異母兄弟 イケメン6人 ゲットした(一句できた)
父は翌日にはあたしとルシファーの結婚を法的に成立させた。
まぁ、いくら公爵が嫌がっても拒否できなかった話なのよね、元々。でもあたしが味方と分かったことで公爵も安心したらしく、抵抗はしなかった。
まだ二人とも子供ってことで、式はなし。単に書類にサインしただけで終了だ。
とはいえこれであたしと彼は夫婦。
ふふふふふ。
危ない笑みを浮かべるあたしを何人かが不気味そうに見てたけど、無視した。
人質をとった父は満足げだった。ルシファーに、
「今日からお前もリリスと一緒に暮らすがいい」
人質だからね。あたしの部屋の隣に部屋が用意されてる。
「承知いたしました」
「ふむ。……む、おい、酒がもう空だぞ! 注がないとはどういうことだ!」
祝杯ということで公爵家のワインを開け、朝から酔っぱらっている父は赤ら顔で怒鳴った。
完全にアル中の酒乱だ。
「王のグラスを空にしておく不届きものめ!」
空になっていればこう言うし、注げば注いだで「もういらん。分からんのか」って言う。どっちにしても難癖つけて怒鳴りたいだけのくせに。
ふらつく足取りで剣を抜き、侍女に向ける。
「処刑だ。成敗してくれる!」
侍女は真っ青になって震えている。へたり込んでしまって動けない。
あたしは冷静に近づいた。
「お父様。お父様が自ら手を下されることはありませんわ。あたしが始末しておきます」
今までしゃしゃり出てきたころのないあたしが言い出したことに、父も驚いた。
「む。リリス?」
「あたしも結婚したことですし、しっかりせねばなりません。そろそろお父様を見習って行動せねばと思いまして。任せていただけますか?」
「むう……」
虚栄心をくすぐる。
「王は命令なさればいいのです。手を汚すのは臣下がやりますわ」
「ふむ、よい心がけだ。そうだな、お前にもそろそろやり方を教えておいてやろう」
「ありがとうございます」
丁寧に礼をして、衛兵に侍女を連行させた。
あたしの部屋まで連れてこさせ、「そこらに置いておきなさい」と命じる。衛兵はさっさと仕事を済ませると出て行ってしまった。
あたし付きの侍女たちも恐れをなして逃げてしまう。とうとう娘までかと、自分に塁が及ぶのを恐れたんだろう。
好都合だ。
残ったのはあたしとルシファー、当の侍女だけ。
彼女はぶるぶる震えている。
ルシファーは何をするつもりかと黙って見ていた。
あたしはすばやく周囲を確認し、たずねる。
「他に誰もいないわよね?」
「ええ、いませんが」
「なら大丈夫」
床に座り、侍女と目線を合わせた。
「父がごめんなさい。今からあなたを逃がしてあげる」
ルシファーと侍女の目が大きく見開かれる。
え、ルシファーはそんな驚くことないでしょ。
「ルシファー、人ひとり逃がすくらい簡単よね?」
「まぁ、なんとかできますけど……」
「じゃあ、処刑したと見せかけて逃がしてちょうだい。今後の働き口も見つけてあげて」
「リリス様、本気ですか?」
バレたらあたしもヤバいだろう。分かってる。
「言ったはずよ。これまではだれも助けられなかったけど、これから起きることは防ぎたいって」
真剣にルシファーをみすえた。
「……分かりました」
ルシファーは組織の息のかかった衛兵を呼んだ。あれこれ指示する。
「君、この兵士について行って。こっそり脱出できる。リリス様が処刑したと見せかけ、死体も処分したように偽装するから心配いりません」
侍女は涙を流してあたしの手を取った。
「も、申し訳ありません……! 王女様、これまでの非礼をお許しください! 悪魔の娘だと、皆と一緒になってあんなに嫌がらせしたのに……!」
「ああ、嫌がらせなら慣れてるから。気にしてないわよ」
ケロッとして言う。
転生してこのかた、どれだけ毎日やられたと思ってる。もう感覚マヒしてるって。
「それより早く。怪しまれる」
「はい……。ありがとうございます」
彼女は何度も何度も頭を下げて出て行った。
……よかった。
ルシファーは何か言いたげな顔だった。
☆
一応王女夫妻が暮らすってことで、侍女や侍従が増員されることになった。密かに味方を紛れ込ませ、徐々に入れ替えていく。
家庭教師も組織の息のかかった者に変えた。いつか父を倒すのに、知識は必須。がんばって勉強した。
魔術や武術の稽古は城じゃできない。「組織の監視に行きます」と父をだましてちょくちょく公爵邸に行き、稽古をつけてもらった。
何日経ったか、思ったより早いうちに異母兄弟が集まったと言われた。
やっぱり組織を味方につけておいてよかったと思う。あたし一人じゃとうてい無理だった。
兄弟は全部で六人。
しかも全員イケメンだった。
ふおおおおおおお!
