世界の秘密と彼の正体
ベルゼビュート王子がやって来た―――?
今度は正式な国使として。
あぜん。
なんで? どして?
前に処分頼んだヤバイ系アイテムの始末が完全に完了したから、その報告にってことらしい。いくつかはまともなアイテムとして使えるよう改造した後、売却したとか。中にはそうやってもうけが出るのもあるから、引き受けてくれたわけよ。
国の使者として来た以上、会わざるをえない。
「―――よし、全員総出で迎えてやろうじゃないか」
「ルキ兄さま、それ全面戦争一歩手前」
中立国の使者を人質に取るつもりか、とか言われるよ。
面会するのはあたしとルシファー、宰相のルキ兄さまだけとし、兄弟には隣の部屋で待機しててもらうことにした。
「ルキ兄貴、どの部屋使う? ああ、あそこか。了解」
レティ兄さまは走ってった。
ちょ、トンカチ持って何すんの?!
五分後。
「マジックミラーとりつけてきた。謁見の間からは分からないよう細工してあるぜ」
「早っ! この短時間でやったの?! つーか、材料よく持ってたね?!」
兄のDIYスキルが高すぎる。
あと、何に使うつもりで持ってたのよ。スミレちゃん? 対象はお嫁さんだよね間違いなく。
大丈夫か。これ犯罪? セーフ?
囲い込み癖のある四番目の兄が心配になった。スミレちゃんに警告しとこう。
「リリスだって服作るのは早いだろ」
「そりゃぁ……」
同じ……かなぁ?
うう~ん……。
ともかくベルゼビュート王子が城にやって来た。トレードマークのギンギラギンな衣装で。
まぶしっ。物理的にまぶしっ。
「やっほー、女王さん。おひさ~」
相変わらずノリ軽い。
「……久しぶり」
正式に国書を受け取り、ひとしきり公的なやりとりをした後、人払いする。
「―――で、目的は何?」
「あっれ~。オレは郵便屋さんになっただけだよん?」
おどけてみせるベルゼビュート王子。
「演技は結構」
すっぱり切り捨てた。
「さっさと言えば? 何か思惑があって来たんでしょ。ただ書類届けるだけなら、役人でもよかったはずよ」
「はっはー。やっぱ女王さんはバカじゃないねェ。オレはさ、ちょっと話したかっただけ。……そう、菊花ちゃんにね」
―――!」
あたしはめいっぱい目を見開いた。
今こいつなんつった?
菊花。それはあたしの前世の名だ。
この世界で知ってるのはあたし以外にはルシファーだけのはず。
「リリス様」
スッとルシファーが前へ出て、あたしの前に立った。
とっさに袖をつかんで止める。
「待って、ルシファー」
かつてのあたしの名前を知ってるってことは、知り合いか。あたしがここにこうしているんだ、他にも『入り込んだ』人間がいてもおかしくない。
自分だけ特別視するつもりはないよ。そこまで己惚れてない。
でも一体誰だ? こんな性格の人間、いたっけ?
探るように見るも、ベルゼビュート王子は飄々としてる。
ルキ兄さまは訳が分からず戸惑ってた。
「リリス?」
「ルキ兄さま。ごめん、ちょっと一旦席外してくれる?」
なるべく落ち着いた声で頼んだ。
「駄目だ。こいつは信用ならない」
「ルシファーがいるもん、大丈夫」
長兄にもう一度頼んだ。
「……お願い」
ルキ兄さまは黙ってあたしを見返し、やおら立ち上がった。
「分かった。すぐ外にいる。何かあったら呼ぶんだぞ」
「うん。ありがと」
ルキ兄さまが出て行くと、すぐさま防音の魔法をかけた。
ベルゼビュート王子に向き直る。
「どうしてその名前を知ってるの」
「ん? ん~、どうしてだろーねぇ」
のらりくらりと答えられた。
イラっとするな。
ヘラヘラとおちゃらけてたベルゼビュート王子は、ふいに真顔になった。ガラッと雰囲気が変わる。
『うつけ者』の面影はどこにもなかった。
!
条件反射で身構える。拳に魔力を集中した。
「ちょちょちょちょーっと待った!」
ベルゼビュート王子は慌てて両手を挙げた。
「オレは敵じゃないって! 味方だよ!」
「味方?」
「そーだよ。なにしろオレがキミをこの世界に連れて来たんだもん」
「……なんですって?!」
思わず腰を浮かせた。
こいつが、ベルゼビュート王子があたしを連れて来た?
勢い込んで問い詰める。
「なんでそんな力持ってるの? あんたはあたしの前世の知り合い? あんた何者? 何のためにあたしを連れて来たのよ? ここはゲームの世界なんでしょ、どういうこと?」
「あー、一個ずつオネガイ。菊花ちゃん、落ち着いて~」
「―――その名を呼ぶな」
ルシファーの本気の殺気が飛んだ。
どの隠しポケットから出したのやら、ナイフ思いっきりつきつけてる。
……えーと、ルシファー。敬語消えてるよ。
こりゃマジだわ。
急所に狙い定めてる。
「リリス様を『キッカ』と呼べるのは僕だけです」
「わーかった、分かった、ルシファー君! やめますよー。キミもたいがい独占欲強いねェ」
両手をさらに挙げ、バンザイ=降伏ポーズ取るベルゼビュート王子。
小首かしげて、
「んで、説明していーか? どっから話したもんか……」
「初めから話して」
「だよな。じゃ、そもそもの始まりからいくか。オレは元々、バグだったんだよ」
「バグ……?」
って、コンピューターの不具合って意味の?
