ヒロインの母の変革
「ネビロスとレティ兄さまが片付いて、ルガ兄さまも大丈夫そう。次はルキ兄さまかな~?」
あたしはアトリエでデザイン画描くの休憩して言った。
すかさずルシファーがスイーツ出してくれる。絶妙なタイミング。
「ありがとー」
いやぁ、無事結婚式済んでよかった。正直、その瞬間までリリーちゃんが堪忍袋の緒が切れるどころか細切れにしてネビロスぶん殴って出て行くんじゃないかと。お姉ちゃん不安で不安で。でもそうなったとして納得なのが悲しい。
レティ兄さまのほうはスミレちゃんのドレスへのこだわりとかがすさまじすぎた。自室周りも要塞か?ってくらい守り固めようとして、改造の図面とか作ってて止めるの大変だったわー。
つーか、レティ兄さまもお嫁さんのこととなるとエスカレートする性格だったのね。スミレちゃんの事情って口実で地味婚にどうにかこうにか収められてよかった。
何はともあれ、終わったんだからもうよし。
うん!
「どういたしまして。ルキフグス様というと、輝夜姫ですかローレルさんですか」
「どっちだろ? 分かんない」
それともダークホースが現れるかも。
「ローレルさんは調査隊組んで、各地の遺跡の現状確認に行ってるよね。姫は……」
ちょっと気配探ってみた。
「お。ちょうどルキ兄さまんとこ向かってるっぽい。行ってみよっかな」
ルキ兄さまがいるとこなんて、政務室しかない。
のぞいてみれば、案の定。
「うわぁ。こちゃまた書類山盛りにしちゃって。記録更新してんじゃない? お昼ご飯食べた? 休憩は?」
「後でな。今これを」
「なこと言って、止めなきゃずーっとやってるでしょ! トップが休まなきゃ部下だって休めないんだよ!」
補佐官たちの休息のために無理やり長兄を休ませる。
「はい、エネルギー補給!」
がぼっとナキア兄さま特製エネルギードリンクの瓶を口にぶっこむ。
「ゴフッ。こら、口に無理やりつっこむんじゃない」
「こうでもしなきゃ栄養補給しないじゃん。っと、あっ、輝夜姫、こんにちは~」
ドアのとこに姿を現した輝夜姫に声をかける。
もじもじしつつ、中へは入ってこない。他国の宰相の政務室にズカズカ入ったら国際問題になるからだ。
そこは分かってる割に、アポなしで来たんだね。
どしたのかな?
ルキ兄さまは瓶を机上に置き、冷やかに言った。
「何のご用ですか? 御覧の通り仕事中で、暇ではないのですが」
おや。ずいぶん冷たい対応。
「ごめんなさい。いえ、あの……どうしてもルキフグス様にお話があって……」
頬染めてもじもじ。どう見ても恋する乙女が恥ずかしがってる状態。
ははぁん?
ピンときた。
この数日、スミレちゃんの両親主導であれこれ画策してた効果が出たか。あの二人は人の心理読むのと、陰で動いて対象が自発的に動くよう誘導するのが上手くてね。人目とトラブルを避けて生きてきたおかげで見についたスキル。
「重要な話でしたら、前もってアポ取ってもらえますか」
ルキ兄さま、機嫌悪いっていうか……わざと冷たい態度取ってる?
「ご、ごめんなさい。つい勢いのあるうちにと思って……」
そう言いつつも、姫は引き下がる気ないようだ。
ルキ兄さまはため息つき、しぶしぶ廊下に出た。
あれ、どっか別室に移って話するんじゃないの?
早く済ませてほしいってことか。
あと、めんどーな連中にいちゃもんつけられないよう、証人が多くいたほうがいいってことね。
ルキ兄さまは眼鏡を直し、
「手短にお願いします。何ですか。お父上からまた何か?」
「いえっ、違います。そうじゃなくて……その……」
指を組んだりほどいたり、せわしない。
あたしとルシファーは黙って見守る。姫に付けた侍女たちや衛兵、政務官たちも無言で「空気ですよ」って見て見ぬ・聞かぬフリしてあらぬ方に顔向けてる。
普通こんな衆人環視な状況でなんて、恥ずかしくてできないと思うけどなー。生まれた時から常に周りに人がいるのが当たり前なお姫様は、人の目気にしないんだねぇ。
とか考えてたら、思考を読んだようにルシファーがあたしに何やら言いたげな視線を向けてきた。
え、あたしのほうがよっぽど気にしてないじゃないかって?