「きゃああああああ!」
思わず歓声をあげたあたしは悪くない。
悪くないよ!
イケメン兄弟が六人もですよ! なにこのイケメンパラダイス!
全員自分の兄弟とか天国か。あたしは死んであんな父のいる地獄へ来たのかと思ってたけど、天国だったのね!
ふふふふふふふ。
むちゃくちゃうれしそうに妄想に突入してるあたしを、六人は引き気味に見てたけど。
あたしの奇行に慣れた公爵は冷静に紹介した。
「紹介します、リリス様。年の順に……長男ルキフグス様。二十歳。現在下級官吏」
黒髪メガネ、真面目でお堅そう。黒い瞳。
ロコツにバカを見る目でメガネをくいっとやられた。
うん、たまらんわ。
断っとくが、あたしはMじゃないからね!
インテリ黒髪メガネ男子、いいじゃない。クーデレですよ。
「次男サタナキア様。十八歳。下町の食堂で働いています」
長い金髪を後ろで一つにまとめてる。ちょっと軽い感じ? 青い目。
見るからにプレイボーイだ。この人目当ての女客多そう。チップだけで暮らしていけそうだね。
大丈夫? マダムとかに買われそうになってない?
ところでその店どこ? あたしも行くわ。
「三男アガリアレプト様。十七歳。商人です」
青い髪に群青の瞳。俺様キャラ。
偉そうに睥睨してる。シビアなビジネスで一代でのし上がったみたいな。
俺様系も好きですよ。壁ドンが似合う。いいねぇ。
「四男フルーレティ様。十四歳。傭兵です」
赤い髪に茶の目。十四でも筋肉もりもり、腹筋割れてるマッスル体育会系だ。
見るからに強そう。正規の軍人じゃなく傭兵なのは、父にうとまれたせいだろう。
スポーツマンもいいねぇ。
「五男サルガタナス様。十三歳。現在医学部在学中です」
紫の髪に灰色の目。無口キャラ。
この国では十五で成人だから、日本でいう大学は十三~十五で通う。
医者になったら診察の時はちゃんとしゃべったほうがいいと思うよ。確実にこの人目当てで女性患者殺到するけどね。
「六男ネビロス様。九歳。この方だけリリス様より年下ですね、弟君です」
緑の髪に深緑の目。
弟キャラ、キタ。子犬みたい。
知らない人ばかりでおどおどしてる。かわいい。なでまわしたいっ。
え、セクハラ?
「はああああ! これ全部あたしの兄弟?! 本当に?!」
今すぐお持ち帰りさせてくれ!
タイプ違うイケメンが六人もとか、逆ハーレムじゃん!
