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魔物研究所とドジっ子姉さん *混ぜたら危険

 調査団帰国よりも魔物研究所訪問のほうが早かった。

 あれも国立で、面倒な許可一切スルーできるんでね。調査団メンバーは現在亡命先での仕事の引継ぎやら、引っ越し準備があるもん、時間かかるよ。

 それに紛れてテロ組織の潜入準備があるしね。全部ばっちり押さえられてんのにご苦労様。

 いつものことながら、ルシファーんとこのスパイ組織はどうやってつかんでんだろ。聞かないけどね。人間、知らないほうが幸せなことて多いよ。

 さて、訪問メンバー構成はルガ兄さまと通訳でレティ兄さま、あたしとルシファーもあわよくば動画撮ったれと同行。

 待ってたジャスミンさんは、慌ててこっち来ようとして何もないとこでコケるというベタなドジを早速やってくれた。

 うむ。グッジョブ。

 つい、親指をグッとやってしまった。

「い……いたあ~……」

 職業柄、真っ先に動いたのはルガ兄さまだった。サッと立ち上がらせ、ケガを確認する。膝に擦り傷ができてた程度だ。

「……」

 無言で回復魔法使って治した。性格的にはヒーラーだもんね。

「あ、ありがとうございますっ。すみません、わたしいつもこうで。あのその、おいでくださってありがとうございます。よろしくお願いします!」

「……ああ」

 レティ兄さまがルガ兄さまの肩をたたいて通訳する。

「えーと、こちらこそよろしくって言ってる。こいつあんましゃべらなくて不愛想に見えるが、誤解しないでやってくれ」

 ジャスミンさんはにこっと笑った。

「大丈夫ですよ。そういう子、うちにいっぱいいますもん。でもよく見ると表情や態度で何言いたいか分かります。サルガタナス様も一緒です。なんとなく分かりますよ」

 マジか。色んな意味ですごいな。

 しかも、無邪気で純真なオーラまぶしっ。こりゃ魔物もキュンときて言うこと聞くわ。

 ルガ兄さまも、とまどいつつ差し出された手を握ってた。

 おお、ルガ兄さまが握手してる。

「おわぁ、珍しい」

 レティ兄さまがつぶやく。

「ね。極度の人見知りなのに」

 患者は仕事だから応対できるけど、うちら兄弟すら遠慮してる感あるのに。

「手当てしたから、患者カテゴリって認識したのかな」

「かもしれない。ジャスミンさんはなんとなく相手が安心する雰囲気を無意識に出してて、リラックスしたのかもね」

 これは兄嫁候補見つけちゃったかも。

 前から目をつけてはいたけど、まさかルガ兄さまと合うとはねえ。

「女王様、先日はありがとうございました。その、大変恥ずかしかったですが……」

 ああ、ショーのモデルやってもらった件ね。

 もじもじ恥じらう姿もグーよ。

「ううんー、こっちこそありがとうっ」

 いい映像撮れた。あたしが個人的に楽しませてもらうわ。

「それでね、知ってるかもしれないけど今うちの国のPRにHP作ってるの。この研究所も取材していい?」

「大歓迎です! ここもいまだに『悪魔の研究所』だの、怪物製作実験してるんじゃないかだの言われてますから。真面目な学問の機関だって知ってもらいたいです!」

 商談成立。

「なんでしたら、今日撮って頂いて構いませんよ。副所長を呼んできますね。彼のほうが説明上手いですから」

「いや、それは断然ジャスミンさんで」

 きっぱり言う。

 断固譲れぬ。

 当たり前。ドジっ娘でかわいい女の子が映ってるほうが、視聴者だっていいに決まってるじゃないか。あとあたしもそのほうがいい。

「リリス様、私情入ってませんか」

「だって、かわいい女の子のほうが、恐い・危険てイメージ払しょくできるじゃない」

「それはそうですが」

「てわけでよろしくね?」

 笑顔で圧。

「……はい」

 うーん、何かか弱い小動物いじめた気分。確かに魔物も彼女相手じゃ戦う前に降伏するな。

「で、でもわたし、紹介とか全然できません~っ。しゃべるの下手なんです」

「大丈夫、後で字幕入れるから」

 むしろ赤くなってアワアワするのがよい。

 ルシファーが小声でささやいた。

「ところで彼女、ショーで見て彼女のファンになった男たちからラブレター届いてますよ」

「ええ? 困る。うちに欲しいのに」

 よそにはあげないよ。

「とリリス様がおっしゃるだろうと思い、密かに破棄してます」

 さすがルシファー。

「ちなみにリリーさんにも届いてますが、彼女の手に渡る前にネビロス様が処分してます。差出人の住所氏名ばっちり押さえ、熱烈なのはシメに行ってましたよ」

「Oh……」

 なぜか英語。

「あいつ、逮捕したほうがいいかな……」

 レティ兄さまも遠い目になってる。

「リリーちゃんには全力で逃げろと言いたいが……悪い、弟を頼む」

