六男の好きな子は秀才委員長
「そうだ、インターネットを作ろう」
あたしは決意した。
この前のテレビショッピングで痛感したけど、やっぱりネットがないと困る。
―――とはいえ、一からどうやって作ればいいのか?
うーむ。
「うん、専門家に任せよう」
さくっと自力ではあきらめた。
いや、自分の能力の範囲外のことは、できる人に任せるに限るよ。なんでもかんでも自分でやろうとするのはいいことじゃない。できないことをできないと認めるのも大事なことだ。
なんでも自分でできると思い込むのは危険だからね。
むしろあたしは自分がバカだと自覚してるから、できないことは素直に認めてプロにお任せすることにしてる。
さて、この場合、専門家は誰だろう?
分からなければ人に聞け。ルシファーと兄弟六人いれば、誰か一人くらいアテがあるだろう。インターネットの仕組みをざっくり説明して、そういうシステム作れる人がいないかきいてみた。
「心当たりがあるよ」
答えたのはネビロスだった。
「本当?」
「うん。孤児院時代の友達で、今は魔術と機械の融合の研究してる子がいるんだ」
口ぶりからして女の子ね。
「研究所で今は主任だっけ。優秀だから、飛び級して就職したんだ。同い年なんだけどね」
この国では学びたい意欲さえあれば、何歳でも勉強できる。アホ親父のせいで学校に通えなかった人が多いから救済措置だ。
反対に、優秀なら何歳でも飛び級可能。
ネビロスだって能力でいったらとっくに卒業できてるのに、わざと学生でいる。
「その子にアポとれる?」
「簡単だよ。ちょっと待っててね」
一旦席を外したネビロスは十分程度で帰ってきた。
「連絡取れたよー。明日の午後一時に来いってさ」
「話が早くて助かるわー」
それにしても、明日すぐに予定あけてくれるなんて、その子もネビロスのことが好きなのかな。
さわやか系・弟系美少年だけど、中身はナキア兄さま並みのプレイボーイ。姉としてちょっと将来が心配。
ま、今回の目的はネットを作ってもらうことだから後回しにしよう。
☆
―――翌日。
大学に併設した魔術機械工学研究センター。
何やってるのかは読んで字のごとく。その建物前に一人の少女が仁王立ちしていた。
ほんとに仁王立ち。
ズゴゴゴゴ。
そんな効果音が聞こえてくる。
眼鏡にツリ目、黒髪ポニーテール。『優等生』とか『委員長』って単語しか浮かんでこない。まさにベタな風紀委員長って感じ。
彼女は敵意もあらわにネビロスをにらみつけ、気迫で白衣が翻っている。
ゴゴゴゴゴゴ。
おう。マジで背後に仁王が見えるわ。あれ何、幻術? スタンド?
あたしはおそるおそる弟にきいた。
「えーと……あの子で間違いない?」
「うん、そうだよー」
ケロッとしたネビロス。慣れを感じる。
「そうだよーって……今にもケンカおっぱじめるぞコラァみたいに鬼気迫ってるんだけど」
そのケンカ買うぜって顔に書いてある。いや、あたしは売ってません。
ルシファーが報告書を出して読み上げる。
「リリー主任。ネビロス様の孤児院時代の友人で……というかあちらは友人とは思ってないみたいですが。非常に真面目な優等生で、事あるごとにルールを破るネビロス様とは衝突し、あるいは後始末をしていたそうです」
あ、うん。姉として謝る。ごめんなさい。
「あはは、ひどいなー。事実だけど」
ネビロスは悪びれもせずにリリーちゃんに近寄った。
「やあ、久しぶり、リリー。元気だった?」
「あんたからの連絡のせいで気分は最悪になった」
不機嫌極まりないといった彼女。
何をしたらここまで嫌われるの。
速攻アポ取れたからネビロスに好意抱いてる人かと思ったら、真逆で敵意と殺気だった。
女の子には優しくしなきゃ駄目だって言ったでしょ。お姉ちゃん悲しいわ。
「今度は何の用。用件言ってすぐ帰れ」
「あれ、聞いてはくれるんだ」
「聞くだけは聞かないとストーカー並にしつこいでしょうが。不在着信かけまくって。百歩譲って聞くことはしてあげる。だから言ったらすぐいなくなれ」
オーラがとげとげしくなる。
うーわー。嫌われてるぅ。
これだけ嫌われててよく連絡しようと思ったな。逆にすごい、ネビロス。
あと、ネビロスを嫌いな女性って初めて見たかも。
