母たちの会談
信じられない情報に、場は騒然となった。
ルガ兄さまですらしゃべってるのが相当動揺してる証拠だ。
「はああ?! 娘ってつまり、王女の―――」
「輝夜姫ですね」
「んなバカな!」
叫んでしまう。
『正義の王』の娘―――すなわち本来のヒロインの母。
『善』の存在として、おかしくなった父王を諫める行動を取ってたよね。一体何がどうしてベルゼビュート王子と組んで不法入国したの。しかも王都まで来るって。
大本のシナリオじゃそこまで行動的なキャラじゃなかったはずだ。そうだったら『魔王』が攻めてくる前に手を打ってるって。大人しくて効果的な対処をしなかったから攻め込まれたわけで。
最近の『正義の王』への反対意見を隠そうともしてない彼女がうちらを倒そうと思って来たとは考えにくい。むしろ和平条約を結ぶよう働きかけてたと聞く。
ルシファーの調べでも彼女に異常は確認されていない。悪意があって来たわけじゃないと思う。
「ベルゼビュート王子が噛んでるとはいえ、一国の王女がそう簡単に国外に出られるわけがない。『正義の王』の罠か」
ルキ兄さまが冷静に分析する。
「わざと王女をこちらに捕まえさせ、人質にされたと言って宣戦布告でもするつもりとな」
「うっわ悪質。ええー、でも他国の王女が不法入国したら、とりあえず確保するよね」
「そもそも可愛がっているはずの娘をあえて人質にさせるとは思えないな」
レティ兄さまが言う。ルシファーが首を振り、
「はい、これは王女の独断で本人の意思なようです。買収しておいた王女の侍女によると、以前から他の国々に父王を一緒に止めようと打診していて」
さらっと買収したっつった?
うん、スルーしとこう。
「そこに目をつけたベルゼビュート王子が手伝って、各国の署名を集めて回ったというわけです」
「他国の王族をそう簡単に連れ出せるの?」
いくら王子っつってもさ、皇太子でもなく王子の一人でしかない。しかもあまり重要視されてない。
「以前輝夜姫がベルゼビュート王子の姉妹と交流する機会があり、姉妹に輝夜姫を招待させたんです。これなら誰にも不審がられない。ほら、あちらの国は前に、浄化する呪物を第三者として引き受けたでしょう。『正義の王』もその件であちらの動向を探りたいらしく、輝夜姫の訪問を許可しました」
「姫の従者としてスパイを送り込むってわけか」
アガ兄さまが舌打ちする。
「あのハエめ、『正義の王』が許すよう上手く持ってったもんだ」
「とはいえ従者たちも輝夜姫同様争いは望んでおらず、むしろ平和的に解決できるならとベルゼビュート王子に協力して輝夜姫が抜けだすのに協力しました。現在姫に似た背格好の侍女が影武者を務めてるそうですよ」
そこまでか。
ルキ兄さまがため息ついた。
「とにかく早急に解決すべき問題は彼女をどうするかだ。今、彼女はどこに?」
「首都近郊の組織の隠れ家に『保護』してあります。本人はどうしてもリリス様と宰相であるルキフグス様に面会したいと主張してます。自分は戦争を止めたい、また父王が亡命者をそそのかしてテロを起こそうとしていたことに対して謝罪したいと」
「…………」
みんな顔を見合わせて考え込んだ。
これが昔なら彼女の言は絶対的に信用できた。でも『正義の王』があそこまでプログラムに操られてる以上、姫もそうじゃないとは言い切れない。
組織の調べじゃ輝夜姫は異常なしってことだったけど、単独でここまで来てるのを見ると確実に何かしら変化は起きてる。
ううむ……。
しばし考えこみ、決断した。
「―――会ってみるよ」
あたしの言葉にみんな瞠目した。
「やめときなさい、危ない」
「幸いあちらはベルゼビュート王子の工作で姫の不在に気づいてませんし、今ならまだ送り返せます」
「そりゃそうだけどね。一度会ってみたかったのよ」
『魔王の母』としては『ヒロインの母』は気になるよね。
「どっちみち、会わなきゃならないと思う。『正義の王』を止めるには、向こうの内部に協力者が必要。それが娘なら強力な味方でしょ」
「罠の可能性が高いんですよ?!」
虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うじゃん。
「身体検査はしたんでしょ? 危険物は持ってないだろうし、どうせ隠れ家に魔法封じの結界仕込んであるんじゃないの。それでももしも姫が何かやったら、あたしが取り押さえるわ」
ぐっと拳を握る。
なぜかみんな身を引いてた。
「がっつり証拠押さえて、世界中に公開する。状況を逆手に取ってやるわよ。……って、なんでみんな引いてんの」
「いやあのな、殴るのはやめろよ殴るのは」
「グーパンはかまさないよ。過剰防衛で訴えられるようなヘマはしないって。これはただの決意表明」
あのね、女子の顔面にかましたらマズイじゃないか。
「受け身なんてあたしらしくない。そもそも最近ストレス溜まってたのよ。いい加減に攻めの姿勢に転換してくれるわ!」
余計に青ざめられた。
ホワイ?