 同感。

 ルガ兄さますらうなずいてる。

 ルシファーがビデオカメラを出し、

「では、早速撮影始めてよろしいですか?」

 スタッフみたいだな。

「ははははいっ?! あのでもまず患畜を診て頂きたいのですがっ……あう、いたーいっ」

 テンパったジャスミンさん、壁に激突。顔面からいって、おでこにたんこぶが。

 またルガ兄さまが手当。

「……少し落ち着いたほうがいい」

「すすすみませんー。落ち着かなきゃと思うと、余計ひどいヘマするんです」

「……深呼吸」

「そういう時は一度深呼吸してから、ですか? 分かりましたっ」

 おお、すごい。足りない言葉補完してる。

「別に治療風景から撮ってもよくね? 怪しい研究じゃなくてれっきとした治療だって分かるじゃないか」

「……レティ兄さん」

 基本無表情のルガ兄さまがわずかに眉間にシワ寄せてる。相当嫌がってるな。

「お前が恥ずかしがりなのは知ってるよ。だからわざとやってみろっつってんだ。しゃべらなくていい。字幕入れてやっから」

「……」

「ちょっとずつトレーニングすんだよ。リハビリ。お前はいつも通り治療してればいいんだ、楽だろ。魔獣医は少なく、一般的な評価も低い。仲間の地位向上にも役立つ」

 レティ兄さまに来てもらって正解だった。ルキ兄さまやアガ兄さまだと命令になっちゃうし、ナキア兄さまだと真剣さがカケラもなくなるし、ネビロスだと人心操作になる。あたしが言うと断れない、ルシファーが説得役やるのは何かおかしい。

「……でも」

 なおもしぶるルガ兄さまに、レティ兄さまはとっておきを出した。

「リリスに仕事中のかっこいい様子撮ってもらいたくないか」

「……やる」

 即答したよ。

 いやうん、まぁ、別にいいよ。撮るよ。

 てわけでルシファーから機材受け取った。

 

   ☆

   

 ドアを開けると、そこらに普通に魔物がいた。

 ん!?

 見間違えかと思った。和気あいあいと共存してる。友達みたいに研究員と話してるし、一緒に作業してる。

 ……んん? ここどこ?

 社員がフレンドリーな多国籍企業かな? ものすごい多人種だなぁ、いや人じゃない。

「あ、あれ? イメージと全然違う」

「はい、いつもこんなんです。檻の中に入れてたりはしませんよ。みんなで仲良く一緒に研究してるんです」

 マジすか。グローバルですな。

「あっ、お嬢ちゃん」

 魔物たちがジャスミンさんに気付いて手を振る。

「そこ、足元段差あるから気をつけなよ!」

「そうそう、壊れてた戸棚は修理しといたからなー」

「ありがとうー」

 面倒見のいいおじいちゃんおばあちゃんみたいになってる。魔物なのに。

 で、ジャスミンさんはご期待にお応えしてコケはしなかったけど、顔面から壁にぶつかった。

「あああ!」

 魔物たちがわらわら集まってくる。

「ほらもう、気をつけな―」

「大丈夫か、ケガないか?」

 みんなめっちゃいい人! 人じゃないけど。

 思わず叫んだ。

「なにこれ。みんないい奴じゃん!」

「ん? アンタ誰? ……あっ、女王!」

 あたしに気付いて魔物たちは慌ててた。

「ななななんで女王がここに!」

 そんなビビるなよー。まったくどんな噂が魔物内で流れてるか分かるってもんだ。

 あたしはビデオカメラを指し、

「研究所の紹介動画撮ってんのよ。普段通りにしてて。いつもの姿を撮りたいから」

「そうなんかい、お嬢ちゃん?」

「はい、皆さん協力お願いします」

 どうやらジャスミンさんは『お嬢ちゃん』って呼ばれてるらしい。長命の魔物にしてみれば、確かにジャスミンさんは子供だろう。外見も。

「お嬢ちゃんに言われちゃ仕方ない……ん?」

 魔物たちが何かに気付いたらしい。視線の先をたどると……え、ルガ兄さま?

 レティ兄さまなら「やべえ、殺される!」ってなるのは分かるけど。

 つーか、視線が好意的っていうか、むしろ尊敬っぽい……?

 ドッと魔物が集まってきて、ルガ兄さまにひれ伏した。

「先生じゃないですか! 覚えてらっしゃらないかもしれませんが、昔助けていただきました!」

「噂には聞いてます! おれらを治せるすごいお医者がいるって!」

「先生は命の恩人です!」

 ……なんじゃこら。

 一番とまどってるのはご本人だ。ただでさえ引っ込み思案なルガ兄さま、完全に硬直してる。

 魔物たちはめちゃめちゃ尊敬のまなざしで、中には拝んでるのもいる。

「……魔物って、こんなんだっけ?」

「魔物にとってケガや病気でも自力で治す、さもなければ死が常識でしたから、『治療』は衝撃だったんですよ。彼らにとって魔獣医は本当に命の恩人なんです。しかし、数が少ない。まして最高の実力を持つサルガタナス様は魔物の中で神様みたいな評価です」