「そ。ホラ、ゲームのプレイヤーの中には改造ツール使ったり、やっちゃいけない方法で自分の思うがままにデータ改変するのがいんじゃん? その人たちがちょーっといじくってたら、システムエラーが起きちまってね。制作会社が対処のためエラーのデータをオンライン上でまとめてたら、何音相互作用が働いたのか―――それとも『消されたくない』ってことなのか、意志を持った存在ができちゃった」
「は?」
しれっとものすごいことバラしたな。
「とはいえ、そのままじゃやっぱ消されちまう。どれかキャラの中に隠れよう……で、このベルゼビュートってキャラに隠れたわけ」
ルシファーが眉をひそめて、
「まったく分かりません。リリス様は分かりますか?」
「うん、大体は。AIが自我持っちゃったみたいな感じをイメージすればいいのね? 某映画みたく」
未来からあのBGMと共にやっては来ないけど。ドドンドンド……♪
「あー、うん、ちょっと違うけどまぁ理解してくれんならそれでいいや」
「なんでベルゼビュート王子を選んだの? モブキャラじゃん」
「モブだからさ。メインのキャラだとよく使うから、すぐバレるじゃん」
「あ、そっか」
「そうやって生き延びたんだけどさ、ふと思ったわけ。なんでいつもいつも同じ奴ばっか悪者にされて殺されるんだろうなーって。終わったのにリセットされて、また繰り返し繰り返し。いやそりゃ、ゲームだからって分かってるよ? でもさぁ、殺されても何度でも生き返らされてまた殺されるって……ひでぇ拷問みたいじゃね?」
「…………」
昔読んだ漫画であったっけ。地球に攻めてきた異星人の攻撃方法がエグすぎるの。
たまたま近くにいた村人たちが応戦したら、奴らは一度殺しても時間を巻き戻して生き返らせて、また殺した。主人公たちがそれ見て「許せない」ってブチギレて戦うんだ。
……それと同じようなものといえば同じなのかもしれない。
でも、意志も自我も持たない、作られたキャラクターじゃ?
「ひでぇと思ったんだ。確かにあいつらはオレと違って自我も何もねーよ。でもさ、元々同じじゃん。あいつらだって、いつオレと同じように人格が生まれるかもしれない」
100%ない……とは言い切れないね。
「けど、オレが下手に動けば存在がバレる。そこでアドバイスもらいに行ったんだよ」
「どこに? 誰に?」
「なぁ、『ワンダーランド』ってゲーム知ってる?」
はい?
いきなり話飛んだ。
「何ですかそれは」
「えっと、元の世界で超人気のゲームのタイトル。ジャンルはトレーディングカードに入るのかな。これの変わったところは、特殊な機械を使ってプレイヤーの意識そのものをゲームとリンクさせられる点なの。まるで現実みたいにかなりリアルに体験できる」
VR技術の進化版ってとこかな。
新型コロナウイルスが治まらない中、注目を集めてる技術だ。これを使えば学校の遠隔授業も現実同然にできるし、仕事の会議も在宅だって簡単。安全に一つの場所に大人数集まれる。
ただし欠点もある。肉体はまったく動かないわけで、エコノミークラス症候群とか運動不足になるとか。
「もちろんオンライン。あたしもやってるよ。おもしろいもん」
「ありがとう」
唐突に聞きなれない声が―――いや、遥か昔にどこかで聞いた?―――して、場面が変わった。
「?!」
一面真っ白。そこにたくさんの時計が浮いてる。
どれもこれも時間がめちゃくちゃだ。針が反対周りに動いてるのもある。
文字盤が歪んでたり、数字が欠けてたり。すごい速さで針が回転してたり。どれ一つとして正常なものはない。
慌てて辺りを見回せば、同じように驚いてるルシファーとやたら落ち着いてるベルゼビュート王子がいた。
「ここは……?」
「時のはざま、って僕は名づけた空間だよ」
見れば、右手に人影があった。
「あなたは……?」
『ワンダーランド』のナビゲーター『白ウサギ』と同じ衣装の少年がいた。十代くらいの。
『白ウサギ』ってのは読んで字のごとく『不思議の国のアリス』の白ウサギをモチーフにしたキャラで、人間大のサイズ。ツイードの服に、首からさげてるのは懐中時計。
顔をよく見て気づいた。
「……時定社長……!」
あたしは息をのんだ。
彼をあたしは知っていた。
『ワンダーランド』開発者にして制作会社社長、時定斗真は優雅にお辞儀した。
「やあ。久しぶり、だね菊花ちゃん。僕を覚えててくれたんだ」
「そりゃ覚えてますよ! 小さい頃よく父に連れられて会社にお邪魔してたし、よく社長はじめ開発チームの皆さんに遊んでもらったこともあるじゃないですか!」
慌てて頭を下げる。
前世の父親の上司だもん。
「リリス様?」
ルシファーが不快感もあらわに振り返る。
「ああ、あのね。前世のあたしの父親はこの人が社長やってる会社で働いてるの。開発チームの一人なんだ。それで、小さい頃たまに連れてってもらって、モニターと称して色んな開発中のゲームやらせてもらってたのよ。だから知り合いなんだ」
あれ?