マジか。いや、このゲーム元から逆ハーレムものだけどさ? ヒロインがそうなるのは分かってたけど、悪役令嬢の『魔王の母』までそうとは知らんかった。出てこなかったもん。
いいなぁ。イケメン兄弟に溺愛される妹ヒロインとか鉄板じゃん。
うふふふふふふ。
「はい、そうですよ。ちなみに全員母君は亡くなられています」
「―――」
すっと顔を引き締めた。
「……あたしの母みたいに自殺? それとも、父に殺された?」
「陛下に殺された方が二人。四名は捨てられた後、病気などで死亡しています」
「そう……」
あたしはおもむろにひざを折った。
がばっ。
「ごめんなさい!」
土下座する王女にみんなあっけにとられた。
ルシファーがおずおずと、
「いや、リリス様、貴女が謝ることではないのでは?」
「だって! あたしは一応唯一の王女だもん。みんなのお母さんを殺したのは父。だから、あたしが責任とらなきゃ……っ」
助けられなかった命。
いくつもの光景が頭をよぎる。
何度も何度も、あたしは助けられなかった。不興を買った人が惨殺されるのを何回も見た。
恐くて恐くて、震えてることしかできなかった。
吐き気がする。
カタカタ体が震えた。
「ごめんなさい、助けられなくてごめんなさい……!」
ぼろぼろ涙がこぼれてくる。
実際やったのは父。でも止められなかったあたしにも咎はある。
ルシファーがそっとあたしを起こした。
「リリス様。悪いのは貴女の父であって、貴女に罪はありません」
「だけど、あたしは止められなかった……っ」
今だって、媚売って影でこっそり逃がすしかできない。それも組織の力を借りなければ無理だ。
あたしが独力でなしえてるわけじゃない。
涙で視界がぼやける。
ルシファーは涙をぬぐってくれた。
笑顔。裏のない、優しい笑い。
何日か一緒に過ごすうち、本当に笑っているのかどうかくらいは分かるようになっていた。
「貴女は子供なんだから、どうしようもなかったんですよ。誰だって貴女の立場ならできなかったでしょう。それに貴女も母上を自殺に追い込まれているじゃないですか」
覚えてもいない母。顔も知らない。
だから母と言えば転生前の母だって意識が強いけど、こっちの母も会いたい気持ちがないといえば嘘になる。
「ふえ……」
涙が止まらない。
一番上の兄がゆっくり近づいてきた。
殴られても仕方ない。
あたしは覚悟を決め、ぎゅっと目をつぶった。
―――ぽんぽん。
兄は優しくあたしの頭をなでた。
え?
驚いて見あげると、長兄はどこかあきれたような顔をしていた。
「私の母は君が生まれる前に死んでいる。君のせいじゃない」
「……でも……」
あたしが生まれた後に死んだ人もいるはずだ。
「悪王の非道を、いくら娘でも子供のせいにはしないよ」
「……殴らないの?」
父の代わりに殴られる覚悟はしていた。
「殴ってほしいわけじゃないだろう?」
ぶるぶる。
すばやく首を横に振る。
「大体、子供にも非があるなら、私も認めたくないがあの父の子だ。自分にも罪があるってことになる」
「皆は悪くない!」
叫べば、兄はまた頭をなでてくれた。
「だろう? だから、同じようにリリスも悪くないんだよ」
……優しくて大きい手。
「……あたしのこと、気味が悪いって思わないの?」
乳母にすら気味が悪いとさげすまれた。侍女も「悪魔の娘」と言って嫌々仕事している。嫌がらせは連日のことで、近づきもしない召使も多い。
兄は困ったような顔をした。
「……いつもそう言われてるのか? そんなことはないよ。猫みたいで可愛い」
猫みたい。ルシファーにも言われた。
左右非対称の瞳だから、オッドアイの猫ってことか。
「君はいい子だ。会えてうれしいよ」
あたしはぎゅっと長兄の服をつかんだ。
「……お兄ちゃん、って呼んでいいですか?」
兄は切れ長の目を見開き、微笑んだ。
「ああ、いいよ。可愛い妹ふができて私も嬉しい」
「あー、ずるい! 俺も俺も!」
がばっ。
二番目の兄が後ろから抱きしめてきた。
