしいもん。早くできたってことはそのぶん早く大人になるってわけで、リリーと長~くのんびり暮らせるってことでもあるしね。特にイポスはさっさと成長したがるだろうね」

「それよ!」

 リリーはビシッと人差し指を立てた。

「あんたのせいで息子がヤバイほうに成長してるじゃない! どうしてくれるのよ諸悪の根源が!」

「僕は何もしてないよ。ヒナちゃんに一目ぼれしたのはイポスの意志じゃん。リリーがやめろって言うから、色々教えるのもやめたし」

「お黙り。どう考えてもあんたのDNAでしょうが。こうと決めた一人に執着するところが!」

「いつかラボラスも開眼するかもねー」

「ギャ―! やめんかあああああああ!」

 ものすごい悲鳴。

 そんなに?

「一人でも死にそうなのに、二人どころか三人になったら本気で死ぬ! 精神的疲労で!」

「リリーに心労与えないよう、息子たちにはきっちり指導しとくから大丈夫だよ。僕はリリーが一番大事だもん。小さい頃からずーっと一筋」

「途中よそ見してくれって真剣に何度願ったか。分散してくれれば少しは軽減すると思ったのに」

「ええ?! 僕に浮気しろと?! やだよそんなの」

 死んでもするわけない。

「にしてもリリーってば、息子たちいない時でも子供のことばっか」

「母親なんだから当然でしょ」

「そりゃ僕だって我が子はかわいいけどさぁ。二人っきりの時くらい僕のことだけ考えてよ。かまってくれないと死んじゃうよ?」

「どっちが子供だ。こんなんが父親でほんっと大丈夫か」

 いいじゃん。大好きな自分の妻に甘えたいんだも~ん。

 あー、僕よりむしろ小さいリリーかまいたくなってきた。懐かしいなぁ、昔からキリっとしたイケメン女子だったよね。

 当時の僕に今の金や力があれば、そりゃあもう甘やかしまくって囲い込んで、レティ兄さんも真っ青なくらいの作戦を……。

 スパーンとハリセンチョップが入った。

「なに、リリー」

「絶対ろくでもないこと考えてるのが顔つきで分かったから止めた」

「えー、そんなヤバくないよ」

 たぶん。

 ともあれ祈りが通じたのか、翌日僕の体が戻った時、リリーのほうが子供の姿になった。

「リリー! やった、僕の思いが通じたんだねっ。はあああ、懐かしいかわいい。僕が惚れた頃のリリーだ。大好き!」

「やっぱ最悪な邪念ふくらませてたか! ぎゃあああああ寄るな変質者――!」

 満面の笑みで抱きしめてほおずりしただけなのに変質者呼ばわりされた。

 夫にひどーい。

「なんっっなのよこれ、どうして!」

「犯人はきっと姉さまだよ。さすが分かってるぅ~。もっと夫婦仲良くなれるようにってボーナスタイムだよねっ。まぁ僕とリリーの仲良し度はとっくにレベルマックスだけどー」

「違う!」

「照れちゃってー。ふふ。さぁて、いつ解けるのか姉さまに聞きに行こーっと。それまでめいっぱい堪能するんだ~」

「嫌だあああっ、離しなさいー!」

 リリーをがっちり抱え込み、スキップして姉さまのところへ向かった。


   ★


~七番・ちびっこアイドルはツッコミ役~


「……なぁ、そろそろよくね?」

 もう何曲歌ったっけ。

 マイク渡されて曲かけられると条件反射でお仕事モード入っちまう自分が憎い。

 撮影スタジオのど真ん中で、大量の衣装とカメラ抱えた女王その2を眺めてげんなりする。

 なんで城ん中にスタジオあるんだよ。女王自らテレビカメラ回すなよ。ツッコミどころが多すぎて追いつかねぇ。

 なお、臣下はあきらめ気味である。止めろよ誰か。

「はい、カットぉ! で、なんスか? まだっすよ」

「仕事どうした」

 おい、女王様。

 織は堂々と胸を張った。

「これも仕事っス! 王配はアイドル活動全力でやってて、女王はそれ応援してるガチ勢だって分かれば、戦争なんかするわけないなって思うっしょ。正確に言うと、ンなことする頭ねーなってとこっす」

「ぶっちゃけすぎ。確かに戦争しないなってのは伝わってくるだろうけど、逆に何かが大暴落すんじゃね?」

 主に王家の威光とか威厳とかが。

「あれ、ベルってそーゆーの気にするっけ」

「オレ個人はまったく。現に好き勝手フラフラしてたじゃん」

「私もー。超ダサ女のカッコしてBL好き公言してたのでお分かりの通り」

「んでもさ、仮にも女王と王配になっちまった以上、これまでと同じってわけにはいかねーよ。国の信用にも関わる。……と、オレがストッパーにならにゃいかん気がするんで言っとく」

