二番目のクーデターは
翌日、織姫の作戦が決行されてから一時間後。
あたしたち兄妹弟に輝夜姫は中継映像を見ていた。時定社長がリアルタイムで送ってきてくれてんの。
偵察に出てたベルゼビュート王子が戻って来た。
「織姫ちゃん、予定通りにいってるぜ。『正義の王』自身がこっち向かってる」
「ありがとうございます」
織姫や社長は森の外の地中に作った隠れ家に潜んでた。
つか、秒で快適な隠れ家作った社長って一体。さすがはこの世界の基礎を作った人、たいがいなチートぶり。
神殿には本物そっくりな気配の身代わり人形を置いてある。おびき寄せるためにね。
社長曰く、正確にはデータのコピーらしい。大本のゲームのデータ持ってるじゃん、自我のないただのコピーくらい簡単に量産できるんだってさ。
つか、そりゃバレないよねー。
事実『正義の王』は一晩経っても偽物だと気付かなかった。朝になってから社長がわざとコピーを消去、実はこれでしたといわんばかりにのっぺらぼうな人形を代わりに置いといたんだって。それでようやく気付いた。
当然怒り狂って探すと、『聖なる森』に気配が。冷静じゃないもんだからそれも偽物だとは思いもせず、出撃してきた……と、見事に織姫の計画通りだ。
社長がパソコンを操作しながら、
「装置は問題なく設置完了。いつでも起動できますよ」
「あとは父だけ神殿に入ればOKっすね」
『正義の王』は向かってきたとはいえ一人じゃない。兵率いてる。無関係な人たちは巻き添えにせず、『正義の王』だけ隔離しないとね。
そこで森全体を封じ込めるより、『正義の王』だけ神殿に入れ、入った瞬間に起動する予定だ。幻影とか使ってどうにか兵と引き離す。
本来、森も王族の限られた人間しか入れないルールなはずなんだけどね。
「そう上手くいきゃいーけどなぁ」
「大丈夫っす。それは私に策があるんで」
織姫はグッと親指を立てた。
……不穏な気が。
織姫に任せちゃったけど、どうするつもりなんだろ。
「お。みんな森に入ったよ。幻影作動させるね」
社長がエンターキー押すと、次々織姫の幻影が現れた。
「いたぞ!」
「あっちだ!」
「いやこっちだ!」
「えっ、どれが本物だ?」
「ええい、全部捕まえればいいんだよそんなのは!」
兵はてんでばらばらに幻を追いかけ始めた。
「こら! それは全て幻……っええい、愚か者どもめが!」
『正義の王』は散らばった兵を集めるのをあきらめ、一人で神殿に走った。
―――が、あと一歩のところで急停止した。
「……待てよ。中にいるのは本当に本物か? できすぎている。これも偽物じゃないだろうな」
げ。
気づいちゃったよ。
社長の作ったコピーは完璧だ。偽物だって悟ったわけじゃなく、状況から予想したんだろう。
ど、どうすんの。
時定社長は面白そうに眉をあげた。
「ヤベッ」
ベルゼビュート王子が唇をかむ。
「オレが出て……」
「ちょっとそこで頭冷やしてなバカ親父――っ!」
超元気な声と共に、織姫が華麗&強烈な飛び蹴りかました。
父王の背後も背後から。
迷いのない、美しい蹴りが決まりましたな。
「えええええええええ!?」
どよめくギャラリー。
「ぐふぇっ!」
カエルが潰れたみたいな悲鳴あげて、『正義の王』はふっとび、神殿の中にイン。ナイスシュート。
織姫はすかさずドアをバーン!と閉めた。
「はいっ! 今っすよ除霊士さん!」
「うん。くすくす、面白い子だねぇ」
社長が笑いながらキーボード打つと、結界が作動。隔離が成功した。
織姫が威勢よく叫ぶ。
「ハイ、次ィ!」
「えっ、織姫ちゃん次って?」
どこから出したのか投網を手にした織姫はパッパと兵士を捕まえていった。
「せっ、ほっ、やっ、とぉッ!」
「漁師か!」
ナイスツッコミだ、ベルゼビュート王子。
「大漁、大量♪」
熟練の漁師みたく、網を担いでフッと決めポーズとる織姫。
……ほんとに姫か?
