もう一人の王配のオカンな新婚生活 ~なんかおかしい~
―――なんでオレこんなことしてんだっけ?
女王サマの髪をとかしてたオレは、クシを握りつつ我に返った。
そもそも王配の仕事って女王のみだしなみ整えることだっけ?ってツッコミがまず来るとこである。
……いっぺんここらでじっくり思い返してみよう。
現実逃避もかねて回想してみた。
全っ然考えてもいなかった結婚なんてしちまった上に、『ヒロイン』が生まれるはずの国の王配になっちまったオレは、その日のうちに織の部屋に放り込まれた。
「てーい」
ぺいっ。
「ちょ、コラあああ! みんなして担ぎ上げて物理的に放り込むな! つか、親父たちの売りっぷりがひでぇ!」
率先して担いで放ったのはオレの親父である。
息子の扱い雑!
「いいからもう帰ってくるな。しっしっ」
「追い払う仕草すんなよ!」
それでも実の親か!
「あー、やっと一番悩みの種だった末息子が片付いた! いやぁよかったよかった」
オレは輝夜姫と織姫の母親で皇太后に助けを求めた。
この人ならなんか言ってくれんだろ。
「皇太后! なぁ、なんか文句の一つや二つや三つや百はあるだろ? 状況的に仕方ないとはいえ、オレみたいなチャラいのをすぐ王配として扱うのはどうとか、な?!」
「え? いえ、とんでもない。一日も早く新女王夫妻として国を安定させてもらいませんとね」
唯一味方してくれそーな人がー!
つかさぁ、皇太后って倒れてたのもあるけどほとんど出てこなかったし、王配レース始めても反対しなかったし何なの。もちょっと前に出て反対しようよ。普通そうするだろ。
いくら本来の設定においてメインは『ヒロイン』であって、祖父母なんて影が薄いとはいえ。この人、大人しすぎじゃね?
「がんばってくださいな~」
「何をがんばれと?! あっ、カギ閉められた!」
しかも重いもの動かす音。さてはドア開けられないよう向こう側に重いモン置いたな。
「いやあのオレだって逃げようとは思ってねーけど、超展開すぎて心の準備が。なあ、誰か聞いて―!」
ああっ、さっさといなくなってる!
初日からこれっておかしくね?
なあ。
げんなりして肩を落とす。
「はー。みんな必死すぎだろ……。ここまでくると感心するわ」
「何がっスか?」
「そりゃ……」
振り向いて思わず固まった。
さらに二度見。
別のドアからほてほて現れた織が風呂上り姿だったからじゃない。
うん、新妻の風呂上り無防備姿っつったら、普通の男は大喜びだろーよ。
ご期待通りバスローブにスリッパですしね。イヤそこはいいんですけどね。オレも男なんで正直に吐けと言われればうれしいですハイ。
問題は彼女が濡れた髪放置してるってことだ。
「コラぁー! 髪は乾かせって言っただろ! また痛む!」
「うっ」
織はギクリとして、
「えーっとその、やっぱめんどいなーって」
「たくもう! そこ座れ、やったる」
ビシッと椅子を指すと、大人しく座った。
「シャンプーとかは? あげたのちゃんと使ったな?」
「うん、それはせっかくもらったし。ありがとー」
魔法で乾かし、丁寧にとかす。
「ついでにパックもするぞ」
やってる間にマッサージ。
「肩こってんなー」
「あ~、ちょうどいい強さ。きもちいー」
「次、腕ー」
「あだだだだ、それは痛い!」
ツボ押したら悲鳴あがった。
「ギブギブ」
「利き腕パンパンじゃん」
「そりゃサインしなきゃいけない書類多いっスから。公的書類を自動書記はマズイし。王様業ってめんどいー」
「まぁしょーがねーさ。がんば」
私物のフットバス持って来てセット。
「アロマポットもつけるか。えーと、香りはこれでどう? 嫌いな香りなら変えるぜ」
「それでいいっスよー。しっかしなんつーか、至れりつくせり。女の子が喜ぶことよく分かってるね」
「三魔女に教え込まれたからなぁ」
「三魔女?」
「姉貴三人」
思い出すだけで震えが。
ブルッ。
「一人だけでもこえーのに、三人そろうと三倍どころか、×3×3の九倍だぜ。完っ全に怪しいナベ囲んでヒーヒヒヒっつってる悪だくみ魔女だっつの」
「優しそうなお姉さんたちだったけど」
「そりゃ君にはな。弟にたいしてはちっとも優しくねえ!」
これは一番上の兄貴を除く弟が一致してる意見だ。
はっ。他国にお婿に行って一番うれしいのって、もしや姉貴たちから解放されたことか?