ともかく会談メンバーはっと。
「あたしとルキ兄さまはご指名だから行くでしょ。あとは……女性受けのいいナキア兄さまは同席お願い」
「いいぜー。他は留守番か?」
「おびき出し作戦やった直後で色々後片付けあるし、争いに行くんじゃないんだから、戦力外って思われてるメンツのほうがいいと思う」
ネビロスは未成年なんで除外。ルガ兄さまも医師が来ると「毒殺か」とか疑われると嫌なんで除外。
ルシファーがきく。
「あの、僕も留守番ですか?」
「え? ルシファーはいつも一緒でしょ。当然いてくれるんじゃないの?」
きょとんとして聞き返した。
「言わなくてもいつも傍にいてくれるんじゃないの?」
こてんと首をかしげる。
ん?
わざわざ言うまでもないよね? 違うの?
「……リリス様」
ルシファーは心底うれしそうににっこり微笑んだ。
「そうですね、僕はいつもリリス様のお傍を離れません。愚問でした」
「うんっ。ルシファー、大好きーっ」
何度見ても見惚れる素敵スマイルに、あたしは抱きついた。
すりすり。
にへーっとしてるあたしとは対照的に、兄弟の殺気が立ち上る。
「ルシファー、うちの妹から離れろ!」
「抱きついてきてるのはリリス様のほうですが。でなくてもお断りします。僕は夫なので」
いつものやりとり。
とにもかくにも、『魔王の母』は『ヒロインの母』と会うことにした。
本来のシナリオでは絶対に会うことのない二人の邂逅だった。
☆
『ヒロインの母こと輝夜姫は仙女みたいな美人だ。まさしく昔話のかぐや姫のごとく求婚者が絶えないという。
ただし彼女は千年前の日本人的外見ではなく、金色の髪に白っぽい瞳を持っていた。
一般的に月のイメージっていうと寒色が多いと思う。暖色は太陽だよね。でもあえて金にしたんだってさ。
元々昔話の挿絵でも竹が金色に光ってるし、「光り輝くような女の子」の絵は周囲に金色のオーラ描くでしょ。
寒色や黒がベースのあたしら『悪役』に合うのは銀や寒色だから、対局にヒロインサイドは暖色と金ってのもある。輝夜姫はイメージカラーから普段の衣装も金色や黄色が多い。
今は密かに行動してたため地味な侍女風の服を着てるけど。それでも高貴な身分なのは隠しようもない。
ルシファーの調査によると、ベルゼビュート王子は女好きな貿易商のフリして国内に入り込んだらしい。うちの国は交易を推奨するようになってから色んな国の新規商人が来てて、バレなかったわけだ。
ベルゼビュート王子はカモフラとしてわざと派手な美人を複数連れてたという。輝夜姫はその侍女役にして裏方に配置、目立たないようにさせた。
よくまぁそこまでやったもんだ。見返りは何かとききたくなる。
姫は覚悟の上とはいえ、強張った表情してた。
そりゃそうだ。父親が堂々と敵視してる相手国に単身不法に乗り込んだんだ、普通なら良くて人質。悪くて処刑だ。バカ親父なら絶対やってただろうね。
でもあたしはアホ親父じゃないし。
……それよりさ。
「うーん……」
「リリス様?」
うなるあたしにルシファーが尋ねる。
不機嫌と誤解されたのか、輝夜姫ががばっと立ち上がった。
「あの! いきなり訪ねてきてすみません。でも私はどうしても……っ」
「ちょい待ち」
ビシッと手のひらをつきつけた。
続いて言ったのは、
「姫に似合う服作ってあるんで着替えてください。つーかぜひ着て」
沈黙が場を支配した。
「……………は?」
目が点状態の輝夜姫。
頭を抱えるルキ兄さま。
苦笑いしてるルシファー。
天を仰ぐナキア兄さま。
ん? なんでみんなそんな反応?
