美味しい生葡萄ジュースは魔王も酔わせる?
松永くんは千石君の本音が聞きたいがために家でちょっとしたパーティーを開きました。
そして考えていたよりも事態は大きく動いてしまいました。
美味しい生葡萄ジュースのつくり方
黒ブドウを4キロ弱くらいに白砂糖1.5キロを用意し、房のままブドウを水洗する。
1日陰干しにしておく。
煮沸消毒した容器に房からちぎったブドウをつぶして入れる。
ブドウが約3cmの厚さになったら表面に砂糖をふりかけ、上にブドウというように砂糖と交互に重ね
ていく。
砂糖は下の方より上の方を多目に。
容器を密閉し涼しい場所に置いて10日ほど経つと皮が上に浮いてきてブドウの良い香りが漂うはず。
網じゃくしなどで浮いている皮を取り除いてガーゼなどを使い漉す。
詰める容器の形は何でも良いが煮沸消毒できるものが良い。
ギリギリまで詰めると二酸化炭素が発生した時に危険なので要注意。
最低でも三ヶ月以上は置いて熟成させた方が良い。
「で、これがその……」
「噂のばあちゃん手製の魅惑の生葡萄ジュースなのか」
「……」
「コルク抜き持って来た」
上から順に新田、上原、千石、オレ松永宏太といった仲の良いメンツで集まったのはオレの家だ。
春から同じクラスになって何となく気のあった仲間である。
両親が不在で明日まで帰らないで田舎のばあちゃんから送られた手製のワインがあったから。
ありがちな話しだが皆で飲もうみたいなムードになったのは若気の至りか。
田舎のばあちゃんは趣味と実益を兼ねた保存食料品作りが得意なのだ。
ばあちゃんの作る物の中には売れるものと売れない物があるのだが……。
高級レストラン、老舗料亭、高級菓子店にも卸し小遣い稼ぎをしているくらい美味い。
当然生葡萄ジュースと称している手製ワインも抜群である。
日頃のオレのばあちゃん自慢を真に受けたのかアルコールに興味があるのか。
とにかく、そういう理由で今に至るわけである。
よくある一升瓶に詰められた中身を色気も何もない普通のコップに注いで飲み始めた。
「松永ーお前昨日隣の橘花女子の子に告白されたって……」
「うお~~まぁ~つながぁ~お前一人でモテてんじゃねぇ~」
「ええっ何で知ってんの?」
本当に何で知ってるんだ? オレは愛想と要領の良さでそこそこ女子ウケが良いのだ。
告白めいた事も割とされているが誠意を持ってお断りをしているのでトラブルには発展していない。
昨日告白してくれた隣の女子高の娘は可愛らしかったがオレには気になっている人が他にいた。
「くううっ~~一人でモテやがる色男はぁ~~成敗してやあるう~~」
う~~ん……モテるのはそれなりに努力しているからだよ。 とか言ったら確実に殴られそうだ。
理不尽だが。 酔っている相手に正論は無駄なことは知っている。
新田がコップ一杯目のアルコールで酔い始めオレに絡み始めた。 絡み酒かい新田君は。
新田も上原も確かに女子人気が高いとは言えないがそれは単にあまり磨いていないからだ。
つまり外見を。女の子がお洒落を頑張るように男だって磨かなければ光らない。
二人共顔立ちは悪くない。 クールが売りの新田はメガネのデザインや髪型を少し変えればメガネ男子
として一部のマニアな女子に受けそう。
上原は無骨な体育会系ではあるが高校生男子にして既にガチムチ系のマッチョな体と素朴な童顔は
ギャップ萌えだわ~~とオレの姉あたりなら言いそうだ。
千石に関しては特に努力をしなくとも既に溢れ出ているフェロモンで男女問わず引き寄せられるだう。
