もう一人兄嫁候補ゲットだぜ!(二句めできた)
最初に取材するところは大学にした。
学問・芸術の国として生まれ変わったことを示すために、ここは欠かせない。トップバッターに持ってくるのも当然だ。
撮影許可を取らなくていいのも利点。だってあたしの命令で作ったんだし、一応理事長はあたしだから。
案内は実際通ってるネビロスにお願いした。
「―――で、なぜ私が同行しなきゃならないの」
リリーちゃんはライオンも裸足で逃げ出す形相でネビロスをにらんだ。
ライオンは元々裸足だってツッコミはナシの方向で。
ネビロスは平気なものだ。
「えー? そりゃ、実際作る人がいれば、打ち合わせしながらできるじゃん?」
「後でデータだけくれればいい」
ごもっとも。
「それはヤだ。リリーとデートできるチャンスなんだもん」
「どこがデートだって?!」
リリーちゃんの背後に修羅が現れた。スタンド名は何ですか。
「うん、ダブルデート♡」
「帰る」
きびきびした足取りで去るリリーちゃんにネビロスは取りすがった。
「待って! リリーと一緒のキャンパスライフ、楽しみたかったんだよ。リリーはすぐ卒業しちゃったんだもん、だから疑似体験させてよ」
「あんたがつきまとうから飛び級しまくったんでしょうが」
弟が重ね重ねすみません。
あたしはそっと手を合わせた。
「就職先までついてくるかと思った。来なくてよかった」
「それはしないよ」
ネビロスは真剣に否定した。
「リリーが傍にいたら、じっとしてられる自身ないもん。絶対抱きついたりして、仕事の邪魔になるから」
身構えるリリーちゃん。やったら蹴飛ばす気でスタンバイ。
波紋が傍らに立ち上っております。燃え尽きるほど熱いです。
「ああ、ネビロス様もリリス様の弟。やりかねませんね」
ルシファーは何か納得してる。私は聞こえなかったふりした。
実際、それどころじゃないしね。
キャンパスライフ。何てステキな響き!
前世高校生で死んだ私は、大学生活を経験してない。つまり憧れだ。
今世でも学校なんて通えてないし、今さら普通の女の子として通うこともできない。顔を知られまくってるもん。
だけど今この瞬間、それっぽい体験ができるじゃないか! しかも大好きなルシファーと。
くるっと振り返り、
「いいわね! キャンパスライフ&ダブルデートしましょ!」
「……は?」
リリーちゃんが絶望的な声を出した。
「だって私、絶対経験できないことだもの。せめてそれっぽいことしてみたいなー」
「なるほど。確かにそうですね、リリス様」
ルシファーがさりげなく手をつないでくれる。
「それではデートしましょうか」
「うんっ」
考えてみれば、恋人つなぎってしたことない。
理由は単純。それより先に大体私が抱きついてるから。
そもそも、私とルシファーに普通の恋人みたいな時間はなかった。政略結婚だったしね。
なんか、新鮮でうれしい。
「ふふふ」
つい、にまにまする私。
ネビロスはここぞとばかりに重ねてきた。
「てわけだから、リリーは僕と」
「誰が手つなぐかっ」
スパンとはたき落とされてる。
「あんたは大人しくカメラマンやってなさい」
「えー。……まぁいいか」
やけにあっさりひきさがったわね。
さてはリリーちゃんいっぱい撮っとこうと目論んでるな?
大丈夫? これ盗撮に入る? セーフ?