 ああ、なるほど。医者がいなくて困ってる地域に医者が来たみたいな感じか。

「ましてここにいる魔物はジャスミンさんにほだされ、丸くなってますからね」

「オレは魔物にとって災厄で、ルガは天の助けか。あっはっは、真逆だな」

「うんまぁ、性格もね。それより、これどうしよ。五体投地し始めてる」

 ルガ兄さま、あわあわしてこっち見てるし、限界っぽい。

「先生、具合悪いあいつ直しに来て下さったんですよね? お願いします、おれらじゃどうしようもなくて!」

「先生はどんな魔物でも治せる神の手だって聞いてます!」

「うんうん、分かったからそこらへんでストップ。ルガ兄さま、困ってるでしょ。道開けて。診察に行けないじゃないの」

 さすがにあたしは待ったをかけた。

「あ、そうだな。先生、どうぞ! ご案内します!」

 ぞろぞろ後から魔物がついてくることになった。

 なんだこの行列。院長の回診みたいになってる。いやいや、後ろで拝みまくってる魔物引き連れた回診って何よ。百鬼夜行のほうが近くないか。

「……思うんだけどさぁ、魔獣にこんな崇拝されてんなら、オレが倒しに行かなくてもルガ連れてきゃ済むんじゃね? 穏便な方法だろうがよ。……オレ、引退して畑仕事していい?」

 うわあ、レティ兄さまが立場ないって感じになってる。

「当分無理ですね。サルガタナス様を尊敬してる魔物ばかりじゃありませんので。強い連中はいまだに自力で治すのが当たり前で、人に治してもらうのは恥だと思ってます。人間など差別対象ですから。言うことなんか聞きませんよ。武力でしか制圧できない輩も一定数います」

「うんうん、レティ兄さま、たそがれないでっ。兄さまいないと困るんだって!」

「そうか。リリスが言うなら、兄ちゃんがんばって働くよ」

 コロッとご機嫌直った。よかったよかった。

 ジャスミンさんは施設の紹介をしながら先頭を歩く。

「ええと、その、この研究所は魔物の研究をしてましてっ。例えば魔物の毒にやられた時の薬の開発とか、脱皮した皮・抜けた羽毛などの加工ですとか。人のために役立つ研究をしてま」

 ズルッと滑りそうになり、慌てて魔物たちが助けようとするもルガ兄さまのほうが速かった。

 あっさり体を持ち上げ、安全なところに下ろす。

 ほとんどの人は気づいてないけど、反射神経いいんだよ。兄弟全員、レティ兄さま・ルシファー・公爵の鬼訓練メニュー受けてるし。

 てゆーか、バナナの皮が何で落ちてんの?

「あ、ありがとうございます、すみません」

「おおお、さすが先生! よどみなくスムーズでさりげない!」

「かっけぇ! 惚れる!」

 ルガ兄さま、魔物に惚れられてるよー。よかったねー、モテモテですなぁ。

「えと、私、どこまで話してましたっけ?」

「……深呼吸」

「あっ、そうでした! すーはー。はいっ、そうですね、他にはパワー系の魔獣の筋肉構造を解析して、他の研究機関と連携し、工事に使う重機の開発なんかもやってます」

 と言いながらなぜか近くにあった水の入ったバケツを蹴飛ばしてずぶ濡れになるベタを発動しかけたとこで、ルガ兄さまが黙ってバケツをどかして回避した。

 ここまでベタな展開引き寄せるって、ある意味才能だな。いらん才能だけど。

 次はなぜか飛んできた鉄球*推定1t、をルガ兄さまが片手で受け止め、回避。

「すいませーん、ボールそっちに飛んできませんでした?」

 ボール? 遊びで使うボールじゃないぞこれ。大きさも大玉送りの玉くらいある。

 鉄球追いかけてきた魔物を、信者が取り囲んだ。

「おいコラてめえええ、先生に何してくれてんだ、しばくぞ!」

「ちょっと裏に来いやァ!」

「え? あっ、その方は! ももも申し訳ありませんー!」

 土下座してる。信者増えた。

「ルガ兄さま、有名なんだね」

「……全然」

 うーむ、一般的に兄妹中では一番何もできないって扱いのルガ兄さまがここまで尊敬集めてるとは。医者として優秀なのは知ってたけどね。

「すげぇ。何がすげぇって、ベタなドジやらかす彼女もだし、それをさりげなくあっさり防ぐルガがめっちゃ頼もしく見える。普段頼りなさそうなのが」

「ルガ兄さまもうれしそうだね」

 自己評価が低く、自分は何もできないってのがルガ兄さまの自己分析だ。それが、今は誰かを守れて、大勢に頼られてる。

「もうこれこのままここに婿に行けばよくね。置いてったほうが喜ばれそう」

「そうだね。本人は魔獣医が専門じゃないって言ってるけど、どう考えても専門家じゃん」

「サルガタナス様がご自身の専門は他の科だと言ってるのは、第一に魔獣医だとコンスタントに仕事があるわけではないので収入面で不安だからです。魔物は人間より病気になりにくく、ケガもしにくいですからね。いまだに自力で治すのが当然という魔物も多いですし」

「え、金銭的理由? ルガ兄さま、結構貯めてるじゃん。贅沢しないし、趣味はないし」

 趣味といえばせいぜい研究だけど、それ仕事。公費から出るじゃん。

「堅実かつ石橋をたたいて渡る主義ですから、老後の心配されてるんでしょう」

 『魔王の伯父』が老後の心配して、コツコツ真面目に仕事して貯金増やしてるとかっ。悲しくない?!