「一番目と二番目の姉貴は嫁いでんのに、しょっちゅう来てオレらを下僕に……っ」
「へえー。ウチは姉妹二人だし、それぞれ別の生活スタイルだったかわ分かんないなぁ」
「姉貴たちも姉妹の仲はいーぜ。まぁそんなんだけどいざって時は力んなってくれるし、なんだかんだで兄弟大事に思ってくれてるのは分かってるけどさ」
パック外して、仕上げに肌のダメージ回復用化粧品塗ってと。
クシ持ち直して、さてどういう髪型にするか……って考えたとこで我に返ったワケ。
冒頭に戻る。
あれ?
おっかしいなー。なんか変じゃね?
仮にも結婚したんだし、普通の新婚生活ってもっとさぁ。
しかし疑問は見事にふっ飛ばされた。朝もはよからそれどころじゃなかった。
「こら、起きろ――っ! 遅刻するぞ!」
オカンみたく上掛けを容赦なくひっぺがす。
「うー……おかわり……」
「何の夢見てんだ?! ちょ、それオレの手だって! 食いもんじゃねーのよ!?」
はみはみされてる。
甘噛みしてくる動物みてえ。
ちょっとかわい……ってヒッ。
歯ァたてられそうになってとっさに引き抜いた。
あっぶね。マジで噛まれるとこだったよ。
シャキーンて歯が光ってた。
「うう……スイカが空飛んで、試験管Aに硫酸ぶちこんだら軽快なツイストダンスって反応を……なにぃ、トロピカルビーチでマッチョな杉の雄花たちがレッツパーリィ中……花粉すごそ……あ、雌花じゃないからないわ……はっ! さらにBL展開……だとう……?!」
「マジでどういう夢?! 今すぐ起きろおおおお――!」
必死でがっくんがっくん揺さぶって起こした。
どう考えても悪夢じゃねーか!
「……あれ。はよっス。なんでベルゼビュート王子いんの?」
「いんのじゃねぇよ。昨日そっちが逆プロポーズしてきたの忘れたのかよ」
「いやぁ、あれこそ夢かと」
「夢はさっき見てたほうだよ。なんなんあの寝言」
「え? 何か言ってた? 忘れちゃった」
忘れたんかい!
すげぇ気になるじゃん!
聞きたくないけど、あそこまで謎すぎると知りたくなるわ!
女王陛下はのそのそ裸足で歩きだした。
「髪ボサボサのまんま行こうとするなー! しかも裸足! 靴、せめてスリッパはけ!」
しゃがみこんで足にはかせる。
「服も、謎のシミつきまくりな白衣とかダメ!」
「あー、ずっとこれで通してたんでクセで着ちゃった」
「…………。まさか研究員時代って、いつもその黒無地Tシャツ+ジャージのボトムス+シミだらけ白衣……?」
ヒイィ。
おい、女官たち! 頼むから誰かついてってマトモなもん着せてやれー! 職務放棄もはなはだしい!
『正義の王』夫妻も侍女ほったらかしにもほどがあるだろ!
「いや、最初はどのTシャツも別の色だったんスよ。蛍光オレンジとかド派手紫とかで変な柄でさー。植物とか薬品いじってるとどうしても色がついちゃって、洗っても落ちないし、重なるうちに黒無地みたいに」
「漂白剤使えよ! あと色のセンス!」
「別に好きな色だったわけじゃなくて、そーゆー微妙なデザインのが売れ残りで安かったから買っただけ」
お姫様が残念デザインの在庫処分激安Tシャツにジャージ……。
くっ。
涙が出る。
「姫なんだから、衣食は公費だろがよ」
「忘れさられた第二王女が税金つかうの心苦しくて。自活して給料もらって、そこから自分で買おうと。ベルゼビュート王子だって自活してたじゃないスか」
「オレは話が別。密かにやりたいことがあったから金ためて色々やってたんだよ。とにかくこういうダサコーデは捨てるからなっ」
あまりにひどいラインナップを次々ゴミ箱へ。
ひどい? あのな、単純に染みこんでる液体の作用が謎すぎて恐ぇんだよ。
代わりにリリス女王サンとこのドレスカタログ出して見せる。
「なんで輝夜姫が昨日わざわざこれくれたのかと思ってたけど、理解したぜ。コレ、輝夜姫がよさそうなデザインをリリス女王サンと話し合ってまとめたカタログだって。市販はされてない、織専用のらしい。こっから選べ」
「わーお。さっすが姉さん、分かってる~う。うーん……私はこだわりもセンスもないから、どれでもいっスよ」
「それでいいのか」
ん? 待てよ。
逆に言うとそれって、オレが好きなの選んで置いといたらすんなり着てくれるってこと?