そこまで言って社長を見る。
「社長ってすでに亡くなられて……」
社長は笑った。
「うん、とっくに死んでるよ。ついでに君もね」
「ですよね」
彼は若くして病死してるはずだ。葬儀にはあたしも父も出た。
ルシファーが不快げに社長をねめつける。
「……あ、もしかしてルシファーやきもち? そんなことしなくても、あたしにはルシファーだけだよっ」
ぴょんと飛びつく。スリスリ。
社長は苦笑して、
「そういえばそういう性格だったね、君は。それにしても、まさか知り合いがこの世界を変える核になるとはね……」
「ああそうだ。社長、一体どういうことなんです? あたしも社長も死んだんなら、どうしてここにいるんですか?」
社長はあっさり言った。
「それはね、僕は死の間際に自分の意識を『ワンダーランド』内に移植したんだ。まぁ簡単に言うと、魂だけ電脳空間で『生きて』るわけ」
「―――はぁ?」
天才とうたわれた人がとんでもないこと言い出しましたよ奥さん。←奥さんて誰だ
「な、ちょ、そんなファンタジーなっ。そんなことできるんですか?!」
「できるからここにいるんじゃね」
これまで黙ってたベルゼビュート王子=『バグ』が口をはさむ。
「そうだねぇ。彼と僕、立場は違うけど同じ電脳空間に住む者同士力を課そうと思ってね。彼の気持ちも理解できるし、ゲームをコピーした世界を作ってみたんだ」
「社長、さらにどえらいことサラッと言わんといてください」
このゲームは他社製品だったはず。版権とかいいの?
「そっくりそのままじゃねーよ。世界観やキャラの名前とか、大まかなものだけさ」
「基本データだけコピらせてもらった感じかな。キャラもそれぞれの意思で動けるよう設定してあるよ。自立思考があれば、シナリオ通りにはいかないんじゃないかと思ってね」
そうやってできたのがこの世界……。
「へー。よくある異世界転生モノかと思ったら、電脳空間上の話だったんですね。地球の話ではあったのか」
「まぁ、目に見えないし、感じることもできないけどね」
腕組みして考える。
「あたしもなんかの理由で社長と同じように魂を移植したんですか?」
「いや、僕とはやり方が全然違うよ。ただし君が選ばれたのは理由がある」
「キミが基のゲームのシナリオに不満もってたからさ」
「―――」
あたしはまじまじと『バグ』を眺めた。
『バグ』はニヤッとして、
「だろ?」
「それは……そうだけど。戦争なんてないほうがいいもん」
推しキャラの死は見たくなかったってのもある。
「そんなわけで時定博士がこの世界を作ってくれたはいいものの、なーんでか上手くいかなくってさ。どのキャラも『キャラクター』のまま自我は生まれず、思ったように自立思考が生まれなかった。あれこれ試したものの、失敗続きでさー」
「ということは、今は何回目かにあたるということですか?」
「コレ80回目。79回失敗してんの。泣くわ~」
ルシファーの問いにウソ泣きする『バグ』。
79と泣くってシャレかい。
って、いくら時間もある・年取らないからってよくやるな。普通やる気失せるわ。
「どうして失敗するのか、僕にも理由は分からなくてね」
「そんな時に偶然見つけたのがキミってわけ。んで、外部から何かを注入すれば、起爆剤になって上手く回るんじゃないかって思ったのさ」
「思いつきでやったんじゃないでしょーね」
ほんとかいな。
「アハハ。だってさ、どうすりゃコンタクト取れるか方法探してたら、事故にあっちまうんだもんよ。せっかく見つけた解決の糸口にいなくなられたら困る。とっさにこっちに引っ張った。でなきゃ完全に死んでたぜ?」
「…………。お礼言うべきなんでしょうけど、言いたくないな」
ルシファーも顔をしかめて、
「一体どうやってキッカをこちらに引っ張り込んだんです?」
「仮説だけど……あの時、携帯ゲーム機を持ってたよね。あれに『ワンダーランド』もダウンロードしてて、ちょっと前までそっちやってなかった? スリープ状態にして、こっちのゲーム始めたよね?」
うーんと、えーと。
思い返してみる。
「あっ、そうそう。期間限定イベントが始まるんで、一旦おいといてこっち立ち上げたんですよ」
「死ぬ時、君は両方につながってる状態の器械と接触してたわけだよ。しかもあんまり言いたくないことなんだけど、大量出血してて、その血が君とゲーム機をつないでた」
「あー……なるほど」
さすがに自分の死の瞬間はあんま思い出したくないなぁ。
「血っていう特殊なものが媒介になったことにより、僕みたいに環境が整ってなくても魂の移植ができたんだろうね」
「んでも、そのままじゃ消えちまうかもしれない。なにしろ博士とは状況が違うからな。博士はあらかじめ移植先に受け皿のキャラを用意しといたからよかったけど、キミはそーじゃないだろ。とりま、どれかのキャラに入れなきゃと思った。したら、キミが勝手に『リリス』の中に入ったんだよ」
きょとんとして自分を指す。
「あたしが? 覚えてない」
「消えまいとして無意識だろうね」
「でも理由は説明がつくかな……。あたしが『ルシファー』を好きだったから。好きな人の傍に行きたかったんじゃないですかね?」
小首かしげれば、ようやくルシファーが微笑んだ。
「ありがとうございます、リリス様。僕もリリス様が大好きですよ」
「もっちろん! ふふっ」
ぎゅーっと抱きつけば抱きしめ返してくれる。
このぬくもりは幻じゃない。
うん。たとえここが電脳空間上だったとしても、ただの電気信号なんかじゃないよ。
社長はもはやスルーを決め込んだっぽい。順応が早い。
「そうしたら周囲に影響及ぼして、他のキャラたちにも自我が芽生えたんだよね。一つのキャラが変換されたことで、同じようにってなったのかな」
「時代をストーリー開始前にしたのもよかったのかもな。そうしたのは初めてなんだ」
うん、それもあっただろーね。
「今んとこ、この80回目は上手くいってる。ただ、『元』に戻そうとする働きが出てきたのは計算外だったんだわこれが」
「修正プログラムってあたしは仮に呼んでるけど、それ? 初めからストーリー作りかえる前提だったなら、その機能外しときゃよかったじゃん」
「あ、それはちゃんと削除してあるよ。コピー作った際に、邪魔な機能は全部無効化してあるんだ。違くて、修正プログラムは外部から入って来たんだよ」
外部から?
