女王兄弟はさっさと引退したい
帰宅後、ルシファーに教授の娘さんの調査書見せてもらった。
教授の娘ですでに研究者なら40~50代かと思ったら、まだ二十代と若かった。独身、恋人なし。
ショートカットで背の高い美人。女だてらに作業員と一緒になって土掘ってるそうだ。写真も作業中なんでツナギ着てる。
髪が短いのは作業の邪魔だからと、この間遺跡探検中に守り神と交戦して切れちゃったらしい。
守り神と交戦って、やっぱ考古学者ってそういう冒険やんのね。次ついてきたい。連れてって!
どこ行く? 魂の井戸、魔宮、ペトラ遺跡、クリスタル・スカル、それとも黄金のピラミッド?←作品違う
「彼女、兄嫁候補に」
「リリス様、最近ご兄弟の嫁探しされてますね」
「んー、だって心配なんだもん。兄さまたち、いい年よ? 特にルキ兄さまなんか、元々女性に淡白な上、仕事にかまけてこれじゃ一生独身だって。別に独身でもいいけどさ、うちじゃ家庭環境が複雑じゃない。お嫁さんもらって、子供育てて、普通の幸せな家族を作らせてあげたいなって」
そうでなきゃ悲しすぎるじゃないか。
「確かにルキフグス様とサルガタナス様は誰かが世話をやかないと、結婚できなさそうな気がします」
「でしょ? ナキア兄さまとレティ兄さまは自力で探せるでしょうけど。ネビロスはがんばれ。で、彼女どう?」
「グシオン教授の娘なだけに、頭のいい女性です。まだ幼いころ、父子そろって亡命。なお、母親は幼い頃に病死。ミスター・グシオンが大けがを負ったのは、追手から娘をかばったためです」
「あ……」
あたしはぱっくり開けた口を閉じた。
間抜け。今まで気づかなかったなんて。
「そっか……。バカ親父に恨み持ってるか。それに大ケガさせたんだもん、その息子の嫁に来てくれるわけない」
リリーちゃんもアイリスさんもあたしたちに敵意向けないから忘れてた。いまだに元王族を恨んでる人がいることを。
「……無理だね」
「分かりませんよ。ああ、そういえばこの件でルキフグス様にご相談があるんでした。一緒に来ますか?」
「うん、行く行くー」
ルキ兄さまはたいてい執務室に行けばつかまる。
やっぱりいた。
「……というわけで教授の娘ローレル嬢が帰国することになるでしょうが、調査チームという口実で何人か都合の悪い人物が入ってこようとしてます」
「へえ」
ルキ兄さまは眉を上げた。
「国内こそ前王に復讐したいという者は気勢を削がれてほぼいなくなりましたが、国外はそうもいきません」
「えっ、それヤバいんじゃない?」
「ご心配なく、リリス様。ですから今阻止するための打ち合わせをしてるんですよ。彼らには不正確な情報しかなく、勝手な予想に振り回され、暫定政府も前王同様と断定しました。クーデターを起こすつもりです」
暫定政府って、ルキ兄さま主導の現在の内閣よね。
「はああ? バカがつくほど真面目なルキ兄さまとそれを尊敬してるアガ兄さまにもう戦争やりたくないレティ兄さまが、アホ親父と同じことするわけないじゃん!」
机をバンとたたく。
「リリス……アホって……」
「あ、ごめん。超真面目ってこと。そいつら、あたしが権力放棄したのも信じてないのね?」
「はい。選挙も出来レースで、結局はご兄弟が要職を独占するつもりじゃないかと」
「……さっさと降りたいんだが」
山積みの書類にげんなりするルキ兄さま。
「権力も地位もいらないってのは兄弟一致してるんだよな。アガは商人に戻ればいいし、レティは……傭兵には戻っちゃ駄目だ」
同感。本人も戻りたくないらしいしね。
「ルキ兄さまは辞めたら具体的に何したいの?」
「田舎でのんびりスローライフ送るのどうかなと」
定年間近の人みたいな哀愁が。光の加減か、白髪の目立つ年配の方が窓辺でたそがれてるように見える。悲しい。
「ではそのためにも早く片付けましょう。わざと入国させて罠にかけ一網打尽、でよろしいですか?」
「ああ」
「なにしろ彼らが現在いるのはベルゼビュート王子の国。王子が噛んでいる可能性もありますのでね」
「え?」
あたしが驚いたのに対し、ルキ兄さまは平然としてた。
「あのハエならやりかねん」
「ハエって。ね、ベルゼビュート王子がうちの国ひっかきまわして、何か得あるの?」
自国じゃ無理だからよそで王様になりたいってんなら、誰が見ても隣国のほうが魅力的。『正義の王』の娘と結婚して、王位狙ったほうがよくない?