そうかなー。
姫はようやく覚悟を決めたようで、顔を上げた。
真っ赤な顔で拳を握る。
「好きな人に会うために来たってお話しましたけど、誤解されてるかと思いましてっ。誤解しないでください!」
「……何が?」
ルガ兄さまっぽいしゃべり方になってるよ。
兄弟だなぁ。
「私が好きなのはルキフグス様なんです!」
爆弾発言をした―――つもりだった。姫本人は。
うん。とっくに知ってる。
全員同じこと考えてるのが分かった。
誰一人驚いてない。うんうんうなずいてる人もいる。
ダヨネー。
渾身の人生初告白したとこ悪いけど、誰もが遠い目になった。
あー。やっと言ったか―。
もちろん知ってたルキ兄さまも似たような表情。
むしろ今すぐ意識だけでもどっか飛ばしたいって感じ?
さすがに一回逃亡してるし、女性が勇気振り絞って告白してるのに逃げるような不真面目な対応はできないってがんばってるな。
周囲の何とも言えないビミョ~な雰囲気に気付かない輝夜姫って大物。
そっか、そういえば『ヒロイン』て鈍感だったな。ていうか、たいていの『ヒロイン』キャラって鈍感だよね。めっちゃ鋭いキャラ設定だったら、話がうまくいかないもんね。
本来その母親キャラだから、どっかズレててニブイんだなぁ。
姫はグッと拳に力入れてもっかい言った。
「父が何と言おうが、私はルキフグス様が好きなんです! だから、どうしてもお会いしたくて来たんです!」
ルキ兄さま―。これもうごまかしたり逃げたりできないよ。答えなきゃダメなやつだよ。
全員がかたずをのんで見守る中、ルキ兄さまはまたしても大きなため息ついた。
ゆっくり伏せてた目を上げ、ひたと姫を見据える。
そこには冷たい光しかなかった。
「つくづく貴女は『お姫様』ですね」
「えっ?」
「自分の言動がどういう事態を引き起こすか、本当に分かってますか?」
丁寧だけど温かみがカケラもない。
う。
これは説教モード!
あたしはちょっとルシファーの陰に隠れた。
だって、ルキ兄さま怒らせると恐いんだもん! 普段温厚で真面目でいい人なだけにっていうか。レティ兄さまやアガ兄さまみたく殺気向けてくるんじゃなく、理路整然・淡々と論破してくる。
冷静すぎて逆に恐さ倍増なのよ。
あたしは頭悪いし、とても言論じゃ太刀打ちできないっつーの。
姫も思わずたじろいだ。
ルキ兄さまは眼鏡の角度をもう一度直して、
「貴女は『正義の王』の後継者で、俺は敵視されている国の宰相。『ロミオとジュリエット』の構図に夢を見ているだけでは? 実際問題、貴女の軽はずみな行動で今何が起きているか理解してますか」
うわぁ、軽はずみって言った。
輝夜姫が青ざめる。
「『正義の王』は怒り狂い、何をしてくるか分からない状態です。周辺国だって、中にはうちの国が貴女を誘拐し、人質にとってると主張するところまで出てくる始末」
「そんな! 信じられない、私がきちんと説明しますわ。自分の意思で強引に来たのだと」
「それでも疑り深い連中は俺たちが無理やりそう言わせてるんだと反論するでしょう」
ベルゼビュート王子って証人がいても、アレだもんねー。ちゃらんぽらんなもんで、証人としての信頼はどうかって言われると……あはは。
ま、そういう連中はどんな証人がいようが自分の主張しか信じないんだけどね。
「このままでは、下手すると貴女の王位継承権も危ないのでは?」
「え?」
「他にも権利保持者はいるでしょう。『正義の王』が反抗する貴女の身分をはく奪することもありえると言ってるんです。ただの平民になるということがどういうことか、本当に理解していますか?」
姫は迷うことなく答えた。
「愛する人と一緒なら、どんな試練にも耐えてみせますわ!」