つか、ああ、昔話の『織姫』は機織りが得意。だから布系が使うの上手いってこと?
だからってどうなんだ。
あたしとは別方向にたくましい姫は、
「さ、凱旋しましょーかね!」
「……うん、ほんと凱旋って感じな……」
「ほんじゃ除霊士さん、後はヨロシク頼んます」
「任せて~。行ってらっしゃい」
ペコっと頭下げると織姫は走り出した。物理的に。
魔法かけてるからとはいえものすごいスピードで、あっという間に点。
「飛ぶんじゃなくて走んの!? つか、速ええええええ! ちょ、待ってー!」
慌てて撮影機つかんで後を追うベルゼビュート王子。
「わー、ベルゼビュート王子が振り回されてるー」
「あのベルゼビュート王子を振り回せる織姫ってすごいですね。ぶっとび具合も相当ですし」
あれ、何かみんなあたし見て何とも言えない顔になってるのはな~ぜ?
「女王になる姫って共通点があるよな……。逆に言うと、こういう人間じゃないとなれないのか……」
「私は無理ですね……」
「やめてください、ならなくていいです」
ルキ兄さま、必死。
「輝夜姫は輝夜姫、織姫は織姫、それぞれの良さがあるんです。同じ人間になる必要はない。貴女はそのままで十分魅力的な女性なんですから、落ち込むことはありませんよ」
「……っはい」
ポッと赤くなってもじもじする輝夜姫。
ルキ兄さま、今の完全に無自覚だな。天然女殺し。
ルガ兄さまもそういうとこあるよね。やっぱ兄弟。
でもルガ兄さまはジャスミンさんがどういう反応するか分かった上で言ってるのと違い、ルキ兄さまは全然分かってない。頭いいくせに、変なとこで鈍いなー。
輝夜姫は恥ずかしがりながらもルキ兄さまの腕に自分の腕をからめ、もたれかかった。
「? どうしました?」
「ふふ。ルキフグス様、好きです」
「はあ、知ってます」
眼鏡のブリッジ上げてクールな対応。
気が利かないなー、もう。
「ルキ兄さま、そこはもっとラブい返事するとこでしょ!」
「クソ真面目な兄貴に期待すんのムリめじゃね。……まぁがんばってるよ、兄貴こう見えて」
?
「もー。ルキ兄さまもついでにアガ兄さまも、もうちょっとお嫁さん喜ぶこと言わなきゃダメだってば」
「ムチャ言うな」
「でも僕みたくしたら……うわぁ、そんなルキ兄さんにアガ兄さん、気が狂ったとしか思えない」
「同感」
とかしゃべってたら、大音量でベルゼビュート王子の新曲が聞こえてきた。
画面見ると、織姫たちが城に到着したとこだった。
ギンギラギンなステージ衣装にいつの間にか着替えたベルゼビュート王子がゲリラライブ……もとい歌いながらダンスし、その横を堂々と織姫が闊歩してる構図。
何だコレ。
どう反応すりゃいいの?
居合わせた人々も衛兵も侍女もポカンとして固まるしかない。
うん、だよねぇ。
幻覚か?って目こすってる人もチラホラ。幻聴か?って耳押さえてる人も。
「ほいっ!」
織姫は威勢よく玉座の間のドアを開け放った。
中にいた重臣たちがギョッとして振り返る。
銀色まぶしいイケメンアイドルもといベルゼビュート王子が歌って踊りながら入場。
ライブ会場入りしました。←違う
あ、お好きな曲とダンスで想像どうぞ。
「わー。ダンス、キレっキレ~」
これ、めっちゃ楽しんでやってるな。
百歩譲って曲流すのはワクチン投与だけど、この場で歌って踊る必要ないじゃん。
ベルゼビュート王子が「センター、どうぞ」みたいに腕を伸ばして合図すると、織姫が入場。
だから何コレ。
織姫はそのまま玉座に座った。
慌てる重臣たちへ、いつもの『うつけ者の第二王女』とは違って『姫』の声音で命じた。
「鎮まれ。父は病気療養のため引退してもらうこととし、今この瞬間から私が女王としてこの国を治める」
「な……!」
「おや? 私は王位継承権一位ではなかったか? 最近の父の異常な言動は皆の知っての通りであるし、戦争を起こす気だぞ? それでもかまわないと?」
簒奪じゃ、とは誰も言えない。どう考えても国のことを考えるなら、危険性しかない『正義の王』より御しやすい織姫のほうがマシだ。目配せしあってる。
ただ思ったようにただの傀儡にはできないと気付いたようだ。織姫の風格はまさに『王』のもの。
