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盗賊騎士と花神殿の姫神子  作者: ぴょん
盗賊騎士の追走
16/32

 一人の男が、暗い森のなか馬車を全速力で走らせていた。

(急がないといけないんだ……。急がないと……!)

 早くあそこへ向かわねばと思うのだが、なぜこんなにも焦られされているのか、男は自分でもわかっていなかった。


 一緒にいた仲間は捨ててきた。――男が切り捨てたのだ。

 男とその仲間達は、王宮に仕える騎士の一員で――といっても階級は一番下だ――今回はとある任務を受け王都を出発した。


 任務――それは祈りの種の運搬だ。


 姫神子が作った祈りの種を神殿まで受け取りに行き、王都に持ち帰る。それが彼らに与えられた仕事だった。

 月に一度だけの、けれどやり慣れた仕事。

 そのはずだったのに。


 どこでボタンを掛け違えたのか――。いや、本当に掛け違えたのだろうか。


 男は仲間の首を切りつけてしまった今となっても、なぜそんなことをしてしまったのかわからないでいた。

 あの時は確か、少し休憩しようといつも立ち寄る泉で馬車を止めた。

 ボーっと、水を汲む仲間の一人を見ていたら――いつの間にか男は剣を手にしていて。


 泉のなかへ、仲間の首を落とした。


 鮮血が泉に広がっていくのを、これまた呆けながら見ていたら、背後から怒鳴り声が聞こえた。

 名前を叫ばれ振り向いたら――また仲間の首を切りつけてしまった。

 自分の剣の腕は、一太刀で首を落とせるほどではなかったはずなのに――むしろ彼は、剣術に苦手意識を持っていた――また首を落とせるなんて凄いなぁと、他人事のように思ってしまう。


 ――実際、すべてが終わった時も「自分だけになってしまったな」と対岸の火事を見ているような気分だった。


 仲間の死体をしばらく眺めたあと、男はふと、神殿に向かうのだったと馬車に乗った。

「姫神子に……、会わなければ」


 男はそのあと、一度も休みを取らずに馬車を走らせた。馬が限界を迎えた時だけ歩みを止めたが、それ以外は街にも寄らず馬車を走らせ続けた。

 不思議と眠くはないし、腹も空かない。

 体は疲れていたのかもしれないが、気持ちはまったくもって疲れなかった。


「姫神子に会わなければ」


 なんで姫神子にそんなに会いたいのだろう、と男はぼんやり考える。

「……それはもちろん、仕事だからだ」

 誰が聞いているわけでもないが、男は口に出してみた。

 声は馬車が風を切る音と、夜の闇のなかに流れて消えていく。


 それでも男は自分への問いかけを続けてみた。


 自分は誰に仕事を与えられたのだろう。誰の為に馬車を走らせているのだろう、と。

「隊長から……、いや、王から与えられた仕事だ。花の国を守る為、俺は神殿へ向かってるんだ」

 言って男は、疑問を覚えた。


 ――本当に、そうだったろうか。


 自分は王の為、花の民の為に、今この役目を果たそうとしているのか。

 違う――そんな気がする。

 王都を出発した時は違わなかったはずだが、今はそれに違和感がある。


 馬の苦しそうないななきが耳に届く。

 そろそろ休ませなければ、鞭で打っても動かなくなるだろう。

 自分が神殿にたどり着くまでは、なんとしてでも走ってもらわなければ。そう思い、男はキョロキョロと辺りを見回した。

「ん……?」

 探しているうちに木々がまばらになってきた。森を抜けるのだ。

 深い森を出てすぐ、男は村の名前が書かれた看板を見つけた。休むにはちょうどいいだろうが――男はそこに寄る気にはなれなかった。

「見えてきた……」

 少し遠くから村を沿うように走ってみれば、村の周りは花の柵で囲まれた――祈りの種から咲いた花だろう――こじんまりとしてはいるが、居心地の良さそうな村に見えた。


 それでも、立ち寄る気にはなれない――――。


 男はまたしても自分の行動に疑問を抱いた。

 しかし、すぐに馬を休ませるにはちょうどいい小川が見つかった為、その疑問は吹き飛ぶ。

「ふう……」

 馬に水と食料をやり、男は一息ついた。形だけ息をついてはみたが――やはり疲れは感じていない。

 男は小川の脇にある石に腰掛け、御者台で考えていたことを思い返してみた。


 なんで仲間を殺したんだろう。

 なんで姫神子に会わなければと急かされるんだろう。

 誰からこの命を受けたんだろう。

 誰の為にこんなことをしているんだろう。


 いくつか明確な答えがあるものもあるが、正直、はっきりこうだと言えない疑問もある。

「答えを出せるのは……。俺に命令した人くらいか……」

 男は手近にあった石を、小川に一つ、投げ入れた。


「『蜃気楼の術師、ルフト=シュピーゲルング様』の為……」


 男は驚いた。

 自分で口にした人物の名に覚えが無かったからだ。

「ルフト=シュピーゲルング様……?」

 再び名を唱えてみるが、どうしてもその名を思い出すことはできなかった。

「でもまぁ……、どうでもいいか」

 男は立ち上がり、馬車を走らせる準備を始める。


 こんなことを考えている場合ではないのだ。


 自分はとにかく『ルフト=シュピーゲルング様』の言う通り、姫神子に会いに行くだけ――――。


 男は、自らに疑問を投げかけることをやめてしまった。

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