「心配する銀行残高じゃねーだろ。むしろ心配しなきゃなんないのはオレだな。つい部下に奢っちまうから」

「レティ兄さまはそれでいいんじゃない。部下とのコミュニケーション大事。信頼関係構築のためなら、仕方ない出費でしょ。ヤバいのはナキア兄さまだと思う」

 ルキ兄さまとネビロスは正反対の理由でまったく心配してない。アガ兄さまは商売人なんだから言うまでもない。でも、ナキア兄さまは……。

「あいつ、女に貢ぎまくってるからなー。借金だけはしてないっぽいけど。あれが兄で大丈夫かと時々思う」

「女の人に騙されまくってんじゃないかと考えたことあるよ」

「それはないですね。サタナキア様もあれで頭はいいので。貢いでるように見せかけて、実は困窮した人々への援助ですし」

「なんだよねー。あんなにわざと馬鹿っぽくふるまわなくていいのに」

「ご自身の立ち位置と求められている役割を把握しているのと、あとは性格なのでどうしようもないでしょう」

 だよねー。←容赦ない妹と義弟

「ところでサルガタナス様が魔獣医を専門にしないもう一つの理由は、イメージが悪いからです。リリス様がせっかく国全体のイメージアップを図ってるのに、兄が魔物を診る医者ではまずいというわけですね」

「ああ、そこ。別にいいじゃない。患者が魔物なだけで、やってることは治療でしょ。獣医さんを差別するようなもんじゃない。対象が人間じゃないだけで、患者を治したいって一生懸命なのは一緒。差別するのは間違ってる」

 きっぱり言ったら、優しく頭をなでるものがあった。

「ルガ兄さま?」

 聞いてたの。

「……ありがとう、リリス」

 優しい兄は、慣れた者しか気づけないけどわずかに微笑んでいた。


   ☆


 患畜は巨大な狼だった。フェンリルみたいなの。伝染病かもしれないから、一匹だけ隔離。

 ドア横には副所長である初老の男性が待っていた。彼も数少ない魔獣医の一人で、ルガ兄さまとは顔見知り。馬鹿父の時代に初めて魔物コレクションを診察させられた、いわば最初の魔獣医だとか。顔のシワがいかにも苦労人。

 普通の獣医だったんだけど、腕が良かったから目つけられたってわけ。しかもそれで治しちゃったもんだから、さらにアホ父に気に入られてしまった。現在いる魔獣医は全員そのクチだそうだ。

 ルガ兄さまと専門的なことをあれこれ話してたけど、さっぱり分からない。

「……診察してみる」

 会話が聞こえなくなったと思ったら、ほぼ副所長の声しか聞こえなかったけど、ルガ兄さまそのまま入ってこうとするから驚いた。

「ちょ、防護マスクも手袋も一切なし?!」

「……平気だ」

「ああうん、大丈夫じゃね? オレらはウイルスも毒も効かねーもん」

 そりゃ、あたしら王族はまったくといっていいほどそういうの効かないけど。

 そういやレティ兄さまも普通に毒ガス地帯入ってって、悪さしてた魔獣狩ってきたっけ。

「……問題ない」

 うわ、ほんとにスタスタ入ってったよ。

 でも、大丈夫? 具合の悪い魔物なんて、概して凶暴だ。本能的に他者を寄せつけない。

 狼も牙むこうとして……速攻しっぽ垂れた。

 お座り状態で硬直してるよ。

 あー、本能的に自分より強者だと理解したかな? 生存本能で、強い者には従う。

 それとも、こいつもルガ兄さまのこと知ってるのか。

「うわあ、すごい。あっさり言うこときいてますねっ」

 ジャスミンさんもすごいと思うよ。

 ルガ兄さまはテキパキ診察すると、一旦出てきた。

「……原因は分かった」

 早。

「え?! もうですか!」

「……内臓が原因。手術する。リリスは見ないよう下がってなさい」

 珍しく長文しゃべって、手術道具入った医療鞄持って室内へ。

 某無免許医のみたいなビニール製簡易手術室を用意。狼は大人しく麻酔打たれて、ぐーすかぴー。

 あたしが見られたのはここまでだ。これ以上は無理っす。

 医療行為と分かってても、スプラッタは無理だよ!

「リリス様、終わりましたらお教えします」

「うん、よろしく……」

 ルシファーが自分の体で視界を塞ぎ、抱きしめててくれた。あたしは耳塞いで大人しくしてた。

 普段なら怒るレティ兄さまもさすがに言わなかった。

 しばらくして肩をたたかれたので耳から手を離す。

「終わった? 早いね」

 手術って何時間もかかるもんじゃないの?

