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五男サルガタナスの場合

 やっと締め切りの関係で優先してたの一本終わったー!

 五本同時はきつかった……。だから増やすなよ自分。

 やっとこっちとりかかれます。

 僕の名前はサルガタナス。

 正直、この名前は好きじゃない。母と暮らしてた頃は「サル」と呼ばれてた。ようするに「猿」とバカにされてたわけ。

 母はすでに人妻で、夫も子もいたのだが、美人で王が触手を伸ばしたのが悲劇の始まりだった。

 元々精神的に弱い人だった。無理やり手籠めにされた挙句身籠り、何度も自殺を図ったという。母を愛していた夫は必死でそれを止めた。

 王もなぜ人妻で愛し合っている夫婦を壊すような真似をしたんだろう。たぶん母がただ気に入ったから、が理由だろうが。その割には一晩で飽きたとあっさり捨てた。

 母も夫も当然ながら中絶しようとした。それを止めざるをえなくなったのは、王のせいだ。

 いわく、「王の子を殺そうとするなど反逆だ」と。

 父王も僕を助けようとして言ったわけじゃない。単に母の夫を処刑し、財産を没収する口実として使おうとしただけだ。

 母たちは中絶することもできず、結果僕が生まれた。母はさらに精神を病んだ。

 口実にしようとしたくせに、父王は僕に無関心。なんだかんだで認知もしなかった。

 ならば母と夫は僕を始末できたんじゃないかというところだが、いざ殺したら王がまた「反逆」とか言い出すのを恐れ、できなかった。

 王への恨みは全て僕に向かった。

 母と養父、父親の違う兄姉、みんなから虐待を受けることになる。

 それも巧妙なものだった。顔など目につくところに傷は作らない。腕や足の服で隠れる部分や胴体を狙われた。

 バカにされ、殴られ、蹴られ。僕の幼少時はさんざんなものだった。

 それでも養父は僕に教育を受けさせた。というのも、自分の子供のやる気に火をつけるため。

「サルができるのに、お前たちはできないのか?」

「サルはやっていることだ。お前たちもやってみろ」

と。

 目論見は当たり、異父兄姉は優秀な子に育った。

 そこまでみんなに憎まれているならと、自殺を考えたことは一度や二度ではない。でもそうしたら一族郎党、父王に殺されるのではないかと恐くてできなかった。せっかうみんなのために死ぬのに、逆効果になっては意味がない。