……ヨシ。
密かに親指たてて、後で吟味しようと決めた。
そこへ侍女が朝食持って来た。王族用の食堂ってあるんだけど、移動がめんどいと織は使ってないらしい。
トレイに乗った内容見てオレは待ったをかけた。
「ちょい待ち。何コレ」
牛乳一杯とトースト二枚。以上。
「……これいつもの食事?」
「そうっスけど? ぱぱっと食べられて便利じゃん」
「栄養を! 考えろ! 体壊すだろが、ちゃんとした食事持ってきて!」
侍女は「ですよね!」てめっちゃ納得してすぐ持って来た。
「なんだ、あんじゃん」
「もちろん毎朝ちゃんと作っておりますとも。ですが女王陛下がいらないとおっしゃるんですよ」
料理人せいぞろいして泣いてる。
侍女もそろって、
「やっと止めて下さる人が現れた……。ありがとうございます殿下!」
「どうか陛下にまともな食生活を説いてださい!」
「このままじゃ倒れると心配です!」
すげぇ感謝されてる。つか、女王にマトモな食生活を教えるのって王配のやることに入ってたっけ?
「この反応。さては三食テキトーだったな?」
「ぎく」
織が首をすくめた。
「そうなんですよ! 面倒だし手軽だからと、好きなお菓子ばかり」
「ジャンクなお菓子だけやたら召し上がって」
「太るし、栄養も偏って倒れるぞ! デブになってもいいのか!」
「……それはイヤだけど」
むーってしてもお説教やめませんよ。
「どうりで肌荒れひどかったはずだぁ。三食きちんとバランスのとれた食事をとる。美と健康の基本だぞ」
厳命して着席させる。
……とはいえ、織がそーゆー自堕落な生活してたのは誰からもほったらかしにされてたせいだと思うと気に毒だ。
どんないいかげんな暮らししても、誰も注意しなかったんだろ。
でもこれからはビューティーアドバイザーがビシビシ注意してくからな。
オレは見本として先に食べる。普通にうまい。
「うめぇじゃん。これ食ってなかったとかもったいない。これからはちゃんと食えよ。でなきゃせっかく作ってくれた料理人たちに申し訳ないし、食材も無駄になる」
「……う。それは確かに悪かったなぁと思ってるけど……」
「健康でねーと王様業もできねーぞ。ホラ、フォーク持って」
織は唇とがらせてそっぽ向いた。
「……ピーマン入ってるじゃないスか」
子供か!
「嫌いとか言ってる場合か。不健康な体を改善するため食べなさい!」
オカンみたいなこと言って、スプーンですくって口につっこんだ。
「むぐ」
「ハイ、のみ込む。味が気になるなら水飲んでいいから。苦手でも食べやすいよう、大きさもメニューも考えてくれてるだろ? どんどん行くぞ」
迷う隙を与えず投入投入。
わんこそばのおかわりよそう人かオレは。アイドル引退したらそれで食ってけそうな気がする。←なんか違う
「おお~」
なんか後ろで拍手と歓声あがってる。
「次! そしたらこっちも!」
なんとか完食させた。
「すばらしい……なんて匠の技!」
「鮮やかな手並みですね!」
「まさか完食されるとは!」
「陛下が大嫌いな野菜類を召し上がるなんて……!」
オレの株が爆上がりしたっぽいが、野菜嫌いの女王に手ずから食わせて感激される王配ってどうなんだろ。
好きな子にやる給餌行為じゃないからねコレ。わがままな子供と母親だぞ、もはや。
新婚生活が大いに間違ってる気がする。
「……あ、もしか織が植物の研究者やってたのって、食べやすい野菜開発するためとか?」
「違うよ? 食べたくないのに改良しようなんて気起きるわけないじゃないスか」
速攻否定された。
いい話になるかと思ったのに!