賛成派が恭順の姿勢をとる。
「我々は貴女様に従います。姫―――いえ、陛下」
「ありがとう」
織姫は鷹揚にうなずいた。
「皆の者、私も本当ならこんなことはしたくなかった。だが急を要することが起きてしまったのだ」
『正義の王』が暗部や甥に命じた映像を映す。
重臣たちも軍を動かしたことは知っていても、暗部の件までは知らなかったようで卒倒しそうになってた。
どうやって撮ったんだ。監視カメラでもこっそりつけといたのかな。だとしたら、仕掛けたのは社長だろうね。
「隣国は何もしていないどころか、戦争を回避し友好を望んでおるのに、なぜ侵攻する必要が? これは一方的な侵略行為である。しかも軍を任せたのがあいつだ」
従兄弟のバカっぷりは周知の事実だそうで、みんな半笑い。
「これが事実だと証言できる証人もいる」
「ほいほーい」
ベルゼビュート王子がすまきの暗部隊長を引き出してきた。
昨日のうちにルシファーの組織が捕まえて引き渡しといたんだ。
他の隊員たちも次々並べる。
「ほいっと。これで全部だよん」
「ありがとうございます、ベルゼビュート王子。隊長、父に受けた命令を話せ」
織姫が命じると、社長のワクチン投与で正気に返ってた隊長は素直にしゃべった。
「……女王リリス・王配およびその兄弟全員、妻子もいれば赤子であっても皆殺しにして来いと命じられました。さらに輝夜姫も」
「なんだと?!」
「姫様まで!」
「そんな馬鹿な!」
「今では我々もおかしいと分かっています! ですが、その時は当然のような気がして……。陛下は、輝夜姫はもはや姫でも娘でもない、ただ邪魔だから消して来いと。何かに憑かれたように我々も必ずやり遂げねばならないと思い」
「なんということを!」
「陛下はそこまでご乱心だったのか!」
「姫様を手にかける前に捕まったことに感謝します……!」
隊長は泣いてうなだれた。
嘘だと言い出す人がいないのは、どう見ても隊長の嘆きが本物だから。本来向こうの人は性善説だしね。
「姉を殺す命令を出すなど、父はもはや王としての責務を果たせるとは思えない。さらに隊長が何かに憑りつかれたと言ったように、確かに悪しきものに憑りつかれているようだ。それは皆の者もとうに勘づいているだろう?」
会談&ファッションショーの時の騒ぎで誰だっておかしいと思ったはずだ。認めたくなかっただけ。
そういうものをはね返せる体質の『正義の王』が憑りつかれるなんて思いたくなかったともいう。
ここで織姫はこっちの映像を向こうにも出した。空中投影モニターに輝夜姫の姿が映る。
うなずいて、輝夜姫は口を開いた。
「皆さん、輝夜です。昨日妹より今の内容の連絡を受け、こちらでも事実と確認しました。私も妹が女王となることに全面的に賛成です」
「輝夜姫様……!」
どよめきがあがった。
「姫様はお戻りにならないということか?!」
「そんな!」
「ええ。だって私はもうルキフグス様の妻ですもの」
ね?と人目もはばからずルキ兄さまの腕に抱きつく輝夜姫。
ルキ兄さまは困ったように眉を寄せた。
「姫。これは全世界に中継されてるんですよ」
「分かってます。だからよ。政略結婚じゃなく恋愛結婚だとはっきりさせるためだもの。……それに本当に私、幸せだから」
輝夜姫はおずおずと小首をかしげ、
「……だめですか? 迷惑?」
眼鏡のブリッジ押さえて沈黙するルキ兄さま。
「…………。そうは言ってませんが」
あ、照れてた。
「ヒューヒュー♪」
「やかましいっ」
はやしたてたナキア兄さまとネビロスがもれなくゲンコツくらってた。軽めだけど。
ぱっとうれしそうな顔する輝夜姫。
「ほんとですか? うれしい……っ」
冷静に織姫がラブい空気ぶった切った。
「ハイハイ、姉さん、ノロケはそこらへんで。後で好きなだけハート飛ばしまくっていいから、ちょっと話戻そーか?」
「あ、織ちゃんごめんね。ええと、そういうわけなので私は戻りません。こちらで両国の平和のため尽くしていきたいと思います。私はここで、妹は向こうで。別の場所にいても思いは一つ。どうか、人々が争うことのない平和な世の中を」