「サルガタナス様の手術スピードは驚異的なんですよ。数分で終わることもあります。だから神の手と呼ばれてるんですよ」

「数分?! それむしろ準備のほうが時間かかるね」

 そりゃアホ親父が殺さず生かしとくわけだ。

「あれ、ルガ兄さまって内科医じゃ」

「何科でもいけるんですよ。前王がどれでもいけるようにさせたので。一応患者の多い内科に所属してますが、よく他から要請受けて応援に行ってます」

 超オールマイティードクター。あの父のやったことはどれもろくでもないが、これだけは人の役に立ってるかな。

「すごいです……!」

「ん? ジャスミンさん、手術ずっと見てたんですか?」

「はい。全然平気です。見た目グロイ魔物なんてザラですし、普段標本とか見たり触ったりしてるんで」

 見かけによらず精神強いな。

 そういえば馬鹿親父のグロキモコレクション、喜んで引き取ってくれた人だった。

 ルガ兄さまが覆いをしたトレイを持って出てきた。

「……リリス。ごめん。大丈夫か」

「あ、うん、だ、大丈夫だよー。お仕事お疲れさま」

 頬がひきつってたのは許してもらいたい。

「ルガ兄さま、すごいね。こんな手早く手術できるなんて知らなかった」

「……そうか」

 あ、すごくうれしそう。あたしら兄弟やルシファーしか分からないくらい表情筋動いてないけど。

 ジャスミンさんには分かったらしい。

「分かりますー。私にも弟妹がいるんですけど、お姉ちゃんすごいって言われるとすっごくうれしいんですよねっ」

 え、ジャスミンさん長女? さぞ弟妹はしっかり者だろうな。お姉ちゃんがドジしまくってたら、他の兄弟はしっかりしなきゃって気になるよね。

 うちは逆パターン。あたしはじめ弟妹がキャラ濃すぎるから、ルキ兄さまが真面目加速してる。

「……ああ」

 ルガ兄さまはトレイを副所長に渡し、

「……この種の魔物は特定の草が食物。それが有毒化した変異種が最近発見された」

 診察結果はちゃんとしゃべるのね。

「突然変異ですか」

「……川の流れが変わった」

「上流にある何らかの毒素が流れ込み、吸収してしまったんですね」

 ジャスミンさん、補足説明ありがとう。

「つまり食材の産地を変えればいいんですね。分かりました」

「……この辺りのがまずい」

 サラサラと地図描いて、しゃべる代わりに説明書く。

 ちなみにルガ兄さまは某無免許医の作者かっていうくらい絵が上手い。無口を補うために絵や文で書いてたから、さらに技術が向上した。

 兄妹で芸術的センスあるのは、あとはナキア兄さまだね。でなきゃ綺麗にデコレーションしたケーキとか作れない。

 反対に、壊滅的なのはアガ兄さまとレティ兄さまだ。レティ兄さまが手配書の人相書き描いたら、衝撃的な爆笑絵図ができあがり、捜査どころじゃなくなったらしい。

 まぁレティ兄さまはいいとして、アガ兄さまは仕事上問題あるんじゃないかと聞いたことがある。美術品も扱ってるからね。そしたら、「価値があるかどうか判断できれば問題ない」だって。