「私が手がけてたのは主に花。あとは主食になる穀物か果物っス」
「そういや温室にも果樹いっぱいあったな」
「ていうかベル、さすがの私も全部『あーん』で食べさせられるのは恥ずかしいんだけど……」
「だったら好き嫌いせず食べなさい。でなきゃ毎食こうするぞ。それでもオレはいいけど」
「うう。分かったってば」
赤くなってむくれてる。
かわいいなくそぅ。
こういうとこは子供じゃない。
―――昼間もお世話もといツッコミだらけだ。
「処理前と後の書類がごっちゃになりやすいじゃんか。箱に分けろ。はい、色違いの用意したぞ。そこ、小さいもんの上に大きなもん乗せんな……あああ言わんこっちゃねー、崩れる! え? ペンのインクが切れた? これ使え。誰か予備たくさん持ってきといて。常備しとけ。うん、この引き出し入れて。あー、織、その件はさっき見たこっちの議案とまとめられる。ん? さっきからなんでそこで出てくやつと入るやつがしょっちゅうぶつかってんだ。動線変えろ。ちょっと物をどかしゃいいんだよ。こうして。は? 廊下の照明が切れた? 交換すりゃいいだろそんなん。替えの電球これ? ほい、付け替えといたよー」
てんてこまい。
体が十個ほしいぜ。
あきらかに王配の仕事じゃないのが混じりまくってるのはもう気にしないことにしよう。
そこで織が疲れてるのに気付いた。
「ちょっと休め」
「え、いいの?」
「働く時は働く、休む時は休む。メリハリって大事だぞ。集中力欠いた状態でミスしてもしゃーねーって。これ飲む? 三番目の姉貴が愛用してるハーブティー」
手際よく淹れたの渡す。
「ありがと……なんかベルってすごいね。何でも屋?」
「オレもそれが自分のジョブな気がしてきた。実際何でも屋も同然だったしな」
家族にあれこれ押しつけられてたというか。
「一番上の兄貴は皇太子で忙しい。他の兄姉は困ると下に押しつけてって、どんどんたらい回しでオレんとこまで来んの。オレは回す相手いねーし、結局いつもやらされるハメに。例えば兄姉の中にもも野菜嫌いで偏食だったのがいてさ、どうにかならないかっていったらオレが料理人たちとメニュー開発することに」
「王子の仕事って何だっけ?」
「おかんが化粧品あわなくて肌荒れ起こした時は、メーカー行って作るの手伝ったし。ついでにボディケア商品もって作らされたのが織にあげたやつな」
「それでサンプル持ってたんスね」
「兄貴の宿題の詩の代作やら、姉貴の刺繍の代行なんてしょっちゅうだったし。ラブレターの文面考えんのもやらされた。姉貴がうっかりぶっ壊した窓の修理も、ぐっちゃぐちゃの兄貴の部屋の掃除も、こぼしたドレスのシミ抜きも……あ、汚れよく落ちる洗剤必要ならおススメ出すぞ」
マイはたきもある。パタパタ。
「スーパー家政婦……! 嫁に欲しい」
「もうお婿に来てるんだけど?」
お嫁さんはそっちだろ。
「しかも髪のカットもメイクもプロ級。ファッションセンスもありまくり。歌もダンスも上手いアイドルと設定もりもり。神か!」
「ただの押しつけられ役なトラブル解決屋な」
元々オレはこの世界をハッピーエンドに変えるため色々動いてたんだし。
「あはは。今じゃ私のお世話役だもんね。大変っしょ?」
「まぁ大変だけど、自分で決めた道だからな。むしろ楽しいよ」
言って、オレってこの結果をけっこう楽しんでるなと気づいた。
意外過ぎることの連続な結果こうなったわけだけど、うん、楽しいわ。
そもそもオレはストーリーから外れることを望んでた。それはつまり予定されてる決まりきった未来でなく、予想できないことばっかが起きるってことだ。
織は意外性の最たるもの。
ほっぺたについてるインクをハンカチでぬぐってやる。
「相手が自分のお嫁さんだし。辛くはねーな。こーゆーとこもかわいいって思う」