新田は普段クールなのだが……。
未成年の高校生男子がアルコールに慣れてはいないのが普通だし。
二杯目で新田がダウンした。
普段はクールな印象の委員長の新田がこんなに酒に弱いとは……。
続いて体育会系のマッチョ上原も落ちた。頬が可愛らしいピンク色に染めているのが少々キモイ。
驚いたのは寡黙なのにどことなく存在感がある千石の酒豪ぶりか。
たま~~にいるんだよね、こういったやたらアルコールに強いウワバミが。
ばあちゃんの生葡萄ジュースという名のワインが実は度数が高い本格的なアルコールなのに。
既に一人で半分以上を開けている。
オレは飲みなれているので大丈夫だが。
新田と上原には悪いことをしたかな?な~~んて考えながら暢気に意識を失くした二人をどうしようか
考えてさっさと寝かしつけることにした。
二人をとなりの布団を敷いてある和室に運んで行こうとしたら上原が起きてしまった。
酔ってはだけたシャツから見える6つに割れた腹筋が眩しいよ。 上原、オレもそんな腹筋欲しい。
なんて見蕩れていたら千石に鋭い眼差しで見られていた。
う~~ん。変態っぽかったかな? オレは何となく引きつった笑顔を返したらフッと目を逸らされた。
あうっスルーされてしまった。 せめて罵るとかしてくれたら……。
無反応は一番辛いんだよ。 オレは心の中だけで密かに涙した。
涙をこらえながら上原に声をかけるオレって気遣いのできる良い子と励ましてもムナシイ……。
上原は何となくといった風に千石の方を見ていたが若干顔色を青ざめさせながら帰ると言ってきた。
明日は朝早くから用事があることを思い出したって?
新田も連れて帰ってくれるって?
玄関前で上原が急に真面目な顔で「逃げ出すようですまん魔王には勝てん」ん?魔王??「好きなら素
直になっとけ」とか「でも嫌なら全力で逃げろ」と支離滅裂なことを言い始めた。
まあ、まだ酔っているから……仕方ないとオレは口調だけは合わせて、うんうんと聞いていた。
後悔したよ。 もっと真剣に……。
やがて軽いとは思えない高校生男子を軽々と担ぎ上げると片手を上げて「じゃあ」とだけ言って帰って
行った。
男前な上原に見とれたよ。 さすが体育会系……
見送ったついでにリビングにある時計を見るともう夜中近くだった。
結構時間が経っていたのに驚く。
オレが皆にばあちゃんのワインを飲ませて酔わせたのには思惑があったんだ。
実は千石を酔わせてみたかったんだよね。
ほんの少しだけ酔って本音を吐かせてみたい。例えば好きな人の名前とかを。
千石はオレなんかとは違って綺麗な黒い髪の毛を襟足できちんと揃えた短髪にしている。
涼しげな項に女子にはない色気を感じた。 少し厚めの唇に吸い付きたいと考えるなんてオレってイヤ
ラシイよ。
男子校のオレ達の学校に千石が目当てで校門待ちしている女子が絶えないのだ。
そんな千石の切れ長な目に横目で見られるとドキドキしてしまうのが切ない。
オレ男なのに男の千石にときめいてどうする?
チャラチャラしているようでも現実ではそこまで軽く生きれないオレって格好悪いかも……。
時々感じる千石の視線の理由を聞きたいと考えてこのワインを飲ませて酔わせようなんて……。
オレって実はちっちゃいよな……何だかヘコんできてしまった。
でも時々……千石の目がオレを見る目には友情以上の好意が混じっているような気がして。
これがどちらかが女の子だったのなら普通に告白とかもできるが同性の友達に告白して玉砕するのはき
つい。
次の日からどんな顔して会えばいいのか?
