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運び屋と掃除屋とコスプレ小隊

 カツーン!カツーン!

 ガリガリガリガリ!

「おいおい、冗談じゃないぞ」

 カレンは武器の運び屋とはいえ、自身も拳銃の扱いには精通したテロリストだった。大概の鉄火場でも気後れしたりはしないのだが、今は珍しく、車の中で戸惑っていた。

 ガリガリガリガリ!

 カツーン!カツーン!

 埋立地の廃工場に響き渡るのは、アサルトライフルの音だった。彼女の新たな愛銃SIG SP2022には、拳銃弾としては高威力の.357SIGがマガジンいっぱいに詰まっているとはいえ、ライフルを相手しては、飛距離も破壊力も些か以上に心許ない。おまけに、フルオートでぶっ放している音までする。

「っつーか、誰と誰がやり合ってるんだ?」

 彼女が車を停めているのは、鋸山ユリカの手下の中でも、セイジを攫ったような戦闘要員が常駐しているらしいアジトだ。何人か締め上げて情報を引き出そうとしていたカレンだが、すでに何者かの襲撃を受けているという状況は、あまりにも想定外だった。

 さらに言うなら、単身なうえ、拳銃一つという武装で乗り込んだのは、甘過ぎる判断だった。カレンはSIGを眺めながらため息をいてしまう。

「一度引くべきか・・・」

 トタタタタタンッ!

 かなり近い場所で銃声が響く。しかもフルオート。

 とっさに新たな愛車、アルファロメオ156から降りて、それを遮蔽物にしてしまう。

 物陰から、負傷した兵士を引きずったスーツの男が駆け出してきた。H&K社製のMP7という、政府機間のみに販売されているはずのサブマシンガンをばら撒きながら、なんとか撤退しているという様子だった。さらにそれを、カラシニコフで武装した二人が狙っていた。

 無防備に車の影からカレンが飛び出すが、兵士とスーツに集中していた連中からすれば予期できなかった事態だ。カラシニコフを向けられる間もなく、カレンの拳銃が火を吹く。

 心臓と頭に一発ずつ、計四発で、綺麗に二人を仕留めた。

「ミナミ、慣れない戦争ごっこは危ないぞ」

 スーツに眼鏡というインテリな見た目に反して、鉄火場でサブマシンガンを振り回していたのは、掃除屋のはずの木更津ミナミだった。

「ダブルタップ・カレンか!なんでこんなとこにいる?」

 口を動かしながらも、ミナミは負傷兵の応急処置を始めていた。

「売られた喧嘩を買いにきただけだ。掃除屋のミナミこそ、なんでSMGなんか振り回してるんだ?しかもそいつ、シールズモドキだろう?」

 被弾している男は兵士としか呼び様がなかった。マパットと呼ばれるデジタルドットパターンの迷彩服にヘルメット、防弾ベストに予備マガジンをぶら下げ、M4カービンにしか見えないライフルを持った姿は、米海兵隊「ネービィシールズ」そのものだ。

 彼はそんな装備を揃えた五人チームの一人で、県内の殺し屋をはじめとする犯罪者ネットワークの中ではシールズモドキと呼ばれている。全員が軍経験者でもなんでもなく、シールズを意識した格好もコスプレでしかない。さらに言えば主武装のライフルも、米国の民間向けライフル、AR15をカスタムしたものでしかないため、セミオート、つまりは一発ずつしか撃つことができない。それ故に、モドキとしか呼ばれないのだが、彼らのマニアぶりも伊達ではなく、日々厳しい訓練を積み、軍の戦い方を研究しているため、実戦でもそれなりに腕が立ってしまっている。

 しかし、負傷者が出ているところを見ると、今日は状況が良くないらしい。

「こっちも売られた喧嘩を買ったところだが、残念なことに動かせる手駒がこのコスプレ連中しかいなくてな。苦労してるところだ」

「残りの四人は中か?」

「ああ。だが、敵はフルオートでぶっ放せるAKで武装したロシアや中国の軍人崩れだ。セミオートのコスプレ分隊じゃいかにも分が悪い」

 考えうる限り、最悪の展開だった。

「全く、今すぐ帰りたくなる。ミナミ、そいつの手当てが終わったらエンジン自分のと私の車のエンジン、かけておいて」

 返事も待たず、カレンは廃工場に突入する。

 カツーン!カツーン!

