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Short Short Circuit

糸ミミズ

作者: 境康隆

「やあ先生。ため息なんか吐かないでくれよ。俺がこんなことをしたからだって? 何だよ? 俺は昨日久しぶりにゆっくり眠れたんだぜ。むしろ喜んでくれよ。何年振りかな。こんなにぐっすり眠れたのは。何? 何でこんなことをしたのかって? 前から言ってるじゃないか? 俺は糸ミミズに取り憑かれてるって。そのせいさ。何だよそのため息は? 知ってるぞ。またかって思ったんだろ? いつも先生がするため息だもんな。俺はもう聞き飽きちまったよ。だがよ先生がいけないんだぜ。何度言っても俺の言うことに耳を貸してくれないからな。疲れてたんだって? 違うよ。憑かれてたんだよ。俺は糸ミミズに取り憑かれちまってたんだよ。だって掻いても掻いても奴らは現れるんだぜ。この俺の皮膚の下を奴らは我がもの顔で這い回るんだ。それはただの擦り傷だって? 何だよ? 擦り傷が糸ミミズみたいに見えるだけだ。気にして掻くから擦り傷になるんだ。それで擦り傷がまた糸ミミズみたいに見えるんだ。その上またもや掻いてしまうから取り憑かれてるように見えるんだってやつだね。先生のいつもの話だ。それは何度も聞いたよ。けどよ先生には分からないんだ。あいつらは俺の体中を移動するんだよ。毎日違うところに現れやがる。生きてる糸ミミズな証拠さ。俺はいつも夜も眠れない。鏡だって見る気がしない。掻き出してやろうと何度も何度も掻いたがよ奴らは増える一方さ。方々を掻いてしまうからだって? 違うね。糸ミミズが俺の皮膚の下を這い回ってるからだよ。それに皮膚の下にいやがるから何度掻いても掻いても掻き出すことができない。俺をあざけり笑うように奴らは好き勝手に這いずり回る。ここにも。そこにも。あそこにも。俺は眠れなかった。鏡もろくに見れなかった。俺の体中が奴らの住処だからさ。心休まることがないんだ。鏡を見ると自分の惨めな体を思い知らされるんだ。だけどよ先生。喜んでくれよ。やっと奴らを一網打尽にすることができたんだ。やっと俺はゆっくりと眠れるようになったんだ。何でこんなことをしたのか知りたがってたよな? 教えてやるよ。俺はついに奴らの巣を見つけたんだ。昨日も何日も眠れない日が続いて俺は堪らず部屋を飛び出した。闇雲に走り回ったね。自分が何処にいるのか分からないぐらい。だから久しく見ていなかった鏡を出会い頭みたいに偶然見ちまったんだ。一目で分かったね。これが奴らの巣だって。ここなら大丈夫だ。ここなら一網打尽だ。掻き出せるってね。俺は躊躇いなくそこに指を突っ込んだよ。先生。またため息を吐いたね。いつものため息だ。暗い顔して吐くあのため息だ。もう見飽きたらね。こんな目でも目に浮かぶよ」

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