第3話 加護の力
二人が黙って立っていると、強い風と共に軽口の男が現れた。
「やぁ~、元気?」
顔を上げたオラリアが見たものは、風を纏ったニックの姿だった。
「お困りのようだねぇ」
「あなた、何でここに?」
「まぁ、色々あるのさこっちにも」
(相変わらずへらへらしていて、締まらないなぁ)とかオラリアが呑気なことを考えていると。
「君は加護の力の使い方が分からないんだったね。じゃあ、僕が教えてあげるよ」
「えっ!?教えてくれるの?」
「まぁ、それが命令だからねぇ。従うしかないのさ」
「じゃあまず、基本的な所を教えるよ」
「力を使うときは、具体的に何をしたいかを頭の中でイメージするんだ」
「僕の場合は、走る速度を変えたいとか、そんなところかなぁ」
(ものすごく、適当な説明だな)この場にいた人間はただ一人を除いて皆そう思った。
「何をしたいかをイメージ……何をしたいかを(ry」
皆が呆れているなか、オラリアはニックに言われたことを繰り返し呟いていた。
「よしっ!私、やってみます!」
大きな声でオラリアは言うと、近くにあった剣を手に取った。
(やるんだ…変な子だな)ニックでさえもそう思った
オラリアは具体的なイメージを創るために目を瞑る…
オラリアがイメージしたのは剣の刃が炎に包まれるというものだった。
イメージした瞬間、オラリアの持つ剣の刃が炎を纏った……
「おぉ…!」
周囲にいた兵士が皆、一様に驚いていた。
当然のことである。目の前で普段自分達が使っている剣の刃が炎を纏ったのだから。
「やった!できたっ!」
オラリアは驚くよりも先に歓喜していた。
「ありがとうございます!あなたのお陰で、できました!」
オラリアはニックの方に駆け寄り、ニックに対し、深くお辞儀した。
「いいのいいの、気にしないで~、僕は命令されてやっただけだから」
そうは言っても…とオラリアは思ったが、言葉にはしなかった。
「じゃあ、僕の目的は果たしたから帰るとするよ。じゃ~ね~」
ニックはヒラヒラと手を振りながら去って行った。
「ではオラリア殿、私はモラス様に無事使うことが出来たと報告して来ますので、しばしの間、失礼致します」
「あっ、はいわかりました!私はもう少し、この力の練習してますね!」
「ではまた後ほど」
兵士は丁寧に礼をすると、モラスに報告するため訓練所を去っていった。
「よしっ!練習、練習!」
オラリアは再び訓練人形に向かい直って加護の力の練習を始めた。
オラリアが練習初めて30分ほどたった時、兵士が戻ってきた。
「オラリア殿、お待たせいたしました。国王が今後について話をしたいそうです」
「あっ、はいわかりました」
返事をして、オラリアは玉座の間に向かった。
「失礼します」
ノックをして扉を開けると、ツオスヴェルは最初に会った時と同じように座っていた……
「おぉ、来たか」
「は、はい。それより、今後についての話って?」
「あぁ、その事だが、オラリアよ、お主はどうしたい?」
ツオスヴェルはオラリアに話を振った。突然のことにオラリアは困惑し、返事を返すのが遅れた。
「私はこの国の軍に入ります。それで、皆を守れるなら」
「そうか、ではオラリアよ、お主は今からこの王国の軍人だ。だが、お主にはこれから特別な任務を遂行してもらう」
「特別な…任務?」
「そうだ、お主にはこれから選ばれし者達のいる他の王国に向かってもらう。道中、山賊などに教われたりした場合は殺すなり、逃げるなりしてくれ」
「こ、殺すって、私はそんな事のために剣を振ってはいません!」
「あぁ、知っているだから、できるだけ、剣は使うな」
「出来る限り、素手で戦えと言うんですか?」
「あぁ、そうだ。そのくらいのことお主なら造作もないであろう?」
「えぇ、まぁ。出来ないことはないですけど」
「では、やってくれるな?」
「…はい」
オラリアが任務を受けるとしぶしぶ決めた時、ある砂漠の国で新たなる神の子が啓示された。