新田と上原を見送ってきたことを伝えてそろそろお開きにしようと部屋に入った。
ワインが詰められていた一升瓶を調べてみたら既に空だ。 半分以上は千石が飲んだ計算になるか
ら……千石のうわばみぶりにオレはひたすら驚いていた。 酒好きの親父でも一気にあの量はいかな
い。
気を取り直してシャワーでも浴びて気分転換でもしようと考えて千石に話を振ってみる。
「隣の和室に布団敷いてあるから眠くなったら使ってそれともシャワーでも浴びる?」
「和室に布団……泊めてくれるのかコータ」
酒を飲むと色気が倍増するらしい体質なのか千石のフェロモンが半端なかった。
あああ、あの色っぽい項に吸い付きたいとか考えているオレはもう終わっている。
隣の和室に布団を敷いてあることだけ告げるとオレは逃げるように風呂場に急いだ。
タオルと着替えを持って急いで部屋を出たのはオレの体の変化をごまかすためだったりした。
皆で和室で雑魚寝するつもりだったので布団を適当に人数分用意してあるのだが。
友達を停める時はオレも一緒の部屋で寝るのが通常なのだが……どうしよう。
実際に泊まるのは千石だけなので和室にいや、この家には明日まで二人きりなのだ。
襲ってしまいそう……頭にちらりと浮かんでしまいブルった。
誰が相手でもそんな卑劣なことは考えるべきではないしまして相手は同性の友人なのだし。
とりあえずオレは劣情の根源である勃起しつつあるそれを鎮めるべく水を浴びた。
どこの修験者だよとツッコミを入れたくなるくらいには浴びたよ。
オレの分身どころかオレ自身の体温が下がったのだろう。
すっかり落ち着いた普段の体に戻ったので部屋へと戻った。
オレの自室には千石はいなかったので和室にいったのかな?
「せーんごくー」
寝ていたら悪いので低めの声で呼びかけながら和室をそっと開けた。
中は真っ暗だったので千石はやっぱり寝ているようである。
真ん中の布団だけ人が寝ているとわかる膨らみがあった。
酔って眠くなったのかな?
密造酒は犯罪らしいけど家庭内で飲む分には許されているのだろう?
毎年ばあちゃんは村の駐在さんに梅酒やら生葡萄の酒やらを贈っているらしいし?
オレも眠ってしまおうと手近な布団の一つに潜り込んだ。
気づくと背中が暖かかったというより暑い?
オレはいつの間にか寝入っていたようでぼんやりしていた。
後ろに人が張り付いているのに気がついたのは腰のあたりに回された腕を感じたから。
首筋にかかる吐息がくすぐったかったのだが、千石だと気づくとホッとした。
まあ、他に人がいるはずがないのだから当たり前なんだけど……。
いや、ホッとしていていいのだろうか?
「ええと千石? 一体これはどういうことかな~~どうしてオレの体に抱きついてんの~~」
話しかけながらも腕を外そうとするのだけど見かけによらずにマッチョな腕の主だった千石の腕はビ
クともしなかった……ハァ
それどころか首筋に濡れた感触を感じて飛び上がりそうになったよ。
「千石?」それはどちらかというとオレがむしろお前の首筋にしたいことなんですが。
まるでオレ自身の願望を千石に知られ逆襲されているような錯覚に陥った。
どうにかしてオレの妄想を知った千石が報復を?
イヤイヤ~~千石はそんな陰湿なことをする奴じゃあないはずと自分に言い聞かせた。
「コータ動かないで」と耳元で聞こえた声は千石の普段の声と違って聞こえる。
それにオレの背中にピッタリと張り付くように存在している胸板が……。
大きく脈打っている千石のアレをお尻のすぐ近くで感じるんですけど……。
「上原を意識して見ていたよね? 好きなの……」でも渡さないけどねと低い声で言われてしまった。
どうして上原? オレが上原を好きと勘違いしているのか?
もしかしたら相思相愛なのかもしれないけど……オレが組み敷かれる方なのか?
声も出さずになされるがままというのがオレの今の状態だった。
千石の手はオレの体のありとあらゆる場所を移動し探って触りまくったが、それだけだった。
最初は唇を噛んだりシーツをきつく握り締めることで耐えていたのだが……。
千石の手技?と喘ぎ声を何としても聞きたいという情熱が打ち勝ち結局最後は声が枯れるほどイカされ
喘がされた。
オレの喘ぎ声なんかで何で満足できるのかはわからなかったけど最後まで千石自身はイクことはなかっ
た。
全身の気だるさは半端なものではなく昼近くなってようやく目が覚めたオレがまず目にしたのは……。
自分の全身につけられた赤く腫れあがった跡である。
ようやく昨夜のことが夢ではなかったことを悟り上原の帰りがけの謎の助言?の意味を知った。
魔王って?
相思相愛ではありそうですが千石君はこんなので満足したのでしょうか。
そんなことはありません。彼は魔王なので美味しいものはゆっくりといただく主義なのです。