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ジェントルマン老館長と観光スポット作り~図書館の登録書は呪い入り~ 

 PR第二弾は、手っ取り早く大学併設の各研究所にした。これも面倒な許可がいらないのが大きい。

 ただ、研究中で漏れたらまずいデータとか、機密情報の管理だけは気を付けた。各責任者に相談し、映しても構わないとこだけ撮影した。

 どこ映しても構わなかったのは図書館くらいだ。

 館長は紳士なおじいちゃん。まさにジェントルマンって言葉がぴったりの、老紳士だ。優しく穏やかな白髪の男性。

 若い頃は博学と有名な人物だったそうで、それゆえアホ親父に疎まれ、殺される前に亡命した。今回図書館を作るにあたり、アガ兄さまがツテを頼って連れてきてくれた人材だ。

 バカ親父の代に亡命した知識人は多い。この国の再生のためにも彼らを呼び戻すことは重要で、何人もそうやって説得して帰国してもらった。

 老館長は国外へ脱出する際、追手に深手を負わされたと聞く。今もなお、杖がないと歩けないそうだ。

 あたしが謝ると、老紳士は驚いて「女王様が謝ることはありません」と言ってくれた。

 後でアガ兄さまが言うには、どうやら亡命した知識人たちはこの国が本当に正常化したか疑ってたらしい。そこで老紳士が「自分ならもう老い先短い。もし罠で、殺されたとしても構わない」と実験台として帰国したとか。

 あたしが真っ先に謝罪したので、疑いを解いてくれ、この後仲間に帰国を促してくれた。

「若人の未来のためなら、僭越ながらお手伝いさせて頂きましょう」

「お願いします、ミスター・グシオン」

 なんとなくミスターをつけたくなる。もしくはプロフェッサー。

「女王様、敬称はいりませんよ。畏れ多い」

「あたしは権力放棄したんで、身分ないですよ。これは単に自分より優秀な人への単純な敬意です。ま、それなら『教授』でいいですか?」

 事実亡命中は他国の大学で教えていたから、その呼称で落ち着いた。

 教授は杖をつきつつ、ゆっくり図書館案内の動画撮影に協力してくれた。

 バカ親父のせおかげで、蔵書は一流品がそろってる。一般的にこの世界で希少本はコレクターが保管し、他の人が見られるものではない。それを誰でも見られるようにしたことはすごいシステムだと言われた。

「……世界的にも貴重な文献がこの図書館にはたくさんあります。これらは無料で閲覧可能なんですよ。貸出可能なものと、不可能なものがありますが、見ることなら図書館の中でいくらでもできます」

 さすが元大学教授、しゃべりはよどみない。

「学生ならば、学生証を提示して頂ければ貸出可能本を借りることができます。一度に五冊まで、期限は一週間。外部の人でも登録をすれば借りられますよ」

 この世界に図書館のシステムは存在しなかった。ルールを提案したのはあたしだ。

 貧しい人はまだまだ多く、本なんて買えないこともよくある。でも借りられれば、と思った。

 図書館は他にもいくつか作り、特に好評だったのが子供向けの絵本・児童書コーナー。本に触れたことすらない子が無料でいくらでも読めて、結果自発的に勉強したいと決意するケースが増えたという。

「借りた本は、ちゃんと期限内に返してくださいね。書きこんだり、破ったり、汚したりはもちろん御法度です。ルールを破るとペナルティがありますよ」

 撮影係って口実でついてきたネビロスが小声で聞く。

「何が起きるの姉さま?」

「登録用紙にちょっとした魔法が組み込まれててね。ルールを破ると、とにかく足の小指ぶつけまくるの」

 無理やり連れてこられて仏頂面だったリリーちゃんが眉を寄せた。

「……何ですかそれ」

「違反したらペナルティあります、了承しますか?って登録用紙にちゃんと書いてあるの。それにサインしたなら、ルール守ってもらわないとね?」

「悪魔の契約書の手口っぽいよ姉さま」

「ルール破らなきゃいいだけの話じゃない。きちんとした利用方法してる限りは何もないのよ。ていうか、それが当たり前でしょ。みんなで使うものなんだから、気持ち良く使わなきゃ」

 間違ってないけど……とうなるネビロス。

「未返却の本を返すか、破損させたら本の代金分払えば、呪い解ける仕組みになってるわよ」

「呪いって言っちゃった」

「リリス様は他の案も考えてましたが、無難なとこに落ち着いたんですよ」

「一応聞くけど、他は?」

「え? 脛をぶつけ続ける。笑いが止まらなくなる。カエルの声しか出せなくなる。指先ばっかり蚊にくわれまくる。階段下りる時は必ず五段上からジャンプする。反対に上る時は常に二段飛ばし」