あたしはがしっと輝夜姫の肩をつかみ、
「そんな質素な服とか、素材いいのにもったいない! ヘア&メイク部隊、カモン!」
パチンと指を鳴らすと、待機してた女性たちがすばやく動いた。移動式簡易更衣室を設置、輝夜姫を放り込む。拒否の声をあげる暇も与えず着替えさせ、髪もセット。
「ふふ、ファッションショーの時も活躍した精鋭部隊よ。モデルにさせ……なってもらった恥ずかしがる人たちもこうして変身させたの。お手のものよ」
「なぜ彼女たちを連れて来たのか、よもやと思ってましたが本当にそうでしたか」
「うん。だってせっかくイマジネーション刺激されて作りまくったのに、着てもらえないの残念じゃん?」
「女王様、できましたわ!」
出てきた輝夜姫はピンク系統のガーリーなドレス姿だった。金はネックレスの細いチェーン部分だけで目立たない。
さっきも言ったように、かぐや姫のイメージから、彼女は金・黄色系統の服しか着せてもらえない。他はせいぜい白だ。それも必ずどこかに金色が入ってて、ぶっちゃけ目がキラキラする。物理的に光が反射して光り輝いてる。よく本人まぶしくないなぁと思ってた。
デザインも大人っぽい・高貴なものばかりで、こういういかにも可愛い系は着たことがないだろう。あっけにとられて自分の姿を見下ろしてる。
「……金色が全然ないの初めて着た……」
「あ、やっぱり? イメージだからってさ、いっつも同じようなのばっか着せられるのって嫌じゃない? 分かるわー。うちもバカ親父のせいでみーんな黒ばっかで、気が滅入るったら!」
肩をすくめる。
輝夜姫はうなずいた。
「分かるわ。そりゃ、金色も嫌いじゃないんだけど、必ずあると飽きるし、あと、何ていうか……」
「まぶしいと思う」
きっぱり言ってあげた。
「そう。反射して光が目を直撃するの」
うーわー。キツイわ。
よくスタイリストもそんなん主君に着せるな。気づいてないんならクビにしたら。
知ってるならそれはそれでおかしいんでどっちにしろクビでしょ。
「だよねぇ。あとさ、前から思ってたんだけど、純金の月モチーフも大きいのが必ずどこかに入ってるでしょ。重くない? だって純金よ? 普通に重いよ」
金の重さナメるな。単純に重いわ。
輝夜姫ははげしく首を縦にした。
「重いっ! 頭につけられた時は頭潰れるかと思った!」
「ヒールもあんな細いのじゃ外反母趾になるよ。健康上よくないって。ていうか、もうなってるね。ちゃんと治療したほうがいいと思う。こういう幅広でヒール低い靴に代えなよ」
特注の靴を指す。
「長時間立ちっぱでも足が疲れないやつなの。あたしがいつも履いてるモデルなんだー。よくデザイン画やら材料やら持って走る回ってるから、靴職人に作ってもらったの。今じゃうちの城で働く女性はみんなこのモデル履いてるよ」
働く女性に人気商品だ。服だけじゃなく、次は靴を展開しようと計画してる。
「これすっごい楽! 確かにほしいわ。ね、他の色ってあるの?」
「もちろん。これらが色違いで、こっちのページはストラップが……」
カタログ出してソファーで熱中。
きゃいきゃい。
「素敵! ぜ、全部ほしい……っ。ああでも、国民の税金を使うわけには」
「それならモニターやってよ。宣伝してくれるならタダであげる。なにしろ有名な輝夜姫だもん、宣伝効果は抜群よ。そうそう、履くだけで足のむくみがとれるストッキングってのもあってね……」
輝夜姫はこれも食いついた。
「何その神アイテム!」
「王族って意外と立ちっぱや移動多いじゃない? 足むくむよねー」
「そうなのよ。専属マッサージ師に毎日やってもらってるけど、おいつかないの」
美と健康について語り合う女王様とお姫様。
名ばかり女王のあたしはスケッチブックとペンを出し、
「ね、どういう服が好き?」
「えっ? 私の……好み?」
今まできかれたことがなかったんだろう。きょとんとしてる。
王族なんて自分の好きなデザイン着られないのよー。服装が与える影響を考慮しなきゃなんないんだ、スタイリストが吟味しまくって決めたものを渡されて身に着けるだけ。