人に取り入るのが上手いこの子は、どんな人にも気に入られる。女性に限らず、男性も。だからはっきり嫌いと言い切る人は初めてだ。
興味深い。
「大体あんたがウザいからケータイ変えて、教えてないはずなんだけど。どこから番号入手した」
「んー、企業秘密?」
かわいく小首をかしげるネビロス。
さては彼女の友達あたりから聞き出したな。
「また買い替えると金がかかる。費用請求していいよね」
「番号変えるのは構わないけど、無駄だよ」
「あんたが毎日毎日しょーもないメールや電話するのやめればいいだけの話でしょうが! あとこれも返す!」
ベシッ。
リリーちゃんは紙袋をネビロスに投げつけた。
「えー。誕生日プレゼントなのに。結構考えて贈ったんだよ? じゃあ、何がいいか教えてよ。何でもあげるし」
「黙れこの野郎。消えろ」
消えろって言われる弟。
何を贈ったんだか気になるが、きかないほうがこの場合正解だな。
リリーちゃんが眼鏡をくいっとやる。
「で、何しに来た。もう聞く気も失せた。私の視界から消えろ。そして二度と現れるな」
「そこまで言わなくても。ていうか、用があるのは僕じゃないんだ。姉さまなんだよ」
「姉様?」
リリーちゃんはやっとあたしたちに気づいたらしい。
一瞬眼鏡のつるを持って目を細め、すぐあたしが誰か理解した。きれいに90°のお辞儀をする。
「失礼いたしました、女王様。お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
百合の名のごとく、キリッとした美人の丁寧な挨拶。立ち振る舞いもきれいで、仕事のできるステキな女性って感じ。
「いや、むしろ何ていうか……逆にうちの弟がごめんなさい……」
何やったか知らないけど、確実にまずいことやってるな。とりあえず謝っておいた。
「女王様のせいではありません。こいつは昔からこうで、見かけこそ可愛らしい子犬のようですが、中身はろくでもないやつです。元々の気質で、治らないとあきらめの境地に達しましたが腹は立ちます」
「……あ、ハイ……」
「しかし、こいつの言動により生じたことはこいつが責任取るべきで……って何やってる!」
ネビロスはリリーちゃんの怒りを無視して髪をほどいてた。
「リリーは髪おろしたほうがかわいいって言ってるのに。あ、またヘアケアしてないね? パッサパサ。どうせめんどくさいって石鹸で洗ってるんでしょ」
「やかましいわ! 下ろしてると仕事の邪魔なのよ!」
髪の長さはギリギリ結べるレベルだ。
「ショートにすればいいんじゃ?」
提案してみた。
「昔切ったら、こいつが長いほうがいいとか言って、勝手に魔法で髪の毛伸ばしたんですよ」
「今も不満。短いよ、伸ばそ? 長いほうが、僕が指先でくるくるできるのに」
「しなくていい。意味が分からない。そういうのはあんたのファンにやってやれ。喜ぶぞ」
「リリー以外の子にやっても意味ない」
……んー。
さっきからネビロス、なんつーか……。
あたしはルシファーに小声できいた。
「ねえ、もしかしてネビロスって……」
「ああ、リリーさんが好きですね」
あ、やっぱり。
「でもむちゃくちゃ嫌われてるよ?」
「小さい頃からちょっかい出してるせいでしょう。男子は好きな子ほどいじめたくなるものです。僕は違いますけどね。ネビロス様の場合、そうやって自分のことを気にかけてほしくて意地悪してたら、いじめと思われてここまで敵愾心持たれたようです」
逆効果って知ってるか、弟よ。
「ねえ、リリー。僕はリリーが好きなのにさ、なんでそんな嫌いなわけ?」
「自分の胸に手をあててきいてみろ。過去の行いを思い返せ。どこにあんたに好意を持つ理由がある」
「ごめんって。何年も謝って、毎日好きって言ってるんだから、そろそろ許してよ」
「許さない」
しっしっ。
リリーちゃんはネビロスを追い払うような仕草をして、
「それより女王様、一体どういったご用件でこちらに?」
ネビロス、言ってなかったのか。さては彼女のことしか考えてなかったな。
インターネットのようなものを作りたいと説明した。
リリーちゃんはうなずいて、
「承知しました。やってみましょう。とりあえず私の研究室へどうぞ。……あんたは来るな」
ギッとネビロスを睨むのは忘れなかった。
でもついてきたよ。
