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盗賊騎士と花神殿の姫神子  作者: ぴょん
盗賊騎士の追走
18/32

「王が姫を……! 姫神子を奪いに来たんだ!!」

 地団太を踏みながら、アジュガは絶叫した。ボロボロと涙をこぼしている目は、真っ赤に充血している。

「王宮の荷馬車だったんだろう!? 絶対に王だ!! あいつがぼくから姫を奪いに来たんだ!! うっ、うぅ……! き、騎士達よ何をしている……!? 早く姫を取り戻すんだあっ……!!」

 髪を振り乱し、わんわん泣くアジュガを、ウィスは「落ち着いてくださいな」と宥めた。それを乱暴に振り払い、アジュガはセージを強く睨みつける。

「セージ!! 早く指示を出せ!! 王の騎士を追え!! 姫を探すんだ!!」

「あのねぇ、アジュガ様。さすがに王に対して不敬ですよ。それにねぇ――」

 セージはううんと唸り、顎を一撫でする。

「僕は違うと思うんだよねぇ……」

「何がだっ!!」

 噛みつくようにアジュガが言う。

「いや……。姫様を攫ったという騎士のことですよ。――ジェット、そいつは確かに王宮の騎士だったかい?」

 セージが疑問を投げかけると、さっきから一言も発さずにうなだれていたジェットが顔を上げた。そしてどんよりとした眼をセージに向け、「ああ……」と短く答える。

「……少ししか見えなかったけど、鎧には王宮騎士団の紋章が彫られていたと思う……」

「なるほどね。王の騎士であることは間違いない、と」

「ほら!! 王の差し金だ!! 王宮に抗議も出さねば!!」

 確信を得たとばかりに部屋を飛び出そうとするアジュガを、これまたウィスが引き留める。セージはウィスに礼を言うと、「だから違うと思うんですよねぇ」と口にした。


「あの時、ジェットを拘束していた魔法が『闇魔法』だったから――――」


「……闇魔法だと、王の仕業ではないと言うのか?」

 これまで黙って聞いていたディルが、セージに尋ねる。セージは頷くと、

「僕の知っている王様はさ、闇魔法がお嫌いで……。自分のもとに置く騎士に、それを修めることを許しはしないと思うんだよ。例え最下級の騎士だとしてもね」

 セージは腕を組み、軽く首を傾けた。

「王様は『闇魔法の使い手は影の民に通ずる』って考えをお持ちだからさ。闇魔法を使えることを隠してたとか、騎士になってから闇魔法を覚えたとかあるかもしれないけど……。でも、そんなことよりも気になるのが、『攫う』という手段だ。

 ――おかしくないかい? 王様なんだからわざわざ攫わなくとも、普通に召喚すればいいんだ。理由だって、実の娘の顔を見たくなったとかなんだとか……、なんとでも考えられるよ」

 そこまで言って、セージは視線を床に落とし「まぁ、無いと思うけど」と小さく付け足した。


「……そうか」

 アジュガは鼻をすすると、「そうかもしれない……」と肩を落とした。

「……なら、セージは誰が姫を攫ったと思う……?」


「影の民――――じゃないかな」


 アジュガは常ならば半分閉じているような(まなこ)を大きく見開き――「馬鹿な!」と声を上げた。

「影の民なら祈りの花の結界をどうやって越えてきたというんだ! 森にはついこのあいだ、祈りの種を蒔いたばかりだぞ!」

「新しい花は、まだ咲いていないでしょう? 今咲いている花はだいぶ力が弱くなっているだろうし……。それに気になるんだよねぇ、ジェットが言っていたことが」

「ジェットくんが言っていたこと?」

 ウィスが訊くと、セージは「火傷のことさ」と答えた。

「そうだ……。あいつは火傷をしていた。それで姫は……、あいつを助けようと……」

 ジェットは肩を落とし、「……オレが、止めてさえいれば」と呟く。


 ――今、この場で一番後悔の念に苛まれているのは、ジェットであろう。


「その火傷……。花の結界を無理やり突破した時にできたものじゃないかな?」

「……そんな……。影の民が結界を無理やり抜けたなら、ちょっとした火傷じゃ済まないはずだ……」

「そう。それは僕も思う。だから、確信ではないけど……。そんなに的外れではない気もするね」

「……影の民ならば、なぜ……。ま、まだ誕生日じゃあないのに……」

 アジュガが声を震わせる。

「それが不思議だ。――火傷の男を捕まえてみれば、少しはわかるだろうが」

「………………」

 室内が静まりかえる。皆それぞれ考えに耽っているのだ。


 そんな中、声を上げたのはディルだった。


「姫様を追おう」

「――……ディル君」

「可能性として、王からの差し金というのが消えた。王都へ向かう必要はない。なら次に何ができるか、だ」

 そう話すディルの目は、ひたすらにまっすぐだ。

「男は馬車で姫様を連れて行ったんだ。轍を追っていこう。恐らく馬車は途中で捨てているだろうが、それでも何もしないよりかはましだ」

「……」

 膝の上で、ディルの固く握られた拳がふるふると震えている。怒りと、やりきれなさ――そして不安を、無理やり押さえ込んでいるのだ。

 そうしてまでディルは、冷静に現状すべきことを見極めようとしていた。

 セージはディルに一瞥をくれると、フッと息を吐く。

「僕だって、何もしないとは言っていないよ」

 セージが一歩前に進み出る。そして言った――。


「これから我々花守りの騎士は、姫様の行方をお探しする。まずは村に預けている馬を取りに行こう。馬車のあとを追うのに、人の足では遅すぎる。身支度を整えたらすぐに出発だ。五分後に玄関ホールに集合せよ」


「――はっ!」

 花守りの騎士達の声が揃う。

 小走りで部屋を出ていく騎士達を見送り、セージは彼らと同じく、部屋をあとにしようとしていたアジュガに声をかけた。

「アジュガ様。あなたはここの守りをお願いします」

「な、なぜだ……!? ぼくも姫をお探しする……!」

「神殿を守る者が必要です。我々が出ているあいだ、もぬけの殻となったここに奇襲をかける輩がいるかもしれない。――誕生日前のこの時期に、姫に危害が加えられること自体が想定外のことなんです。さらなる問題が起こってもおかしくはないでしょう」

「う……、うむ……」

「結界の監視をお願いしますよ」

 わかったと頷くと、アジュガはセージに頭を下げた。

「ぼ、ぼくにできることは少ない……。セージ……。姫を……、無事連れ戻してくれ……。頼む………!」

 セージはアジュガの肩を軽く叩くと、「もちろんです。必ず手がかりを見つけて戻ります」と目を細めて言った。

 そして独り言のように、


「……何者かは知らないが、よくも姫様を……。はらわたが煮えくり返るとはこのことを言うのだねぇ……」


 そう(くら)い声で呟いた。

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