 柄じゃないけどさ。

 二人して突っ走ったらヤバイだろ。

 ルッシーくんみたく、どっちかがセーブ役やらにゃいかん。あの夫婦見ててよく分かったわ。

「てか、色々ツッコミたいんだけどさ……まず当然の疑問きいていい? なんで城内に撮影スタジオあんの」

「親しみやすく開かれた王室を父様が目指してて、その一環で作ったんスよ。国民に向けてのメッセージとかよく撮影してた。私は全然使ってなかったけど、姉さんはしょっちゅう呼ばれて会見してたなぁ」

 織は初めから呼ばれもしなかったんだな、と察しがついた。

 国民や諸国にとって、この国の王族は『正義の王』と妃、輝夜姫。その三人だ。織のことは覚えてすらいたかどうか。

 いくら輝夜姫は『ヒロインの母』ってキャラ設定だったにしても、なんでそこまで第二王女はどうでもよかったんだ?

 ……ほんっと腹立つ。

「お。さっそく配信したら反響コメント届いてる。かわいい&カッコイイちびっこアイドル爆誕!だって。特におばさま勢に好評っスねー」

 息子にしたい的な。

「そいつはよかった。んじゃ、満足したろ? 休憩終了」

「えーっ」

「仕事山積みだろ」

「……そうっスけどー」

 ぶちぶち言いつつも、あきらめた織は戻ろうとした。……窓開けて足かけて。

「よいしょ」

「ちょコラ待て――!」

 思わずドレスのすそひっつかんで止めた。

 侍女や補佐官たちも仰天してる。

「ここは塔の上だ!」

 なんでそんな高いとこにスタジオがってのは、これまで映像を飛ばす方法は魔法だったから。物理的に高い場所からのほうが遠くまで見えるんで飛ばしやすい。

「階段降りんのめんどいじゃん。飛んでこーとしただけっスよ」

「分かった上で言ってんだよ! 仮にも女王がスカートめくって足出すな、窓から出入りすんな!」

 他の男にほいほい足見せんなっつーの!

「えー。よくやる方法なのに」

「やってたのかよ!」

 注:女子校だと教室が一階なら窓乗り越えて出入りは日常茶飯事です←実話

「足っ、隠しなさい!」

「おかんみたい」

「オレは母親じゃなくて夫だよ、忘れてるみたいだけどっ」

「忘れてはいないっスよ」

 でも王配の仕事ってオカンもあると思う。ルッシー君も似たようなことやってそうだ。

 キミの苦労がすげぇよく分かるよ……!

 同志に向かってそっと涙する。

 今度酒飲もうぜ。

「ったく。せめて魔法のじゅうたん乗れや。ほら」

「あざーっす」

 ひょいと飛び乗る織。

 オレも乗っかり、ゆっくりスタート。

「にしても、ずいぶんド派手っすねえ」

 ああ、銀色だもんな。

「わざとド派手なモン乗り回してたんだよ。晴れだと反射してまぶしいのが難点なんだけど。普段わざと目立つ乗り物乗ってりゃ、ちょいと地味なカッコして一人で飛行魔法使えばだれもオレって分からねーだろ」

 目立つ銀色の服もそう。

「そーやってあちこち行って、シナリオ改変しようとしてたんスねえ」

「ああ」

 オレはさりげなく鞭を出し、地上でこの、そりゃあ標的にしやすい乗り物―――こんなギンギラギンなもんに乗るやつ他にいねーよ―――を攻撃しようとしてた連中に振り下ろした。

