アルファロメオ156。喫煙可
ミナミが乗りつけたミニバンにはシールズモドキの五人が乗り込み、カレンのアルファの運転席には、なぜかミニバンの持ち主が偉そうに座っている。
「で、ノリに乗ったお前らは、あいつら全員ぶち殺しちまったのな」
車を出しながら、何の躊躇も遠慮もなく、ミナミはマルボロに火を点けた。
「仕方ないだろう、あれだけ激しい戦闘で生け捕りにできる余裕なんてない」
彼の言葉と態度を疎ましく思いながらも、結局カレンもキャスターに火を点ける。
二人の間では、すでに情報交換は済んでいた。
犯罪の後処理を専門とするミナミは、元々セイジとも鋸山とも取引があり、当然のごとく両者の関係も知っていた。ところが、ここ数日セイジと連絡が取れなくなり、鋸山に問い合わせ続けたところ、これ以上深追いするなと警告を受けたらしい。
「警告なんて生易しいもんじゃない、事務所にフルオート喰らわせてきやがった」
この攻撃で部下に死人が出たミナミは、報復として相手のアジトを潰しにかかったとのこと。
「俺の事務所は引越しの真っ最中。で、動かせたのがあのコスプレ連中しかいかなったわけだ」
「動かせたって、あいつらはお前の部下なのか?」
「直属じゃないが、子会社に近い関係だ。俺の仕事のためには、警察やらなんやらの目を誤魔化すのに、目立つ馬鹿どもに暴れさせた方が都合の良いこともある」
偉そうな言動だが、ミナミは眼鏡をかけた優男だ。とても犯罪者には見えず、実際見た目通りに神経質な面も多いのだが、ことを起こす時はためらわず、しかも豪快だった。
「しかし、お前とセイジが付き合うとはね。全く、男選びがなっちゃいない」
「それ、レーカにも言われたな。セージってそんなに評判悪いのか?」
ミナミは深くマルボロを吸いこみ、しばらく味わってから深く吐き出した。珍しい。あんな風にマルボロを吸っていたら、口の中がカビ臭くなりそうだ。あれはニコチンが摂取できればいいという類の煙草だというのが、カレンの見解だった。
「セージの仕事は確実だ。信頼できる。が、内容が内容だ。こんなもんは深く付き合えば付き合う程、ロクな死に方はできない。プライベートで付き合うのはどうか、という感じだな」
カレンはホルスターからシグを抜き、運転席と助手席の間、サイドブレーキレバーの横にある細いポケットに差しこんで見せる。
「程度の問題でもないだろう。それこそ、こんな物に関わってるんだから、私も、ミナミも、多分レーカも。まともな死にかたできる奴なんて、一人もいないだろう」
「それくらい俺だってわかる理屈だ。だがな、程度が違いすぎるってこともある。それぐらいアイツが関わってるのはヤバいトコなんだ」
今度はカレンがキャスターを深く吸い込んで吐き出す番だった。狭い車内が、香ばしく甘い香りに包まれる。
「そんなの、惚れてしまったら、どうでもいいことだろう?」