あたしとルシファーが入るとすぐ、リリーちゃんはドアを閉めようとした。ネビロスはすばやく足をねじ込み、力ずくで侵入してきた。
……手口が。
ルシファーが何とも言えない顔で、
「ネビロス様、そういうことするから嫌われるんじゃありませんか?」
「だって、こうでもしないと入れてくれないし」
「女性には優しく、ですよ。ちなみにききますが、毎日メールしてるって、何送ってるんです?」
「え? 普通に遊ぼうよーとか、リリーに似合いそうな服買ったよとか、今日僕にあったこととか徒然に。もちろん最後には大好きって書いてる」
やめとけ。
「それ、下手したらストーカーだから」
リリーちゃんものすごい形相なんですけど。
「余計怒らせてますね」
「何で? 姉さまだって、いつもルシファーに好き好き言ってるじゃん」
うが。耳が痛い。
「あ、あのね、あたしたちは両想いだからいいんだけど、一方的に好意寄せてるだけだと犯罪に……」
「分かってるよ」
ネビロスは肩をすくめた。
「小さい頃、出来心で意地悪したせいで嫌われてるのは理解してる。でも、あきらめられないんだよ」
弟は流れるような動作でリリーちゃんに近づき、手を取った。
「だからさ、リリー、結婚しない?」
無敵の弟系ロイヤルスマイル。ほぼ全ての女性が間違いなく落ちるだろう。
が、相手はわずかな例外で、非常に冷静だった。
「出てけ」
どげんっ。
ネビロスを廊下へ蹴り飛ばし、ドアに鍵をかけた。
眼鏡をかけなおす。
「お見苦しいところをお見せしました」
「いや……うん……ゴメンネ?」
代わりに謝っておいた。
「あいつは昔からああなんです。人をからかって。どうせまたいつもの嫌がらせですから、女王様も本気になさらないでください」
「……本気だと思うけど」
「本気だと思います。堂々と押しかけプロポーズするあたり、リリス様と同じ血を感じます」
うなずくルシファー。
ソウネ。
間違いなくあたしの弟ですね。
「嘘に決まってますよ。どうせ賭けでもしてるんでしょう。私を落とせるかどうかって」
「いやー、そこまで人でなしじゃないよ、あの子」
「学生時代、賭けしてた連中がいましたよ。あいつの友人でした」
実際あったんかい。
「ひどいね。先生に言っておいた?」
「まず自分でしばいておきました」
さらり。
おう。その眼鏡が光ってるのが恐いっす。
「ネビロス様は賭けに加わってませんよ。むしろ知った直後にシメて、けっこうアレな方法で処分してますね」
ルシファーが言う。
あー、詳細は話さなくていい。聞きたくない。
処分ってなによ、処分って。
「ほら、ネビロスは参加してないって」
「信用できません。これまでのあいつの行いからみると」
……これは不信感根強いなぁ。
ちょっと心配だった弟に好きな子がいたのはグッとニュースなのに。自業自得で嫌われまくってるとはなぁ。不憫。
ネビロスも大人っぽい子だけど、やっぱり年相応のとこもあったのね。
「あいつのことはもう脳内から抹消していいですか。仕事にかかりましょう。お座りください」
超有能な女子は、てきぱき設計図を書き始めた。
☆
さすがはネビロスお墨付きの天才少女。何日かして連絡があり、見本ができたとのことだ。
見てみると、本物と寸分たがわぬ出来。
あたしのつたない説明でよくここまで再現できたなぁ。
「すごい! リリーちゃん天才!」
「私のほうが臣下で年下なんですから、呼び捨てしてください」
真面目優等生は言った。
「ううん、リリーちゃんって呼ぶ。それにあたしは身分とかないよ。権力放棄した、名ばかり女王だもん。大体、自分より才能ある人を呼び捨てになんかしないよ」
そもそも、年が上だから無条件に敬えってのはおかしいと思うしね。
「年上だってだけで敬えって、たまたま先に生まれたことしか誇れるところがないみたいで嫌じゃない? あたしはそんな点に固執するしか自信持てない寂しい生活したくないなぁ」
「女王様には服作りという才能があるじゃないですか」
「違うんだなー」
あたしは肩をそびやかした。
斬新なデザインに見えるのは、この世界にはないからにすぎない。
つまり、外の世界には当たり前にあるのだ。単に前世の知識を使ってるだけで、何もないところから独力で作り出したものじゃない。
