表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

拝啓

作者: 抽冬一人

 夜が明けようとしていた。群青に染まった街を見渡しながら、彼女は呼吸を整えた。朝の屋上は彼女のステージだった。来週にはオーディションが控えている。邪魔になったイヤホンを取り、パーカーを脱いだ。「いつだってラストダンスだ」コーチにはしつこくそう言われている。もしこれがラストダンスだったとしたら、いくらか口惜しく思えた。誰も観客がいなかったからだ。誰かに見せたいか?このぎこちない身体を?普段の自問に立ち戻ってしまう。


 東のビルの隙間から、陽が射した。眩しかった。陽になれば良いじゃないか。眩しくて人の眼を刺すような。そうやって踊ればいい。

 見せ物じゃないんだ。どこか深いところで、そう叫んでる。


 携帯の待受けは赤いアネモネだった。父に教えられたその花が彼女は好きだった。丸みを帯びた可愛らしいそれは、いつしか彼女の親友になっていた。いつだったか、山道の脇に群生する白い花が、アネモネの仲間だと聞いて驚いたことがあった。すぐに彼女は友人になった。風になびく群れはほんとうに美しかったのだ。


 あの陽もアネモネだ。私だって、私だって。

 イヤホンで耳を塞ぐと、彼女はふたたび踊り始めた。街を染めていた群青が少しずつ、白へ白へと透過していく。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