「もー、可愛いなぁ! ほんと子猫みたい。こんなに可愛いい妹がいるなんて知らなかったよ。しかもいい子! あのクソ親父によくぞ似ないでくれた。きっと母親ができた人だったんだな」
「あ、あの……」
二番目の兄は愛情表現豊かなようだ。
「リリスって呼んでいい? オレもお兄ちゃんって呼んで!」
えーと、次男はサタナキアだから……。
「ナキア兄さま?」
兄はとたんにでれっと目じりを下げた。
「かーわーいーいー! 妹最高!」
「やめろ変態」
三番目の兄が二番目の兄からあたしを奪い取った。
「妹に近づくな。変態がうつったらどうする」
「あ……アガ兄さま、大丈夫よ?」
三番目の兄アガリアレプトはあたしの髪を直してくれた。意外とマメらしい。
「綺麗な髪が台無しだ」
「それにしても小さいな。ちゃんと食べてるか?」
ひょいっ。
四番目の兄フルーレティに持ち上げられる。
「きゃっ、レティ兄さま!」
「軽いなぁ。体力づくりしたほうがいいぞ」
五番目の兄サルガタナスが無言であたしを引き取り、下ろした。
「……時々健康チェックする」
「ルガ兄さままで」
首をかしげる五男。
「……呼び方が?」
「あ、えっとね、サル兄さまやナス兄さまだとちょっとアレでしょ? だから真ん中からとったんだけど……嫌?」
「……嫌じゃない」
無表情だけど喜んでるらしい。
「みんなずるいーっ。ぼくも!」
「きゃっ」
ど―――んっ。
後ろから弟ネビロスが飛びついてきた。
「姉さま、ぼくもいるんだからねっ」
はうう、可愛い。子犬がしっぽ振ってる。
「ネビロス、可愛い~っ」
ぎゅーっと抱きしめる。
父はあんななのに、異母兄弟はみんな優しい。
うれし涙が出そうだ。
ルシファーがハンカチを差し出した。
「よかったですね、リリス様」
「うんっ!」
満面の笑みで答えた。
「みんな、大好き!」
☆
一段落したところで、本題に入った。
「あたしは十五歳の誕生日にクーデターを起こして、父を倒す」
そう言った時、みんな仰天してた。
そりゃそうだ。
「言っとくけど、あたしが王になりたいからじゃないの。王の子として認定されてるのがあたしだけだから、とりあえず旗印になるだけ。もしみんなのうちで王になりたい人がいるなら、喜んで譲るわ」
いる?
兄弟を見回す。
名乗り出る人はいない。
「形式上、一旦あたしが女王になって、みんなを兄弟と認定する。その後で譲位すれば、法律上問題ないはずよ」
「それはそうだけど……リリスはいいのか?」
ルキ兄さまがきく。
「全然。いい王様になってくれるなら、誰でも」
破滅ルートは回避できるし。
「別に私は王になりたいとは思わないから辞退するが。女王を辞めたら、リリスはどうするんだ?」
やめたら?
それは考えてなかった。
うーん。
「そーねー。そしたら世の中を見て回る旅をするかも」
ゲームの世界をリアルに旅する。それはすごく楽しそうだ。
……ああ、そうだ。
それより。
「それより、え、じゃあ兄弟蹴落として自分が王様になってやれー♪なーんて考えで争い起こしたら……」
あたしはグーパンに魔力をこめた。
むちゃくちゃ高濃度の魔力が拳を包む。
「この鉄拳で粉砕するから」
ずざっ!
ルシファーと公爵がすかさず後ずさった。
え、なに?
笑顔で話してるじゃーん。
脅しじゃないよ~?
うふふふふ。
青い顔の公爵親子を兄弟が見、あたしに目を移してちょっと青くなってた。
だから脅してないってー。
あたしは魔法を消して、
「てわけで、もし協力してくれるなら、お願いしたいの」
「分かった」
全員うなずいた。
ありゃ。ずいぶんあっさり。
「どうしたリリス、拍子抜けしてるな」
「だって、ナキア兄さま。嫌がられるかもと思ってたから」
「協力するよー。可愛い妹の頼みだしね。俺たちだって、あの親父が王なのは嫌だからさ」
「そうだな。あれじゃ早晩国は終わりだ」
「下手すりゃオレらもそのうち殺されるし。自衛だよ、自衛」
「……リリスの頼みだ。やる」
「姉さまのためならぼくもやるよっ」
「みんな……ありがとう」
改めて頭を下げた。
大丈夫。
兄弟力を合わせれば、きっとできる。
そういえば、みんな今どこに住んでるんだろう?