「その答えがすでに夢を見ているだけだと分かりますね。妄想上では全て貴女の都合のいいようにいくでしょうが、現実はそう甘くありません」
すぱっとぶった切るルキ兄さま。
「衣食住を自力で確保し、自分の力だけで稼がねばならないんですよ。もちろん使用人もいません。かまどの火をつけるのも、洗濯も、着替えさえ全て自分でやるんです。ほっとけば誰かがやってくれる、手伝ってくれる甘ったれた生活だと思わないことですね。食べ物だって、何もしなくても出てくるわけじゃないんですよ。どこで手に入れるのか、どこでどうやって買うのか。そもそも金を使った買い物をしたことがありますか? ふっかけられず、適正な値段で良質のものを手に入れることができますか?」
「……ない……です……」
淡々とたたみかけられて姫泣きそうだ。
豊かな国のお姫さまな輝夜姫に、貧しい生活なんて分からない。想像はできても見たことも実体験もあるわけじゃなく、ただの想像だ。
ドレス仕立てるのも値段気にしたことないだろーね。
ていうか、貨幣価値きちんと理解してるかどうか。
「父王に切り捨てられた者の暮らしがいいわけがありません。王の怒りを恐れて誰も助けれはくれず、敵意や悪意を向けられ、自分の力だけで生きなければならない―――どれほど辛く苦しいか分かりますか?」
「…………」
…………。
あたしは黙ってルキ兄さまを見やった。
あたしがルシファー親子に頼んで集めてもらうまで、そうやって独りで生きてきたんだよね。
一番上の子供なんだから、辛い時間が一番長かったはず。
輝夜姫は青くなって絶句したまま震えてる。
「さらに厳しいことを言うようですが、貴女の滞在費。どこから出ているとお思いですか」
予想外の質問に姫は目をまたたかせた。
「……え?」
「貴女の食費やドレス代に装飾品の代金、水道光熱費に余計にかかる人件費。全部タダじゃないんですよ。人が生きるには金がかかるんです。貴女が国にいた頃は税金でまかなわれていたはず。知ってたかどうか知りませんが。では、今は?」
姫の顔色がさらに悪くなった。
「……まさか、こちらの国民の税金から……?!」
ルキ兄さまはあきれたように、
「血税を使えるわけないでしょう。他から出してますよ」
「具体的に言うと、ルキ兄さまの個人資産からだよ」
あたしは口をはさんだ。
ルキ兄さまが「言うな」と顔をしかめる。
だって、自分じゃ言わないでしょー。
輝夜姫は慌てた。
「そんな! 申し訳ないです。ええと、でも、お金は持ってこなかったし……どうしよう……」
ちなみに変装して国を出てからうちに来るまでの、諸々かかった費用は全部ベルゼビュート王子が負担してたらしい。ルシファー調べ。
お姫様だもん、家出するのに資金持ってくなんて考えもしなかったんだろーね。ベルゼビュート王子も分かってて、姫には悟らせずに支払っててあげたっぽい。
ベルゼビュート王子も王族だけど、さんざんあちこちフラフラしてたんで、金銭感覚はしっかりしてるわけ。むしろ庶民じみてる。
「貴女は夢に浮かれて現実が見えていない。今一度よく考えられたほうがよろしいでしょう。失礼」
ルキ兄さまは言うだけ言ったという感じで部屋に戻り、さっさとドアを閉めた。
…………。
あたしとルシファーは黙ってルキ兄さまがデスクに戻るのを眺める。
「何だ、リリス。何か言いたげだな」
「別に、非難するわけじゃないよ。むしろよく言ったなぁって思ってるくらい」
責めるつもりはないなぁ。
ルキ兄さまは眉を上げた。
「誰かがはっきり指摘したげないといけないことじゃん?」
「ほう。……こっちにいて、姫のほうに行ってやらなくていいのか」
「へこんでるだろうから? きついこと言っても優しいよねー、ルキ兄さま」
ははっ。
言ったのもわざとだもんね?