 確かに、画商本人が描ける必要はないか。必要なのは審美眼。売れるかどうか見極める能力だ。

「ルガ兄さま、その草って人間も食べるやつ? だったら危険だって通達出さないと」

「……この種族しか食べない。もし人間も食べるならとっくにルキ兄さんに知らせている。万一リリスの口に入ったらどうする」

「効かないと思うけど」

 毒なら幼少時さんざん盛られて慣れてるよ。

「……だからっていいわけないだろう」

「同感です。野生が食べてもいけませんし、ルキフグス様に連絡しておきます。全て抜いて焼却処分しましょう。土の汚染も心配ですね。解毒剤はありますか?」

「……ある」

 解毒剤撒けば中和されるそうだ。よかった。

 ジャスミンさんは平然とトレイの中を見ながら、

「これが毒に侵された器官なんですね。研究のため標本にさせてください。本当にありがとうございました」

「ありがとうございました!」

 黙って控えていた魔物たちが一斉に頭を下げた。

「やはり先生はすごい! どこまでもついていきます!」

「先生、困ったことがあったらいつでも言ってくだせえ、駆けつけます!」

 たぶん困ってるのは今かな。

 いつの間に集まったのか、研究員も勢ぞろいしてて崇めんばかりだ。さらにあれこれ質問やら医学的助言を請うやらなんやらでつかまってた。

 でもまぁおかげで、捕獲した魔獣の訓練喜んでやってくれるって。ここの魔物たちも。

「先生への恩返しにもなりませんが、やらせて頂きます!」

「ご安心を、おれらが責任もって教育しますから!」

「ふふ、みんな張り切ってますねー」

「……別にいいんだが」

 と言いつつ、さりげなくぶつかる前にガラスのドア開けるルガ兄さま。慣れてきたね。

「むしろそれだけでいいんでしょうか。色々質問にも答えてくださいましたし、足りないくらいでは」

「……別に」

「うん、こっちもたくさん撮らせてもらったし。これコピー。公開してもいいかどうか、一応確認してください」

 USBメモリ的なのを渡す。

「分かりました。数日以内に確認してお返事します。訓練対象も移送してください、すぐとりかかりますので」

「お願いします」


   ☆


 帰宅後、ルキ兄さまに報告しつつ聞いてみた。

「ね、ルガ兄さま。数少ない貴重な魔獣医ならなんであそこで働かなかったの?」

「……あそこは『研究所』だ。常に医師としての仕事があるわけじゃない」

 ルシファーが解説してくれた。

「魔物の生態・繁殖・対策などを研究している機関です。病気を治すという仕事はないわけですよ。必要とされているのは医師ではなく研究者です。もちろん今回のように患畜が出る場合もありますが、その都度往診すればいいだけで」

「あ、そっか」

 そもそも魔物はめったに病気にならない。具合が悪くなるのは例えば戦って負傷した場合や、何らかの原因で毒物を摂取してしまった時などに限られる。まして研究所という安全地帯であれば、なおさらそんなことにはならない。

 魔獣医専門にしても食いブチ稼げないってのが目指す人がいない理由の一つだ。普通に人間相手の医者やってたほうが儲かる。

「でも、すごかったー。考えてみれば、ルガ兄さまが仕事してるとこって初めて見たかも」

「ああ、リリスはそうか」

 レティ兄さまは負傷した部下を連れてったりしてるから知ってるのね。

「うん。ルガ兄さまかっこよかったよ」

 珍しくわすかに(数ミリ)口角を上げたルガ兄さまが頭なでなでしてくれた。

 えへへー。

「そうだ、病院のHPもリンク貼っていい?」

 公立病院も取材候補だったんだけど、患者のプライバシー保護や立ち入り禁止区域が多いことから見送られた。病院関係者、っていうかルガ兄さまに撮影OKなとこだけ写真撮ってきてもらい、説明書き載せるという一般的なHPに。診察時間とかアクセス方法、受診予約ページなんかも載ってます。オンライン診療もしててハイテクよ。

 ルキ兄さまが答える。

「いいんじゃないか? 公立の機関まとめたサイトが必要だろう。レティのとこも同様にしておきなさい」

 警察も諸々の理由で同じく普通のHPのみだ。こっちのほうがもっと機密満載なんでね。

 レティ兄さま個人の仕事風景紹介なら問題ないんじゃないかと思うんで、頼んでみよう。各地の魔物退治やアホ親父のコレクション後始末だもん、イケメンのアクションシーンはさぞ女性が喜ぶことだろう。映画の撮影かな?って思うわ。

 他は一般の警察官の日常、パトロールの様子とかかなぁ。

「それと、こっちはネットとはまったく別の話。リリーちゃんとこもジャスミンさんとこもそれなりに女性が働いてるじゃない? 保育所作ろうよ」

「すでに大学に設置してあるのと同じなら比較的早く作れるだろう」

「ああうん、ただね、聞いてみたらそれぞれ希望してる家庭はそんな多くなかったの。官公庁や国立の機関の保育所はまとめちゃわない? できれば病院に併設する形で」

「病院に?」

「第一の理由はちょうど二つの研究機関の中間地点で、病院の職員の子も預かれて最低三つカバーでき、一定以上の需要が見込めるから。第二の理由は病児保育にも対応できるから」

 聞きなれない言葉に男性陣が首をかしげる。

「子供が病気だと普通の保育所には預けられないでしょ。休んでくださいってなる。でも保護者は休めない。そんな時は祖父母や親戚かベビーシッターにみててもらうかない、それも無理となったらどうする? 病気の子専用の保育所が必要になるわけ」