輝夜姫は祈るように手を合わせた。織姫も同じように。
これは打ち合わせたわけじゃないのに、しぜんと同じポーズ。
輝夜姫は呼びかけた。
「皆さん、お願いです。平和のために協力してください。父が病気の今、皆で力を合わせることが必要なんです。どうか私達に力を貸して」
「私じゃ力不足なのは承知の上。だからこそ、皆の力が必要なの」
「姫様方……!」
「織姫様、いえ、新女王様、万歳!」
迷っていた重臣たちも膝を折り、忠誠を誓った。
各地の映像も見ると、スタンディングオベーションが起きてる。さずがは『ヒロイン』の母と叔母。求心力がハンパない。
国民が織姫を女王と認めた瞬間だった。
織姫―――新女王は静かに言葉を続けた。元のくだけた話し方に戻って。
「私の資質を疑う者がいるけど、安心していい。私はただの中継ぎよ。父が回復し、元のようになれば速やかに退位する」
え……っと静まりかえった。
そりゃーねぇ。元の『正義の王』に戻っても、不安すぎて嫌だろう。ていうか、恐いっていったほうが近いか。
いくら憑りつかれてたにしても、他国に侵略戦争ふっかけて暗殺命令出して、しかも実の娘まで含まれてた。いつまたその状態に戻るか分からない、実の娘の暗殺命令まで出したんなら臣下や国民を殺すことなんて何とも思ってないに違いないって、誰でも身の危険感じるわ。
「あるいは、私より国を治めるのに適した人物がいれば、いつでも譲るよ。私自身は王の座に執着しない。この国をよりよく治め、平和な世の中であるためなら、何も王は私でなくてもよいのだから」
「―――じゃあうちの息子に譲りなさいよ!」
甲高い声がして、飛び込んできたのは中年の夫婦だった。
……んーっと、状況から判断して叔母さん夫妻かな?
織姫は冷静に見下ろした。
「叔母さん。何のご用で?」
ああ、当たってた。
叔母はいきりたって、
「あんたみたいな無能、王にふさわしくない! うちの息子が王になるべきなのよ。そこをおどき!」
「あー、おばかな従兄弟クン。侵略戦争起こすため出兵した指揮官ね。あのさぁ、命じた父を止めるどころか、嬉々として出発したよね? あこがれの制服着て、大軍率いることができるからって」
「うるさいわね! 息子は夢を実現したのよ、すごい子なのよ!」
「子供扱い……何歳だっけ。そんなんだから、息子がいつまでも空想を現実と信じてるんじゃないの」
ここでタイミング図ったようにベルゼビュート王子がアホ息子を出してきた。こっちもすまき。
「まあ、坊や! どうしたの。なんてひどいことを……離しなさい無礼者!」
真っ青になって駆け寄ろうとした叔母夫婦を制止するベルゼビュート王子。
「ハイ、そこ動かなーい。ダメだよー、こいつは戦争引き起こそうとした実行犯の一人だぜ。そこの隊長サンたちと同じく、一旦調停役のオレの管理下に置かせてもらうわ」
鞭出してピンと張る。
「戦争回避が諸国の総意。どの国もトラブルなんか嫌なんだよ。やめてくんね? な?」
「なんですって、返しなさい! 私の息子よ!」
「だーから証人の保護だっつの。逃げられたら困るし。これは一国の問題じゃねんだ。場合によっちゃ、諸国代表が集まった場での裁判っつーか取り調べもありうる。釈放はムリ」
国際法廷かな。
アホ息子も事態を理解したらしい。
「な、なんでぼくが罪人扱いなんだよ! お前知らないのか? ぼくは勇者なんだぞ!」
「いいかげんにしな」
織姫がぴしゃりとはねつけた。
「ヒーローごっこはもうおしまい」
「ご……ごっこ?」
織姫はピッと指をつきつけた。
「いいかげんハッキリ言ってやる。あんたが今までやってきた『大冒険』は全部お芝居なの。叔母さんたちが雇った劇団が毎回演じててくれた作りものなのよ」
「お、お芝居? 嘘だ!」
「嘘なもんか。『味方のパーティー』も『敵』もぜーんぶ役者。いつもあんた好みのストーリーにできすぎな展開、倒したくなるような敵、無傷で勝てるっておかしいと思わなかったの? 都合よすぎでしょ」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
アホ従兄弟はじたんだふんで子どもみたいに泣き叫んだ。
