3.知ってる記憶
相手の名前も分からないまま後ろについて、しばらく歩くとそれららしい建物が見えてきた。
「アル、ここが王立魔法学校だ。とりあえず医者に見てもらった方がいいだろうし、保健室行くからついて来い。」
そう言うと、門に立っていた騎士に軽く挨拶して校内に入っていったので俺もそのままついて門をくぐった。
門をくぐると更にこの学校の大きさを実感した。
ここまで来る道すがら学校のことを教えてもらった時に聞いた話だ。グランリーフ王国の王都の面積のうち、5分の1はこの学校だという。ぐるりと一周壁に囲まれており更に壁の内側には樹木が植わっており外からは中が見えにくい作りとなっていた。
門をくぐると正面は大通りになっていて遥か前方の突き当たりには本校舎らしき大きな建物があった。
俺たちは、本校舎から一番近い建物に入っていった。
中に入ると生徒がちらほらこっちを見て噂していた。
「きゃー、アルフォンス様とレオンハルト様今日も素敵ですわ~♡」
「アルフォンス様……でも、そこが素敵ですわ~」
などと聴こえてくる。
『…でも、そこが』ってどこがだ?
何となくで手を振り「ありがとう~♡」とにこやかに答えていると少し前を歩いていたはずの赤茶の髪少年が振り返っていて、呆れ顔でぼそっと呟いた。
「おまえ、そういう所は記憶消えても変わんないのな」
ん?あれ…そう言えばそうだな。
「いや、何となくこうしないといけない気がして、気がついたら手ふって笑顔で答えてた」
俺がそう答えると『もうだめ…』と呟き、笑い出されてしまった。
「ぷっ、あはははははっ、なんでそんなことは覚えてんの、あー、おもしろっ腹いてー、さっき南門で会った時からずっと口調違ってて、でもちょいちょい前のお前が見え隠れしてさ。そんで、そういうくだらない所ばっかり同じなんだもんなー、ほんと」
実は学校までの道で話していた時にたまに会話の途中で急に真顔になって後ろを向く時があったのだがどうやら笑いをこらえていたらしい。
ひとしきり笑うと『着いたぞ』と言って"保健室"と書かれた部屋のドアを開けた。
「あらー?レオンハルト君とアルフォンス君じゃない。アルフォンス君さっきアリシア#様__・__#が探してたわよー?今度は何して怒らせたの?」
保健室の中にすわっている白衣を着た女性が俺たち2人を見つけて言った。
"様"をすごく強調して。
――その時俺は無意識の内に、記憶喪失なんてなかったみたいに一人の名前が出てきた。
「えっ?アリスが?」
(ん?アリス?あれ…誰だっけ)
自分の記憶にはないはずの人物の名前を聞いて"アリス"という愛称がごく自然に出た。
訳がわからず思わず顔をしかめる俺に赤茶の髪の少年が笑ながら言った。
「えっ、お前アリシアのことは覚えてんの?本当におまえ記憶ねーの?」
今の俺の表情を見れば覚えてないことは何となく分かってるとは思うが笑ながら冗談混じりで聞いてくる。
記憶喪失前の自分が書いてた"みんな"ってのにこいつが入ってるんだろうか。
ふとそう思った。
「んー、アリスって子の顔は今もわかんないけどアリシアって聞いてアリスの事だってのは何となくわかった。アリシア様って言葉聞くまでは全く覚えてなかったんだけど」
そう言うと、『ふーん、愛の力ってやつなのかね?』とまた茶化された。
「そうそう、ソフィ先生こっちから来ておいて放置してごめん。まぁ、今の会話で薄々感ずいてるかもだけどアルの奴自分に関する記憶だけらしいんだけどなんも覚えてないって言ってんだよ。ちょっと見てやってよ。」
赤茶の髪の少年がそう言うと、白衣の女性が俺に向き直り先ほど軽口を言っていた時とはまるで違う真剣な表情になった。
「アルフォンス君ちょっとここにすわってちょうだい。専門外ではあるんだけど、軽い診察するから」
「…はい。」
俺は促されたままにその椅子に座った。
「診察はしたいんだけど、でもその前に。ひとついいかしら」
ん?なんだろう
文才が…ない
あらすじまでのお話が進まない(; ・`д・´)