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兄嫁候補、そろう(一人いなくない?)

 ちょうどアイリスさんの出演する障がい者によるコンサートが予定されてるんで、女性陣を招待した。これなら口実としておかしくない。

 障害を持つ演奏家だけでなく、グループによる歌も披露される。プロからアマまで様々だ。

 コンクールと違って勝敗を決めるわけじゃなく、広く人々に知ってもらうのが狙い。もちろん世界に同時中継してる。

 幸いにも無事終わった。

 よかったー。正直、妨害あるんじゃないかと戦々恐々だったんだよね。

 レティ兄さまも警戒して、厳重な警備体制しいてた。

 福祉コンサートならどの国も妨害できなかったんでしょーね。『正義の王』だっていくらなんでも、障がい者の自立と共生をテーマにした行動は邪魔できない。なにせ『善』のキャラだからね。

 ていうか、ルシファーの部下の報告によればブッ倒れたまま、ずっとベッドでうなってるんだってさ。娘の家出とその理由がよっぽどこたえたのね。

 ちょっと気の毒。

 話を聞いた公爵*ルシファーの父、がボソッと言ってた。

「なんだか少し分かります……」

 遠い目しないでよ。

 ―――それはともかく。

「はぁー」

 来賓の輝夜姫を見送り、息をつく。

 ずーっと片思い相手チラチラ見てて、ルキ兄さまがいたたまれず気の毒で先に帰したんだ。輝夜姫はめちゃくちゃ残念がってたけど、どうにか馬車に押し込んだ。

「ルキ兄さまは真面目すぎてピュアっピュアだから、押すとたぶん引かれるよ」

 ってアドバイスしたのも効いたと思う。

 輝夜姫の恋路を邪魔はしないけど進んで協力もしない。あたしは中立な立場でいたい。

 やっぱ、この二人がくっつけばヒロインが生まれず確実に死亡ルートは回避できるっつっても、それでいいのかって迷うんだよ。

 そんなわけで、臆病者と言われようが卑怯者と罵られようが、この件に関しては傍観者を決め込むことにした。それがあたしの結論。

 ―――が、他の兄嫁探しについては続行しますとも!

「アイリスさん、すっごい素敵だったー! 成功おめでとう!」

 楽屋に押しかけたあたしは花束を渡した。

「ありがとうございます、女王様。女王様のおかげです」

 優雅にお辞儀するアイリスさん。

 あたしのデザインした白鳥モチーフの純白のドレスがよく似合うわー。うふふ。

 やっぱ白や銀が似合うね。

「とーんでもない。そうそう、別の企画も考えたんだ。中には音楽苦手って人もいるじゃない? そんな人も参加できる、美術系の展覧会やスポーツ選手の大会はどう?」

「え……」

 アイリスさんは難色を示した。

「美術は可能と思いますが……スポーツは無理ではないでしょうか? なにしろ私達は……」

「義手や義足、機械によって補うのよ。視覚障碍者のブラインドサッカー、車いすバスケとか。聴覚障碍者には審判がジェスチャーで示すよう配慮するとか、方法はある。絶対できるって!」

 がしっと手を握る。

 夢はでっかくパラリンピック開催!