 父王に対しては憎しみしかなかった。

 いらないなら、なぜ僕を誕生させたのかと。殺してくれればよかったのに。

 僕が何を言っても、何をしても、怒られる。自然としゃべることもなくなり、一日中一言も口を利かずに終わっていることもあった。

 なるべく人を刺激しないよう、空気になる術を身につけた。

 痛いのは嫌だ。暴力をふるわれないよう、縮こまっているしかなかった。

 アガ兄さんやレティ兄さんなら力でやり返せたのかもしれない。でも僕には戦闘能力がない。魔力も兄弟では一番乏しい。できることはただ静かにしていることだけだった。

 ……医者になろうと決めた理由はいくつかある。一つは、自分で稼げるようになれば独立できるから。

 二つ目は、母を治したかったから。

 母は僕のせいで病んでしまった。だからなんとかして治してあげたかった。

 三つめは、優秀な医者になって城へ入り込み、父王を倒す機会をうかがうため。

 仮にも医者を志す者として、殺すことはできない。力でも敵わないだろうし。それでも父王に効く毒とか何か開発して、王の座から引きずりおろしてやりたかった。

 僕が王になりたいわけじゃない。僕は母を病気にし、母の家族を壊した原因だ。罪の子は王にふさわしくない。

 だから王は異母兄の誰かがなればいい。よくは知らないが何人かいることは知ってるから、一人くらい良い人がいるだろう。

 ……けれど、それは打ち砕かれた。医者になる前に母が死んでしまったから。

 ある朝、首を吊っているのが発見された。

 その時母はもしかしたら正気だったのかもしれない。全てから逃れるために、自ら死を選んだのかも。

 そうさせてしまったのは僕だ。

 僕さえいなければ。

 気づけば僕は屋敷を飛び出していた。

 行くあてもない。もうこのまま死んでしまいたかった。

 飛び降り自殺しかけたところを公爵に発見される。

 公爵は以前から僕ら王の子を見張っていたようで、だから助けられたんだろう。

 異母妹が会いたがっている、死ぬのはそれからでもよくないかと言われた。

 どうでもよかった僕は連れてかれるまま、異母妹に会った。

 妹もまた命を狙われていた。

 ……僕と形は違うが、同じだ。

 僕も何度も毒を盛られたことがある。病死に見せかけて殺すために。おかげでリリス同様毒が効きにくい。元々の体質もあるし。

 形は違えど、虐待を受け、命を狙われている妹。

 ―――リリスを守ることがこれから僕の生きる意味になるんじゃないだろうか。

 そんな境遇でも明るい妹は、暗闇にいた僕にとって一筋の光のようなものだった。

 これからは、この子のために生きよう。

 僕のようにならないために守るんだ。

 長年あまりしゃべらなかったせいで今も思いを口に出すことは苦手だけど、妹には感謝してる。

 僕に生きる意味をくれてありがとう、と。


     ☆


 毎朝僕は決まった時間に起きる。目覚ましかけなくても体内時計が正確すぎて勝手に起きるんだ。

 健康はきちんとした生活から。早寝早起きは基本。

 でも僕より早起きしてる人がいる。兄たちだ。

 僕らはクーデター以降全員城に住んでおり、部屋も並んでる。起床した時すでに兄四人の部屋には気配がなかった。

 運動が苦手な僕はトレーニングはしない。最低限の運動、つまりウォーキングは健康のためやるが、そんな程度だ。

 幼少期は小さくなって静かにしていたから、体を動かすことが苦手になってしまったともいえる。

 窓から外を見れば、レティ兄さんが筋トレしてた。

 医者の観点から見て、非常に健康的で筋肉がバランスよくついている。同僚の筋肉フェチ(整形外科医のマッチョナルシスト)に言わせると理想の筋肉配分らしい。

 レティ兄さんは一番ヒョロ男に見える僕を心配してる。よく運動しろと言われ、ジムに引っ張ってかれる。悪いと思う。いくらがんばっても僕はヒョロヒョロから変わらない。

 同時にうらやましい。父親に命を狙われながら、明るい性格。根暗な僕とは正反対だ。

 人付き合いの上手さも、少しでも僕にもあったらなぁと思う。

 しかし僕には無理な話だ。

 嘆息して朝食の時間まで医学書を読んだ。

 食事の席では家族全員そろう。

 このルールを言い出したのはリリスだ。

 みんなワイワイ食べてるが、僕は黙ってフォークを動かした。あまり人としゃべるのは得意ではない。

 しゃべれば「黙れ」と怒られ、黙ってれば「気味が悪い」と叱られた過去。どうしたらいいか分からず、結局何をしても同じならと沈黙を選ぶようになり、習慣化してしまっている。今さらしゃべれと言われても、何をしゃべればいいのか分からない。