「なぁ、ゲームの改造ってあんじゃん?」
「またいきなり話飛んだね。えーと、真面目にプレイすんのがめんどい人があれこれいじってパラメータ最強にしたり、レア装備コンプするとかのこと?」
「そーそー。あーゆーの、ゲーム会社としては困るんで対処するじゃんよ」
「知ってる」
父さんの仕事はそういうのもあったもん。
「分かりやすくいうと、修正プログラムと君が言ってるのはワクチンだよ。不正改造データを感知し、異物と認識して消す作用を持つ。この世界は元のゲームと似せて作ったんであって繋がってないんだけど、同じ電脳空間上にあるせいか、なんかの拍子に入り込んじゃったんだよね」
「ちょ、ヤバイじゃないですか。社長、何とかしてください!」
「うん、だからすぐバリア強化してこれ以上は侵入できないようにしたんだ」
さくっとできるところが天才のゆえんですな。
『バグ』は頭をかいて、
「こっちにしてみりゃワクチンどころか正反対だっつーの。実際、『正義の王』に憑りついて暴走させちまってるし」
「『正義の王』が現在倒れてるのは拒絶反応?」
「たぶんな。『善』のキャラが悪役まがいのことするんなんざ、どっかにムリがくる。とはいえ、完全にのみ込まれるちまうかもしれねー。で、オレが来たってワケよ」
?
「オレは『バグ』だ。あれに対抗できる存在。しかも『ベルゼビュート』は中立国の王子で、前ん時も仲裁してる。今度も輝夜姫の件の仲裁人として滞在してるって他国から見え、牽制になるだろ。すでにトラブル解決役がいて対処してるのに、攻め込む国はいねー。どこも様子見るさ」
「……確かに」
ここで攻撃的したら諸国から反感買うね。
「あれは『正義の王』以外にも干渉し始めたからな。オレも前線で本腰入れる必要があると思ってさ。ましてあれに操られたキャラがキミの近くにも現れたとなれば、即対策とらにゃいけねー」
「修正プログラムに操られたキャラ……? それって」
まさかレティ兄さまの副官の?
聞けば、そうだと『バグ』は首を縦にした。
「やっぱり!」
「つまり、敵はこちらの内部まで侵入を始めたということですね?」
「というか、彼の心の底には元々ああいう思いがわずかながらもあって、その隙を突かれたんだと思うよ。『正義の王』しかり。修正プログラムは元々そういう考えを持ってるキャラにしか干渉できないみたいだ。だってここは元のゲームそのものではないんだからね。あっちも本領発揮はできない」
「え、『正義の王』もなんですか?」
「あー、意外かもしれねーけど戦い自体は肯定的なんだよ。『悪』と判断した相手とはいざとなれば戦いも辞さない。なにせ、孫の『ヒロイン』がそーじゃん?」
「あ、そうだった」
非暴力主義じゃなかったわ。
だって戦って勝つんじゃん。それが元のシナリオ。戦争前提だ。
「僕も対抗するプログラムを作ってるけど、まだかかる。それに相手もこの世界に来たことで影響を受けたのか短期間で変異を繰り返してて、いわば薬使ってもなかなか効かないんだ」
「オレが近くで待機してて、博士が薬作れたらすぐ受け取る。それにキミんとこいればあっちの出方も博士に即時報告できて対策練れる。キミらだってあれはどうにかしたいだろ? 協力してくんね?」
「…………」
あたしはルシファーを見た。無言で問う。
あたしが決めたことなら従う、って視線で返してきた。
どうすべきか?
そんなの決まってる。その目的のために連れてこられたからじゃなく、あたし自身の意思で。
両手を差し出した。片手で社長、もう一方の手で『バグ』と握手する。
「よろしく。みんなで協力して『世界』を救おうじゃないの」
『バグ』はにやっと笑った。
「ああ。よろしくな、女王さん」
社長はどこか懐かしむような表情をしてた。
☆
「―――じゃ、まずあたしらは何したらいいの?」
「オレが仲裁役としていることを女王さん兄弟に納得させてほしい。つまみだされそうだもんよ」
「あーそーね。説得しとく」
目に浮かぶわ。
「あ、もちろん滞在中の費用は自分で払うぜ。そこはちゃんとしとかないとな。それからオレの当座の仕事としては……」
ベルゼビュート王子は声も高らかに宣言した。
「アイドルの活動、始めちゃうぜっ☆」
「…………」×3
すばらしいまでの無音が世界を支配した。
あんれぇ? 何か幻聴聞こえた気がする~。
「おいおい、スルーはナシよ」
「いやだって、何言ってんの」
「トップアイドル目指すっつってんの」
頭までバグったか。
あ、BGMはお好きな曲どうぞ。一番な星のでも、神的なほうでもご自由に。
二対の白い目に王子は慌てて、
「真面目な話だって! この世界にはまだアイドルらしいアイドルっていないだろ。珍しい娯楽に人は食いつく。じゃ、曲にワクチン試作品仕込めば? たくさんの人に一気に投入できるだろ?」
「ああ!」
ようやく理解した。
ポンと手を打つ。
「『見る・聞く』タイプのなのね? 注射タイプじゃなくて」
苦笑いしてた社長が答えた。
「元々はプログラムだから可能だよ。不特定多数に短時間で一気に浸透させるには、それが早いだろうね。ただし何度か繰り返さないと効果は出ないと思う。だから曲や映像に仕込もうって話」
サブリミナルみたいなもんか。
「あと、単純にオレが楽しいし」
「絶対動機そこでしょ」
ベルゼビュート王子は大笑いした。
「楽しいほうがいーじゃんよ」
「そりゃそうだけど、なんか違う気もする」
「まぁ、大々的に牽制するのはいいと思うよ。なおさら敵も身動きとれなくなる」
ん?