太りすぎで心臓弱いんじゃなかったっけ? ポックリいかないでよ。
「言っとくけど、本当だって信じてたのあんた一人だからね。みんなお芝居だって知ってた」
従兄弟が焦って周囲を見ると、みんなスッと顔をそむけた。居心地悪そうにしてる。
モニターに映ってる各地の国民も似たような表情。乾いた笑いや馬鹿にした笑いを浮かべてる人も。
ここにきて従兄弟もようやくおかしいと気付いたらしい。
「そ……そんな……」
「つか、そこまで言うならこれ持ってみてよ」
織姫は玉座から下り、入り口んとこにいた衛兵から槍を借りた。座り込んだ従兄弟の膝の上に置く。
「おっもおおおおおお!?」
従兄弟は絶叫した。
いやいやいや、普通の成人男性が持てる程度の重量だっつの。
まぁ発泡スチロールのハリボテ剣しか持ったことないんじゃ、重いか……。
「そこまで重くはないでしょ。でもま、これが普通の武器の重量。それでここまで悲鳴あげるのに、どうして戦えんの?」
「……う、うそだぁ……」
べそべそ泣きじゃくる従兄弟。
織姫はあきれてため息つき、叔母夫妻に向き直った。
「さて、叔母さん。改めて聞くよ。誰もが芝居と知ってる戦いごっこを現実と信じ込み、制服がかっこいいからって理由だけで軍隊動かす人間が王にふさわしい?」
「うっ……うるさいわね! 息子の望みを叶えたがって何が悪いの?! 親心でしょ!」
「はき違えてるって。親なら、きちんと現実を分からせることも大事でしょ。何でもかんでも甘やかして、望みを叶えてあげるもんじゃない。時には厳しく接し、いざって時に一人でも生きていけるよう自立した大人に育てるべきだった」
織姫は衛兵に命じた。
「叔母さんたちを連れて行って。しばらく屋敷での蟄居を命じる。沙汰は追って。それまで静かにしているように」
なおも騒ぐ叔母夫妻を兵は追い立てていった。
従兄弟に暗部もここで退場。
新女王は玉座に戻った。
「―――それじゃ、王として最初の仕事をしましょう。まず、出発した軍隊はただちに帰還せよ。ゆえなく他国を侵略することは許さない。私は戦争などしない。よって、リリス女王に友好条約の申し入れをします」
あたしは自分が画面に映るようにした。
「申し出を受けましょう。願ってもないことです。両国の平和が末永く続かんことを」
すでにあたしはサイン済みの条約文に織姫がサインした。ベルゼビュート王子が証人として預かる。
かくして最悪の事態は回避された。
……ふぅ……!
汗をぬぐう。
これでひとまずどうにか破滅ルート回避できたかな?
織姫がこのまま上手く国を治めてってくれれば安心……だと思う。争い嫌いで基本的に逃げ癖のある織姫には修正プログラムも憑りつけないからね。
けど、隔離できたからって修正プログラムを消去できるかどうかは不明。『正義の王』に後遺症が残らない形で修正プログラムだけ除去し、それからになるし。
これでほんとに隔離できたのかって不安もある。実はコピーがどこかに潜んでるとかありうる。
敵もバカじゃない、念のためどっかに保険かけてる可能性はある。
ベルゼビュート王子も同じこと考えてるのか、いまいち晴れない顔だ。
あたしらの懸念をよそに、新女王の前の重臣たちは安心したのか明るい声でしゃべり始めた。
「いやぁ、よかったですな……! これであとは女王陛下の王配が決まれば全て丸く収まるというもの」
「まことに。それももう決まったようなものですしなぁ」
ちらっ。みんなベルゼビュート王子をチラチラ。
ベルゼビュート王子は慌てて飛びのいた。
「えっ!? オレ?! オレは違うよ!」
「何をおっしゃる」
「調停役として働いただけだって! ちが、マジで戦争阻止のために協力した、ただそれだけだっつの!」
必死で否定してるけど、まぁ流れからしてどうあがいても最有力候補じゃん。
ルキ兄さまが含み笑いしてる。
「フン。人に王配になれと勧めてきた罰だな。そんなにその地位が魅力的なら、自分がなればいい」
「ちょっと宰相サンまで! オレだって王配なんかヤだってば!」
ところでさぁ、輝夜姫は好みじゃないってのは前にきいた。織姫はどうなん?