一抹の不安を残しつつ、撮影は開始された。
まずは基礎的な情報、学部や施設の紹介。これは詳しいネビロスが全部一人でやった。
見事なまでの自撮りで完璧な絵面。慣れてるなぁ。
うーん、やっぱり向いてる人に任せるに限るよね。あたしだったら緊張で舌噛む。画面にはイケメンが映ってたほうが、人も喜ぶだろう。
音楽家の教室では美人ピアニストに実演してもらえた。教授に「イチオシの子を紹介してください」ってお願いしといたのよ。
彼女は盲目のピアニストだった。
彼女、アイリスさんは生まれつき目が見えないという。幸い家が貴族で生活に余裕があったため、生き延びることができた。親もいい人だったんだろう、ピアノの才があると分かると、習わせてくれたそうだ。
魔法を使えば脳内に目の前の映像を浮かべることはできるけど、やっぱり実際目で見るのとは違って不都合も多いとか。
素人のあたしでも分かる、すばらしい演奏だった。
「すごい!」
惜しみない拍手を送る。とても目が見えてないとは思えない。
「チャンスを下さって、ありがとうございました、女王様。私のように障害があっても自立して生きていけるのだということを、皆さんに伝えられたらと思います」
アイリスさんは穏やかに微笑んだ。
言い忘れたが、学校は障がい者も積極的に受け入れている。父のせいで障害を負った人も多く、救済しなければと思った。
アイリスさんはその広告塔として働くことを快諾してくれたんだ。
「こちらこそ、話を受けてくれてありがとう」
「いえ、私は女王様のおかげでここにいるのです。学校へ通える日が来るとは、夢にも思っていませんでした。本当にありがとうございます」
長く白い髪がサラサラ揺れる。
ううむ、まさに「清純な乙女」って感じの美少女。まさに正統派だ。
かわいい女の子っていいよね、集めたくなるよね。兄の誰かと結婚させたら、あたしのものに……。
おお、それいいじゃん!
心の中でガッツポーズした。
美人に好き放題好みの服着せられる!
なんてスバラシイ思いつき!
彼女はやっぱり清純派正統路線。女神様系の高貴なドレスもいいかも。よし、舞台衣装を口実に着せちゃえ。コンサートやるんだしね。
え? いやホラ、着てもらえば宣伝になるしね? 決してよこしまな考えなどございませんのことよオホホ。
そうだ、リリーちゃんも弟の嫁にしちゃえば、着せ替え放題。正統派清純美少女と秀才委員長を一気にゲット。いいねえ。男物はルシファーと兄弟で満足してるけど、女物はそうもいかなくてちょっと不満だったのよ。
女性なら城にたくさんいるけど、みんな勤務中だからね? 制服しか着せられなくて、選択肢ない。
でも義理の姉妹なら、いくらでも着せ替えできる。
おお……!
ナイスアイデアに目が輝く。
ルシファーは何となくあたしの思考を理解したらしく、リリーちゃんとアイリスさんを見てうなずいた。
なお、アイリスさんはこの前のファッションショーで発表した中から似合うものを事前にスタイリストに持ってってもらい、着せて化粧も施してある。
どこが化粧したの?ってくらいナチュラルメイクだけど、こんだけ美人ならスッピンで勝負できるわ。
「女王様、この衣装もありがとうございます」
「いいのいいの、あげる。いい映撮らせてもらったお礼。今度、国のPRも兼ねてコンサートやりましょ。その衣装も作らせてねっ」
すでに脳内では服とか服とか服とかのアイデアが舞い踊っている。
かわいい女の子の衣装となるとテンション上がるわー。
あたしの剣幕にアイリスさんはちょっとたじろいだ。
「はあ……はい、よろしくお願いします……」
ネビロスが小声でルシファーにたずねた。
「姉さま、すごくやる気満々だね」
「リリス様は本当に服作りがお好きですから。男物は僕らがいるからいいんですが、女物は身近で着てくれる相手がいなくてつまらなかったんでしょう。いいんじゃないですか、宣伝になりますし。僕ら以外の男に男物を作るのだと面白くないですが」
「あ、そこは面白くないんだ」
「当然でしょう。あなた方はご兄弟ですから、何も言いません。使用人の制服も我慢しましょう。しかし、それ以外の男に作るのは見過ごせません」
「おー、ドス黒い」
ネビロスは肩をすくめた。
「どこぞのハエなぞ最たるものです」
「それは分かる。そうなったら、僕も全力で妨害するよ。でも、姉さまがルシファーにベタ惚れでよかったね。もしルシファーの一方通行だったら、結構ヤバいことになったんじゃない?」
「否定はしませんね。しかし先にプロポーズしてきたのはリリス様ですよ」
「うん、知ってる」
どうコメントしたらしいか、とネビロスは視線をさ迷わせた。
「いずれにせよ、僕はリリス様と離婚するつもりはありませんので。ついでに言っておきますと、ネビロス様はこの状況にのっかったほうが得策かと。リリス様はリリーさんとアイリスさんが義理の姉妹になれば着せ替え放題と大歓迎です。ネビロス様が多少あくどいことやってリリーさんをゲットしても、目をつぶってもらえると思いますよ」
「乗った」
おうい。何そこで悪魔のささやきに乗ってるの、弟。
『魔王の父』の甘い言葉に乗るってどうなんだ。聞こえてるからね。
言っとくけど、いくらあたしでも悪辣な手段とったら止めるよ? 弟は大事だけど、かわいい女の子泣かせたら顔面にグーパン叩き込むからね。
「姉さま、リリーのウエディングドレス作っといて。めちゃくちゃ盛大な式にする。リリー、日程あけといてよ。一日も早くリリーをお嫁さんにしたいから、僕的には今すぐ婚姻届け書いてもいいんだけど。女の子は結婚式って夢だもんね。一生忘れない素敵な式に……」
「誰が行くか!」
スパ――ン!