「なるほど」

「病院にあれば何かあってもすぐ医者が駆けつけられて安心じゃない?」

「部屋を確保する必要があるな。通常保育と病気の子用の二つ以上。ルガ、あるか?」

「……ある」

 なんでもアホ親父の代に金持ち専用の特別病室があったらしく、そこ改装すればいいってことになった。広いし環境いいし。

「病児保育だけだと採算とれない恐れがあるんだ。インフル流行期は満杯でもそうじゃない時はガラガラとかさ。通常の保育と組み合わせることで赤字回避」

「ふむ。でも保育士の勤務形態はどうする? 利用者が一人もいない日に出勤しても意味ないだろう」

「そこも考えた。保護者が病院かかってる待ち時間に預かり保育して、そっちやってもらえばいい」

 ああ、とルキ兄さまが手を打った。

「保護者が病気だが子供いるから病院行けないという意見は聞いたことがある。どうにかせねばと思っていた。ちょうどいいな。早速手配しよう」

 ルキ兄さまが速攻作った命令書見て驚いた。

「他の医療機関かかる場合も利用可能、病院で診療受けた領収書見せれば……これは分かるよ。所得に応じてとはいえ、料金無料にしちゃっていいの?」

「低所得者層が病院にも行けなくなるのを避けるためだ。貧しい者が多いからな。こういうところで税金を投入しなくて何のための税だ」

 おお~。

 拍手。

「さっすがルキ兄さま。かっこいい」

「やっぱルキ兄貴は『いい人』だよなー。ってか、金あんの? 国庫平気か?」

「ケータイやネット関連の売り上げのおかげで潤沢になったんだよ。リリスが国家事業としてやってくれたおかげで国が使えることになったからな」

「うんうん、困ってる人のために使ってこそでしょ」

 何のための金よ。

「問題はそれだけの数の保育士が確保できるかどうかですね」

「定年退職した保育士の時短勤務、潜在保育士の発掘……」

「負担軽減のため外注できる作業は外注にしようよ。例えば工作の材料の準備とか。紙を使うサイズに切ったりするだけでも人数分用意するのは大変じゃん。あっ、そうだ。そういう軽作業は老人ホーム入所者にやってもらうのはどうかな?」

「ほう?」

「手を動かすのって認知症予防や悪化防止にもなるっていうし。ボランティアでやってもらってさ、子供たちにはお礼として工作や絵をホームにプレゼントしてもらうの。お歌うたってもらうでもいいよ。お金をかけなくても『ありがとう』ってできるでしょ? そうすればやるほうもうれしくてやる気が出るし、子供たちも楽しい。どっちもお得。ね?」

「なるほど。それはいいアイデアだ」

 言いながらサラサラと書類書いてるルキ兄さま。宰相仕事速い。

「なるべく負担は減らし、何らかの理由で休まねばならない場合の代替要員の確保。それから……ああ、老人ホームで思い出した。家族の介護で学校や病院にも行けないケースがけっこうあると報告を受けてたな」

「あれ、介護施設けっこう作らなかった?」

 老化によるものだけでなく、拷問や戦火が原因の人も多いため、公費で作ったはずだ。低所得者層は無料で使える。

「人手が足りない。重労働と、利用者からのセクハラが理由だ」

「セクハラなんかするやつは逮捕しちゃえばよくね」

 きっぱり言うレティ兄さま。

「確かに。入浴介助でスタッフの体触ったりとか、訪問介護スタッフが来ると鍵かけてろくでもないことしようとするとか聞くよね。容赦なく罰与えようよ」

 女性として言わせてもらう。セクハラ許すまじ。

「介護施設の監視カメラ設置強化な。映像で証拠とっといたほうがいい。これ緊急案件な。訪問介護スタッフも隠しカメラ常備、すでにやった利用者は裏取って逮捕しとこう」

 あたしが静かに燃えてたら、察したレティ兄さまがスマホぽちぽちして長官権限で速攻やるよう命じた。

「とはいえ誰も介護しないわけにはいかない。どうする?」

「そういう利用者だけ専門スタッフつければ? セクハラなんか絶対できないスタッフ。……つまり外見がいかついとか、魔物とか」

「それにやらせるか?」

「……あー、なる。ほら、研究所の魔物みたいに、一口に魔物っつっても友好的なヤツもいるからな。見た目が恐いだけで。魔物なら力あるし重労働も平気だもんな」

「そゆこと」

「前王のおかげで労働人口は減ってますし、外国人労働者にも頼れない現状です。何しろ怖がって来てくれませんから。使えるものは魔物でも使うのが現実解ですね」

「とはいえ入所希望者が多いのはいいことだ。少し前まで働けなくなった人や高齢者・子どもは容赦なく捨てられていたからな」

 ルキ兄さまの言葉にあたしたちは黙ってしまった。

 兄さまたちの大半がそうなりかけた経験を持つ。王の子ですら、有益でなければ処分されたのだ。

 社会的弱者が放り出されたら、待つのは死。結果、治安の悪化と病気の蔓延を引き起こすことになった。

 ルキ兄さまが宰相就任後真っ先に作ったのは、そういう人々が暮らせる施設作りだった。

 何度も言う通り、うちの国は貧乏。今でこそ資金が潤沢になったけど、当時の国庫はカラッケツだ。資金がどこから出たかというと、クーデター後を見越してルキ兄さまとアガ兄さまが貯めていたものから。

 つまり私財をなげうったわけだ。

 アガ兄さまは不満そうだったけど、ルキ兄さまの意向なもんで素直に従った。熱烈な信者だもんね。

 このお金で最低限の配給や公共事業ができた。私財をあてたことを二人は公表してない。人気取りとか言われたくないんだって。

「……そうだね。うん、よかったよ」

「おっと、もうこんな時間か。今日はここまでにしとこう」

 ルキ兄さまが立ち上がるんで、時計を見れば、夕飯の時間を指していた。

「うん、お腹すいたー。ごはんにしようっ」

 ほてほて廊下を歩きながら、隣のルシファーが小声で聞いてきた。

「リリス様、保育所はご兄弟の結婚を考えてのことですか」

「うん。候補のリリーちゃんもアイリスさんもジャスミンさんも働いてるでしょ。結婚したら辞めろとか時代錯誤。共働きになるよね」

「気が早くないですか」

「いやいや、先のことまで考えとかないとー。ていうか、結婚後も働き続けられるって分かれば嫁に来やすいかもしれないじゃない? 少しでも可能性上がるならやっとかないと。特にリリーちゃんは攻略難易度高そうだから」

