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三男アガリアレプトの場合

 俺の名前はアガリアレプト。

 母親は商家の娘だった。おとなしく、たおやかな人だったという。祖父が強欲でなければ、平穏な人生を送れただろう。

 祖父は美しい娘を差し出し、自分のところを優遇してもらおうとした。ところが王は楽しむだけ楽しんであっさり母を捨てた。もちろん祖父の店を優遇などしなかったのは言うまでもない。

 まったくそうなることぐらい予想がついただろうに。どうしてみな、自分だけは大丈夫と思うのだろうか。

 激高した祖父は八つ当たりで母を追い出した。その時母は身籠っていたのに。

 倒れていたところを通りすがりの親切な人が見つけ、彼の家に連れて行ってくれたそうだ。おかげで俺は生まれてこれたわけだが、精神を病んだ母は俺を生んでほどなくして死んでしまった。

 俺は助けてくれた人を親切な人だと思っていた。……真実を知るまでは。

 彼は祖父と敵対する商人だった。前からライバルを蹴落とそうと狙っていたらしい。初めから母がだれか知っていて、祖父の家を見張っていたからこそ、いいタイミングで助けに現れたわけだ。

 つまり彼は孫である俺を使って祖父に復讐させようとしてたわけだ。

 商人は俺を厳しく教育した。よく鞭でたたかれたものだ。あらゆる知識・学問を叩き込まれたが、それも全て祖父を潰すため。

 俺はこのまま奴の手ごまになるつもりはなかった。

 密かに目を盗んで、自分の力で金を稼ぐようになる。奴の人脈を利用し、いつかの時のために力もたくわえた。

 結論から言えば、祖父の店は俺が乗っ取った。潰すのではなく、乗っ取りだ。

 潰すこともできたが、従業員に罪はない。失業すれば彼らとその家族が困るだろう。

 俺を利用しようとした商人にはそれまでかかったと推定される金にさらに上乗せして返し、縁を切った。育ててやった恩を忘れてとか言われたが、手ごまにするつもりで連れてきて、暴力をふるってたくせに何を。

 奴は祖父の店と金を手に入れるつもりだったから、アテが外れたんだろう。

 あきらめればよかったものを、しつこく妨害してくるから逆にやり返して潰してやった。従業員はちゃんと全員次の働き口をさがしてやったから問題ない。

 全て終わった時、俺が真っ先にしたのは母の墓を一族の墓地へ移すことだった。

 それまで母の墓は商人が俺の祖父への恨みを募らせるため、別の場所に作っていた。いつまでも母をそんなところに置いておきたくはなかった。

 こうして祖父への復讐は叶ったが、父親がまだ残っていた。

 そんな時に公爵から異母妹が会いたいと言ってると知らせを受けた。

 存在を知ってはいたが、会ったことはない妹。噂通りの悪女かどうか見てやろうと行ったら、なんと真逆だった。

 引き取られた先で日常的に暴力をふるわれていた俺。毎日命を狙われていた妹が重なった。

 放ってはおけない。俺みたいになってはいけない。

 まだ幼いこの妹を守ってやらなければならないと強く思った。


     ☆  


 俺も朝は早く起きるほうだ。ルキ兄貴がデスクワークが多いからと自主トレしてると知り、見習った。

 ルキ兄貴は尊敬している。頭が良くて、何事もそつなくこなす。偉ぶらず、真面目でいい人だ。

 ……誰かと違って。

 朝食の席でその誰かは危ないことを言ってたからブン殴っておいた。

 ズバン。

「お前さぁ。兄に敬意払うとか考えないわけ?」

「お前が兄とは認めたくないな」

 まったくなぜこの男も兄なのか。ルキ兄貴とは大違いだ。不真面目で不誠実、軽薄、バカでアホの女ったらし。

 少しはルキ兄貴を見習え。料理は上手いが、それくらいしかいいところがない。

 リリスのことは「匂いでどこにいるか分かる」とか言って、ほんとに匂いをたどってリリスの居場所まで行ったことがあるほどのド変態だ。

 あの時抹殺しておくべきだと本気で思った。レティに「一応あれでも兄だし、リリスが悲しむからやめときなよ……」と止められたからやめたが。

 ルキ兄貴は足音で誰が来るか分かると言っていたが、これは常人レベルだと思う。俺も分かるし。

 ギロッ。

 にらんだら変態は退散した。

「相変わらず仲わりーなぁ」

 ケラケラ。

 笑い声がする。レティだ。

「変態とは合わないだけだ。なんであれが兄なんだ」

「んー? いんじゃね? 堅物マジメなルキ兄と、いい加減ちゃらんぽらんなナキア兄。だからバランス取れてんだよ」

 俺はあれが兄とは絶対認めない。よって、兄とは一度も呼んだことがない。

 すぐ下の弟レティはいい奴だ。誰とでもすぐ仲良くなれるという点ではあの変態と同じだが、こちらは健全。

 傭兵暮らしだったから戦闘能力は随一の警察長官だ。勉強という意味ではバカの部類に入るだろうが、それはきちんとした教育を受けなかったため。それに作戦を考えたり、実行することに関しては頭がいい。