「うちの国を滅ぼして周辺国で領土分けたいにしても、農業も産業もないよ? ……あー、地下に天然資源があるとか?」
「ありませんね。あったら輸出できてよかったんですが。掘っても出てくるのは毒ガスかマグマだけですよ」
だよねー。
超いらなーい。
「そう、ベルゼビュート王子の魂胆が読めない。単にトラブルを起こして楽しみたいだけかもしれない」
「ローレル嬢ですが、彼女本人はまっとうな人間です。公平な考えと客観的思考を持っていなければ、あの年で考古学者などやってられないでしょうが。彼女は反乱軍に関わってません。隠れ蓑として利用されてるだけです。教授も」
「そうなの? バカ親父を恨んでると思った」
「歴史を紐解けば、子が親を倒して政権を握ったなどザラです。親が暗君でも子が名君ということはよくあります。それを良く知るローレル嬢がリリス様たちを恨むことはありませんよ。むしろ逆に前王を倒してくれたと喜んでます」
そっか。
「真面目なんでしょう、チームにテロリストが紛れ込んでるとは気づいてもいません。彼女はシロです。しかしこのことを伝えるわけにはいきません。敵に警戒されてしまいます」
「やむをえんな。だが彼女の身辺は警護しておけよ」
「ええ、すでにこちらの手の者を潜入させてあります」
ルシファーとルキ兄さまは細かいところを詰めていく。何もできないあたしは、せめて邪魔にならないよう、大人しくしてた。
そこへレティ兄さまがやって来た。
「あれ、レティ兄さま。どしたの?」
「ルシファーが話あるっていうからさ。亡命者のテロ計画の話だろ?」
おお、レティ兄さまも知ってたのか。三人で話し始める。
……うーん、こういう時、あたしは何もできなくてほんと申し訳ない。でも、才能ない素人が加わっても、迷惑にしかならないもんね。
せめてファッションで平和アピールしようと、次のデザイン画を描いてることにした。
☆
ふと我に帰れば、密談終わってた。
「リリス様。先ほどの観光プランについての話し合いも終わりました。全てどうにかなりそうですよ」
「ほんと? ありがとーっ」
「各地の魔獣に関しちゃ、どうせ片付けにいかなきゃならなかったしな。オレが行ってくる」
「え? レティ兄さまに全部やらせるなんて駄目だよ」
「オレら元傭兵チームは慣れてるし、少数精鋭のプロ集団で行ったほうが負傷者も出ない」
「だが、レティが長期間王都にいないのはよくない。少しずつ順繰りにやっていこう」
ルキ兄さまが急ぎの順に決めていく。
「オレ一人いなくても平気じゃね? 実際は現場の実行部隊隊長で、仕事は全部部下がやってるんだ」
「俺たち兄弟の中で強いのはお前だけだと思ってる人間は意外と多い。なにしろお前は諸国で傭兵稼業してたからな、有名なんだよ」
「あー、オレの存在自体が反対勢力や他国の強硬派への牽制ってことか。オレがいちゃ、そう簡単に攻めこめねぇ。……選挙のタイミングで辞めたいんだけどなー」
「別にいいけど、その後どうするの?」
「もう剣は持たずにゆっくり暮らしたい。畑仕事とかしてのんびりと」
ルキ兄さまみたいなこと言ってる。やっぱ兄弟。
「いいんじゃないか。兄として、傭兵に戻るのは認めんぞ。ところでレティ出張は罠に利用する。こいつがいなきゃ攻略楽勝って攻めてくる阿呆がいるだろうからな」