 このコンサートの設備に協力したリリーちゃんを示し、

「実は、もうリリーちゃんとこの研究所に依頼してるのよ。装具開発できそうだって」

「まぁ、それはそれは……。すばらしいですわ、ぜひお願いいたします」

「ええ、こちらこそ」

 リリーちゃんは生真面目に言いながら―――ふいにヒジを後ろへ引いた。

「わっ」

 みぞおちにクリーンヒットしかけたネビロスが飛びのく。

 ……今、背後から忍び寄って抱きしめようとしてたな。

「チッ」

「リリー、躊躇なく急所攻撃に舌打ちってひどくない?」

「セクハラしようとした奴が何ぬかす。消えろ」

 委員長の背後に仁王が出現しました。

 並び立つアレですかね。めっちゃヒートだね。

 コンサート中、ネビロスが当然のように隣に座ろうとしたのは阻止して済んだと思ったのに。

 ああ、あたしとジャスミンさんで挟んで物理的にスペース塞ぎました。いくらなんでもネビロスも姉や兄嫁候補をどかせないと思って。

 そしたら弟はドヤ顔で「じゃ、僕の膝に座ってよ!」とか言い出した。

 斜め上な返答キタ。

 リリーちゃんがマジで殴りかかりそうになり、兄姉全員で末弟の頭を下げさせて(無理やり押して)止めた。

 なのに本人は兄姉の危機感もリリーちゃんの言葉も綺麗にスルーし、

「ねぇリリー、帰り一緒に帰ろうよ。家まで。あ、家ってもちろん僕んちね」

「断る」

 火に油注ぐなあああ。

 ルシファーがリリーちゃんに忠告してあげた。

「家とはネビロス様が建てた屋敷のことですよ」

「は? 今住んでる城って意味じゃなくてですか? いや、そっちでもお断りですけど」

「土地買って、一からこだわり抜いて建てさせたんです」

 なにそのツッコミどころ満載な事実は。

 まず資金源どうした。

 ルシファーんとこのスパイ組織のバイトで貯めたお金だよね?

 ルシファーに目で聞くと、「無償で働かせるわけにはいかないじゃないですか」ってアイコンタクトで返ってきた。そりゃそうだけども。

 まさか一方的に好きな子のために建てる新居につぎ込もうとは、ルシファーも公爵も思わなかっただろう。

 リリーちゃんの口の端が露骨にひきつった。

「嫌な予感しかしないんですが……こだわりって、どういう方面の」

 レティ兄さまが遠い目になる。

「たぶん……前に牢屋や刑務所見学に来たよな。窓の鉄格子とかガン見してた。籠城戦についても聞かれたけど、あれたぶん長期間君と閉じこもるためだな」

「…………」

 絶句するリリーちゃん。

 うちらも言葉失うわ。

「この変態!」

 端的に正解。リリーちゃん。

 言われた当人はものすごく残念そうだ。

「ええ? ダメ?」

「駄目に決まってるでしょ! 監禁・ヤンデレはリアル厳禁!」

 あたしはネビロスの肩つかんで力説した。

 弟を犯罪者にさせるか。

 せっかく闇落ちルート回避しようとしてんのに、やらかそうとするんじゃないっ!

 まさか息子が『魔王』にならない代わりに弟がなるんじゃないでしょーね。

 ……絶対阻止してみせる。リリーちゃんのためにも。

 誰だってこれはうなずいてくれるはず。実弟を犯罪者にしてなるものか!

 固く決意した。

 姉の剣幕にネビロスもたじろぐ。

「分かったよ、姉さまが言うなら。リリーに嫌われるのもやだし」

「安心しろ。とっくに嫌ってる」

「ちっとも安心できないなぁ」

「ネビロス、あんたほんと気をつけ……アガ兄さま!」

 あたしはとっさに振り返りながら叫んだ。

「やりすぎちゃダメ!」

 楽屋にいたスタッフの一人がアガ兄さまの背後から刃物を振り下ろすとこだった。

 当然、アガ兄さまは最初から気づいてた。

 あたしらは元々『悪』側にキャラ設定されてる。悪意や敵意には敏感って言ったでしょ。

 アガ兄さまは無言でターンし、容赦なく強力な蹴りを繰り出した。

 うっわ。魔法で強化してるし。骨折で済むかアレ。

 だからやりすぎないでって言ったのに!

 過剰防衛だよ!