どんなに「これがいい」って思っても、実現は叶わない。リアルな王族生活なんてそんなもんだ。
「うん。しきたりやらイメージやら色んなかねあい考ええなきゃならなくて、純粋に好きなものって着たことなかったでしょ?」
「ええ……訊かれたこともなかったわ……」
悲しいことだよね。
「じゃあさ、一緒に考えてみようよ。まずこのドレスのカタログ見て、いいなって思うもの教えて。それつなぎ合わせたりして作っちゃお!」
「本当に?!」
ぱあっと顔を輝かせる輝夜姫。
ファッションカタログ片手にガールズトーク。「これかわいー」「ほしー」とか言いながら、どんどんデザイン画の山ができあがっていく。
ヘア&メイク部隊まで参加し、盛大な女子会開催。
男性陣は黙ってすみっこにいた。手持無沙汰。
「……できたー! よーっし、急いでお針子部隊に作ってもらおう! あ、ねぇ、姫の名前冠したブランド作っていい? もちろんロイヤリティは払う。この%でどう?」
妥当なパーセンテージを提示する。
「不安ならそっちの財務関係強い人に相談していいよ。もちろん契約書もきちんと交わそう。ありがと、ルシファー」
有能執事のごとく、サッと書面が出てきた。
すでに国内の有名人とコラボしたブランドは出してるんで、ひな形があるのよ。
「これ持ち帰って確認してね。有効になるまではちゃんと発売も発表もしないよ」
「え、ああ、うん、そうね……って、こんなことしてる場合じゃなかった!」
ようやく我に返ったらしい。慌てて立ち上がる。
「私はお父様の無礼をお詫びに来たのに! あのっ、本当に申し訳ないと―――」
「はい。いーから座ってねー」
無理やり座らせる。
「姫は何も悪くないでしょ。姫がやったんじゃない」
「王族として、娘として責任があります! まさかお父様が他国にいる亡命者にテロ起こさせようとまでするなんて……っ」
「いや、こっちも分かってて罠張ってたんで別にいいっていうか」
「計画したのは事実。罪があります」
「親の罪は子に関係ない―――あなたの父王の判決文でしょ?」
あたしは首をかしげた。
「そもそもあたしたちはあなたに悪感情は抱いてない。だいいち、友達に頭下げてもらいたいなんて思わないもん」
「……友達?」
姫は目をぱちくりさせた。
空気中に?マークが飛びまくってる。
ええー。
「もう友達でしょ。楽しくおしゃべりしたんだもん」
「ともだち……」
その言葉ってどういう意味だっけ、外国語?脳みそが変換できないみたいな顔してる。日本語だよ。
あたしはにっこり笑ってカメラを見た。
「―――っというわけで、あたしたちは友達になりましたんで」
そこにはテレビカメラが置かれていた。反対に向こう側の映像を映し出すモニターもある。
送信先、つまり相手方としてモニターに出てたのは……『正義の王』だった。
顔色が怒りの赤を越してどす黒くなってる。
血管切れそうだ。大丈夫? その年で頭の血管切れたらマジでヤバいと思う。
「お、お父様?!」
「いやー、一応保護者に連絡しとかなきゃまずいし? 因縁つけられても嫌だから、一部始終リアルタイムで様子見せないとさ」
さすがにこの流れ見て「人質に取った」とか言えまい。
「この……っ、バカ娘が!」
とうとうご老体がブチ切れた。
続くはすごい罵詈雑言。人にお聞かせできない内容で、とてもじゃないが『正義の王』の言葉と思えないレベル。
これネットに上げたら炎上どころの騒ぎじゃないだろうな。
初めて父親にここまで言われたらしい輝夜姫は涙目だ。
「お、お父様……っ」
あたしら兄弟はこういうの慣れてて無表情。つーかうちの親父のほうがもっとひどかった。目の前で大量処刑してないだけマシだよー、とか慰めにもならない感想。
やれやれ。
あたしは輝夜姫をかばうように立った。
「ちょっと。いくら娘相手でも言いすぎじゃありませんか」
「なんだと?」
殺気向けられた。
『善』のキャラのすることじゃないな。
あたしと『正義の王』はにらみ合った。
想定以上に侵食されてるね。本当にこれじゃこっちがラスボスになりかねない。
―――本来のシナリオを変えた代償。
どうやったら止められる?