首をかしげた。
「なおさらってどういう意味ですか社長?」
「うん? 心配しなくても敵はもう『正義の王』以外の誰かに干渉することも憑りつくこともないだろうってことだよ」
天才がすごいこと言い出した。
へ?!
あんぐり。
あたしたちはあっけにとられた。って、なんで王子まで驚いてんの。
「これは状況から判断した推論なんだけど。外部から来た存在は、この世界において自身と共鳴するいずれかのキャラと融合しなければ時間と共に消えてしまう。『リリス』や『ベルゼビュート』のようにね。いい? 単に中に入るんじゃなく、融合だよ」
「あ」
異口同音。
憑りつくんじゃなく融合。そういうことか!
「そっかぁ! なんでそこに気付かなかったんだろー。自分のことなのに」
「フルーレティ君の副官も確かに敵は干渉した。だけどおそらくそれが限界だったんだ」
「なるほど、道理でツメが甘いと思いました。腐ってもフルーレティ様の副官の一人、荒がありすぎると首ひねってたんですよ。『正義の王』もやり口が下手すぎます」
「本来のシナリオに戻すのが修正プログラムの役割なら、最も共鳴して融合できるのは『ヒロイン』だ。だけど彼女はまだ生まれていない。今はそれよりずっと以前の時代だもんね」
融合できるのがいなくて、なるべくそれに近いのを選んだってことか。
「でも上手くいってないってことですね?」
「そう。逆に言うと、『ヒロイン』が生まれたら敵はすぐさま憑りついて融合するだろう。そうなったら大変なことになる。阻止するためには『ヒロイン』が誕生しないことが最も効果的だよ。それでベルゼビュート君に動いてもらって輝夜姫を連れ出し、『ヒロインの父母』がくっつかないようにしたわけさ」
社長の策だったのか!
は、腹黒っ。うーわー、黒い人だとは子供ながらに思ってたけど、けっこうやるなぁ。
ヒロインが生まれないよう工作するとはねぇ。そりゃ、初めから元ネタ通りにするつもりなかったとはいえ、最重要キャラ消しちゃっていいんかい。
「ちょ、やっちゃってよかったんですか?」
「僕は輝夜姫に憧れのルキフグス君に会いに行きたいなら行けばいいのにって言うとこまでしか指示してないよ。婚約破棄したのは本人たちの意思で、元婚約者が速攻恋人と結婚しちゃったのも予想台だった。物理的に離せば姫の身も安全かなと思っただけで」
姫が思った以上に破天荒だったわけね。
「ともかく、今分かってることは3つ。①一度に憑りついて動かせるのは一人まで②憑りつくにも相性がある③誰かと融合しなければ弱体化、あるいは消滅する可能性がある」
社長は指を三本立てた。
「副官君に干渉した時は、『正義の王』は倒れてて敵も一旦離れてたようだね。他の器を探してたんじゃないかな。なにしろ『ヒロイン』とかなり近いにも関わらず『正義の王』を御しきれてないし、もっと他にいい器があればと思ったんだろうね。でもいなかった」
「じゃ、『正義の王』から修正プログラムをひっぺがして消すことができるんですか?」
「不可能ではないんじゃないかな。ただ、その方法はまだ不明」
「あたしがグーパンたたっこめば」
グッと拳握る。
「やめようか」
「やめてください」
「やめよーや」
一斉に制止の声。
えー、なんで。
「あのですね、本気でグロ展開になりかねません」
「げ。それはヤだ。スプラッタは嫌い」
ん。つーことは、なんだかんだでアホ親父はやっぱけっこう強かったってことだね。だって脳天にかましても規制にひっかかりそうな状況にはならなかったもん。
「どっちかっていうと、お祓いみたいな? 陰陽師の知り合いならいるけど、頼んでみようか」
「博士の交友関係どうなってんの?」
「別に。他作ひ……知人に神様の力を持つ陰陽師がいるだけだよ」
そいつ、中二病っすか、マジっすか?