「……っ」
織は真っ赤になった。
「アイドルスマイル至近距離&無自覚キラキラ殺し文句……さすがトップアイドル、パないっス。うちのダンナさまはほんっとハイスペックすぎ……っ」
「何か言った? とりま、甘いモンで疲労回復ー。ほい」
マカロンを口に入れてやる。
お菓子が主食はまずいが、エネルギー補給には構わない。
「むぐ。おいひい。……ほんとに面倒じゃない?」
「だったらここにいねーって。オレはさんざ王配になりたくねーっつってたじゃん。フラフラ出歩いてるちゃらんぽらんなアホ末っ子でいたかったの」
「それって家族のトラブル解決に奔走してたのがそう見えてただけでしょ?」
それとバッドエンド回避のため、と目で続ける。
「ま、そーだけどさ」
この世界を創ってもらったのはオレのわがままだ。
だから成功に導き、この世界の人々を幸せにする責任がオレにはある。
「ルシファー君やリリス女王サンの二番目の兄ちゃんの気持ちが分かるな。ほっとけねーっつーか、お世話すんのがむしろ楽しい。あ、ちょっと動くな。髪直す」
織は髪の毛くしゃくしゃすんのがクセらしく、崩れちまったんで直す。
「よし、これでおけ」
「かたじけない」
武士か。
「このクセ直さないとなぁ。せっかくベルがきれいにしてくれてるんだもん」
「手を動かさないと落ち着かないなら、ペン持っていらない紙にラクガキするとかにしたらどうよ」
それならいんじゃね。
「二番目の兄貴も昔似たようなクセあって。ある時、カミソリ持ってたのにやっちまってさぁ」
「うひぃっ、痛いっ!」
織だけじゃなく補佐官・秘書官たちも震えあがった。
「あ、ダイジョブ。髪の毛そっちまっただけ。ケガはなかったよ。そんでも髪の毛伸ばす魔法薬なんて都合よく手元にねーから、届くまで丸ボーズだった」
「自分が丸ボーズになるのはちょっとイヤっスね」
「兄貴もしばらく姉貴たちにからかわれてた。以来クセなくしたよ」
織が無意識に手上げようとしたんで、さりげなくペン持たせて紙の上に誘導した。サラサラ描いてる。
「そーいや織って植物に詳しいよな。昨日あげた化粧品はあくまで応急処置。織の体質に合ったの作ったほうがいいと思うんだ。コレ欲しい成分なんだけど」
試しにメモを渡してみる。
「ああ、含んでる植物知ってるっス。ていうか研究者じゃないのによく科学的な成分とか分かるね」
「前に作らされた時、必要に迫られて知識つけた。あのメーカーは確か、今は買収されてアッガー君の傘下に入ってたような」
「アガリアレプトさんのことっスか」
「ん。最近じゃ輝夜姫とコラボして新ブランド出してるはず。そだ、輝夜姫に電話してみてちょ」
「え、私が?」
きょとんとしてる。
そんな意外?
「姉妹じゃん。オレが直接アッガー君に依頼するよか、織が頼んで輝夜姫介したほうがすんなりいくよ」
オレはあの兄弟に要注意人物扱いされてんの。
「ちょいちょい姉さんと話す機会作ってくれてる? 姫時代よりよっぽど会話してる気がする」
「いーじゃん。仲良しの姉ちゃんだろ?」
オレはぜってぇ姉貴たちに自分からは連絡しねーけど。100%搾取されんのが分かってるもんよ。
三魔女には近寄るべからず。触らぬ神に祟りなし。
ガタガタブルブル。
「分かったっす。メールしとこ」
したらすぐ電話かかってきた。
「あ、織ちゃん?」
「姉さん?! 忙しいんじゃないの?」
「ううん、ちょうど休憩時間だったし、アガリアレプトさんも近くにいたの。話したわ。スピーカーにするわね」
「……もしもし。用件は聞いた。作るのは一向にかまわん。ただしその代わり、正式にコラボブランドを立ち上げて市販することが条件だ」
「さっすがやり手商人~。やってくれると思ったぜ」
「チッ。いたのか銀バエ」
今舌打ちした?