どこから出したのか、ハリセンでどつくリリーちゃん。
ほんとはグーで張り倒したかったみたいだけど、真面目なだけにあたしの前じゃ自重したらしい。
「からかうのもいい加減にしなさいって言ってるでしょ。消えろ。今すぐ私の前から永遠に消えろ」
「僕は本気だって! 昔からリリー一筋だよ。ナキア兄さんと違って、たくさんの女の子に囲まれてても付き合ったことはないし。リリーが好きだから、彼女なんて作らなかった」
「嘘つけ」
「嘘ではありませんよ」
答えたのはルシファーだ。
「ネビロス様が付き合った女性はゼロです」
え、うっそ、マジで?←失礼な姉
第三者の応援で勇気をもらったネビロスはリリーちゃんに抱きついた。
「リリー大好きっ。結婚しよう!」
「黙れ」
委員長は冷静に顎へアッパーカットくらわした。
各自、入力コマンドは何だったか記述せよ。
床につっぷすネビロスに軽蔑の視線を向けるリリーちゃん。
……あ、うん、ほんとごめん……。
普段「ルシファー大好きーっ」って同じように抱きついてるあたしとしては、色んな意味でそれしか言えない。
「ネビロス……女の子にそれやっちゃ駄目だって……」
「姉さまはルシファーにやってるじゃん」
うっ、心にぶっとい釘刺さった。
どうしたらいいやら青くなってるあたしをルシファーは抱き寄せた。
「僕らは夫婦ですから。何の問題もありません。ネビロス様はまだ求婚中です、過度なスキンシップは嫌がられると思いますよ」
「あ、そっか。夫婦だったらいいんだよね。よし、先に結婚しちゃおう! リリー、これに署名して」
どこから婚姻届け出した。リリーちゃんの周りの空気が氷点下になってるよ。
もしあたしがルシファーにあんな態度とられたら、心が折れるな。バッキバキ。これでも折れないネビロスがすごい。
なんかなぁ……自分と同じようなことを弟がやってるとキツイわぁ……。
遠い目。
静観してたアイリスさんがくすく笑った。
「ふふ。皆さん仲がよろしいんですね」
この状況でも動じない。うむ、ますます嫁に欲しい。
口実作って兄たちと引き合わせよう。
そう決心し、次の撮影場所へ移動した。
☆
「彼女いいなぁ。美人だし、着せ替えがいありそうだし、優しいし、芯が強いし。うちに欲しーい」
すでに脳内では彼女に着てもらいたい服とか服とか服とかが飛び交っている。
「兄さまの誰かのお嫁さんにするってこと? 悪くないね」
ネビロスも好印象らしい。
うむ、どうせなら兄弟仲良く付き合ってける義姉がいいに決まってる。
すでに身上調査済みだろうルシファーも賛成する。
「そうですね。いい方ですし、問題ないのでは?」
「誰とくっつけようかなー。妥当なとこだと、ルキ兄さまかな。ナキア兄さまはやめとこう。ルガ兄さまじゃ、ひたすら沈黙になっちゃいそうだね」
「サルガタナス様はやめといたほうがいいというのに同意ですが、ルキフグス様よりアガリアレプト様が最適と思いますよ」
「え?」×3
リリーちゃんまで首をかしげた。
「アガリアレプト様というと、外務大臣ですよね。かなりきつくて辛らつな方と伺ってます。アイリスさんのようなたおやかな女性では、潰されてしまうのでは」
「うんうん。アガ兄さまは女性に対しても容赦ないからね。それならレティ兄さまのようがいいんじゃない?」