本人目の前にしてはきかないけど。
「オレは能天気なアホのままでいたいの!」
「似た者同士、合うんじゃないか」
「いやいやいや……そう! オレ、アイドルだよ? 普通の男の子に戻る気は当分ねーし、ファンの子たちのためにも誰か一人のものになるわけにはいかないのさ」
その年で男の子とか言うか。
「場所はどこでもアイドル活動はできるだろう」
「王配が現役アイドルってさすがにまずくね?」
「うちの女王は現役で服作ってるが」
はーい、そうでーす☆
「そっちは国の収入のためって、ちゃんとしたっつーか切羽詰まった理由があんじゃん。それに権力は放棄してる。そうじゃない王配ができるかよ。立場的にも、単純に時間的余裕がねえって意味でも。普通の王配は公務いっぱいあるだろ」
画面に映ってる諸国のうち、女王が立ってる国があってそこの王配がうなずいてる。
ルキ兄さまは一蹴した。
「どうにかなるだろ」
「宰相サンはオレの気持ち分かるだろ?! あっ! つか、そもそもの問題。織姫ちゃん自身の意志を無視しちゃあいけねーよ。な、嫌だよな?」
質問されて織姫、じゃなかった織女王は答えた。
「別にいいっスよ?」
「軽っ! って、ええええええええ!? そこは断ってくれよ!」
織女王は頭をかいて、
「うーん。いやまぁ、現状一番いいかなーっと思うんスよね。中立国の第八王子で調停役、立場も身分も問題ナシ。誰もが納得する解決法でしょ」
「いやいやいやいや。そこはお姉さんの輝夜姫みたく恋愛結婚する!って言ってよ。政治的判断だけで結婚相手決めんのよくねーよ」
「気楽な第二王女のままだったらそう言いましたけどね。王となると考えざるをえないっすよ」
立場には責任が伴う。
王になった人間が好きな相手と結ばれるのは難しい。
「そう考えると、あたしは運がよかったんだなぁ……相手が元から大好きなルシファーだったんだもん」
後ろに立ってるルシファーの手を握って見あげた。
「僕もです。相手がリリス様で行幸でした」
「ふふ、大好きー」
「ええ、僕も好きですよ」
「リリス、今すぐそこの奴から離れなさい」
「ほらぁ! リリス女王さんみたく好きな相手と結婚しなって。幸せそうじゃん。そうしろ。な?」
殺気はらむルキ兄さまたちと、必死なベルゼビュート王子。
そんなに織女王嫌なの?
「分かることは分かってますよ。ただ私は現実的っつーかドライなとこがあってですね」
「意外とシビアなのは知ってるよ……」
父王の背後から飛び蹴りかましてたもんね。シビアですよね。
織女王はこてんと首をかしげた。
「いやぁ、嫌いな相手だったらいくらなんでも嫌っすよ? ベルゼビュート王子だからいいかなと思ったんです。だって私の趣味知っても引かないし、許容してくれたから。そういう人なら一生付き合うのも悪くないなぁと」
「ああうん、自分の好きなことを拒絶せず受け入れてくれるって大事なポイントよね」
うなずくあたし。
ルシファーだってあたしの服作りをバカにせず、協力してくれてるもん。
「愛する妻のやりたいことを応援するのは当然でしょう」
「へへー」
にこにこして抱きつくあたし。
抱きしめ返してくれるルシファーをまた兄弟がにらんだ。
「くどいですねぇ。皆さんいいかげん妹離れしてくださいよ。ほら、ルキフグス様、奥様が困っておられますよ」
『奥様』ってとこでぴくっと耳動かす輝夜姫。うれしそうにはにかんでる。
ルキ兄さまは慌てて殺気消して、
「あ、すみません姫。驚かれましたか。これはいつものことでして」
「いえ、そうじゃなくて。そうですよね、私、ルキフグス様の妻なんですよね。なんか改めて実感して、うれしくて……」
両手の指先合わせてもじもじ。
うーむ、正統派お姫様*本物がやってるとかわいいねぇ。
「………………そうですか。それはよかったです」
ルキ兄さま、曲がってもいない眼鏡のブリッジ直してる。
照れてるのごまかしてるのが丸わかり。
これ見りゃ、誰もが政略結婚じゃないってのは分かるわー。
なんとなく生温かい空気が流れた。
「そうだ!」
ベルゼビュート王子がいきなし叫んだ。
なに、どうした。
「織姫ちゃん、王配公募すりゃいーじゃん! 適した男は世界中に何人もいるはずだぜ。複数候補者立てて、そこから選びなよ」
ほっほーう?