本当にすごい人っていうのは、一から考え出して作り出した人。
それはあたしにはできないことだ。外の世界のデザインを再現することはできても、独創力はない。同じように知識があれば、再現できる人は世の中にいっぱいいるだろう。つまりあたしレベルならいくらでもいるわけだ。
ただあたししか知識がないから、すごく見えるだけだってちゃんと分かってる。
「もしみんなが同じ立ち位置だったら、あたしなんてそこらへんのゴミ同然だよ。……そんなことより、考えたことがあるんだけど。このシステムの名前。魔力でできたインターネットだから、略してマンタでどうかな?」
ルシファーもリリーちゃんもしばし停止した。
「……マンタ?」
「マンタ」
サッとエイの絵を描いたフリップを出す。
「……シャレですか」
「いいじゃない? そのほうが親しみやすいわよ」
「……まぁ発案者はリリス様ですし、お好きなイメージキャラクターにすればいいんじゃないでしょうか」
イメージキャラクター。
「いいね! キャラデザ得意な人に、ゆるキャラ作ってもらおう!」
「ゆるキャラ?」
聞きなれぬ言葉に二人とも首をかしげる。
「ゆるーい感じのマスコットキャラクター。かわいいほうが好かれるでしょ」
「女王様のその絵じゃなくですか?」
「これじゃヘボすぎるじゃない。もっと上手い人に頼もうよ。なんなら、コンテストにしてもいいね。応募資格は国民であること、年齢経験不問。投票で決める。そうだ、マンタ発売記念キャンペーンってことで、イメージキャラクター募集コンテストしよう!」
ちょうどいい宣伝になるもんね。
リリーちゃんはHPまで作ってくれていたが、何か物足りない。
「写真や動画載せようかな」
「あ、なるほど、そうですね。システム追加します。素材はどうしましょうか?」
「あたしがあちこち回って撮ってくるよ」
「え?」
さすがに女王自らやることではないと止められた。
「でもさ、あたしなら手が空いてるし。服のデザインは城にいなくてもできるんだから。データ送ればいいだけだもん。それに、HP制作過程も動画に撮ってアップしちゃえばいいのよ」
「しかし、まだ国内は危険な場所もありますよ」
「大丈夫。だって、ルシファーが一緒にいてくれるでしょ?」
にっこり。
ルシファーの目が一瞬見開かれた。
ややあって、
「そうでしたね。もちろん、僕がリリス様をお守りします」
「うんっ、ルシファー大好きーっ!」
ハートばらまいて抱きついた。
すりすり。
あー、幸せ。
「リリー、僕も大好きー」
「ぎゃああああああ!」
急にリリーちゃんが悲鳴をあげた。怪物に出会ったのかと思った。
見れば、ネビロスが抱きついてる。
色気もへったくれもない悲鳴。普通女子はネビロスに抱きつかれようものなら、狂喜乱舞すると思うが。
でも、この子が女性に抱きつくのって見たことないな。あたしにはあるけど、姉だからね?
……えー、それでこれはひきはがすべきよね。一応。
「なにするこの阿呆!」
手を貸す前に、リリーちゃんは自力で蹴飛ばして脱出した。
容赦なく顔面キックされそうになったけど、それはネビロスも辛うじてよけたみたいだ。
「ひどいなー、顔狙うとか」
「いっぺん頭に強烈な衝撃与えたほうがいいんじゃないの。だから殴らせろ。あと、警察に連絡する」
「無駄だと思うよ。警察のトップはうちの兄だからね。弟が好きな子にじゃれついてても、無視するって」
リリーちゃんの背後のが仁王+般若+修羅になった。
こっわ!
ていうか、鍵しめてたよね。どうやって開けた。ピッキングか。ピッキングしたんか。
「大体、どうやって入ってきた」
「え? 普通にドアから」
「鍵かけといたでしょうが!」
鍵だけじゃなく、魔法もかけまくってたよね。不法侵入しようものなら瞬殺するぞって。安々突破するとは、さすが王家の魔力持ち。
とはいえ、ここは止めるべきだと判断した。
「ネビロス、そこまで。やりすぎると嫌われるわよ。取材先選びとアポ取りするの手伝って」
「えー、リリーといたいのになぁ。ま、仕方ない。嫌われるのやだしね」
「もうすでにこれ以上ないほどあんたのことは嫌いだ」
「さて、代わりの誕生日プレゼント何にしようかなー」
ネビロスは好きな子の毒舌をきれいにスルーした。