「もちOKっスよ!」
「当然ロイヤリティは払う。輝夜姫と同等のパーセンテージだ。キャンペーンモデルはそこのハエがやれ」
「ああ、男女兼用のにすっからモデルが男でもいいってこと? 嫌いなオレでいーの?」
「貴様のことは嫌いだが、知名度は利用できる。ファンの女性だけでなく、恋人や妻へ買おうと男性の購買意欲も上がるだろう」
「ほー、そゆことな」
「それからCMソングはアイリスが作った曲にする」
「あれ? アイリスちゃんて作曲してたっけ?」
作詞作曲家とピアニストは別の職業・才能じゃん。
ドスきいた声が響いてきた。
「馴れ馴れしく呼ぶな」
うお。
オクターブ一つ下がった。
「わあ。電話越しでもすっごい冷気感じるっスねー」
へえ。けっこう奥さんに惚れてんじゃん。
「へいへい。んじゃ、奥さん作曲できたんだ。知らんかった」
「目が見えるようになって普通の楽譜を読み書きできるようになったからチャレンジしたいといってな」
これまでは作ったとしても自分の脳で記憶したり録音しとくか、楽譜起こせる人に書いてもらうしかなかった。んでも手間かけて悪いって、遠慮してたのな。
「ラジャー。別にオレはなんでもいーよん」
「あっ、そーだ、アガリアレプトさん。そのリストの物質含む植物の強健種が群生してる地域、偶然前に発見したんスよ。国有地だから知られてなかったっぽくて。私が許可出しゃ採れるから、増産しましょ」
「三番目のはこちらのとある湖底の泥から抽出できる」
天然資源がないか、国内のあちこち調べたって言ってたな。それで見つけたんかね。
ルッキー君が補足に入った。
「有毒エリアじゃないから安心してほしい。単にこれまでは魔物がいるだけの、痩せて何もない土地だと思われていただけだ」
「あ、そういう心配はしてないっスよ。いくらなんでもそんなとこの使わないっしょ」
国のイメージアップがんばってんのに、わざわざ毒のエリアで採ったもんを化粧品に使わないわな。
「とりまヨロシク。あ、輝夜姫、織にってくれたドレスのカタログ。選んだから後でリリス女王サンとこ注文のメール送」
「あ?」×2
ルッキー君・アッガー君二人のドス効いた声が響いた。
「……ルシファー君にメールしとく」
「ならいいだろう」
「よかったわ、織ちゃんて服装に無頓着だから。心配して代わりに選んでくれる人がついてると安心だわ。妹をお願いしますね」
オレのジョブ、ファッションアドバイザーは確定らしい。
電話切ってうなった。
「ほんっとシスコンだなあの兄弟は。こえ~」
「あはは。さて、休憩時間しゅうりょ……」
「ちょい待ち。そのイタズラ書き何」
さりげなく誘導しといたら書いてた紙を指す。
一文字も分かんねーけど、なんかの数式と図。
「え? ……あ、これ上手くいかなくて悩んでた研究じゃん! うっそ、答え出てる!」
「植物の品種改良?」
「うん。姉さんが家出して押しかけてから、まぁ成功勝ち取ると思ってたんで、何かあっちの国に協力できないかなぁって考えてたんスよ。毒を浄化しつつ大量繁殖する植物の開発。そっかー、ここをこういじればよかったんだ」
遺伝子操作的なもんかな。
「なーんも考えてない頭カラッポのほうが答え出るもんスねぇ。これ研究所に伝えとこ」
「このメモ届けりゃ分かるのか? そんなら誰かこれ持ってって」
補佐官の一人が届けてくれることになった。
織が研究者の道を選んだのは立場を考えてのことだったけど、やりたいことでもあったのは本当。
王様業やらなきゃならなくなったとはいえ、まだ少しでも関われるならやらせてあげたいな。
「うっし、改めてやるぞ!」
彼女は勇ましく腕まくりした。
その後もあれこれトラブル解決して夜。
あ、ちなみに昼食は朝と同じこと繰り返されたぞ。夕食はさすがに織もシブい顔しながら野菜我慢して自分で食べてた。
メニュー考えんのオレもかんだかいがあったよ。
でもちょっち残念。
「あー、つかれたよー」
ソファーにうつぶせでぐったりする女王陛下。
「おつかれさん」
もう何も言わず、髪乾かしてとかして全身マッサージ。
これもはや日課だな。
「……ああ、栄養が足りない。心の。精神的な。―――こんな時はっ!」
彼女はヘーイ!とばかりにBL本出して読み始めた。
オレはまったく気にせず足のツボ押してる。
「はふぅ、疲れがふっとぶ……。二つの意味で。足きもちいー。それくらいの力加減でオナシャス」
「りょーかい。なぁ、BLといや、いつの間にかオレ見て妄想しなくなったのな」
前はいつでもどこでもトリップしてたけど。
ヨダレ出ないかハンカチいつでも出せるよう構えてたよオレ実は。
「……そりゃー……」
織は振り向き、恥ずかしそうにつぶやいた。
「自分のダンナさまが誰かとイチャイチャしてんのなんか、妄想したくないじゃないスか……」
か、わいっ。
あかん。
「夫婦なんだから、ベルとそーゆーことしていいのは私だけ。どんな好みの男でも推しでも、これは譲れないっス!」
くわってマジ顔で言われたけど、二次元の男性キャラに譲らないって言われたらどう返すべきなんだ? ありがとう?