 そんな時、たいてい助けてくれるのはナキア兄さんかネビロスだ。ちょこちょこ話題をふってくれる。

 でも僕は気の利いた返事ができず、会話が持続しない。なのにめげずに付き合ってくれてありがたい。

 ナキア兄さんはお調子者を装ってるが、実は違うと思う。

 空気と同じような感じの僕は物事を外から眺めているから、裏で特にアガ兄さんのフォローしてるのを知っている。アガ兄さんは気づいてもいない。

 こう言っちゃ悪いけどアガ兄さんは傲慢なところがあるから、物事の別の面が見えてないことがある。人の心を推し量るのは苦手みたいだ。

 ナキア兄さんは生き延びるためそういう技術が必要不可欠だったんで、人の懐に入るのが上手い。

 人に知られず、感謝されることもない縁の下の力持ち。損な性格だ。

 でも女好きなのは本当だね。

 ネビロスも裏で動くところがあるけど、こっちのほうが世渡りは上手い。甘えん坊の弟の役割を上手にしてる。

 僕にとっては唯一の弟で、兄としてふるまいたいところだが、ネビロスのほうが優秀だから。

 コンプレックス抱いてるんじゃないかって? それはない。初めから自分のほうが駄目だと理解してると、そういう感情すら浮かんでこない。

 単純な事実として僕は弟のほうが優れてると認めていた。

 午前中、アガ兄さんには話したいことがあった。

 アガ兄さんは僕が人に話しかけることすら苦手と知ってるから、先に気づいてくれた。

「どうしたルガ?」

「……薬が不足してて。輸入頼みだから」

 父王のせいで医薬品の製造にかかる人材も施設も不足している。輸入頼みなのが現状だった。外務大臣のアガ兄さんに頼むのが一番の近道。

「うーん、そろそろ自前で作るべきだな。大学に併設した病気や薬の研究所。あそこに補助金出して工場作らせよう。申請書のひな型作って届けるから、確認の上サインしてルキ兄貴んとこ持ってけ。俺も話しておく」

「……ありがとう」

 必要最低限だけしゃべって辞去した。

 本当はもっときちんとしゃべりたいが、言えない。トラウマとは厄介なものだ。

 これでもたまにナキア兄さんやネビロスに特訓してもらってるんだけど、なかなか。持って生まれた素質はどうしようもないし、仕事中病状の説明がきちんとできてるだけでも僕にとってはかなりの進歩なんだ。

 そんなことを考えながら歩いてると、中庭の木の上にネビロスが見えた。昼寝してる。

 器用だなぁ。

 ネビロスは僕と違って人にも兄たちにも甘えるのが上手。僕は人に甘えられない。そんな生活は送ってこなかった。

 ネビロスも孤児院に入れられて放置されてたんだから、恵まれた環境だったとは言い難いけど。

 あの素直さが少しうらやましい。

 病院へ行き、今日ももくもくと患者を診た。

 公立病院を作ってから、平民も適正価格で診察を受けられるようになったから大勢来る。医者を増やしても増やしても追いつかない状況だ。

 父王が医者も殺しまくったから、人材不足で。開設した大学は医学部にも力を入れている。

 ところで僕の患者に女性が多いのはなぜだろう。現在内科には女医がいないからだな、女性の医師が来るといいんだけど。

 女性患者にしてみれば、やはり同性のほうが安心するに決まっている。まして僕はこんな無口で冴えないし。

 それにしても以前女性患者を装った人に押し倒された時は驚いた。冗談にしてもタチが悪い。仮にも女王の兄が病院作るとか人気取りに違いないって、リリスへの嫌がらせで一番やりやすそうな僕を狙ったんだろう。

 幸いナキア兄さんとルシファーがいたから助かった。ナキア兄さんは知り合い(御年90のご婦人。元気そのもので、ディスコでダンス中こけたらしい。ナキア兄さんは偶然居合わせた)の女性の付き添い、ルシファーはリリスと視察。

 兄と義弟二人がかりでひきはがしてくれ、どこかへ連れて行った。

 リリスは「ルガ兄さま、大丈夫?!」ってずっと心配しててくれたっけ。

 さすがにしばらく女性不信になったよ。リリス除く。

 それにしても今時ディスコってどうなのナキア兄さん。

 ―――昼になると休憩。患者が多いから、午後の診察まで間がない。

 持ってきた弁当をかきこんだ。

 それからルキ兄さんのとこへ行った。アガ兄さんが話しておいてくれたから、楽だ。

「おい、ルガ。いつも言ってるが、お前もう少ししゃべれ。診察の時困らないか? 患者に不信感を与えてはダメだぞ。それに、そんなんじゃ恋人もできないだろう。お前もそろそろ年なんだから、彼女の一人や二人作りなさい」