 あちらこちらから銃声が聞こえて来るその様は、まるで戦場のようだった。

 だが、冷静にそれを聞き分ければ、戦闘箇所は二箇所にしぼられているのが分かる。シールズモドキは四人しかいないのだから、これ以上拡散するのは危険だろう。一方で中露軍崩れは、十名前後との予想。かなり不利な状況だ。

 銃声が近くなってきたところで、三名の軍人崩れと遭遇してしまう。シールズモドキに増援が来るのは予想外だったのだろう、体制を立て直す前に一人、さらに走って突撃しながらもう一人を仕留め、建物の陰に隠れる。

 彼女を追って、フルオート射撃が遮蔽物を削って来る。だが、それが相手の命取りだった。

敵の主武装はAKM。7.62×39ミリという口径の大きいライフル弾を使っているために反動が大きい。ましてフルオート射撃中となれば照準の修正には、ほんの少しの隙が生まれてしまう。

 腹から胸ぐらいの高さにAK弾が降り注いで来る中、地面すれすれで銃だけを突き出しブラインドショット。敵の銃声が止んだ。

 警察の目を盗み、闇夜の中で動き回る彼女からすれば、見えない相手を撃つブラインドショットは生き残るために必要な技術だった。銃声やマズルフラッシュで相手の場所を特定し、見えなくても撃って当てる。一瞬で敵の位置を覚え、遮蔽物の陰でそれが見えずとも撃って当てる。その確実性を上げるためにダブルタップに長けた結果、それが彼女の通り名にまでなってしまった。

 最初の二人は頭部を撃ち抜かれ、最後の一人も胸部に大穴を開けていた。どう見ても全員が即死だが、念のため最後の一人の頭にも二発を撃ち込み、空になったマガジンを取り換える。

「あいつら、もう回り込まれかけてるな・・・」

 その先の建物内では、激しい銃撃戦の音が響いていた。手前側からセミオートの音が聞こえるので、カレンはあえて建物の外から敵の後ろに回り込む。

「いた」

 薄い壁の向こうから、AKをフルオートでバラ撒く音がする。素早く指切りをしているだけ、戦いなれているようだ。だが、その意識はシールズモドキとの戦闘に集中しきっている。

音だけで壁越しに狙いを点け、貫通力の高いフルメタルジャケットの.357SIGを数発叩き込む。

音が止んだが、獲ったのか、驚いただけなのかはわからない。とにかくすぐにその場を離れる。案の定、壁越しにAK弾が飛び出してくる。拳銃で貫通できる壁など、アサルトライフルからすれば、ダンボールにも等しいのだろう。

 少し離れた場所に扉を見つけ、蹴破って突撃。人影を見つけて撃ちまくる。二人を倒し、その場が静かになる。少し離れた場所では、もう一人が倒れていた。壁越しのショットが命中した様だ。

周囲を警戒するが、この辺りに敵の気配はない。遠くで銃撃戦の音がするだけだ。シールズモドキも、状況を図りかねているのか、発砲はして来ない。

「コスプレ小隊、出て来い、岬カレンだ!今日は援護だから、撃つな!」

「相変わらず口が悪いな、ダブルタップ。だが、今は礼を言わせてもらおう」

 のろのろと二人の兵士が出て来る。どう見ても日本人なのに、しっかりと米海兵隊のコスチュームに身を固めた姿は異様だ。さっきも一人見たばかりなので、何度見ても違和感を拭えない。

「撃たれた奴とミナミは無事だ。車に戻って撤退の準備を始めてる。さっさと残りの二人を拾って帰るぞ」

「了解したが、敵は総勢十二名だ。しかもフルオートのAKMで武装している。状況は厳しいぞ」

「それって、ここで死んでる奴を含めてだよな?ここまでに五人殺ってきたから、あと四人しかいないぞ」

 シールズモドキとカレンを合わせれば五名。始めて彼らが、人数的に優位に立ったことになる。

「ダブルタップよ、一方的な狩りは嫌いか?」

「嫌だね、弱い者イジメは。けど、仕方ないから手伝ってやろう」

 そう言うカレンだが、全員の目には、同じような酷薄な光が宿っていた。

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