「まぁ、さすがにジャンル違うし、お門違いかな。引き続きワクチンプログラムの研究するよ」
「何はともあれ、どうやら他の人に憑りつくことはなさそうだって分かっただけでも十分ですよ。正直、恐れてた事態は輝夜姫やスミレちゃんが憑りつかれることなんで」
他国出身者で『善』側っていうとその二人だもん。長らく亡命してたローレルさんももしかしたらヤバイかと心配してた。
「特にスミレちゃんが乗っ取られたら、レティ兄さまが暴れる! 大魔王と化す! 恐ろしい……っ」
考えただけでガクブル。
ルシファーもちょっと青ざめてた。
「ヤバイですね。本気で鎖持ち出して、スミレさんをお手製の牢獄に監禁した挙句、治療という名の調教を始めそうです」
「そっち?! 単語が全部危ない! そんでありえそうなのが嫌!」
兄をヤンデレにするわけにはいかぬ。
死ぬ気でこの方角のフラグは根元から粉砕しよう。
「一応バリア的なもの渡しておくね。対抗プログラムの試作品の応用。どこまで効くか分かんないけど」
「ないよりマシです、っつーか社長のなら絶対効果あると思うんで。ありがとうございます」
カード状のそれをもらった。
「便宜上この形にしてあるだけで、形状は念じればいくらでも変えられるよ。持ってるだけで敵が近づけなくなる」
「わあ、すごい。これ、コピーできます?」
「できるよ。魔法で大量コピーとれるよう設定してある」
至れり尽くせり。天才すごい。
「常に身に着けてたほうがいいよね……スマホに仕込んどくのと、もう一個アクセ的なのにしていつも持っててもらったほうがいいかな? ブレスやネックレスは外すこともあるだろうし……ピアスかな……」
うーむ。後でゆっくり考えよう。
「それと菊花ちゃん。スマホ出してくれる? いざって時のホットライン開設しとこう」
「あ、はい」
スマホを差し出した。ルシファーも出す。
「あれ、ルシファーも?」
「ええ。念のため」
「そうだね、そのほうがいい」
社長は人差し指で触れた。
何やらプログラム送り込んでるっぽい。
「はい、これで完了。表示はアプリに偽装しといたよ。これね」
白いウサギのアイコンを指す。
分かりやすい。
「タップすればすぐ僕につながる。何かあったら使って。僕からの連絡も基本的にこれ使うね。新しいワクチンできたりしたら、ここから送るよ」
「了解です!」
ラジャー、とポーズとるあたし。
「オレもやってるけど、女王さんたちからも役立ちそうな情報あったら博士に送っといてくれ」
「頼むよ。……それじゃ、僕はそろそろ。またね」
社長が手を振ると視界が変わった。
元の城内の部屋にあたしたちは戻っていた。
☆
どうやらこっちの世界じゃ全然時間が経ってなかったっぽい。とっさに見た時計の秒針は同じ位置にあった。
夢かと思ったけど、現実な証拠に手の中にはカードが残されていた。
さりげなくそれをしまい、防音の魔法を消す。次にドアへ近づいて開けた。
すぐに兄さまたちが飛び込んできた。
「リリス、なんで防音魔法張った!」
「ルシファー、てめーがいながら何してんだ!」
「今すぐそこのハエ駆除する。どきなさい」
「リリス、ちょーっと外出てな」
「……見ないほうがいい」
「ルシファー、とりあえず一発殴っていい?」
はいはい。こうなるだろーと思いましたよ。
「落ち着いてよ」
「これが落ち着いていられるかっ」
「はいはい。まず、殴られるのはお断りです。で、ほんとに皆さん聞きたかったんですか? 特にサルガタナス様。話してたのは輝夜姫のことなんですが」
ビキッてルキ兄さまが固まった。
あー、考えたね、ルシファー。確かに姫のことも話題にはのぼってた。嘘じゃないもん。
「姫の旅の話……要するに惚気まくってたそうですが、それ聞きたいですか?」
長兄は全力で首を横に振った。
弟妹たちは気の毒そうに沈黙した。
「ですからバリア張ったんですよ」
「そうか……それなら……うう、胃が痛い」
キリキリ痛む胃を抑える真面目人間。ルガ兄様が黙って治癒魔法かけた。
薬処方しなかったのは、効かないからだ。
「ルキ兄さま、大丈夫ー? ま、なんだその、話し合いの結果ね。ベルゼビュート王子には姫連れて来た責任取らせて、しばらく『仲裁役』として滞在してもらうことになったから」
「はあ?!」×6
異口同音の叫び。
あたしはヒラヒラ手を振って、
「あのさ、真面目な話、前回の件もあってベルゼビュート王子は国際的にウチと『正義の王』との調停役みたいに認識されてんじゃん?」
「さらに、公式に諸国一同から調停役として派遣すると命じられたようですしね」
王子が持ってきた同盟の公的文書を出して見せる。
「え、コレにやらせんの? マジで? 諸国王トチ狂った?」
「お前が言うか」
「ナキア兄さま、アガ兄さま、兄弟ゲンカは後でねー。まぁとにかく、公的な仲裁役で他国の王族が滞在してれば、『正義の王』もさすがに攻めこめないでしょ」
そんな状況で兵を進めれば、諸国が認めた和平調停役を無視した→全ての国を敵に回す行為とみなされる。世界大戦に陥る可能性もある。
修正プログラムの目的は元ネタに還すことだ。この時点で世界大戦が始まってしまえば、勝っても負けても元ネタ通りの舞台には絶対ならない。
あっちだってこれは避けたいはずだ。
「こっちとしても戦争なんかお断り。利害が一致してる。だったら協力しようよって話」
「だけどな」
みんなしてうさんくさそうに王子を見やる。
うーん、まぁねえ。コレにどうにかできんの?って能力疑うのも無理ないわな。