『新ヒーロー』のベルゼビュート王子をぶつけてみたら?……たぶん悪化する。下手したらラストバトル突入だろう。
最初っからクライマックスになっちゃうな。これはナシで。
ちら、と輝夜姫を見た。
しゃべりながら観察したところでは、彼女は侵食されてない。悪意や敵意は一切感じられない。
このまま彼女を帰国させればプログラムが……もはやウイルスの域ね、それが感染する恐れがある。
ヒロインの祖父より母のほうが近いんだから。
さて、どーしたもんか……。
すると、泣きそうになってた輝夜姫がキッと背筋を伸ばして抵抗した。
「お父様は間違っています!」
「な、なんだと?!」
これまで従順だった娘にこうもはっきり反抗されるとは思わなかったんだろう。反抗期なさそうないい子だしね。さしもの『正義の王』もうろたえる。
「最近の行動の数々、公正さを貴ぶお父様のなさることとは思えませんわ! 私達がすべきことは平和な世界を作ることであり、決して争いを引き起こすことではありません。また、正義の名のもとに他国を侵略・干渉するのもおかしいです!」
…………。
間違ってない。間違ってないよー、正しいよ。
けどさぁ。
素直に同意できない理由があたしにはあった。
これだけ修正プログラムに汚染されてる父親の傍にいてこれ言えるって。
……まさかと思うんだけど、輝夜姫がベルゼビュート王子の相手役に改変されちゃったとかないよね?
感染してないのは『新ヒロイン』だからって意味。それゆえ修正プログラムが効かない。
待ってそれマジやめて!
思わず心の中で叫ぶ。
輝夜姫まで及んでないのはいいよ、それはいいよ? でも『新ヒーロー』誕生どころか、『ヒロインの母』がその相手役に切り替わったとかなったら、もう何をどうすりゃいいの! 本来のヒロイン誕生しないどころじゃないよそれ。
大本のシナリオに戻す気はないけど、本来生まれるはずの主人公消えちゃう! さすがにそれはヤバくない?
あのギンギラギン男が新ヒーローってだけでお腹いっぱいっていうか半目になりたいとこなのに。
……ああでも、ヒロインの親が結婚しなければヒロインは生まれない。主人公がいなければ確実にストーリーは始まらず、破滅ルートは回避できる。
―――そういうこと?
輝夜姫の気迫に、『正義の王』がわずかに正気に戻りかけた。……が、修正プログラムのほうが強かった。
再び目が狂気に染まる。
「許せん! 今すぐ帰ってこい、おまえも修正が必要だ!」
まずい。
ハッとして顔を上げる。
疑問点は後回しだ。とにかく今は輝夜姫を引き離さないと。一旦ベルゼビュート王子の国に逃げてもらおう。元々彼のせいなんだ、引き取ってもらう。
とっさにそこまで考えたあたしが行動を起こすよりも、輝夜姫のほうが早かった。
「いいえ、帰りません! 私には好きな人がいるんです!」
アレ、バクダンハツゲンキマシタ?
「……………………」×全員
みんな何言われたのか理解できず、回線ショート。
……んん?