 もっともだと思う。

 一番頼りない弟として、ルキ兄さんにはよく目をかけてもらってる。

 真面目でテキパキしてて、有能な長兄。どの兄弟も一目置いている人だ。

 外見も能力も、最もバランスがとれている。頭が良く、なんでもすぐ完コピしてしまい、逆にできないことがあるのかききたいくらいだ。

 少し真面目過ぎるきらいはあるが、温和で人付き合いも上手く、誰もが「いい人」と評する。

 こういう人になりたかった、という僕にとっては憧れだ。

 なにせ僕は根暗で陰気でネガティブで……。

「ルガ兄さま~っ!」

 ど――んっ。

 後ろから唯一の妹が飛びついてきた。

 ふっとばされるかと思った。

 リリスはめちゃくちゃ魔力が強い。これで魔力こめられてたら、確実に地平線まで吹っ飛んでた。

「……リリス。危ない」

「ごめーんっ。ルガ兄さま見つけたからうれしくてっ」

 かわいいなぁ。

 と思うものの、現実には無表情。

 少しは表情筋動かないか、僕。

 口下手のせいで言わないし、顔にも出ないが、内心ではかわいいを連発してる。とにかくこの世のありとあらゆる言葉をつぎこんでも足りないほどかわいい愛する妹。一時は自殺まで考えた僕に立ち直るきっかけを与えてくれた恩人。

「……どうした?」

「あのねっ、この前言ってた病院の事務員用制服ができあがったって」

 医師と看護師はすでに制服がある。事務員は私服だったが、これは父王の時代の名残でモノクロの服を持っている人が多かったから問題ないとされたんだ。

 しかし、最近派手な服のスタッフが増えた。リリスのファッション革命で色んな服が売りに出されたから、彼女たちはそれを仕事場に着てきたわけだ。

 アパレル関係の会社なら問題ないだろうが、ここは病院。事務員でもきちっとした服装でないと患者が不快になる。

 ショーをやりに来ているのでなく、働きに来ているのだという自覚くらいは持ってほしい。オフの時はどんな格好でも構わないが、TPOはわきまえるべきだ。

 ファッション改革自体は悪いことではない。というか元に戻っただけだし。ただ抑圧されていた期間が長かった&かなり厳しかっただけに、反動もすごかったんだろう。長いことモノクロオンリーだったから、TPOも忘れてしまったのかもしれない。

 この問題は他でも起きた。私服で働く一部の人が(特に女性)、常識を無視して着たい服を着て、周りが困っているとけっこう大きく取り上げられた。

 リリスは自分のせいだと言い、

「オフの時はかまわないが、仕事中はきちんとTPOをわきまえた格好をすること」

と女王として会見を行った。これによりだいぶ沈静化したという。

 でも、リリスのせいじゃないと思う。そこらへんはマナーや一般常識の範囲だろう。

 ともあれリリスは「ここは公立の病院なんだから」と事務員の制服も作った。

「……ああ、そうか」

「服装注意してもやめない人いたし、仕方ないよね。あれはルガ兄さま目当てなんだろうなー」

「……は?」

「ルガ兄さまの目に留まりたいから着飾ってるんだよ」

 僕は首をかしげた。

「……僕はモテない。冗談はやめなさい」

 イケメンで有能で目立つ兄弟が五人もいる、彼らのほうがよっぽどいいと思うよ?

「ルガ兄さまだけだよ、自覚ないの。まぁいいけど。それも兄さまの良さだもんねー」

「……そうか?」

 ぎこちない手つきでなでてやれば、うれしそうなリリスは喉を鳴らしてる猫状態になった。

 後ろにいたルシファーは黙っていた。リリスが抱きつくと、相手が兄弟でも不快感を隠さないルシファーだが、僕にはあまりしない。いわく、「無害ですから」だそうだ。

 ……まぁ確かにひっそり静かに暮らしたくていつもすみっこにいる無口な男は無害な部類に入るだろう。

 ルシファーはさすがリリスの惚れた男。優秀で有能でイケメンだ。

 唯一の欠点は腹の中真っ黒けということだが、スパイ組織の長としては必要な資質だと思う。

 彼なら何があってもリリスを守るだろうし、大切な妹を託す人物として信用している。

 かわいい×∞妹。

 僕はいつも大事な君の幸せを願っているよ。

 五男坊は「ネガティブ」。

 兄弟が優秀なだけに、自分に自信があまりありません。実際は優秀な医師なんだけど、自己評価がめちゃくちゃ低いから気づいてない。この気質は幼少期の虐待に起因してます。

 黙ってることが多いから、元々セリフも出番もない。でも心の中じゃこんなこと考えてました、という。妹はかわいいだけじゃなく、恩人でもありました。

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