「おい!」

 瞬時に割って入ったナキア兄さまがキックを受け止め、ルキ兄さまがアガ兄さまの肩をつかむ。同時にレティ兄さまが犯人を取り押さえてた。

「……っ、セーフ……」

 あたしはほーっと息を吐いた。

 兄さまたち、超優秀。サンキュ。

 ナキア兄さまは痛そうに腕を振った。

「いってー。アガ、お前なぁ。一般人には手加減しろよー」

 きっちりガードしてたようで、ケガはしてない。

 戦闘能力ないとか言いつつ、けっこうできるもんねナキア兄さまも。

「ふん」

 アガ兄さまは鼻を鳴らした。

「暗殺者を一般人とは言わない。貴様に当たるならもっと強くしとくんだったな、惜しいことした」

「兄に対してひどくね? ほれ、お兄ちゃんごめんくらい言ってみ」

「絶対言わん」

「アガ」

 ルキ兄さまがぴしゃりと言った。

「今のはお前が悪い。身を守るのは構わないが、限度がある。命を狙われたからといって半殺しにしていいものじゃない」

「悪かった」

 長兄には素直に謝る三番目の兄。

 態度に差がありすぎる。

「おいこらー。オレには?」

 二番目の兄はわざとオーバーに嘆いてみせた。

 ありがと、とアイコンタクトしとく。

 これでアガ兄さまの矛先はそれた。

 ナキア兄さまはこうやっていつも自分が引き受けてくれてる。

 レティ兄さまは手際よく犯人縛り上げた。

「誰もケガないな? アイリスさんも悪かったな。驚いたろ」

「いえ……あの、彼はスタッフでしたよね? どうして……。ああ、紛れ込んでいたんですね」

 アガ兄さまがこの性格で敵が多いのは周知の事実だ。これまで何度も商売敵やらフッた女性やらに狙われたことがあり、新聞種にもなった。

「アガ兄さま、心当たりは?」

「ん? ……ああ、その顔、前に援助してやってた画家の一人か」

 芸術家の卵のパトロンやってるっけね。

 画家は床に這いつくばりながらもアガ兄さまをにらみつけた。

「この悪魔め! きさまのせいで、もう画家としてはおしまいだ……っ」

「自業自得だ」

 あれれ、事情があるっぽい。

「何かあったの?」

「こいつは絵が一枚売れたからといって天狗になり、酒浸りの毎日になったんだ。常に酔っぱらってりゃ、描けるわけがない。ますます酒におぼれ、ついには止めようとした知り合いの画家を殴って重傷を負わせ、逮捕されたんだ」

 ……そりゃ自業自得って言われちゃうわ。

「あー、思い出した。被害者が恩情で不起訴にしてくれたやつな。いい友達だよなぁ。友達に感謝して、改心すればよかったのに」

「うるさい! おれは天才なんだ! ちょっとスランプになっただけなのに出て行けだと? あいつもおれの邪魔をするから悪いんだ! おれは何も悪くない! しかも、この天才様を切り捨てておいて、あんなヘタクソなみっともない素人どもの歌なんか……」

 考えるより先に手が動いていた。

 グーで画家の顔面を張り飛ばす。

 魔力はこめてないよ。それくらいは配慮した。

 普通に殴られたことが驚きなのか、仮にも女王が張り飛ばしたのが衝撃だったのか、元画家があっけにとられる。

「差別するんじゃない」

 あたしは思いきり睨みつけた。

 当たり前だ。差別的発言を許せるか。

 ルキ兄さますらあたしの行動を咎めなかった。

 誰だって、何かを理由に差別されていいわけがない。

 アガ兄さまが見限ったのも分かるってものだ。こんな考え方な上に自分を過信、幻想しか見てないんじゃ、たいした作品も作れない。

 ……そっとアイリスさんがあたしの腕に触れた。

「アイリスさん?」

 盲目のピアニストは元画家に近付き、しゃがんだ。

「そうですね。おっしゃる通り素人がほとんどですし、お世辞にもうまいとは言えなかったかもしれません。私自身もたいしたものではありませんわ」

 静かに話す盲目の美女の迫力に元画家ものまれる。

「でもね、上手い下手ばかりが全てではないでしょう? 歌も絵も、人を幸せにするためにあるものです。誰かの欲を満たすための道具ではありません。あなたは己の欲望のために使ってしまった。アガリアレプト様はそれを見抜いたのではありませんか」