ベルゼビュート王子は両手を挙げた。
「輝夜姫を連れて来たのは悪かったよ。でもさ、オレとしても苦肉の策だったワケ。姫は公然とこの国擁護して戦争回避訴えてたんだ、あのままほっといたら反逆の疑いかけられて投獄されてたかもよ?」
「投獄?!」
とんでもない単語にギョッとなった。
「いくらなんでも『正義の王』が」
「最近はあの通り、これまでじゃ絶対やんねーはずの言動ばっかじゃんか。実の娘で次期国王でもっやりかねねーよ」
おいおい。うちのアホ親父も顔負けだな。
「現に、反対意見の大臣や重臣を次々クビにしてってる。アブネー独裁者と化して戦争おっぱじめても驚かないね。だもんで、同盟としちゃ阻止のために急いで行動しなきゃなんなかったわけよ。まずは次期国王で真っ当な考えを持った輝夜姫の保護」
ルキ兄さまがフンと鼻を鳴らした。
「そうやって『保護』しておきながら、さっさと人に押しつけてよこしたな」
ん~、ご機嫌ナナメね。
「どうせ、どこに移すか困ったんだろ。どこの国であれ、見つかった場合、姫を誘拐したとして宣戦布告される。うちなら一見一番ヤバイと思いそうだが、諸国総出で『正義の王』に待ったをかければ現実に戦争にはならない……というか、最悪戦争になっても二国でやりあうだけで済むとふんだんだろ」
えええ。そんな裏が。
完全に面倒なこと押しつけて、しかも自分たちには火の粉かからない方法じゃん。
「さっすが宰相サン。頭い~い。分かってる~ぅ」
フゥ~ウ☆って口笛吹くベルゼビュート王子。
おいコラ。後でちょっと一発殴らせろ。
察したのか、王子がちょっとビクッとした。
「あと、ぶっちゃけていうと、単純に宰相サンが輝夜姫の婿になりゃ話は簡単かな~って」
「断る」
長兄は即答した。
「なんで? 『正義の王』が反対してるからか? だったらさぁ、姫と結婚してあっち乗り込んじゃえばいーじゃん。で、姫を女王にする。姫が次期王になるのは予定通りだろ? それがちょっと早まっただけ。正直『正義の王』は治るかどうかも分かんねーし、あれが王のままでいるよりは輝夜姫が王座についたほうがはるかに安全だ」
王子はどう?と手のひらを見せる仕草をした。
「クーデター起こすんなら、同盟としては協力するぜ」
…………。
あたしはゆっくりまばたきした。
あたしらは現に一度クーデター起こして、父王を引きずり降ろしてる。一度やってるなら、二度目もどう?ってか。
しかも今度は諸国合意の上だ。さらに『バグ』が……ある意味この世界最強の存在が手を貸すと言ってる。
ルキ兄さま、どうするの?
見上げれば、真面目な長兄はやっぱり真面目だった。
「断る」
同じ言葉を繰り返してきっぱり断った。
「俺は静かに暮らしたい。王配なんてまっぴらごめんだ。これ以上の政変も、まして他国への干渉なんてしたくない」
「宰相サ~ン」
「うるさい。宰相だって一年後には引退できるから引き受けただけだ」
どうだろ。一年後、出馬してないのに、投票用紙に名前書かれまくってましたーって事態になりそうだよ?
弟妹全員思ったけど言わなかった。
「王配クン、アドバイスしてやんなよ。いいもんだよって」
「なぜ僕にふるんです。僕とは色々事情が異なるでしょう」
「えー、ダメ? ちぇ、一番楽な解決法なのになー」
「姫に適当な王配を見繕ってクーデター起こさせるなら、お前が立候補したらどうだ」
「?!」×8
なんですと!?
全員ガバッとルキ兄さまを振り仰いだ。
ちょ、本気!?
「お前も一応他国の王族で身分は釣り合う。認知されてなかった俺よりよほど好条件じゃないか? 王になる可能性も低くてちょうどいい」
「イヤイヤイヤイヤイヤ、ないないないない!」
ベルゼビュート王子は大慌てで首を振った。
ん?
「どして?」
素朴な疑問で聞いてみた。
純粋に、興味でさ。
だって元は『バグ』とはいえ彼は自我があるんだし、この世界は元々彼のために作られたようなもんだ。別に誰かを好きになって幸せになってもいいんじゃ?
「あのさぁ。こう言っちゃわりぃけど、大前提として好みじゃねーの」
そこか。
基本中の基本だった。
そいえば王子がこれまで仲良くしてる女性は大抵セクシー系美女だったっけ。
「ふぅん。じゃ、どういう子が好みなの?」
「女王さん、まさかオレの嫁探しもする気? やめてよ。ともかくオレは輝夜姫の王配に立候補は勘弁! あ、姫が魅力的じゃないって言ってんじゃねーよ? 個人の好みの問題。そもそも人の恋路を邪魔はなー」
「チッ」
今、舌打ちしたね? アガ兄さま。
「オレは同盟の使者として調停役果たすために来たの。もち、タダで居候決め込むつもりはねーよ。ちゃんと滞在費払うし。仕事もするよー」
「仕事?」
あたしとルシファーは衝撃に備えた。
「アイドルにオレはなる!」
し―――ん。
デスヨネ―。
「あんれ? 反応わっる。オレ本気よ? イメージアップ手伝っちゃうよ。ファンいっぱい獲得して、戦争反対ラブ&ピース運動。曲作んのに音楽家作詞家、ジャケットカバーやらグッズやらに写真家やデザイナーって雇用も生まれるじゃん。芸術促進政策とも合致してるよ?」
言ってることは正しい。でも元がチャランポランなギンギラギン男なだけに、信用がゼロ。
はあぁ。
あたしは助け舟出した。
「その点は確かにそうだしね。仮にも同盟の使者をあっさり追い返しちゃ、戦争したいのかって思われるかもだし。それはやだ。連携しつつ、『正義の王』牽制図るのが得策かなぁって」
アイドル宣言に露骨な「こいつ馬鹿か」目線向けてたルキ兄さまがため息ついた。