公爵いわく、これまで兄弟はお互い会ったこともなかったらしい。存在も知らず、それぞれ別々に暮らしてたそうだ。みんな母親が違うしね。
異母姉妹、つまりあたしがいることは知ってたみたいけど。公認されてる王女だからね。
傭兵のレティ兄さまだけは戦場、他の兄はどこかに部屋を借りて暮らしてるそうだ。
弟ネビロスは孤児院だった。
「だめ! 絶対孤児院には帰さない。ネビロスはあたしと一緒に暮らすの!」
猛反対した。
恐怖政治のせいで孤児は増えているが、補助金も寄付も少なく、孤児院はほとんど機能していない。そんなところへ可愛い弟を帰せるか。
公爵も反対しなかった。
「そうですね、それがいいかと思います」
「あ、ネビロスがいた孤児院にはこれを」
あたしはブレスレットを外し、公爵に渡した。
「そこそこの値段で売れると思うわ。そのお金で孤児院にいる子たちにごはんをあげて」
「いいのですか? 陛下にバレたら危ないのでは?」
「別に。父はあたしの持ち物なんか気にもとめないから」
それに、あたしの持ち物が消えたり壊されたりすることはしょっちゅうだった。侍女や護衛がくすねたり、嫌がらせで壊すんだ。ルシファーのおかげで回りが味方だけになったから、そういうことはなくなったけど。
どうせなくなっていたもの。人のために使われるほうがいい。
「……ぼく、姉さまと一緒にいられるの?」
「そうよ! あたしのところにいれば、少なくとも食べ物には困らないわ」
侍女も料理人も組織の息がかかった者に変わったから、安心して食べられる。
「食べ物なら俺に任せろ」
ナキア兄さまが出てきた。
「俺は料理人だからな。毎日おいしもの食わせてやるぞ~」
「あっ、ナキア兄さま、料理人だったの?」
てっきりウェイターかバーテンダーかと思ってた。
「そうだよ。食べたいものがあるなら言いな、何でも作ってやる」
「食料でも服でも欲しいものがあれば、俺が調達してきてやる」
アガ兄さまは商人だっけ。
「オレは護衛やるぜ。得意だからな。リリスは俺が守ってやるよ」
「レティ兄さま」
「……健康管理は任せろ」
ルガ兄さまは医大生だったよね。
「じゃあ、みんな一緒に暮らしてくれるの?」
「もちろん」×6
やった!
ぎゅーっとネビロスを抱きしめる。
「姉さま、だーすき」
「あっ、ずるいぞ! 俺も!」
「オレもオレも!」
「ほどほどにしておけ」
六人の兄弟に代わる代わる抱きしめられる。
ふふ、幸せ。
ふとルシファーが目に留まった。
少し離れたところで黙って見ている。
…………。
あたしは彼に微笑んだ。
「大丈夫よ、ルシファー。心配しないで。その時はちゃんと離婚するから」
「え?」
理解できないといった感じだ。
あたしは彼の前に立ち、まっすぐ目を見て言った。
「父が失脚すれば、もうあなたが人質でいる必要はない。兄弟の誰が王になっても、あなたの身の安全は保障される」
ね?とみんなを見回せば、賛同の印にうなずきがあった。
「あたしは……あなたが好きだから結婚はうれしかったけど、あなたが嫌がってるのはちゃんとわかってるつもりよ。全て終わったら解放するから心配しないで」
嫌だけど……悲しいけど! 好きな人を縛れない。
好きでもない女と人質まがいに結婚させられて、嫌でたまらないのは分かってる。
つい好きなあまりグイグイ押しまくって結婚させちゃったけど、反省してた。
「この結婚が政略だっていうのは誰もが知ってるし。ごめんね、無理やり結婚させて。五年……あと五年の辛抱だから。五年後には必ず解放してあげるから。好きな人と結婚して幸せになってね?」
がんばれ、あたし。
笑顔だ笑顔。
泣くな。
五年も好きな人と一緒にいられるんだからいいじゃない。
あたしとルシファーが分かれれば、魔王は絶対生まれない。最悪のルートは回避できる、そう考えれば耐えられるはず。
それに、相手のことを本当に想うなら、解放してあげなきゃ。
本当に好きっていうのは、好きな人が幸せであるのを願うこと。無理やり縛りつけることじゃない。
でも、彼が誰か他の人と再婚するところなんて見たくない。
だから旅に出よう。
そう思って言った。
遠くからなら、彼の幸せを祝福できるかもしれないから。
「―――リリス様」
あたしは必死で笑顔を作り続けた。
父に殺されないようにするため、気持ちを隠して笑顔でいることは慣れてる。
大丈夫。
あたしと離婚できると知って、ルシファーが喜んでても、狩れが幸せになるためならそれでいい。
「貴女はいい王になりそうだ」
え……?