あたしは眉を上げた。
昔話の『輝夜姫』で六人の求婚者がいたみたく、候補者そろえて競わせようってことか。
七夕伝説じゃ『織姫』は『彦星』が好きすぎて仕事サボったんで罰くらった。でもこっちの織姫はどうも違う。
一方、こっちの輝夜姫は一途でたった一人だけを想ってる。逆になってるね。
織女王はあっけらかんと答えた。
「別にそれでもいいっスよ」
「おっし」
ベルゼビュート王子が上手く逃れられた!ってガッツポーズして、
「んじゃ、ガンバって~」
さりげなーくそのまま退場しようとした。
が、しっかり重臣たちに囲まれた。
「何をおっしゃいます。王子も候補者ですぞ」
「そうですとも。今回の件の後始末もありますし、今帰られては困ります」
「え? え? ちょ」
逃さない気マンマンだな。
ルキ兄さまは冷たく言った。
「ああ、そうやって二度と戻ってくるな」
「宰相サーン、薄情な! たーすけてー。分かるだろ、オレの気持ち分かるよな、なぁ! リリス女王さんもなんか言ってよ!」
「えー。いやぁ、他国の王配問題に口つっこむのはマズイっしょ。『正義の王』の容体観察にそっちにいてくれたほうが助かるし」
織姫が女王になって戦争が回避された今、ベルゼビュート王子が抑止役としてうちの国にとどまる理由はなくなった。むしろ現地で修正プログラムを監視してくれたほうが。
『バグ』の望みはハッピーエンドでしょ? だったら、自分が最前線で実現させればいーんじゃなあいの?
正確に理解して青ざめるベルゼビュート王子。
「ちょっとおおおおお、誰かオレの味方いねーの?! あっ、王配ルシファーくん!」
ものすごく嫌そうに顔しかめるルシファー。
「なぜ僕にふるんです」
「君なら分かってくれるよな!」
「いえ全く」
「おいぃぃぃぃ!」
ガンバ。
合掌しておいた。
ま、いいかげん『バグ』本人もキリキリ働けってことよ。自分が願ってこの世界作ってもらったんだからさ。
「まぁまぁ。あたしは中立の立場なんて一応フォローしとくと、候補者集めれば織女王が好きになる人がいるかもしれないし」
「そっ、そうそう! 公平にいこうぜ! 出来レース反対!」
織女王は肩をすくめた。
「公平性はちゃんと保つっスよ。全世界が見てるんだからちょうどいいや。世界中のみなさ~ん。王配候補、募集しまっす! 我こそは!という猛者はカモン☆」
それ、かかってこいや!ってポーズ。
なんか違う。
「ただし! より王にふさわしい人材が現れたら譲位するつもりなのは変わらないから。すると私は最高権力者じゃなくなる。それでもかまわないって人でなきゃダメだよ~?」
権力狙いで揉み手しながら来ても無駄だよ、ってことね。
あっちは広大で豊かな国。そこの王配ともなればやりたい放題できるって考えるアホもいっぱい来るだろうって読んだ上での牽制だ。
「さあ、誰が来るかな?」
にんまり笑って頬杖つく織女王。
この状況すら楽しんでるね。
向こうの女王もなかなか個性的っつーか、ただモンじゃないわ。
かくして彦星決めレース、開幕しました。