 アイリスさんはそこでアガ兄さまの方に頭をあげた。見えてないはずなのに合ってる。

「アガリアレプト様。貴方様も他にやり方があったのではありませんか? お気持ちと理由は分かりますが、相手は人間なのです。もっと相手が傷つかずに済む方法を、貴方様なら可能でしょう?」

 室内の温度がガクッと下がった。

 アガ兄さまの周囲にドス黒いオーラが見える。

 あ、元画家失神した。

「うわー……」

 プライド高くて傲慢なんだから。人に意見されるのすっごく嫌がるんだよね。

 聞く耳持つのは兄弟の言葉だけだ。

 あっ、ナキア兄さまの言うことは断固聞かないから一人除く、か。

「―――」

 アイリスさんは常人なら気絶する圧力をものともせず、穏やかに微笑んでた。

 す、すごい。

 おおー。

 思わず拍手するあたしたち兄弟。

 目が見えなくても気配は感じる。むしろ敏感なアイリスさんにとっては何倍にも感じるだろうに。

 アガ兄さまの不機嫌オーラを笑って流せるなんてっ。

 アガ兄さまの嫁はアイリスさんしかいないな。

 義弟含む兄弟全員うなずきあった。

 ひとまずルキ兄さまがアガ兄さまの首根っこひっつかんだ。

 犬の首輪つかんで持ち上げるみたい。

 猛犬*三番目の兄も黙ってつかまれてる。

「こら。女性相手に本気の殺気向けるんじゃない」

「……分かった」

 嘘みたいに圧力が消えた。

 さすがブラコン。

 絶対謝らないアガ兄さまの代わりにルキ兄さまが謝罪する。

「弟がすまないな」

「いえ。私も差し出がましいことを言いました」

「いや、君の主張は正しい。それに、あの威圧感にもひるまず意見を言える人材は貴重だ。ぜひどんどん言ってやってほしい」

「ルキ兄貴」

「黙ってろ。事実だろう。こいつが間違ってると思ったら、遠慮せずビシバシ躾けてやってくれ」

おう、躾けてって言った。

 確かに獰猛な狩猟犬調教するようなもんだもんね。

 ルキ兄さまなりの売り込みがんばってる。

 アガ兄さまは不満そうだったけど、ルキ兄さま相手じゃ何も言えずムスッとしてた。

 グッジョブ、って後ろで親指立てる弟妹。

 この問題ありまくり物件引き受けてくれる人材を逃がすかい。

 絶対全員同じこと思ってたに違いない。

 あたしはここぞとばかりにたたみかけた。

「話変わるけどリリーちゃんにアイリスさん、明日お茶会するんで来てくれない?」

「明日ですか? それは急ですね」

「うん、無理は百も承知。ほら、輝夜姫が急にやって来たでしょ? ぶっちゃけ、もてなさなきゃならないのよ。一国の王女をもてなすんだから、こっちも相応のメンバーそろえなきゃならなくて。有名な技術者のリリーちゃんと今日演奏してくれたアイリスさんなら異論が出ないでしょ」

「ああ、なるほど」

二人とも納得した。

「他にも考古学者のローレルさんは帰国祝いを兼ねて。魔物研究所のジャスミンさんも声かけてるの。どう?」

 もちろん二人とも明日仕事が休みなのは確認済みだ。てゆーか、ルシファーに頼んで裏工作させてもらった。

「分かりました。そういうことでしたら、協力させて頂きます」

「ええ、私も」

「ありがとうっ! あ、急な話だからお詫びにドレスはこっちで用意して届けるね」

 てのは口実で、着せ替えさせてちょうだいふふふのふ。

 さりげなーくきっちり願望ねじこむあたしだった。


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