ルシファーは父に目線を送り、共にひざまずいた。
「組織の次期当主として貴女に障がい忠誠を誓いましょう。貴女を必ず女王にし、一生傍で支えます」
あたしの手を取り、騎士が主君に忠誠を誓うように口づけた。
ふあああああああ!
イケメンにひざまずかれて手の甲にキスとか!
あああゲームのあのシーンじゃないのおおおお!
妄想突入でもだえるあたし。
不審者だっつの。落ち着け。
「―――って、え? 一生? それじゃ……」
「はい。僕は一生リリス様の夫でいますよ」
にっこり王子様スマイル。
裏の意図などない、本物の笑顔。
ぐあああああ!
かっけええええええ!
これで死んでも本望だ!
真っ赤になってプルプルしてるあたしはどう見ても不審者だったろう。
だめだ、イケメンスマイル、破壊力ありすぎ。死ぬ。かっこよすぎて死ぬ。
兄弟が生暖かいのと「妹は渡さん」的なのの混じった視線を向けてるのには気づかなかった。
「あ、あ、あ、あのねっ。前から思ってたんだけど、敬語とかいらないからっ」
いて、舌かんだ。
「ああ、このしゃべり方は元からなので。僕は誰にでもこういう口調なんですよ。気にしないでください」
そうなの?
敬語がデフォルトの王子様キャラか。
いいね!
気にしませんよ! むしろそれでいいです!
ますます好みだよ!
うふふふふ。
危ない感じでにやけながら、絶対父を倒す!と決意を新たにしたあたしだった。
☆
さーて。
タイムリミットの五年後に向け、あたしたちは行動を開始した。
異母兄弟をあたしがそろえ、一緒に暮らすと言った時、父は不快感を示した。
「お父様、六人も別々に監視するより、一か所にまとめたほうが効率的だと思われませんか? ルシファーの監視もあるでしょう。離宮をいただければ、あたしが監視します」
作戦通り、そうやっておだててなだめて虚栄心をくすぐって、上手く離宮を手に入れた。
父はあたしを完全に支配下に置けていると思っている。あたしが直接監視するなら安全と思ったわけだ。
なんだかんだで小心者な父は、ルシファーが同じ城内にいることが恐かった。人質としてとったけど、それが刺客になってはたまらないと。
だったらそんなこと考えるなよ。
同じように、六人もの息子が城内にいたら……?