「ほいっと」

「ぎゃあああ!」

「はいよっ」

 打ち合わせナシで織が網を投げ、文字通り一網打尽にした。

 おお。やっぱ気ィ合うなぁ、オレら。

「陛下!? ご無事ですか?!」

「何事です?!」

 地上の衛兵が泡食って走ってくる。

 織はあっけらかんと、

「まーた私なんかが王様なのは気に食わないって人がちょっと邪魔しようとしただけよ~。とりま牢入れといてー」

「は、はい」

 衛兵はまたかって感じで連行してった。

 そ。()()なんだわ。

 即位してからってもの、こういうことが何度かあった。国民の大半は織の即位を認めたものの、反対派もいるわけで。中には実力行使に出ようってのがいるんだよ。

「こりねーなぁ」

「あはは」

 織はオレを抱きかかえ、執務室に入った。窓からな。

 そのまま椅子に座る。

「そりゃー私より美人・優秀で女王になるために生まれてきました!って姉さんを推す人もいるっしょ」

 輝夜姫は王族の籍を抜けて他国に嫁いだのに、いまだに復帰そ望む声が絶えない。

「織は上手く国治めてんのにな。正直、輝夜姫じゃこうはいかなかったぜ」

「私にお鉢が回ってきたのは、例の戦争大好きドラ息子が自滅したおかげの棚ボタだ。おこぼれの王位だ。あんな変な趣味の女より、遠縁でも何でも王族の血を引いてるやつ担ぎ出そうぜ……って考えんのも分かるっスよ」

 ケラケラ笑うとこかね。

「候補者は二人だっけ? 四代前の王女が降嫁した侯爵家と、五代前の庶子の子孫」

「そんだけ遠縁持ち出してくんの、無理がねーか?」

「んでも他にいないんスよ。親戚少なくて」

「それには理由があるんだよ。『ヒロイン』が王位争いなく後継げるようにするためさ。『ヒロイン』には他国と戦わなきゃならねー。それが使命だ。お家騒動なんかやってるヒマないワケ」

 織は納得したように口笛吹いた。

「そーゆーことかぁ。反対派が候補者持ち出してても、ちょっとムリがあるわって賛成しない人がほとんどなのもそのせいなんスね」

「そ。元々お家騒動はしないよう設定されてんの。けどシナリオからすでに外れてた以上、そんな連中が多少出てくるのもしゃーねえな。つっても諸国代表の仲裁役ってことになってるオレを暗殺すんのはマズイと思うけど。なことしたら世界を敵に回すぜ?」

「たとえ戦争になっても『正義』を貫くのが『正しい』ことなんしょ、彼らにとっては」

「……あー」

 正義と正しさって危ういよな。

「『正義の王』みたく根が善人であればあるほど振れ幅デカいんだろーな。修正プログラムの影響受けてたか。ワクチンプログラムで増幅はくいとめても、引きずり出された欲望は消えねー」

 なぜなら元々本人が持ってたものだから。

「それを消すってのは、人の心をいじるってことっス。そこまではやっちゃいけないことなんでねえ。やっちゃった実例が父様の見た夢の母様と姉さんで。機械みたいだったっスよね」

「ああ。自分の好きなように他者の心を変えて、自分の思い通りの人間を作り上げる……愚かなことだよ。相手が違う意見だからって即、弾圧・迫害しなくてもいーのにな。それこそリリス女王サンとこの前の王様みたく、独裁の暴君じゃん。オレらを暗殺して権力握ったって、人はついてこないと思うぞ」

「それが分かんないからやってるんしょ。本人たちは『正しいことをしてる』って信じてるから」

「まぁそーなんだけどさ」

「相手が自分と違う考えでも、むしろ異なる意見が聞けて参考になるってリリスちゃんの言葉に私は賛成っすね。自分じゃ考えつかないことを知ることができるっしょ。いろんな意見聞いて、いっぱい考えて話し合って。それが大事。私はそーやってこの国をよくしていきたいと思うな」

 やる気に満ちあふれた彼女はまさに『王』だった。

 …………。

 オレはポンと手をたたいた。

「そっか。『正義の王』は国をよくすることは考えなかった。そこが違いだったのか」

 今気づいたわ。

「ほへ?」

「ストーリーが始まるまで……つまり、隣国に攻め入れられるまで、この国は豊かで平和だった。すでに十分()()状態なんで、さらによくしようって発想が出てこなかったワケよ」

「あー……足りてて満足してりゃ、改善しようなんて思わないってことっスか」

「どの国にも一目置かれてる世界一の国の王でもあった。初めからトップで、それが当たり前。現状維持はしよーとしても、向上心は働かなかったんだろ。考えてみりゃ、あるわけねーや。もしもっと良くしようと思ってたら、とっくに隣国に対して何かしてたよな。何もせず、隣に爆弾があっても放置した。……まぁ、でなきゃストーリーが始まる舞台が整わないんだけど」

 隣国の侵略戦争ってシナリオが作動するためには、『ヒロインの祖父』が何も手を打たないことが必要だった。

「本題は『ヒロイン』であって、それ以前はただの中継ぎ。っつーか出張っちゃいけない存在。ヒロインの祖父・母の代で『敵国』との問題を解決してもダメ、ようするに物事を()()()()()()()()()()()んだ。そんな基本設定のせいだったのか」