今何ておっしゃいましたかねモイチドイッテクダサイプリーズ。
イキナリナンノハナシ。
急に話の内容飛んで、あたしもなぜかカタカナ表記使っちゃったりしたり。
あー、えー、うーん。
こめかみをぐりぐりやって何とか頭を働かせ、
「……あー、輝夜姫って婚約者いたよね。そうか、もし戦争ってなったら婚約者が出征するかもしれない。それを防ぐために平和的解決法をってわけね?」
うん、そりゃそうだ。誰だって好きな人に戦争行ってもらいたくはないだろう。
だいいち、『ヒロインの父』が死んだらヤバい。
「え? 違うわよ」
あっさり否定された。
「は?! 違うの?!」
なんですと?!
「ええ。だって、出国前に私達婚約解消してるもの。正式発表はまだだけど、私達はお互いに納得してるの」
「はああああああ?!」
顎が外れて床に落ちそうだ。
ちょ、ヒロインの両親が別れちゃったよ!
過去形かよ!
これじゃ主人公生まれないじゃん!
『正義の王』は混乱中で声も出ないらしい。
「実はどっちも他に好きな人ができて。でも周囲のこととかあって、困ってて……。けど、これじゃいけないって思ったの。お父様を止めるためにも、勇気を出すことにしたの!」
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
それ勇気とか違う。
あたしは真顔で輝夜姫の両肩をつかんだ。
「ちょっと待って。好きな人ができちゃうのは仕方ないけど、アレだけはやめようよ」
言っちゃ悪いが、ギンピカ自由人ベルゼビュート王子より『ヒロインの父』のほうがマトモで善人だ。普通にイケメンだし。色んな意味ではるかにいいと思う。
なにもあんなキワモノ選ばなくても。
「ベルゼビュート王子はない。あれだけはない」
「え?」
姫があっけにとられる番だった。
「何のこと? 私だってあんなよく分からない人はナシだと思うわ」
「へ?」
ぱちくり。
ベルゼビュート王子が好きなんじゃないの?
「確かに協力してもらったけど、利害が一致してただけよ。協力者であって、恋愛感情とか一切ないわ。見てて物理的にまぶしいし」
輝夜姫も普段相当まぶしいよ。キンキラキン。ほんとに光が反射してる。
二人並ぶと視覚的にキツイだろうなぁ。目が、目がああああああ!ってなる。
「私の好きな人はあんな軽い男じゃないもの。もっと真面目で知的で優しくて良い人でかっこよくて……」
ぽっと頬を染めてうつむく姫。
その視線が一瞬上がって誰かを見た。
それはあまりにも予想外の人物だった。
誰も考えてなかった、っていうか考えたわけがないっていうか。ありえないっつーか。
―――だって、ルキ兄さま。
「………………×∞」×全員
再び沈黙。
しーん。
無音の静寂。
ああ、静かでいいなぁ。悟りが開けそうな気がする。
うん、この機会に座禅してみようかな。
とか思考をうっちゃってたっぷり十分は固まってたと思う。
「うっ、ぐ、ぬお―――っ!」
あまりのショックに『正義の王』が文字通り泡ふいて倒れた。
画面からロストする。すごい音した。
大丈夫かな、頭打ってない? 年が年だから本気で心配。
「………………」
それで我に返ったルキ兄さまが「俺?」というように自分を指さす。
あたしとルシファーとナキア兄さまは黙って輝夜姫を見、純情可憐に恥じらう乙女の姿を確認して視線を戻し、うなずいた。
露骨に口の端ひきつらせるルキ兄さま。
うんまぁそりゃ、分かるわ。
ルキ兄さまは現実逃避するように遠くを眺めた後、なぜかルシファーとアイコンタクトした。うなずきあう。
なになに?
きこうと思ったらルシファーが口を開いた。
「リリス様、サタナキア様。すみませんがこちらはお願いできますか」
「―――あ、うん、分かった」
それだけで理解した。
突然ルキ兄さまが脱兎のごとく逃げ出した。
そう、まるであたしが逆プロポーズした直後のルシファーみたいに。
あー、なんかデジャブぅ~。
ルシファーも後を追いかける。
輝夜姫が慌てて、
「あっ?! あの、ルキフグス様……っ」
「輝夜姫」
あたしはものすごく複雑な思いで彼女を止めた。
ナキア兄さまも微妙な顔で椅子を勧める。
「えーと、ね。ちょーっとっていうかかーなり色々ききたいことがあるんだ。いい?」
かくして二人がかりでとてつもなく気まずい質問をすることになったのだった。