「でしょうね。手配しておきます」
「おー。悪名でも役立つならどんどん利用してくれ」
ルシファーとうちの兄たちにケンカ売るやつってほんとアホだわ。
「ま、ほんとはオレがいない間にどっかの国が大軍で攻めてきても平気なんだけどな。兄弟もルシファーもいるんだ。つーか一番強えリリスいるし……」
うんうんと売るなずく男三人。
「グーパン一つでパワーアップしたバカ親父撃沈できるレベルだからな」
「あれやればどんな敵も黙りますよ」
「正直、魔獣どもには、従わないなら女王の一撃が来るぞって言ったほうが早い気がする。連中のほうが正確な事実知ってんだ。巨人ふっ飛ばしたのが、魔族の間で噂になってんの」
へー、ずいぶん情報網持ってんだね。魔物も。
「巨人といえば、巨人族は話通じるからいいけど、それ以外の逮捕した魔獣な。火系の魔物を観光地で働かせるってプラン。今のままじゃ言うこときかねーぞ。調教しないと」
「調教て。あ、プロがいるじゃん。魔物の研究所の所長ジャスミンさんに聞いてみれば?」
あたしは提案してみた。
「あそこはアホ親父のコレクション引き取ってくれたじゃん。有効活用してるらしいし」
「そうですね。ジャスミンさん自身が凄腕の調教師ですから」
「あっ、そうなの? あの見た目で?」
ファッションショーの時モデルやってもらった、ドジっ子ちゃんだ。あれでもあたしより年上。
「むしろパクっとやられそう」
「あまりにか弱すぎる小動物がプルプルしてると、魔獣も罪悪感持っちゃうんですよ。奴らにもプライドがあり、圧倒的弱者を一方的に搾取することは沽券にかかわるんです」
あー、確かにすんごい弱い小動物がウルウルした目で見上げてきたら、ズキュンとくるわ。さらにドジっ子ともなれば、「自分が守ってあげなきゃ!」みたいな気になるよね。
ルキ兄さまが書類をあさって、
「ああ、あった。研究所からの要望書だ。ルガにいっぺん魔獣の診察に来てくれないかって。原因不明で具合悪い研究対象がいるらしい。ルガは人間だけでなく魔物も診られるからな」
いわば獣医みたいなもので、人間相手とは違う。この魔獣医、世界的にも数えるほどしかいないんだ。そもそも魔獣の治療なんて普通やらないんでね。
たいていの魔族は野生で、自力で治すし、医者にかかるっていう発想がない。
そういう感覚あるのは巨人族とか人型の種族で、あれは専門の巨人族の医者がいるらしい。
で、だ。その魔獣医は全員うちの国にいる。
というのも、馬鹿親父がコレクション管理のために必要としたから。わざわざ研究させて専門医作ったんだよ。結果、皮肉にも魔獣・魔族の研究は一番うちの国が進んでることになった。
中でも最も腕がいいのがルガ兄さまだ。
本人は母親の病気を治すために医師になりたかったんで、人間相手の医者を志してた。それを、アホ親父が無理やり医大生時代に魔獣医の単位取らせたんだ。したら、腕がいいもんで、将来そっちやらせる気だったらしい。だからルガ兄さまは殺されずに済んだんだよ。
「これ聞いてやる代わりに、訓練やってもらおうか」
「すげーなルキ兄、この書類の山、内容全部覚えてんの? 了解、そん時はオレも一緒に言って話すよ。口下手なルガじゃ頼めねーし、逮捕してある以上オレの管轄だからな」
「そのほうがいいな。早速連絡しておこう」