「リリスの意見は分かった。ま、そこのを利用するのはこっちにとっても好都合ではある。搾りかす一滴まで利用しつくしてやろう」
「兄貴、恐~い。あれ、もしかして恋のライバル出現?!に実は内心焦ってる? 口じゃソイツ、姫のこと何とも思ってないって言ってるけど、立場や地位の上じゃ十分王配候補者だもんなー」
「やかましい。誰が焦ってる。俺は姫に興味ないと言ってるだろうが」
スパンとナキア兄さまの頭はたくルキ兄さま。
うーん、読めない。
「いてて。半分冗談だよ。てか、ソイツの滞在認めるんだ」
「今すぐにでもたたき出したいところだがな。現状仕方ない」
個人の感情より大局に重きを置くルキ兄さまならそう判断してくれると思ったよ。
ふう、やれやれ。ルキ兄さまが賛成してくれるなら、他の兄弟も大丈夫だ。
「……のはずなのにアガ兄さま、殺気出まくってる。レティ兄さま、剣の柄から手離して。ネビロスもさりげなく暗器出さない」
こっちが戦争になるっつーの。
一歩踏み出しかけて、人の気配に気づいたあたしは役目を譲った。
「はい、そこまでー」
リリーちゃんが思いっきりネビロスの首根っこを後ろに引っ張った。
「ぐえっ」
首締まるみたいな音したけど無視しよう。そんなんでダメージ受ける弟じゃない。
そのままズルズル外に引きずられてった。
「リリーちゃん、グッジョブ」
さすが飼い主。手慣れてますな。
パチパチ。
ところで呼んだのはルシファーでしょ。
目で問えばうなずくルシファー。
「セーブ役が必要かと思いまして」
「うん、その通り。ありがと」
いつ手配したんだか知らんけど、パーフェクトな対応。
「ん? あれ、レティ兄さまどこ行った?」
今の一瞬でいなくなった。
「リリーさんにはスミレさんと来ていただいたんです。スミレさんもリリーさんなら安心できるようで。もちろん秘密の通路からで、護衛の同僚侍女つけた上でですよ。そうしたら、近づいてきたと気付くや否やフルーレティ様が駆けつけて抱えて行きましてね」
培った瞬発力と機動力の賜物。はっや。
対人恐怖症の彼女に、初対面な上このチャランポランなベルゼビュート王子を会わせたくないのは分かるけど。
レティ兄さま、心配性だからなぁ。このままお嫁さん、自室と職場=あたしの部屋以外どこにも出さないようにするんじゃ……。
……どっかで誰か止めたほうがいい気がする。
まぁともあれ、物理的に距離とって手を塞いだのは正解。
耳をすませば、廊下から妙にウキウキしたネビロスの声が聞こえてくる。
「リリー、どしたの。あっ、もしかして僕と離れてるのが寂しかった? かわいいなぁもう」
「誰がそんなこと言った。寝言は寝て言え」
「えー、僕はちょっとでもリリーと離れると寂しいよぅ。リリー大好き」
「はいはい」
魔法で透視してみると、ご主人様にじゃれつく子犬状態で抱きついてる。
うむ、こっちも両手塞いだ。よし。
「つーか、落ち着きなさい。普通に考えて他国の王族傷つけたら国際問題でしょうが。戦争起こす気?」
「大丈夫、バレなきゃいいんだよ~」
「どこが大丈夫だっ!」
ベシッと教育的指導が入った。
でも末弟うれしそう。
「怒られて何でうれしそうな顔してんのよ。キモイ。そのうち三回回ってワンやるんじゃないでしょうね」
「リリーがやれって言うならやるよ? 回転方法どれがいい? 側転? バク宙? 飛び込み五回転にフィギュアスケート四回転ときてあん馬で最高G難易度やってそれから鉄棒で伸身の新月面?」
「むしろそれできたらかっこいいわ」
確かに!
三回どころじゃなく回ってるしね。しかし、ツッコミどころが多すぎる。
ふーむ、最初は思いつきとはいえ、兄弟にお嫁さん探すのって有効だよねー。あたしへの溺愛ぶりで分かる通り、うちの兄弟は本来愛情深い。気に入った相手には全力で愛情を向ける傾向にある。
妻に注意と感情が向いてれば、安全。
何しろ他のことはどうでもよくなるから、今みたく敵意も戦意もなくなる。
これは早めに残りの兄たちも……。
あれ?
ルシファーにささやく。
「ジャスミンさんは呼ばなかったんだ」
「ええ。この場にはベルゼビュート王子がいますし、この件は一応国家機密です。リリーさんは僕の部下で、スミレさんも組織の協力者。さらに二人ともリリス様ご兄弟の妻なので問題ありませんが、ジャスミンさんはそうではありませんから」
あ、そーね。
ちら、とルガ兄さまを見た。
常に無表情な兄は何の感情も浮かべてない。
自分も結婚してたらここに彼女がいたのに、とか思ってる? それとも考えてもいない?
するとルガ兄さまはあたしの肩に手を置いた。
「……リリス。レティ兄さんとこ一緒に来てくれ」
「どうかしたの? あ、さては過保護なレティ兄さまのことだから、知らない人の前に出されそうになったスミレちゃんが具合悪いんじゃとか心配して診察頼んだんでしょ」
うなずくルガ兄さま。
「……それと別件」
「他にも何かあるの?」
「……リリスがいてくれたほうが助かる」
よく分かんないけど分かった。
あたしが必要ってんなら行きましょ。
後のことはルキ兄さまやルシファーに任せ、あたしとルガ兄さまはその場を抜けた。
*ネタバレ注意*
時定斗真は他作品のキャラです。まぁあっちのほうがかなり先に完結してるんで、多少ネタバレしててもいいかなぁと。
電脳空間上に作った世界だってのは当初から決めてました。斗真を登場させるのも予定通り。私は基本的に作品をリンクさせられるよう作ってます。
え? キャラ流用してるだけ?
……そうとも言う。