「障がい者も普通の人と同じに扱うとかいって、手加減しなさそう」
でもルシファーは心配してないようだった。
「だからいいんだと思いますよ。アイリスさんは、目が見えないからといって特別扱いされるのは好きではないという調査結果が出てます。普通の人と同じように扱ってほしいと。ですからアガリアレプト様の対応は的確だと思います。それに、アガリアレプト様自身も自覚がないようですが、おそらく本当の好みはああいう女性ですよ。庇護欲をそそり、守ってあげたいタイプなのに実は確固たる自分を持っているという」
「あー……確かに」
何やらネビロスがうなずいてる。
ネビロスとナキア兄さまの分析は正確だ。
そういえばこれまでアガ兄さまが付き合ってたのは、みんな積極的な美女だった。悪く言えば気が強い。アガ兄さまもキツイから、同じ+極同士反発して上手くいかなかったのかもしれない。
「ふぅん、そんなものかな。じゃ、とりあえず会わせてみようか」
この後、学内施設の紹介映像を撮り終え、学食でお昼にした。
この世界に学校はあれど、食堂を併設してるとこはなかった。お昼はどうしてたのかというと、一旦家に帰るか、近くの店で買うか、貴族は召使いが持ってきてた。
でも時間もお金も一般の学生にはもったいないしと、学食を作ることにした。職員はパートの他に、調理師科の生徒も雇ってる。バイト代も入って実習もできるという、一石二鳥だ。
「ここはナキア兄さまがメニュー監修してるから、おいしいよ」
「ほんとだ。すごくおいしそう。この料理がこのお値段とは」
リーズナブルでカロリーバランスばっちりのごはん。朝から夜までやってて、一般の人も入れるよ。
学食の内装はお洒落なカフェテリア風で、女性受けするコンセプトにしてある。飲食店っていうのは、概して女性が好む感じにするといいそうな。女性客を取り込めば男性客も、子供も取り込めるからだって。
「って、キャー♪ スイーツもあるっ」
あたしは喜びの声をあげた。
ケーキ、タルト、パンケーキ。テンション上がるわ。めっちゃおいしそう。
「毎日サタナキア様の食べてるじゃないですか」
「それはそれ、これはこれ。おいしいものはすべからく別腹」
「調理師養成コースの生徒が作ってて、授業の一環だから値段も材料費程度ってわけ」
「……私ももらおうかしら」
リリーちゃんも真剣にどれにするか悩んでた。
料理系の背学校の生徒が作ったものを学祭で売ると、すごい人気よね。前世、うちの近所にも料理の専門学校があって。毎年大賑わいだったなぁ。
おいしいし、ちゃんとした材料使ってるし、安いし。近所のおばさま方が朝から並んでた。
私は大量のスイーツを、リリーちゃんは大人しく一個だけ選んで席についた。周囲の人たちが「女王だ」ってのと「あんな量食べんの?!」って二つの意味で驚いてる。
いいの。ネットにアップするためだもん!←言い訳
「調理場スタッフもっと雇ってもいいんじゃない? 今日見て回った限りじゃ、学内の清掃スタッフも必要だと思う。図書館の整理もほしいな。学生向けバイトとしてさっそく募集かけようか」
予算はルキ兄さまやアガ兄さまと相談しよう。
「分かりました。さっそく企画書送っておきます」
「ありがと。あとね、ここの食堂メニュー。もう少し分かりやすい掲示にしたいな」