 あ、リリーちゃんがあきれてる。

「体や心に重大なダメージはないけど、ずっと続いたら我慢するのキツイってラインナップよ」

 本気で呪ったらまずいじゃないか。あたし、キャラ設定的にできちゃうんだからさ。

 微妙な匙加減にしたよ。

「確かにその中じゃマシなほう……かな」

「だって、ペナルティなしにはできないわよ。なくなったら困るもん。体の一部がGになるっていう、我ながらヤバいペナルティはやめたんだからよくない?」

「それはやめてくれてよかったです」

 だよねー。あたしも見たくなくてやめた。

 デザイン画描くので一人盛り上がった深夜のテンションで考えちゃったペナルティ。朝起きてぞっとしてやめた。

 とはいえ、元々この国の人は悪役サイドとして作られてる以上、残念ながら性善説は通用しない。

「……と、こんなところで説明はいかがでしたでしょうか、女王様?」

「はいっ、ありがとうございます! チェックしてもらって、OKならすぐアップしますね」

「では、館長室へどうぞ。わたくし自慢の紅茶をお入れしましょう」

 ジェントルマンが老執事のように優雅な手つきでお茶をいれてくれた。おお、いい香り。

 手土産に持参した、ナキア兄さま特製クッキーをみんなで食べる。図書館だから汚さないよう、食べかすも散らからず指も汚れないクッキーにしたそうだ。さすがナキア兄さま、配慮が細かい。

 動画チェックでOKが出たんで、さっそくネットにアップしておいた。

「ところで教授、相談があるんです。うちの国はなにせ資源に乏しい。観光地化できるスポットもない。何か、これを応用すれば使える、っていうのはありませんか?」

 教授は意外そうにあたしを見た。

「女王様がそこまでお考えとは」

「あはは、根本はこの通りバカですけどね。国民たちにひどいことしたのは父です、だから何かしないとと思って」

 それはあたしの責務だ。

 教授が地図を出してきてくれて話し合う。

「雪山はスキー場にできません? 魔物はあたしがぶちのめします」

 ルシファーとネビロスがさりげなく体を震わせた。

「ゲレンデには不向きかと。地形と気候上の問題ですね」

「うーん……あ、雪が大量にあるんだから、雪像でも作りましょう」

 ポンと手を打つ。

 雪まつりだよ、雪まつり!

 みんな首をかしげた。

「雪像?」

「雪で像を作るのよ。何十分の一のスケールの城とか、有名な彫像を模したものとか。ちょうど大学に彫刻科あるし、作品展と銘打って、授業の一環で作っちゃえば?」

 コスト削減。

「なるほど。いいかもしれませんね。あまりお金もかかりませんし。夏も雪が解けない場所ですから、避暑スポットにもなります」

「寒い系はそれで、暑い系は。火山……危険すぎてどうしようもない。……ん? 火山?」

 待てよ。アレあるんでない?

「温泉ないですか?」

「はい? 温泉、ですか? あるにはあるそうですが、毒ガス地帯の先なので行けませんよ。ガスの効かない種類の魔物が生息してると聞きます」

「効かない魔物がいるんなら、彼らに源泉引く工事やってもらえばいいじゃないですか。で、スパかクアハウス作る!」

 常に持ち歩いてるデザイン画描きとめる用のメモ帳にイメージ図を描く。

「人が惹かれるジャンルは、ファッション、健康、美容。マッサージやサウナのあるスパリゾートよ。水着で遊べる屋内温泉施設。ゆっくり入りたい人には露天風呂。子連れも取り込むため、子供向けエリアも作ろう。ホテルにはキッズルーム完備。ああそうだ、高齢者向けに健康チェックとのセットもどうかな?」

 ルシファーがうなずきながら、

「源泉のある山はどこですか、教授? ここなら確か、少し離れた所に前王が建てた離宮があったはずですよ。それをリフォームすればいけるでしょう」

「早速誰か派遣して、状況チェックさせよ。大がかりな公共工事やれば、失業者も雇えるしね」

 巨人族って人手もある。

「他は……海や川は?」

「海辺にも離宮がありますよ。元は漁港だったんですが、前王が集めた水棲のモンスターを飼い始めて潰されました」

「復興しよう。魚市場も作って、観光客が買いに行けるように。他は……春……花見……花の綺麗なところとかは?」

 教授が答えた。

「見た目は綺麗で香りもいいんですが、そうやっておびき寄せて食べてしまう食人花の住処ならありますよ」

「それはまずい。ん、でも魔物なら話つけられるかも。香りの成分ほしい」

「どうなさるんです?」

「香水よ。女性に売れるファッションアイテムの一つ」

 この世界に香水は少ない。元々ゲームの世界だから、嗅覚に関することは発展してないってわけ。

「アロマキャンドル、スワッグ、ポプリにも……」

「要するにハーブですか」

「あ、うん、いいね。ハーブって言い張ろう。それはそれとして、お花見できる場所あったら忘れずに。次は秋の名物、紅葉か果物狩り、収穫ツアー。といってもうちの国、農業はあんま向いてないし……」