誰かが言わなきゃならないから、自分が悪役になったんだよね。
「妹のあたしじゃ、姫も複雑でしょ。それにあたしなんかよりアフターフォロー上手い人たちに任せたほうがいいって」
女官長とか、姫につけといた凄腕侍女たちにお任せしよう。
プロに頼むに限る。
「賢明だな」
「……ねぇ、ルキ兄さま」
あたしは近寄って、ちょいちょいと袖を引っ張った。
「今はもうあたしたちがいるよ」
だから、寂しくないよ。
「…………」
真面目でいい人な長兄は微笑んであたしの頭をなでた。
「―――ああ、ありがとな。かわいい妹と騒がしい弟たちがいて退屈しないよ。ありがとな」
「うん」
優しい一番上のお兄ちゃん。
ねぇ、輝夜姫? これでくじけるようなら―――あなたは大事な兄を任せるには足りなかったってことね。
☆
ルキ兄さまの仕事の邪魔しないようアトリエに戻ってくるとルシファーが言った。
「姫はこれでどうするでしょうか」
「さあ? 帰るか、それとも額に発奮するか。どっちになるか、あたしにも分かんないね」
くるっとペンを回す。
ローレルさんは現在、調査隊を編成して各地の遺跡を一通り見て回りに行ってて不在だ。どんな状態か確認し、必要な手配するためにやらなきゃならないことが山積みだとか。
調査隊に潜り込ませてあるスパイによれば、何度かルキ兄さまの話してたらしい。全体的に好意的でとても尊敬してるのが伝わってくると。
それが果たして恋愛感情か、そうでなくてもそのうち恋に変化するのか。まだ分からない。
そこへ姫につけてた侍女が伝言持ってきた。
……話したいことがある、か。
「OK。こっちが行く」
気分的にそのほうが楽でしょ。
行ってみると、輝夜姫は妙に落ち着いてた。
あれ。ショックで泣いてるかなーと予想してたら、追い込まれると冷静になるタイプだったか。
ま、そのほうが助かる。ヒステリー起こされて泣きまくられるの慰めんのはめんどい。
姫はキッと顔を上げて言った。
「リリス様、お願いがあります」
「お願い?」
おや。
姫は殊勝に自らの非を認めた。
「情けないことに、私は指摘されるまで自分の行動がどんな事態を引き起こすか、分かってませんでしたわ。ただ両国の友好の懸け橋になれるんだから誰もが賛成してくれるとばかり。夢を見ていたんですね。都合の悪いことは無視して。……なんて愚かな」
「うん、まぁね」
キツイと知りつつ肯定した。
ここで「え~、そんなことないよ~」って言っても、そんなの本人のためにならない。
『ヒロインの母』は『善』のキャラクター。基本的に性善説で物事を考えるよう設定されてる。つまり、どんな悪人も話せば分かるって考え方だ。
そして最終的には必ず自分の側が勝つ。
なぜなら彼らこそ『正しい側』だから。
「私がいることでお金がかかるなんてものすごく当たり前のことにも気づかなかった。こちらの国は財政難から立ち直ったばかりで、他国の王族の滞在費なんて負担でしかないのに。私なんかより、もっとたくさんの困ってる人々に使うべきなのに……!」
輝夜姫は膝の上で握りしめてた手をさらにきつく握りしめた。
覚悟を決めたように前を向く。
「ここで帰るわけにはいきません。私が来たのは、両国の懸け橋になりたいから。もてなされるだけで、何一つせずにおめおめと帰るなんてできません!」
「……へぇ」
あたしは眉を上げた。
「じゃ、どうするの?」
「私の知名度を利用します。ネームバリューを生かし、この目で見て感じたことを世界に広く訴えるんです。ようやく私の名が役に立ちます」
「本気だね」
今までの、どこか夢見てるようなフワフワした空気はどこにもなかった。
「ええ。タダメシぐらいなんて駄目ですわ。働かざる者食うべからずと言うでしょう。滞在させて頂く代わりに働かせてください!」
言って頭を下げた。
「…………」
衣食住の代わりに働くと?