「お、おう……?」
とりあえず無難なあいづち打っといた。
「? 歯切れ悪いっスね。それで思い出した。昼間も政務の時、ちょいちょい何か言おうとしてやめて雑用やってたよね?」
「ん? ……ああ」
ちょっと考えて、
「ここには事情知ってるキミしかいないからいっか。言いかけてやめたのは……ホラ、オレってこの後起こりうることある程度知ってんのよ。もち大筋は回避したんだけどさ、自然現象とかは変わらず発生すると思うんだよな」
「!」
この時代はストーリー開始前の時間だ。普通なら始まる前のことなんてたいして設定決まってないもんだけど、製作チームの仕事が細かくて百年くらい前からの『歴史』が決まってんだ。
実際、現時点からみて過去に、設定と同じ自然災害や小競り合いが起きてる。完全に一致してるんで、これから後も自然現象に関しては変更ナシで起きるだろ。
織はぱっと座り直した。
「何がいつどこで起きるんスか」
「期待させすぎないよう言うけど、大規模なのとか歴史に残る大きなモンしか分かんねーよ?」
「それでも十分っす。対策できる」
「んじゃまず……直近だとリリス女王サンとこはさんだ向かい側の国で今年飢饉が発生する。理由は長雨だ。ほとんどの畑が水没して作物が作れなくなる。この国から食糧援助して、それがきっかけで協力体制が強化される。悪王は東西から挟まれる格好になるはずだった」
悪王ってのはリリス女王サンの父親な。
「悪王はもういないからいいとして、飢饉はどうにかしなきゃ」
「つっても、天候はどうにもできねーよ。下手に魔法でいじると、とんでもないとこにどえらい副作用が出る」
一時的に魔法で狭いエリアに雨を降らすとかくらいならよくても、大規模・長時間にわたって天候捜査したら大変なことになる。どこでどう影響が出るか。回避したためにもっとすごい被害が出るかも。
こればっかりはリリス女王サンのグーパンでも吹っ飛ばせないし、オレがムチで縛りつけとくわけにもいかねー。
「分かってる。だから天候は操作せず、ヤバくなる前に住民を避難させるとか。日光が少なくて水中で育ち、ある程度根を張って固定できる植物があれば……ある!」
織は研究ノートを取り寄せてパラパラめくった。
「これだ! どうせ水浸しになるなら、初めから水中植物を育てちゃえばいい。これはマングローブみたいにしっかり根を張って流されない。さらに実も食べられる。管理は……リリスさんとこの五番目のお兄さんの奥さんて確か魔物の平和利用目指してる研究所に勤めてるんスよね? 水棲の魔物を雇って管理してもらえばいいんスよ。魔物なら多少の水害も平気っしょ」
「確かに。ただ、向こうの国が魔物を働き手に雇うこと理解してくれりゃいーが」
拒否反応起こす人も多いじゃん。
「見た目ソフトでそんな悪いイメージない種族を紹介してもらいましょ。そんで、事前準備としてその種族が登場するマンガを描いてもらう。リリスさんとこの国なら優秀な漫画家さんいるっしょ?」
「へ? マンガ?」
「影響力をナメちゃいけないっスよ。売れ筋のジャンルで、主人公に協力するとか良いキャラクターで描いてもらう。そうやって良いイメージ浸透させたとこで派遣すれば、抵抗感なく受け入れる」
「…………」
改めて思うけど、この子やっぱ王の器だわ。
「他には?」
「え? ああ、来年はオレの母国。リリス女王サンとことの国境の山脈中心に記録的な大雪になるんだ。おかげで寒いのヤダっつって悪王が侵攻してこないんだけど」
「雪かぁ」
「収まってから、積もりまくった雪使ってあっちみたく氷の城型ホテル作るのどうよ? コテージタイプも併設して、かまくらな。あそこらへん年中気温低くて、一度作ったら溶けねーし」
