印象派の情景
ぼくの現実はいつも印象派の絵のように曖昧で
輪郭がボンヤリとしている
まるで嘘のように風の無い日は
道端のどんな繊細な草花も そよとも動かず
世界が完全に静止しているかのような錯覚に襲われる
やがて銀の蜘蛛の糸のような雨が降り出して
世界がその存在をぼくに主張すると
ぼくは失望すると同時に安心する
降り始めの雨の匂いに包まれて
森の中をぼくは歩く
深い深い森の中を
これは
誰かがつけた 道なのか
誰かが通った 道なのか
獣道ともつかぬものを ぼくは歩く
ぼくはぼくの幻想を信じ 歩く
金色の麦畑の向こう 崖下に開けるネイビーブルーの海
力強く生きる人々のいる 混沌とした 町並み
入り組んだ路地 子供の声
ふわりふわりと翻る 少女のスカートの裾
誰かが窓辺に座って弾く ギターの音
手入れの良い 赤い花の植木鉢
砂壁の 背の低い 家々
そんなぼくの世界はいつも曖昧で
ぼくは 不器用な手つきでお手玉を操るように
それを 空に 放り
戯れ 遊ぶ