 ネビロスが何年ストー……粘っても落とせてないじゃん。

「確かに。ご兄弟の地位や外見狙いでない女性はそう見つかるものでもありません。逃がさないようにしましょう」

「だよね」

「ところでリリス様は?」

 ほえ?

「あたしが何?」

「リリス様もご自身の子について考えてらっしゃるんでしょうか?」

「…………」

 あたしは黙り込んでしまった。

 恥ずかしいからじゃない。

 もっと切実な問題だ。

 忘れてはならない。『魔王の母』と『魔王の父』から生まれるのは『魔王』である。

 悪役であり、ラスボスであり、殺される運命。

 それが本来のシナリオだ。

 あたしはそれを全力で回避しようとしてる。でも、どうすれば確実に破滅ルートから逃れられるか不明なままだ。

 すでにある程度シナリオを変えることに成功したが、十分だろうか? まだ、あたしが生む子は敵キャラになり、殺されるんじゃないか……?

 そうとは知らないルシファーはあたしが恥ずかしがってると思ったようだ。

「違うのですか? てっきりそれを見越したのかと正直うれしかったのですが。何かあってもサルガタナス様がすぐ駆けつけられるよう、病院併設にしたのかと」

「え、と……うん、それは……考えてなかった……かな」

 それよりも殺される運命変えるほうが緊急の案件というか。

 もっと真剣に生死のかかった問題考えてたわ。

 兄たちがばっちり聞きつけてルシファー睨んでるのに、当人はどこ吹く風で続ける。

「そうでしたか。一応子供が生まれたら僕が育てることも考えてました」

「え、専業主夫やる気だったの? そりゃありがたいけど、仕事は」

「自宅でもできますので」

 まぁ確かに。実際のスパイ任務は今だって部下に任せてるわけで。

 『魔王の父』が主夫で育児やろうとしてたって結構な衝撃。

「……ま、まだ先の話でしょ。その話は今度ね。ていうか、兄さまたちすごい殺気向けてきてるよ」

 いつの間にか全員勢ぞろいしてルシファー睨んでる。

「おい。ルシファー」

「オレのかわいい妹に何言ってやがる」

「お前のじゃない。俺の大事な妹だ」

「リリスに手出したら斬るぞ」

「……右に同じ」

「ちょーっと聞き捨てならないかなー?」

「ははは。嫌ですねぇ。僕は何年も前からリリス様の夫ですよ。皆さん方もそろそろ妹・姉離れしてご結婚されたらいかがですか」

 平然と受け流すどころかやり返すルシファーも度胸あるよね。さすが『魔王の父』。

「リリーは何としてでも落とすけど、それとこれとは話が別だよ」

「……僕は独身でいい」

「あ? ルガ、お前は所帯持ってちゃんとした家庭築け。悲惨だった幼少時のぶんも幸せになれよ。生涯独身ってのは俺だけでいーんだ」

「何度も暗殺されかけたお前も悲惨だろう」

「ううっ、オレの弟たちって不憫。よし、兄ちゃんが一肌脱いでお見合いセッティングしてやろう」

「ナキア、少しは真面目に考えろ。お前こそ嫁もらって落ち着け」

「兄貴こそ仕事してばっかでさー。さっさと嫁さんもらえよ。ほら、一番上が結婚すれば弟たちもやりやすくなるんじゃね。もちろんオレは除く」

「弟全員嫁見つけてからでないと安心できん」

 ものすごく説得力あるお言葉。

「いやいや、いい子いたら順番とか関係ないからな? ルガ、お前はジャスミンさんとこ婿に行け。大丈夫、研究所の魔物たちも大喜びだ」

 ていうか毎日拝まれそうだ。

「…………」

「ありゃりゃ。頭パンクしてるよ。だいじょぶかー? ああそういやネビロス、お前今日もリリーちゃんとこ押しかけたんだって? 首尾はどうよ」

「ひどいなぁ、手伝いに行っただけだよ? 僕器用だからみんな喜んでくれた。なーんでリリーは喜んでくれないのかなー?」

 何となくネビロスはとっくにリリーちゃんの同僚全員懐柔してて、あれこれ報告させてるんだろうなぁと察しがついた。どうしようこの弟。

 とか考えてツッコミが遅れたら、みんなてんでばらばらのことしゃべりだした。

 こうなると収拾がつかない。

 ……ま、ほんとにね。

 順番なんてどうでもいいのよ。別に候補者以外から嫁見つけてきてもいい。

 あたしが望むのは、みんなそれぞれ幸せになってほしいってことだ。


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