入口のところにあった、紙媒体のを指す。普通のレストランのメニュー表と同じだ。
「写真入りだし、分かりやすいと思うよ?」
「それはそうなんだけど、食品サンプルもできないかなって」
「は?」
聞きなれない言葉に、三人とも首をかしげる。
「姉さま、何それ?」
「本物そっくりに作った、偽物の食品見本よ。昔は蝋に着色して作ってたとか」
日本だと、レストラン入口にあるあれ。外国にはなく、食品サンプル作りは外国人観光客に人気だそうだ。
「できそうな職人に声かけてみよ。いやね、触れればアイリスさんみたいな視覚障碍者にも分かりやすいかなってちょっと思ったの」
写真じゃ見れないから。
三人ともハッとする。
「確かに。魔法で脳内に映像を送ることはできても、触覚で理解できればより分かりやすいです」
「口で説明するのも限界があるもんね」
「すばらしいと思います。あっ、そうだ、ブログも字幕つけましょう。そうすれば聴覚障碍者も何言ってるか理解できます」
「そうだよ、リリーちゃん、その通り」
撮影がてら、構内のバリアフリー未対応場所もチェックしといた。順次工事しよう。
うちの国はバカ親父のせいで、役人にいためつけられたりして負傷した人が多い。そういう人たちも学べるような場所を作るのがあたしの義務だと思う。
LGBTの人にも配慮しており、どちらの性別でも使えるトイレ・更衣室がすでに設置済みだ。
オムツ替えできる場所や授乳室もあるよ。今、小さい子供がいる人でも学べるよう、学内に託児所を建設中だ。中には親を殺されて幼い兄弟しかいないってうちもあるしね。弟妹預けて学べるように。
もぐもぐと山盛りスイーツを早くもたいらげながら、
「食品サンプルは、もう一段階考えてるんだ。これでミニチュアのキーホルダーやアクセ作るの」
メモ帳にイラスト描いてみた。フェイクスイーツのアクセ。
「かわいいっ!」
さすがリリーちゃんも女子。速攻くいついた。
真面目な秀才委員長も女の子だもん。
「すごくかわいいです!」
「でっしょー? マカロンやタルトもいいよね」
サラサラ。
「これ、絶対売れますよ!」
「ナキア兄さまに協力してもらって、まず本物作ろう。それを写真撮って、職人とこ持ってって、再現してもらう。あ、本物は学食にレシピ回して売ればいい。このフェイクスイーツを、お祭りの時、有料製作体験コーナーで出す!」
「自分で作れるんですかっ? 私がやりたいです!」
だよね。あたしもやりたい。
「クラフト系・料理系の体験コーナーって人気なのよ。各学部でそういうブース出そう。ああ、材料費はちゃんととろうね」
そこまでお金ないから。
もぐもぐと食べ続けながら考える。
「リリス様、おいしいですか?」
「うんっ。さすがナキア兄さま監修ね。ていうか、このフレーズだけで売れるだろうな。女性に。前面に出してお祭りの時売ろうか」
「一口頂けますか?」
「うん」
一口大に切ったケーキを差し出した。
「はい、あーん」
ぱくり。
咀嚼したルシファーが感想を述べる。
「甘すぎず、ちょうどいいですね。食材の鮮度もいい」
「アガ兄さまのツテで毎日新鮮な材料仕入れてるんだって。ね、ルシファーのもちょっとちょーだい?」
リリーちゃんがきく。
「女王様、全種類召し上がっておられませんでしたっけ?」
そうだけど?