生粋のお嬢様、働いたことなんてないお姫様がここまで覚悟決めたか。
あたしはふぅと息を吐いた。
どうやら輝夜姫は一回フラれたくらいでしっぽ巻いて逃げ出す性格じゃなかったようだ。
さすがは『ヒロインの母』ってことかな。簡単にあきらめるなら、娘であるヒロインが世界を救うなんてできない。それ以前に終了だ。
彼女なりに自分でできることを必死で考え、人に頭を下げてまで頼んだんだろう。
「いいよ、分かった」
あたしはあっさり受けた。
「確かに輝夜姫に合ってて一番適してるのは広告塔だろーね」
コラボしたファッションアイテムの売り上げもなかなかのもんだ。たぶんそこからヒントを得たんだね。
「そーだねー、姫の職業、レポーターはどう?」
「レポーター?」
「そ。ホラ、うちの国あちこちに観光名所作ったんだけど、まだまだ知名度も低いし観光客も少ないのよ。キャンプ場、アスレチック施設、温泉、海水浴場……色んなとこ回ってネットで配信してほしいんだ」
インフルエンサーの輝夜姫にはぴったりでしょ。
執事のごとく後ろに控えてるルシファーを振り返れば、
「テレビのスタッフ及び機材の手配完了いたしました。姫のマネージャーとファッションコーディネーター・メイクスタッフとして侍女も手配。護衛も手練れを配備します。移動手段も確保しました」
おう、まるきり執事。しかも超有能。
「さすがルシファー、言わなくても準備してくれるなんてっ。ありがと、大好き!」
ぎゅっと腕に抱きついた。
「いえいえ。リリス様のためなら僕は何でもしますよ」
うふふー。
輝夜姫が何とも言えない顔でルシファーを眺めた。
「……リリス様、ルシファー様って王配というより侍従みたいです」
「違うよっ。臣下じゃなくてあたしの大事な旦那様だもん!」
ぷく、と頬ふくらませる。
「そーいえば輝夜姫、ルキ兄さまのことはどーすんの? あきらめたの?」
「とんでもない!」
姫はガバッと立ち上がった。
「むしろもっと好きになりました!」
盛大な告白2。本人いないけど。
……おおっ?
「立場や状況関係なく、間違っていることはきちんと教えてくださるなんて。さすがですわ、尊敬します! 立派ですわ! 確かにさっきまでの私の感情は恋に恋していただけだったんでしょう。理想そのものの男性を見て、夢に浸っていただけ。でも今は違います。本当にあの方が好きになりました!」
「…………」
……んん?
なんかデジャヴ?
眉をひそめる。
似たことがどっかで……。
あっ!
唐突に気づいた。
これアレじゃん、あたしじゃん!