 織はほぼ出番ナシの『ヒロインの叔母』だったんでキャラ設定が薄く、おかげで変化できた。

「でも」

 織は首をひねった。

「それはあくまでベースで、自分の意志で思考や行動は変えられたはずっしょ? ベルはむしろ改変を望んでたんだし、修正プログラムが憑く前にそうなることは可能だった。なのに世界をより良くしようとしなかったのは父様自身のせいでしょ」

「ああ。キャラクターが自我を持つようになった時点で大人だった『正義の王』なら、状況を把握してどうするか考えることも、世界情勢を変えられるだけの力も資金もあったはずだ。なにしろ世界でもトップの君主なんだからな。他の国々と協力して問題解決できたろ」

「でも、やらなかった」

「キャラ設定のせいじゃなく、自身の意志で、な」

 何とも言えず黙りこんだ。

 ……なんだかなぁ……。

 オレはしみじみ織を眺めた。

「やっぱキミが王様にふさわしーよ」

「なんスか急に。照れるな~。買いかぶりすぎっすよ」

「いや、マジで。今だってオレがちっこくなった状況を利用して、反乱分子のおびき出し作戦しれっとやったじゃん。フツーなら……輝夜姫とかだと今頃たぶん母性大爆発させてんじゃね」

 ルッキー君無事かね。

「ちびっこアイドル撮影しまくりたかったのは本音っすよ」

「知ってる」

 どう見てもガチだった。

 自分の希望も叶えつつ作戦成功させちまうとこがすげーんだよ。

「姉さんはそっスねー、義兄さん困らせてるっしょ。実際子供好きだし。義兄さんの幼少時代不幸だったぶんも甘えられる体験を今!とか考えて、お子様ランチを『はい、あーん』やってそ」

 後でまさに予想通りだったことが分かった。さすが姉妹。分かってるー。

「ルッキー君、かわいそ……。オレのほうは織が現実的・冷静でよかったよ」

 作戦だって分かってっから、何曲も黙って付き合ったんだよ。

 ……まぁルッキー君のちょっと、一部うらやましい気がするとこがあったりしなくもないけどさ?

「姉さん天然お姫様だから~」

「天然といえばキミはどうなん? それともこれも分かっててやってんの?」

「何がっスか?」

「この状況」

 今さらながら言わせてくれ。

 子供みたく膝のっけられて前向き抱っこなんですけど。あんまり流れるよ~な動作で自然にされたんでツッコミそびれた。

「え? 幼児化したらこーゆーのテンプレっしょ。理解した上でやってるっす!」

 グッ☆て親指立てられた。

 余計悪い、っつーか男の側の気持ち理解してなおやってるって恥ずい!

 煩悩バレバレっつーことじゃんよお。天然も困るけど、これもやだぁぁ。

 顔覆うしかねー。

「失礼します」

 そこへ侍女がワゴン押してきた。

 乗ってるのはオレンジジュースとチョコでにこちゃんマーク描かれたパンケーキ……。

「……………………」

「わーい、ありがとっ。はい、ベル。あーん」

 満面の笑みで織はフォークにさしたパンケーキ差し出してきた。

 ちょ、丸ごと?!

「なんでやんのさ?!」

「テンプレは一通りやっとくべきかと。ほ~ら、せっかくのチャンスタイムっすよー」

「恥ずいって分かってんならヤメテ!? つかオレの幼少期は平穏なもんだったんで、取り返すのとかいいって! 平穏無事でしたよ!」

 待て。平穏……か? 姉貴たちにこき使われる下僕状態……。

 ……アレ?

「誰か止めろよオイっ」

 侍女や補佐官たちに訴えるも、目背けられた。

「新婚夫婦のいちゃいちゃに他人が首つっこむのは野暮というものです」

「馬にけられてなんとやらと言うじゃありませんか」

「私がやりたいからやるんスよ。ほい」

「もが!」

 無理やり口つっこまれた。

 せめて一口サイズに切って! きついってば!

 あああアゴが外れるぅぅぅ。

 これ違くね?!

「次いくっスよー。イチゴと生クリーム~」

「もがががが」

 ちょ、待ままま。

 まだ口ん中いっぱい。

「他にもいっぱいやりたいことあるんで、サクサクいきましょー。時間は限られてるんスからねっ。絵本読むのと添い寝、どっちが先がいっすか?」

「もが――!」

 ルッシー君、ルッキー君、同志よタスケテー!

 仲間への必死の呼びかけは、無念にもお空へ消えた。

 チーン♪


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