 今、水耕栽培やビニールハウスの栽培が進められてるけど、実を結ぶのはまだ先だ。

 ああ、提案したのはあたしだ。単純にいちご狩りがしたかったっていう動機で。

 いやいやいや、同意してくれる女性は多いはずだよ!

 教授が顎をなでながら、

「果物や野菜は難しいですな。キノコなら、キノコ型のモンスターおりますが」

「それキノコ狩り違う」

 リアルに狩猟しとる。

 ルシファーが言う。

「食べ物や植物に関しては、サタナキア様やサルガタナス様に伺ったほうがいいかもしれません。特にサルガタナス様がこの前、毒の森でしか育たない貴重な薬草があると発見したそうで」

「ああ、薬草かー。体にいい何かを作る体験コースとか、お茶とか……花茶できたら綺麗」

「花茶?」

「花のお茶で、花が閉じた状態で乾燥させるんだったかな。お湯を注ぐとふわーっと花が開くの。見た目が綺麗でね」

「ほうほう。それはとても面白そうですな」

 お茶好きな教授の琴線に触れたらしい。

「スポーツの秋と題して、アスレチック施設作るんでもいいかな」

 確か本来のシナリオではヒーローたちがレベルアップするための特訓にいい場所があったはず。改修すれば使えるんじゃないかな。

「キャンプ場も併設して。装備一式レンタルOK、手ぶらで行ける!が売り。飯盒炊爨にカレー作りと、夜には花火やキャンプファイヤー」

「火を吹く魔物が使えそうですね。この間フルーレティ様が地方で暴れてたの捕まえてきてます」

「それ使おう。タダメシ食らいの囚人は減らしたい」

 アホ親父のせいで、現在刑務所はパンパンなんだ。くだらない悪事やってたやつが多すぎて。

 三食出さなきゃなんないし、病気になったら医者にみせないとなんないし、意外と経費がかかる。国民からも、さんざん自分たちを苦しめた連中に税金を使うなって声がけっこうあってね。

 てわけで、可能な限り刑務作業させることにした。呪術で「逃亡したら何かヤバいこと起きるよククク」って防止措置とった上で。

「それから……ついでといってはなんですが、女王様。実は私の娘が考古学者なのですが、国内のいくつかの場所を発掘したいと言っておりました。なにしろ前王はそういったものにまったく関心がなく、手つかずのポイントがたくさんあるのです」

「発掘? 古代の遺跡とか?!」

 思わず反応してしまう。

 条件反射で脳内を鞭持った某冒険家のBGMが。

「そういうのもありますね。安全なものは整備すれば観光資源になると思いますよ。許可を得て発掘してからなので、時間がかかりますが」

「やりましょう。古代のロマン!」

 トロッコ猛スピードも、聖櫃探しも聖杯探しもいいよねー。神官のミイラ復活はノーサンキュー。

 え、最後作品違う?

「後で申請書届けるんで、娘さんに送ってあげてください。なるはやで許可出しますから。ところで娘さんってどんな人なんですか?」

「今はまだ外国におりまして」

 現在亡命中の国名を言う教授。

 ―――ベルゼビュート王子のとこだ。

 ルシファーとネビロスの殺気が隠しきれてない。漏れてる漏れてる。

 リリーちゃんが珍しく青ざめてるよ。

「ちょっと、二人とも。リリーちゃん恐がってるよ」

 ネビロスがスッと殺気引っ込めてリリーちゃんに抱きついた。

「ごめん、びっくりさせた? 大丈夫だよー」

 リリーちゃん、怒らず黙ってる。昔何やった、ネビロス。あきらかに何かやらかして、リリーちゃんそのこと思い出してるっぽいよ。

「すみません、リリス様」

「もー。でも、ルシファーもやきもち焼いてくれたの? えへへっ、うれしい!」

 ルシファーに抱きついた。

 女王は王配に抱きついて、どっちもにこにこしてて、女王の弟は片思いの子に飛びついて、相手は青ざめてる。

 教授が「何だこれ……」って顔してた。


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