理想の容姿なルシファーを一方的に好きになって、会えて浮かれてた。でも実際は妄想とは全然違う人だった。
輝夜姫もルキ兄さまのことはほとんど知らなかったはず。せいぜい知ってただろうってのは顔と、隣国の王の長子だけど実子認定されてないってこと。ただし王の子なのは周知の事実で、下っ端役人からクーデター後は宰相になったことくらい? そのくせ王族の籍に入るのは拒否したって点も。
あとは有能さと、いい人で真面目ってとこかな。
そんな好みどストライク男子に勝手に妄想して盛り上がってたら、思いっきり水ぶっかけられて目覚めた、と。
……うわぁ、構図似てるぅ。
うめきたいのをこらえて眉間を押さえた。
ルシファーがそっとその指を外す。
「似てますね」
「あ、ルシファーも気付いた?」
「ええまぁ、自分のことですし。ルキフグス様に本当に嫌ならいっそ強硬に拒絶したらどうですか、と言ったのがこうなるとは」
自分の経験からくるアドバイスですな。
したら、同じようなオチだったと。
なんもいえん。
「まさか最初に戻るとは」
そりゃ、今んとこあたしはそのせいでシナリオの流れ変えられてんだけど。
ちょいちょいとルシファーを手招きする。身をかがめたところで耳打ちした。
「同じパターンなら、同じように破滅ルート回避できるって意味かな?」
「可能性はありますね」
「でもあたしらと違って『ヒロイン』が誕生しなくなっちゃうよ」
ヒソヒソ話に輝夜姫が首をかしげる。
「どうかしましたの?」
「あ、ううん、なんでもない」
「そうですか? とにかく、もうしばらくいさせてください。今度はちゃんと働いて、ルキフグス様に好きになってもらえるよう努力して、もう一度告白します! 振り向いてもらえるようがんばりますわ!」
「そ、そう。えー、じゃ、レポーターよろしく」
てわけで、『ヒロインの母』がジョブチェンジしました。
新職業、ヨロシクお願いシマス。
☆
レポーター輝夜姫は優秀だった。
元々公務で社交慣れしてる上、ネームバリューは抜群。あっという間に国内の観光スポットは国外からの観光客で大賑わいになった。
姫の影響力すごい。さすがは『ヒロインの母』。
「まさかここまで簡単に観光客激増するとはな」
とは報告受けたルキ兄さまの言。
「そりゃー世界的有名人で善の象徴『輝夜姫』だもん。彼女が言うなら本当だって人は信用するし、面白そう行って見たいって気にもなるよね」
「姫の行動について『正義の王』の反応は?」
「泡ふいて倒れたまま、いまだにベッドでうなっててそれどころじゃないようですよ」
気の毒。
……もしかしたら、本来『善』キャラなのに悪役まがいのことさせられてる拒絶反応なのかな?
「ルキフグス様としてもよかったのでは? 収録のため、姫はしょっちゅう出かけてて今までのように始終熱い視線向けられずに済んでるんですから」
「ニヤニヤして言うな。この性悪め」
睨むルキ兄さま。
まぁねー、モニターも兼ねて宿泊施設に泊りがけの収録もけっこうあるもん。出かける時と帰って来た時の報告時くらいになったよね。
「ルキフグス様も男なら、あんな美人が好意ダダもれでウットリ見つめてくれば悪い気はしないでしょう? まぁ僕はごめんこうむりますがね。リリス様以外興味ないので」
ぱぁっ。
うれしくて抱きついた。
「ルシファー、大好きっ」
「リリス、その極悪野郎から離れなさい。……俺だって迷惑だったんだ。いない時間が増えてよかったよ。これでようやく仕事に専念できる」
え、あれで集中できてなかったの? どこが?
「でもさ、輝夜姫本気だよ? めげずにルキ兄さま好きだって言ってたじゃん」
ルキ兄さまはものっそい苦虫かみつぶした。
レポーターとして働くと報告した際、輝夜姫は改めてルキ兄さまに告白した。
「立場などおありでしょうに、正直にご指摘して下さってありがとうございました。やっぱり私、貴方が好きです。……返事頂けるとは思ってません。いいんです、ただ伝えたかっただけですから。今の私のままじゃ駄目だってことは重々承知してますし……。これから、がんばってルキフグス様に好きになってもらえるよう努力しますわ。たとえそれが恋愛感情じゃなくても、人として好きという意味でも構いません。この想いが叶わなくても、想うことだけは許してください」
堂々と片思い宣言してたっけねー。
うーむ、思いきりがいい。フラれたのだれもが知ってる中で、それでも好きだと言い続けるってメンタル強いなぁ。
あたしなら無理。
「すごいよね~」
「リリス、お前が言うかって感じだが……」
「そーお? あれ、どしたのルシファー?」
ふと見れば、真剣な表情で誰かと連絡とってる。
「……失礼しました。ルキフグス様、国境より緊急連絡です。他国から国書が届いたと」
思わず椅子から立ち上がるルキ兄さま。
「なに? 『正義の王』が宣戦布告したか?!」
「いえ、違います。北です。ベルゼビュート王子が国書を持った正式な使者としてやってきました」