こうしてあたしは自分のテリトリーを作り上げた。
「ルキ兄さま、お勉強教えて」
「ああ、いいよ」
長兄はすごく頭がいい。この国始まって以来の天才と言われてたそうで、それだけ能力があるのに認められていない子供だから下級役人のままだった。もし庶子としてでも認められていたら、あっという間に大臣クラスまで上りつめていただろう。
ルキ兄さまは役人として働き続けつつ、不満分子を見つけ、着実に仲間を増やしていった。
「ほーら、リリス、勉強で疲れたろ。おやつだよー」
「ナキア兄さま、ありがとうっ」
二番目の兄は離宮の料理長になった。
作る料理はどれもすごくおいしい。これは繁盛していたのもうなずける。
兄の作るものなら変なものは入ってない。安心だ。
「アガ兄さま、貿易について教えて。どうすれば輸出を増やせるかしら? バカ父の浪費のせいで国庫は空っぽだもん」
三番目の兄は商人で、今や一大貿易商だ。交易については彼に教わるに限る。
「レティ兄さま、護身術教えて」
「リリスが強くなくても、オレたちやルシファーが守るから平気だぞ?」
「だめ。いざって時に戦えないと」
あたしの近衛隊長になった四番目の兄には戦闘技術を学んだ。魔法も彼から教わる。
これまで最低限の護衛しかいなかったあたしの周りには、忠実な部下で固めた近衛隊ができあがった。
「ルガ兄さま、毒薬の種類とそれを使われた時の対処法について教えて」
医大生である五番目の兄は困惑して、
「……なぜ」
「これまで何度も盛られたことあるから」
あっさり。
とたんにルシファー+兄弟全員が駆け寄ってきた。
おう、みんな仕事どうした。
近くにいなかった兄弟もどうやって聞いてた。
「何だって?! どこのどいつですか!」
「いつだ? 誰にやられた!」
「毒を盛り返してやる!」
「そいつぶっ殺す!」
「殺すじゃ飽き足りない。さんざんいたぶってから」
「……わざと生かしておいたまま苦痛を与え続けよう」
「姉さまはぼくらが守るからねっ!」
恐い恐い。
ていうか、そんな驚くこと?
「いや、あたしこんな見かけだし、父の娘だっていうんで、これまで何度も殺されかけてるのよ。毒なんかしょっちゅうだった。元々効きにくい体質っぽいんだけど、さらに耐性ついちゃって、今じゃ全然効かないの」
だから盛っても無駄なんだよね~。
明るく言う。
「リリス様。やられたのは毒だけですか?」
「え? 物壊されたり、隠されたりって嫌がらせは日常茶飯事よ。慣れちゃった。あ、でもさすがに剣で斬りかかられることはなかったなぁ。いくらなんでも力のない小さい女児を剣で殺すのはためらわれたみたい」
いくら悪王の娘でも、弱く力を持たない子供を切り殺したとなれば、ちょっとまずかろう。
魔法を使われることもなかった。これは父が城中に探知結界張ってたせい。リスクがありすぎる。
……あれ、何かみんながスクラム組んでる。
ラグビーの試合でもあんの?
「そんなことに慣れちゃいけません」
「だって城内じゃ、至る所で人が死んでたし。犯人は父だけどね。死者ゼロの日なんであったのかな? 昼寝してる人がいるーって思って起こそうとしたら死体だった、なんて何回あったかな」
しばらく悪夢にうなされたわ。以来、簡単には近づかなくなった。
前世の記憶が戻るまでは、これが当たり前だと思ってた。
全然当たり前じゃないわ。
で、何みんな内緒話してんの?
あたしが集めるまでお互い会ったこともなかったのに、ほんと気が合ってるよねー。共通の敵を倒すっていう連帯感は強いな。
「リリス。ちょっと兄さまたち出かけてくるから、いい子にしてるんだぞ」
「え? うん……ルキ兄さま」
「ネビロスは残れ。自分の役目は分かってるな?」
「もちろん」
「??」
しゅぱ―――ん。
ルシファーと兄たちは光速で走って消えた。
あたしと弟だけ残される。
ぽつ―――ん。
「どしたんだろ、みんな?」
「姉さま、気にしなくていいんだよ。それより遊ぼ?」
子犬みたな弟にきゅるんっと頼まれたら断れないじゃないのっ。
もとよりお姉ちゃんは可愛い弟と遊びたいっ。愛でて愛でて愛で倒したいっ!
あああ弟可愛い。子犬の耳としっぽが見える。幻覚か。パタパタふってる。
こんな小動物、お持ち帰り即決定じゃないの。
いや待て、すでに持ちかえってたわ。イケメン兄五人もだったわ。
イケメン六人に囲まれて、さらに推しメンの夫が毎日傍にいるとか。ヤバい最高。
「いいわよ。何して遊ぶ?」
見かけによらずしたたかな弟がボディガードとして残ったとは気づかないあたしだった。




