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盗賊騎士と花神殿の姫神子  作者: ぴょん
盗賊騎士と蜃気楼の術師
29/32

――大広間では、花守りの騎士と蜃気楼の術師による、戦いの舞踏が繰り広げられていた。

 幻影の紳士淑女がダンスのステップを踏みながら、騎士達の周囲を回る。回りながら淑女はドレスを翻し、鋭い蹴りを繰り出す。そして追撃するように、紳士がその手に持つ杖から魔法を放つ。

 それを騎士達もひらひらと飛び回りながら避け、避けては切り伏せを繰り返すが――――。

 そろそろ彼らの顔に、疲れが見え始めていた。


 斬っても斬っても、敵の数が減らないのだ。


「んもう! キリが無いわね!!」

 槍で淑女を薙ぎ払いながらウィスが言う。さらに勢いのまま、杖を掲げた紳士――ルフトシュピーゲルングの顔をしている――を突き刺し、なんとか人形の大群を切り崩そうとするが……。すぐに別の人形が倒した人形に代わり現れる為、騎士らは人形の壁に穴を開けることができないでいた。

「こいつらを作って操っている本体……。蜃気楼の術師を見つけなければ。このままでは無駄に体力を消耗するだけだ」

 セージはマントの内側から皮袋を取り出すと、中身を人形に向かって一気に撒いた。

 キラキラ光りながら空中を舞う粉――それは『妖精の鱗粉』と呼ばれるものだった。

 妖精の鱗粉は、採取した妖精の種類によって効果が変わってくる。

「どうだ――?」

 セージが使った粉は、光の園と呼ばれる場所に生息する妖精から採取したもので、これには闇魔法に強く反発するという効能があった。

 セージはそれを利用し、本体――ルフトシュピーゲルング――を炙り出そうとしたのだ。

「駄目かっ……!」

 しかし残念なことに、これは失敗に終わった。鱗粉はどの人形達にも均等に反発している。

「あははっ! そんな小細工通用するものか!」

 セージの試みを嘲笑うかのように、楽団の奏でる演奏が熱狂的な楽しさを感じさせるものへと変わる。大広間のなかはそのせいで、祭りさながらの喧しさだ。

「このっ……! 卑怯者!! 隠れていないで姿を見せろ!!」

 ジェットが吠え、紳士と淑女のペアを斬りつけた。

 そして霞のように消えていくそれを踏み台にし、また別のペアに向かって突撃し――ジェットはなんとか数を減らそうと剣を振るった。

「セージ様っ! 魔法でなんとかならない!? このままじゃアタシ達、もうあと十分も持たないわ!」

「大魔法を使えれば……。だが、陣を展開するのには少々時間がかかる……。こいつらがそんな余裕を与えてくれるとは思わないからねぇ」

 ウィスの槍に闇の女神の加護を与える呪文を唱えると、セージは嘆息した。

(ま、どうにかならないこともない……が……。僕が魔法を発動しているあいだ、たった二人だけでこの数をあしらうのは骨だ。ほんのわずかな隙から全滅っていうのもありえるね)

 セージは自らの剣にも強化の魔法をかけると、飛びかかってきた淑女の頭を()ねる。

(最後の花守りの騎士は、いったい何をしているんだろうねぇ。力が弱まっているとはいえ、称号持ちの魔法使いを相手にこの人数はどうにも……。なのに魔法を使えるのは僕みたいな紛い物だけっていうねぇ……)

 セージはもともと、魔法を得意とする人間ではなかった。かといって騎士としての力や技があるわけでもなく、体格も恵まれていない。

 ただ、彼が騎士として強さを求めた時に、このまま体を鍛えるか無茶をしてでも魔法を習得するかという選択肢で、強さに未来を持てたのが――縋れたのが魔法だったというだけだ。

 今セージの使っている魔法の数々は、努力と覚悟の結果身につけたもの。そしてそれらのおかげで、セージは魔法騎士としての地位を得た。

 だがそれは真に才能のある魔法使いからすれば、中途半端な強さだった――――。

 大魔法の詠唱を省略することができる魔法使いとこうしてやり合うことができるのは、彼が弱体化しているからだ。そして仲間の助けがあるからだ。

 このことを三人とも、よくわかっていた。

 だからこそ限界が近いことも理解していた。

 それぞれ体力がもうすぐ尽きる。そうなってしまえばもう、一気に敵に呑まれてしまう。


 姫神子に及ぶ魔の手を退(しりぞ)け、彼女のささやかな幸福を守る。

 彼らの願いはそれだけだ。

 だというのに、『それだけ』を果たすことができない――――。


 そんな状況でも彼らは、諦めてはいなかった。

「奴だって魔力が切れる時が必ず来る……!」

「ええ! それまではアタシ達が人形の相手をするわ! セージ様はちゃあんと大魔法の準備をしておいてちょうだいね!」

 息が上がっていながらも、休むことなく幻影の人形を切りつけるジェット。

 槍を振るいつつ、肉の壁としてもセージを守るウィス。

「……少し、時間をもらうぞ」

 セージは剣先で右手の人差し指をほんの少し切った。そしてそこから流れた血を使い、左手の甲から腕にかけて、すらすらと魔法陣を書いていく。


「闇の女神、テネブロよ――――」


 左手を胸に当て、重々しい低い声で呪文の詠唱を始めた。

 それを確認すると、ジェットとウィスは目を合わせ小さく頷いた。

 苦しい戦いなのはわかっている。

 それでも、最後の騎士が姫神子を見つけてくれているであろうことを信じて、自分達は戦うのみ。

 蜃気楼の術師を放置し、逃げるという選択肢はない。もし最後の騎士が姫神子を助け出していたのだとしても、力を求める奴は再び彼女を狙うだろうから。

「この身がどうなろうと姫を――――!」

「あの子を守るのがアタシ達の役目なんだから!」


 大広間の扉は戦いが始まってから固く閉ざされていた。

「――!?」

 突然それが突き破られ、激しい音が大広間に響く。楽団の手も、紳士淑女の攻撃も、花守りの騎士達も――すべてが一瞬止まった。


『その役目、私も加わらせてもらおう!』


 そしてしんとなった大広間に、少年の声が響いた――。

 

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