「いいっスねえ! きれい!」
「親父に提案しとこーかな。したらむしろガンガ降ってくれたほうが助かるぜ。工事はこれまたリリス女王サンとこから寒さに強くて力持ちな魔物借りよ」
人間じゃ無理だ。
「二年後は南の国で、こっちは逆。火山活動が活発になる。大ダメージは免れても、火山灰がえらい降ってくる」
これも悪王が侵攻あきらめる原因になるんだけど。
「火山灰? ありゃ、それ肥料に一番適してる植物あるっスよ。食べられないけどきれいで。コレ現物」
鉢植え出してきた。
フツーにきれいなバラっぽい花に見える。
「肥料が火山灰じゃなかなか手に入れづらくって増やせなかったんだけど、そんならいっぱい作れるじゃん! ブリザードフラワーに加工しちゃえば鮮度気にせず売れるよ」
「へー。なるほどなぁ」
「どれも共同の国家プロジェクトにしちゃお。友好を深めるチャンスってことで」
「けどさ、気がかりなのはなんですぐ対処できたんだとか、予想してたならどうしてだって言われそうじゃね?」
オレの正体知られるわけには。
「最悪、こっちの仕業とか思われたらたまんねーや。予知能力者に聞いたってことにできることはできるけど、そしたらそれ誰だって話」
なことして、万一レッティー君の奥さんの素性がバレてみ?
……やっべ。
背筋凍った。
マジギレして焼野原だよ。魔王降臨かよ。
愛情は対象が増えたら分散されるけど、守る努力は増えるもんだ。むしろもっとヤバイ。
織は考えこむポーズして、
「予知能力の特殊能力持つ一族って、何十年も前に襲撃されて以来行方不明っしょ。今になってもただの一人も見つかってないってことは、全滅したか、生き残ってても隠してるかのどっちかっスね」
正解は後のほうな。
織も輝夜姫も、レッティー君の奥さん親子の素性は知らない。あの兄弟の嫁さんズで知ってんのは、組織の一員であるリリーちゃんだけだ。
「存在しない予知能力者でっちあげるのも火種になるし。私の経歴使って、研究目的で施設作らしてもらうのが妥当じゃないスかね。実際そこで研究させて、そうすりゃ疑われず気象や環境のデータ収集・分析できる。天災を予測できても当然っスよね」
「予測できるよう誘導するってことか。上手いな」
「んじゃ、その方向で準備しましょ」
細かいとこをつめる。
「…………」
「どしたんスか? 急に黙って」
「いや? まさか自分が直接堂々とバッドエンド回避のために関与するとは思ってなくてさ」
オレはあくまで裏方のつもりだった。
「正体バレないよう、裏から人にヒント与えたり動かしたりしてさ」
「自分自身が直で手加えるつもりはなかった?」
「この世界を創ってもらった張本人でイレギュラーな存在であるオレが直でやるのはマズイと思って。影響がどう出るやら。だからずっとリリス女王サンに任せてオレは引っ込んでたんだよ」
オレ以外にやってもらったほうが安全だと思った。第三者なら中立で公平だし。オレだとどうしても主観入っちまうじゃん。
「けど、考えてみりゃそれが失敗の原因だったのかもな。わがままで創ってもらっておきながら、自分は裏方だった。それじゃダメだったんだな。責任もって自分で動いて変えてくべきだったんだ」
オレは織に微笑んだ。
「この居場所をくれてありがとな」
「……礼を言うのは私のほうっスよ。ベルのおかげで私はここにいる。誰からも必要とされない忘れ去られた王女じゃない。―――だから、お互いのおかげでいるこの場所で、二人で力を合わせて変えていきましょ」
「ああ。ヨロシクな」
しっかり握手し、誓いを新たにした。




