第1話 風の男との出逢い
『それ』は戦いを強いられた。
だが、『それ』は戦いを嫌った。
「……なぜ人間は、争いをやめられないのだろう」
『それ』は悲鳴と喧騒が響く中、小さな声で呟いた…………。
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始まりは一通の手紙だった……
王国の印を押された手紙が、彼女のいるカフェン村の一軒の家に届けられた……
彼女のいる家に
オラリア=フェルツァの家に………
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「ふぅ……やっと着いた」
その一言と共に少女は、馬車を降りた
「さてと、お城に向かわなきゃ」
自分にしか聞こえないような声で少女は呟き、これからやるべきことを再確認する。
城門を抜け、城下町に入ると人々の賑わいの声が聞こえてきた。
大通りらしいこの道には、露店が多く出店していた。
その露店には見向きもせず、城へと歩みを進めた……
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しばらく歩き、城の前までたどり着いた時、誰かに背後から声をかけられた。
「ねーねー、キミも王様に呼び出
されて来たのかな?」
それは、遊び慣れてそうな男だった……。
「あなた…誰?」
飄々とした表情、ダラしない服装、そして態度。
見た目だけで人を判断してはならないというが、思わず不信感を顔に出してしまうような、怪しさ満点の男だった。
「あ~、自己紹介がまだだったね」
男は、変わらぬ態度で声を発した。
「僕の名前はニック=レナード」
ニック=レナードと名乗った男は、そのまま話を続けた。
「まぁ、キミもって言っても僕は、隣の国の王に呼び出されたんだけどね~」
ニックは話終えると、さっきまでのへらへらとした表情とは裏腹に、殺気を込めた目でオラリアを見据えた…。
「……隣の国って、それならなぜあなたはここにいるの?」
オラリアはそれに対して、何の恐怖も抱かなかった。
「僕の他にも石板に選ばれた人がいるって風の噂で聞いてね、どれほどのものかを確かめに来たんだ」
ニックはニ本の獲物に手を掛ける。それに呼応するようにオラリアは村を出るときに持ってきていた剣に手を掛ける。
「本当にやるの?」
オラリアは問う。
「あぁ、実際に戦わないと面白くないじゃないか」
ニックはそれに応じる。
「それじゃ、行くよ」
「えぇ…私、戦うのは……」
話し終えるよりも先にニックの剣が届いた。オラリアは突然の出来事に驚きながらも、ニックの剣を鞘で受けたが、あまりの威力にオラリアの持つ剣の鞘は砕け散った。
「あれ?仕留めたと思ったのになぁ」
ニックは軽口のまま、再び剣を振り上げる。
「そんな簡単に死ぬわけないでしょ!」
ニックが振り降ろすよりも速く、オラリアは剣を横に振るった。
「おっと、危ない」
オラリアが振った剣をニックは寸でのところで避け、後ろに飛び退いた…。そして、戦う前と何ら変わらない口調で話した。
「キミ、口では戦いたくないとか
言ってるのに剣は殺しに来てるねぇ」
「そ、それは…条件反射よっ!」
条件反射と答えたオラリア少し苦い顔をしていた。
「さて、そろそろ時間だ…キミの力も大体わかったから、僕は帰るとするよ」
ニックはオラリアに一礼し、去って行った。
「はぁ、なんだったんだろう」
口からため息を漏らす。手には鞘のない剣が握られていた…が、その剣にはヒビが入り、その後、砕け、最後には剣であった『もの』の柄だけが握られた手の中に残ったのだった……。