 まぁ、離宮で兄弟一緒に暮らすようになってから、俺たちは全員ルキ兄貴にしごかれて「最低限の勉強」をさせられたが……。

 警察長官のレティはこの前、クソ親父のコレクションだった巨人を捕まえに行ったが、リリスに片付けられてしまったそうだ。見せ場全部取られたとか。

 気の毒。行った意味ねぇ。

「なあ、アガ兄貴。ヒマなら相手してくれよ」

 剣か魔法の練習相手か。ルキ兄貴は忙しい、どこぞの変態は戦力外通告。ルガやネビロスだと見た目が弱い者いじめになる。消去法で俺かルシファーしかいない。

「部下の誰かにやってもらえばいいだろう」

「弱いから話になんねーの。アガ兄貴なら手加減しないで本気でくるから、緊張感あるんだよ」

「マジでやりたければリリスに頼めばいいんじゃないか?」

 ブンブン。

 高速で首を振る弟。

「無理。死ぬ」

 端的な答え。

 だよな。

「分かった。手が空いたらやってやる。昼休みな」

「サンキュー。ありがと」

 レティは鼻歌混じりに巡回に向かった。

 さて、午前中はルキ兄貴と仕事……。

 そこでほぼ音のしない足音に気づいた。矛盾してるかもしれないが、こいつの歩くときはほとんど音がしない。というか気配も薄い。

「どうしたルガ?」

 振り返って聞く。

 足音で誰が来たか俺も分かると言った通り、現れたのはルガだった。

「……薬が不足してて。輸入頼みたいから」

 リストを受け取って見る。

 この国はクソ親父が恐怖政治しいてて医療関係者まで殺されまくってたことで、医療技術が低い。薬の製造も他国に後れを取っていた。だから輸入に頼っている状況だ。

「うーん、そろそろ自前で作るべきだな。大学に併設した病気や薬の研究所。あそこに補助金出して工場作らせよう。申請書のひな型作って届けるから、確認の上サインしてルキ兄貴んとこ持ってけ。俺も話しておく」

「……ありがとう」

 ルガは静か~に去っていった。

 あいつはほんと必要最低限以外しゃべらないな。俺も社交的とは言い難いが、あそこまでだと問題起きないか?

 少し会話術を習ったほうがいいと思う。……どっかの変態にではなく、ネビロスあたりに。レティだとレベル高すぎるから、ネビロスあたりから始めるんでいいんじゃないか。

「……って、何やってるんだネビロス」

 まさにその末の弟が中庭の木の上で昼寝していた。

「おい。まだ朝飯食ったばかりだろ」

「お腹いっぱいだと眠くならない?」

 こいつ未成年だから大目に見てやってるが、成人したら何かの職に就かせてこき使ったほうがいいな。堕落する。

「午前中から昼寝するな」

「ゆうべ遅くまで出てたからさー。仮眠くらいとらせてよ」

「未成年が夜遅くまで何やってた。どうせバイトだろうが」

 ルシファーと組んでスパイのバイトしてるの知ってるぞ。

「それはヒミツ♪」

 ……ルガも心配な奴だが、こいつも別の意味で心配だな。

「別にいいが、ルキ兄貴がストレスで白髪にならない程度にしろよ」

「はいはーい。おやすみ」

 ぐう。

 速攻寝た。あんなとこで寝て、よく落ちないな。

 午前中はというと仕事で終わった。

 ルキ兄貴とすごいスピードで片付けていく。無駄な話はせず、手際よくスムーズに。

 お互いの思考が何となく分かるから、ろくに会話せずともできるのだ。頭のいい人と組むのはほんとに楽だな。

 昼休み、約束通りレティの相手をしてやって戻ってくると、リリスとばったり会った。

「何だそれ?」

 リリスの後ろにいるルシファーが大量の荷物を持たされてる。

 反物……か?

「これ? 新しい服の材料よ! やっと届いたの。さーあ、作るわよー!」

 リリスお前、テレポートできたよな。なにも手で運ぶ必要ないんじゃないか? 運んでるのはルシファーだが。

 ルシファーも完全に荷物持ちの家来みたいになってるが、それでいいのか。

 かわいい×∞妹だが、行動がちょいちょい意味不明だ。

 ルシファーが結婚継続してくれてほんとよかったな。これだけ破天荒だと、他に嫁の貰い手探すの大変だぞ。その場合苦労するのは間違いなくルキ兄貴。ストレスでハゲたら気の毒だ……。

 ルシファーはすぐリリスといちゃいちゃするのはいただけないが、悪い奴ではない。スパイ組織の長として有能だし。なによりこの妹と一生添い遂げようというのは素直にすごいと思う。

「まずはルシファーの分から作るからね! ふふ、絶対似合う、かっこいいの作るから」

「ありがとうございます、リリス様」

「アガ兄さまも楽しみにしててねっ」

「ああ」

 妹が喜んでくれるなら、好みの服を着てやるくらい安いものだ。

 ぽんぽん。

 優しく頭をなでた。

 無邪気でかわいい妹。よく俺のように歪まず育ってくれた。

 父王に復讐したいという気持ちは俺だけでなく兄弟全員が持っていた。それでも殺害を実行しなかったのは、リリスがぶっ飛ばすと言ったからだ。

 事実ブン殴ったな。グーパンで。

 一発KOで。

 あまりに圧倒的で、なんかもう何も言えなくなった。「ああ、何かもうこれでいいや」って気になった。さらにかゆくなる呪いとかかけて、のたうち回らせてるし。

 あの瞬間、俺たちの恨みも昇華されたと思う。あまりにバカバカしい父王の無様っぷりに、力が抜けてしまった。

 ―――だからな、リリス。俺たちはお前に感謝してるんだよ。

「どうしたの、アガ兄さま?」

「何でもない」

 俺はもう一度大切な妹をなでた。

 三人目の兄ちゃんは一番上のお兄ちゃん大好きっ子。

 逆に二番目の兄ちゃんは軽蔑してます。でも実はその兄ちゃんに一番助けられてるとは思ってもいない。

 唯我独尊で尊大だと気づけないことがあるよ、というキャラです。

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