「いーの。ルシファーに食べさせてもらいたいんだもん」
「僕は構いませんよ。はい、リリス様」
わーい。ぱく。
んふふー。ルシファーに食べさせてもらうと格別。
頬が緩みまくりだが、直す気はない。
リリーちゃんは何とも言えない目であたしたちを見てた。
「こ、これが有名な女王夫妻のいちゃらぶか……、え、冗談じゃなかったの?」
「全然恐くないな……。前王をぶん殴ったっていうから、恐い人だと思ってた」
「ただの乙女だね」
「ていうか、バカップル」
はーい、周囲の野次馬、ヒソヒソ聞こえてまーす。
ほっとくけどね。いいんだもん、あたしは権力だの権利だのは放棄して、ルシファーと幸せに暮らすんだもん。
絶対に子供をラスボスにはさせない。あたしだって殺されたくない。そのためなら、馬鹿さを堂々とさらすわ。
何を思ったか、いや予想つくけど、ネビロスが口を開けた。
「リリー、僕にもちょうだい」
「断る」
一刀両断。
むしろ喉にフォーク刺すぞって勢いだ。
「いいじゃん。リリー、好きだよ。リリーが他の男と付き合うとか結婚なんてさせないし、僕と結婚するしかないんだから諦めてお嫁さんになってよ。てわけで僕らもいちゃらぶしよ」
「しない」
取り付く島もない。
ていうか、さらっととんでもないこと言わなかったか、弟よ。
ルシファーに小声できく。
「ねえ、ネビロス、影で何やってんの。リリーちゃんに近づく男、潰して回ってるね?」
「徹底的に排除してますよ。昔から。影でどころか、堂々とやってることもあります。ですからリリーさんが怒って、余計嫌われてるんですよ」
「そりゃそうだ……」
頭抱えたい。
ストーカー行為で、レティ兄さまにしばらく牢屋つっこんでもらっといたほうがいいんじゃないだろうか……。
ばっさりフラれても、ネビロスは笑ってる。
「ブレないなぁ。そういう凛としたとこが好き」
「これだけ拒絶されても折れないネビロス様の精神がすごいと思います」
「リリーは全然僕の思い通りにならないし、堂々と意見言う。嫌いだってはっきり言う。だからいいんだ」
確かにネビロスは老若男女問わずたらしこめる。たぶらかされず、叱れるのはあたしたち兄姉とルシファーくらいのもの。
家族以外で騙されないのはリリーちゃんだけだ。彼女ならネビロスが何かやらかそうとしても、首根っこひっつかんどいてくれるだろう。
「うんうん。駄目なことは駄目、間違ってたら間違ってるってきちんと指摘してくれる人って大事よね。バカ親父にもそういう人がいたら、ああはならなかったかも」
逆らう者は徹底的に処刑するから。自業自得。
ネビロスはのんびり手を振る。
「僕は二の舞はごめんだよ。ちゃんとリリーの言うこと聞いてるから大丈夫」
「聞いてはいても素通りじゃ意味ないでしょうが」
リリーちゃんはじろりと睨んだ。
「リリーに関することだけは、かまってほしくてわざとやってるんだよ?」
「余計タチが悪い」
あ、オーラが仁王と般若バージョン2。
「まぁまぁ。引き続きWデートしようよ」
「もう一通り終わったでしょう。私は帰る」
我慢の限界とばかりに、リリーちゃん帰っちゃった。
「……あーあ、さすがに限界かぁ。帰っちゃったー」
「でも真面目な人ですね。撮影に最後まで付き合ってくれたんですから」
今日リリーちゃんがずっといなきゃならないわけじゃなかった。それでも最後まで残ってくれたのは、彼女が生真面目だからだろう。
もしネビロスが嫌で嫌でたまらないなら、バックレる。我慢してでも仕事のほうが大事と思ってた。
「うん、ああいうとこも好き。僕みちあなチャランポランには、あれくらい固い子にほうが合ってるよ。てわけで姉さま、さっき言ってた作り物の食べ物見本のアクセ? なるべく早くできるようにしようよ。僕も手伝う。で、試作って名目でリリー誘う」
「言うと思った」
「ツンツンしてても、かわいいもの好きなんだよねー。ふふふ。たまーにしかああいう顔見れないんだけど、かーわいい」
ツンデレですね。
「分かわなくはないわ。厳しい委員長が不意にデレると、キュン死にするわよね」
あ、ヤバい。リリーちゃんのデレた姿想像したら、超萌え。メガネ秀才委員長ツンデレ最高。
「でしょ? ふふ、リリー大好き」
やっぱ姉弟だ、あたしたち。
うむうむ。
納得するあたしたちに、ルシファーは黙ってコーヒー飲んでた




